『破壊神』メルト=ドラグニル
過去の大厄災を知る為、元『機械神』マキナの元を訪ねた僕達。そして、僕達は真の『大厄災』が、『破壊神』メルト=ドラグニルであると知った。
ただ、何故かその直後に、彼女が姿を現した。『破壊神』の名を継いだ、竜帝メルト=ドラグニルが……。
「何故、君がここに……?」
僕とエリスは前に出る。非力なローラを守るべく、その背に彼女を隠した。
ただ、メルトは静かに涙を流すのみ。僕の問いには答えず、ポツポツと語り出した。
「竜帝の名は、竜人族に伝わっていた……。かつての戒めであり、忌み名として伝わっていたのだ……」
「戒めに、忌み名……?」
竜人族の中から『破壊神』を出した為か? 二度とそんな存在を生み出さぬ為に?
有り得そうな話だとは思った。しかし、今はそこに触れず、ただ彼女の言葉に耳を傾けた。
「私も彼女と同じだった……。何故、私が弱者に従わねばならぬ? 弱者の法に縛られねばならぬ? そう考えたが故に、私は里を抜けねば殺されていた……」
「「「…………」」」
神の血に目覚めた『覚醒者』は直観力に優れる。それ故に、自らの境遇も理解出来てしまったのだろう。
竜人族の中で悪性と断じられれば処分される。自らがその対象に含まれると、幼い身で知ってしまったのだ。
「死を偽装するのは容易だった……。一人で生きる事も造作も無かった……。ただ、どうして私が淘汰されねばならぬのかと、それだけが理解出来なかった……」
同情する訳では無いが、彼女の気持ちもわからなくはない。能力が高過ぎるが故に、不遇な境遇に置かれたのだから。
そして、何故だかはわからない。わからないけれど、僕の脳裏にはソリッドの顔が思い浮かんでいた。
「私はずっと考えていた……。私が生まれた意味を……。そして、竜帝メルト=ドラグニルの物語を……。いつしか私は、私こそが彼女の生まれ変わりなのだと考え始めた……」
「だから、その名を継いだと……?」
僕の問い掛けに、やはり彼女は反応しない。彼女にとって、僕は眼中に無いらしい。
ただ、ならば何故、彼女は僕達へと語るのだ? それが僕には理解出来なかった。
「そう、彼女は戦ったのだ。この世界の不条理と……。そして、自らの存在を勝ち取ろうとした。その為に、自らに従ぬ全てを破壊すると決めたのだ!」
涙を流して語るメルト。その瞳には怒りが宿っていた。
それは自身と過去のメルトへの悲しみ。この世界が彼女達に与える、全ての理不尽に対しての憤りだった。
「力及ばず討たれたのだろう……。それがどれ程の無念であったか……。だから、私がその志を受け継ぐ。この世界への反逆を、この私が成し遂げるのだ!」
「何を、する気だ……?」
僕の溢した言葉に、初めてメルトが反応を示す。その言葉を待っていたと言わんばかりに、犬歯むき出しの笑みで応えた。
「私は弱者の定めた法を否定する! 全ての国を破壊する! 我を崇めぬ全ての者に、等しく滅びを齎すのだ!」
「それが君の答えなんだね……?」
それはとても悲しい答えだ。孤高の覇道を歩む道である。
だが、僕とエリスも似た境遇だった。自らの正義の為に、この国の転覆すら目論んだのだから。
だから、メルトの考えを否定はしない。けれど、それを許す訳にもいかないのだ。
「悪いけど、止めさせて貰うよ」
僕は腰の剣に手を置く。いつでも斬りかかれる様にと、戦闘態勢に入ったのだ。
隣でエリスも緊張感を漂わせる。しかし、そんな僕達へと、メルトはそっと囁いた。
「――跪け」
「「――っ……?!」」
メルトの言葉に従い、僕は額を地面に付ける。臣下の如く、彼女へと頭を垂れてしまった。
体がまったく動かない。混乱する僕の背中に、マキナの驚きの声が届いた。
『これは過去の魔王が使った『魔王覇気』かな? だとすると、君は『大魔王』の称号を持っていたりするのかな?』
「聡いな、機械神。そう、私は既にシステムへと干渉出来る」
メルトとマキナの会話は、僕には理解出来ないものだ。ただ、硬いマキナの声から、深刻な事態なのは理解出来た。
何も出来ずに、事態を見守るしか出来ない僕達。そう思ったら、メルトが怪訝な声でこう尋ねた。
「だが、どうして貴様は効果から逃れた? 何をやったのだ?」
「いえ、私に聞かれましても……。何が何やらサッパリで……」
その問いに答えたのはローラだった。声の位置から彼女は跪いてはいない。自由に動けているみたいだ。
これも『星の巫女』の効果だろうか? 流石は本物の『聖女』。その名は伊達では無いと言う事か。
「まあ良い。ならば貴様はソリッドへの人質とする。大人しく私について来い」
「ええ、承知しました。抵抗はしませんので、手荒な真似はご遠慮くださいね」
耳に届くコツコツという足音。何故だかローラは、進んでメルトの元へと向かっている。
その態度にはメルトも戸惑ったらしい。警戒する様にローラへと問いかけた。
「……随分と物分かりが良いな? 普通はこういう場合、怖がったり、抵抗したりしないか?」
「抵抗しても無駄でしょう? こういう時は、流れに身を任せるのが良いと学んでおります」
あっけらかんと答えるローラに、流石のメルトも沈黙してしまう。ローラの特異性に、彼女も早速気付いたらしい。
けれど、程なくして気持ちを切り替えたらしい。メルトは僕達に対してこう言い残した。
「ソリッドに伝えろ。貴様がかつて神竜を殺した地。そこで私は待っている。そして、十日以内に来なければ、私は『破壊神』として全てを壊すとな」
「あっ、マキナ。私は先に出ますので、後の事はお願いしますね? 一人ではアレックス達も、外に出れないと思いますので」
ちょっと出かけて来るから、留守はお願いと言わんばかりの物言い。ローラの被せた言葉により、一気に場の空気が緩んだ。
これには同情を禁じ得ない。メルトに対する居たたまれなさ故か、マキナも苦笑交じりにこう答えた。
『ははっ、ローラらしいね。ああ、彼等は任せておいて。それじゃあ気を付けて』
「はい、それでは行ってきますね。ソリッドにも宜しく伝えておいて下さいね?」
ローラに先導され、メルトが部屋から去って行く。そして、彼女の退室と同時に、僕とエリスの拘束は解かれた。
ただ、今更彼女達を追う気にはなれない。ローラの態度から、それが必要とも思えなかったのだ。
「これは仕方が無いね。今回はローラの意思を尊重し、ソリッドに助けを求めるか」
『それが良いと思うよ。まあ、ローラの事だから、大丈夫だとは思うんだけどね?』
かつては『機械神』と呼ばれたマキナ。その彼すらも、ローラを信頼している様子だった。
今回の一件で評価を改めたが、やはりローラは本物の『聖女』だ。
今までの僕には見る目が無かった。その事を改めて痛感させられてしまった。




