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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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『破壊神』メルト=ドラグニル

 過去の大厄災を知る為、元『機械神』マキナの元を訪ねた僕達。そして、僕達は真の『大厄災』が、『破壊神』メルト=ドラグニルであると知った。


 ただ、何故かその直後に、彼女が姿を現した。『破壊神』の名を継いだ、竜帝メルト=ドラグニルが……。


「何故、君がここに……?」


 僕とエリスは前に出る。非力なローラを守るべく、その背に彼女を隠した。


 ただ、メルトは静かに涙を流すのみ。僕の問いには答えず、ポツポツと語り出した。


「竜帝の名は、竜人族に伝わっていた……。かつての戒めであり、忌み名として伝わっていたのだ……」


「戒めに、忌み名……?」


 竜人族の中から『破壊神』を出した為か? 二度とそんな存在を生み出さぬ為に?


 有り得そうな話だとは思った。しかし、今はそこに触れず、ただ彼女の言葉に耳を傾けた。


「私も彼女と同じだった……。何故、私が弱者に従わねばならぬ? 弱者の法に縛られねばならぬ? そう考えたが故に、私は里を抜けねば殺されていた……」


「「「…………」」」


 神の血に目覚めた『覚醒者』は直観力に優れる。それ故に、自らの境遇も理解出来てしまったのだろう。


 竜人族の中で悪性と断じられれば処分される。自らがその対象に含まれると、幼い身で知ってしまったのだ。


「死を偽装するのは容易だった……。一人で生きる事も造作も無かった……。ただ、どうして私が淘汰されねばならぬのかと、それだけが理解出来なかった……」


 同情する訳では無いが、彼女の気持ちもわからなくはない。能力が高過ぎるが故に、不遇な境遇に置かれたのだから。


 そして、何故だかはわからない。わからないけれど、僕の脳裏にはソリッドの顔が思い浮かんでいた。


「私はずっと考えていた……。私が生まれた意味を……。そして、竜帝メルト=ドラグニルの物語を……。いつしか私は、私こそが彼女の生まれ変わりなのだと考え始めた……」


「だから、その名を継いだと……?」


 僕の問い掛けに、やはり彼女は反応しない。彼女にとって、僕は眼中に無いらしい。


 ただ、ならば何故、彼女は僕達へと語るのだ? それが僕には理解出来なかった。


「そう、彼女は戦ったのだ。この世界の不条理と……。そして、自らの存在を勝ち取ろうとした。その為に、自らに従ぬ全てを破壊すると決めたのだ!」


 涙を流して語るメルト。その瞳には怒りが宿っていた。


 それは自身と過去のメルトへの悲しみ。この世界が彼女達に与える、全ての理不尽に対しての憤りだった。


「力及ばず討たれたのだろう……。それがどれ程の無念であったか……。だから、私がその志を受け継ぐ。この世界への反逆を、この私が成し遂げるのだ!」


「何を、する気だ……?」


 僕の溢した言葉に、初めてメルトが反応を示す。その言葉を待っていたと言わんばかりに、犬歯むき出しの笑みで応えた。


「私は弱者の定めた法を否定する! 全ての国を破壊する! 我を崇めぬ全ての者に、等しく滅びを齎すのだ!」


「それが君の答えなんだね……?」


 それはとても悲しい答えだ。孤高の覇道を歩む道である。


 だが、僕とエリスも似た境遇だった。自らの正義の為に、この国の転覆すら目論んだのだから。


 だから、メルトの考えを否定はしない。けれど、それを許す訳にもいかないのだ。


「悪いけど、止めさせて貰うよ」


 僕は腰の剣に手を置く。いつでも斬りかかれる様にと、戦闘態勢に入ったのだ。


 隣でエリスも緊張感を漂わせる。しかし、そんな僕達へと、メルトはそっと囁いた。


「――跪け」


「「――っ……?!」」


 メルトの言葉に従い、僕は額を地面に付ける。臣下の如く、彼女へと頭を垂れてしまった。


 体がまったく動かない。混乱する僕の背中に、マキナの驚きの声が届いた。


『これは過去の魔王が使った『魔王覇気』かな? だとすると、君は『大魔王』の称号を持っていたりするのかな?』


「聡いな、機械神。そう、私は既にシステムへと干渉出来る」


 メルトとマキナの会話は、僕には理解出来ないものだ。ただ、硬いマキナの声から、深刻な事態なのは理解出来た。


 何も出来ずに、事態を見守るしか出来ない僕達。そう思ったら、メルトが怪訝な声でこう尋ねた。


「だが、どうして貴様は効果から逃れた? 何をやったのだ?」


「いえ、私に聞かれましても……。何が何やらサッパリで……」


 その問いに答えたのはローラだった。声の位置から彼女は跪いてはいない。自由に動けているみたいだ。


 これも『星の巫女』の効果だろうか? 流石は本物の『聖女』。その名は伊達では無いと言う事か。


「まあ良い。ならば貴様はソリッドへの人質とする。大人しく私について来い」


「ええ、承知しました。抵抗はしませんので、手荒な真似はご遠慮くださいね」


 耳に届くコツコツという足音。何故だかローラは、進んでメルトの元へと向かっている。


 その態度にはメルトも戸惑ったらしい。警戒する様にローラへと問いかけた。


「……随分と物分かりが良いな? 普通はこういう場合、怖がったり、抵抗したりしないか?」


「抵抗しても無駄でしょう? こういう時は、流れに身を任せるのが良いと学んでおります」


 あっけらかんと答えるローラに、流石のメルトも沈黙してしまう。ローラの特異性に、彼女も早速気付いたらしい。


 けれど、程なくして気持ちを切り替えたらしい。メルトは僕達に対してこう言い残した。


「ソリッドに伝えろ。貴様がかつて神竜を殺した地。そこで私は待っている。そして、十日以内に来なければ、私は『破壊神』として全てを壊すとな」


「あっ、マキナ。私は先に出ますので、後の事はお願いしますね? 一人ではアレックス達も、外に出れないと思いますので」


 ちょっと出かけて来るから、留守はお願いと言わんばかりの物言い。ローラの被せた言葉により、一気に場の空気が緩んだ。


 これには同情を禁じ得ない。メルトに対する居たたまれなさ故か、マキナも苦笑交じりにこう答えた。


『ははっ、ローラらしいね。ああ、彼等は任せておいて。それじゃあ気を付けて』


「はい、それでは行ってきますね。ソリッドにも宜しく伝えておいて下さいね?」


 ローラに先導され、メルトが部屋から去って行く。そして、彼女の退室と同時に、僕とエリスの拘束は解かれた。


 ただ、今更彼女達を追う気にはなれない。ローラの態度から、それが必要とも思えなかったのだ。


「これは仕方が無いね。今回はローラの意思を尊重し、ソリッドに助けを求めるか」


『それが良いと思うよ。まあ、ローラの事だから、大丈夫だとは思うんだけどね?』


 かつては『機械神』と呼ばれたマキナ。その彼すらも、ローラを信頼している様子だった。


 今回の一件で評価を改めたが、やはりローラは本物の『聖女』だ。


 今までの僕には見る目が無かった。その事を改めて痛感させられてしまった。

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