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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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覚醒者

 元機械神であるマキナはその名を告げた。過去に生まれた『大厄災』。その名を『破壊神』メルト=ドラグニルであると。


「ねえ、マキナ。貴方はその『破壊神』について、どれ程知っているの?」


『う~ん、多くは知らないよ? 封印から解けてすぐの事だし、彼女を検知してすぐに、僕は神の権能を取り上げられちゃったからね……』


 神の権能を取り上げられた? それはどういう意味だろうか?


 僕に与えられた、対厄災用権限『精霊騎士』と類する力なのだろうか?


 疑問に思う僕であったが、ローラは話を進める事を優先したらしい。


「知ってる部分で構いません。『破壊神』について教えて下さい」


『う~ん。彼女について語るなら、まず竜人族を知るべきかな?』


 竜人族という名は知っている。魔族の中でも特別に強い種族が存在していると。


 しかし、彼等は山奥に引き籠っている。他の魔族とも余り交流を持たない存在であるらしい。


 その為、人族が目にする事は稀で、名前以外の情報は無い。どういった種族かは、良くわかっていないのである。


『彼等は魔族の中でも特別でね。『黒の竜神』が力で生み出したんじゃない。神が自らのお腹で育てた、神の血を引き継いだ存在なんだよね』


「神の血を引き継いだ……?」


 人族は『白の竜神』が力で生み出し、魔族は『黒の竜神』が力で生み出したと伝わっている。それは誰もが知る常識みたいなものだ。


 しかし、直接産んだ子となると、その存在は限られている。人族の伝承の中では、聖典内に記載された原初の『勇者』だけなのだが……。


『だから、魔族と言っても別格。規格がそもそも違うんだ。彼等は魔族内でも神聖視され、彼等もまた魔族の秩序を守る役割を担っている』


「魔族の中に、その様な方々が……」


 魔族とは本能に従って生きる種族だ。それ故に、理性を重んじる人族とは、考え方がまるで違っている。


 基本的に彼等は弱肉強食。強い者が正義と言う考え方をしている。故に魔王こそが、魔族内で最強と思われている。


 しかし、マキナの話を信じるなら、竜人族こそが魔族のバランサーだったのかもしれない。


『そして、竜人族の中には稀に、神の血に『覚醒』した者が生まれる。隔世遺伝って言うんだけど、先祖である『黒の竜神』の力を強く持って生まれてしまうんだ』


「生まれてしまう? それは何か問題なのですか?」


 人族の中でも生まれながらの天才はいる。パッフェルだってその一人だし、僕もその中に含まれるだろう。


 しかし、僕達は別に問題なんか無い。重い責任は負わされても、「生まれてしまった」何て言われはしないだろう。


 その意味を計りかねる僕達に、マキナは重々しい口調でこう告げた。


『生まれてすぐに二足歩行で歩き、大人と同じ腕力を持っている。直感で真偽を見抜くので、嘘や誤魔化しが効かない。親に世話されなくても、自給自足が出来てしまう。そんな異質な赤子を、普通の子どもと一緒に育てられないよね?』


「「「――っ……?!」」」


 天才がどうとか言うレベルでは無い。僕やパッフェルなんかと、比較出来る対象ではなかった。


 神の血というのは、それ程までに規格外なのか? 僕達はマキナの説明に絶句するしかなかった。


『そして、最長十歳頃まで様子を見て、生かすか殺すか決めるそうだね。その子が善性ならば里を治める族長になり、悪性ならば殺せる内に殺してしまう。そうやって竜人族は、世界の秩序を守り続けているそうだよ?』


「十歳の、子どもを……?」


 ローラが顔を青くしていた。恐らくは、幼い子供が殺される場面を想像したのだろう。


 僕としても気分は良く無い。しかし、それが悪かと問われれば、悪と断じるのは難しかった……。


『それでは話を戻そうか。『破壊神』メルトは里を抜けて、生き延びた『覚醒者』だと思うんだよね。僕が検知した時には、既に成人していたみたいだし』


「里を抜けて生き延びた? 善性の存在という可能性は無いのですか?」


『うん、それは無いね。彼女の力は『破壊』に特化し過ぎていた。善性の存在であれば、神の力をそんな風に育てないだろうからね』


「そう……ですか……」


 マキナの言葉通りなら、『破壊神』メルトは悪性の存在。そして、里を抜けて生き延びた存在と言う事になる。


 恐らくは里から逃げないと、同族の手で殺されていた。そうなっていない事から、里を抜けて自力で生き延びたと想像できる。


『そして、『破壊神』メルトは、僕の封印解除のすぐ後に神化したらしい。自らの存在を『破壊神』と定め、神へと昇格してしまってね。もし、『勇者』が現れなければ、世界は確実に滅んでいたよ』


「『勇者』が現れなければ? では、『破壊神』メルトは、『勇者』によって討たれたのですね?」


『うん、そういう事になるね。最も彼女の消失後、僕は何の力も持たない存在となってね。その後の一切を知らず、ここで畑仕事を続けてる訳なんだけどね?』


 白神教の聖典では、『勇者』は世界を救った事になっている。その『大厄災』は『機械神』マキナでは無く、『破壊神』メルトと言うのが真実だった。


 僕達はこの事実を、どう受け止めれば良いのだろうか? 今回の『大厄災』とは、千年前の再来と考えれば良いのだろうか?


 僕達は黙り込んで、先程の話を消化しようとする。すると、そんな僕達の背中に、想定外の声が掛かった。


「――ああ、やはり……。やはり、そうだったのか……」


「「「――なっ……?!」」」


 部屋の扉は閉まっていた。しかし、その扉の内側に、何故か彼女は立っている。


 ここに居てはいけない存在。そして、今の僕達が最も恐れている存在。


「竜帝メルト=ドラグニル……?」


 黒い長髪に真っ赤な瞳。黒い角に翼と尻尾。竜人族の特徴を持つ女性。


 彼女はただそこに立ち、一人で静かに泣いていた……。

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