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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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千年前の真実

 僕達は『大厄災』が何かを知る為に、千年前にこの国を滅ぼした『機械神』の元へとやって来た。彼こそが千年前の『大厄災』なのだと信じて。


 しかし、かつて『機械神』と呼ばれた存在――マキナは『大厄災』が何かを知らなかった。そして、ローラの説明を聞いて、感心した様子でこう告げた。


『へぇ、僕が国を滅ぼしたって事になってるんだ。この千年間、世俗と切り離されたから知らなかったよ』


「世俗と切り離されて? 私以外に会話する者は居なかったのですか?」


 ローラは不思議そうに問う。幼少期からの付き合いであるローラも、その辺りは知らなかったみたいだ。


『うん、そもそも王様と教皇しか、この部屋まで来れないしね。彼等も忙しいから、気楽に雑談って訳にはいかないでしょ?』


「「「…………」」」


 マキナの説明に黙り込む僕達。そういえば、そんな話を母さんが言っていたな。


 というか、ローラが特別なのだ。『星の巫女』という特殊な加護ギフトを持っている。そのお陰で、ここへの出入りが許されていただけなのである。


 マキナがこの千年間、世界がどう変わったか知らない理由はわかった。ただ、そうなると何故彼が、『大厄災』と呼ばれたのかは謎となる……。


「ねえ、マキナ。貴方は本当に千年前に、一つの国を滅ぼしたの?」


『ハハハッ! 半分正しくて、半分間違ってるね! ボクは切っ掛けに過ぎず、国を滅ぼしたのは人間自身によるものだからね!』


 人間自身の手によるもの? 『機械神』である彼が滅ぼしたのではない?


 マキナの明るい声に、僕達は戸惑いを覚える。しかし、彼は気にせず説明を続ける。


『あの時は王様が僕の封印を解いてね。人間以外の種族を滅ぼせって命じて来たのさ。流石にそれは無理って断ったんだよ? そしたら騎士団って人達に囲まれて、力尽くで言う事を聞かせようとしてさ……』


「人間以外の種族を、滅ぼせですって……?」


 そんな話は伝わっていない。白神教の聖典にも、どんな歴史書にも載ってはいない内容だ。


 マキナが嘘を言っている様には思えない。けれど、そんな非道が行われていたなんて……。


『僕は隠し玉の『巨神兵』で撃退したんだ。それで、彼等では駄目だって思って、王城は脅しで半壊させたんだよね。ただ、困った事に同格の権限を持つ、別の管理者が介入して来てさ……。『巨神兵』が制御不能になっちゃったんだよね!』


「制御不能って、それはどういう……?」


 ローラが戸惑った声を漏らす。マキナの説明は、彼女であっても理解出来なかったのだ。


 ここにパッフェルが居ないのが悔やまれるね。僕の妹であれば、彼の話にも付いて行けたんだろうけど……。


『同じ権限の命令が、同時タイミングで出されちゃってさ。デッドロックってやつ? どっちも処理されなくなってね。それで最悪なのは、更に千年前の命令が復活しちゃった事なんだ』


「その……。更に千年前の命令とは……?」


 マキナが最悪と言う以上、良く無い事が起こったとはわかる。しかし、彼の口調が軽い故か、その危険度がまったく読めなかった。


 戸惑うローラの問いに、マキナはあっけらかんと、こう答えた。


『文明と呼べる物を全て壊せ。馬車や水車なんかを含め、物理及び魔法法則を利用するシステムが全て含まれる。それらを全て壊す尽くすまで、『巨神兵』は止まらなくなってしまったんだ』


「「「…………」」」


 僕達はマキナの説明に絶句する。馬車や水車を含む、文明の全破壊だって?


 その当時の文明レベルは不明だ。しかし、国や街と言った単位では、全ての活動が停止するとは想像がつく。


 余りのスケールに思考が追い付かない。確かにそれは、『大厄災』と呼ばれてもおかしくないが……。


『まあ、幸いな事に『巨神兵』は『勇者』が処理してくれたんだ。国が亡ぶ程の被害には成らなかったよ。……とはいえ、責任を取らされて、その時代の王族は平民落ち。新しい王様が『白の竜神』ブロンシュ様に選出されたけどね!』


「つまり、貴方は国を滅ぼしておらず、『大厄災』では無かったと……?」


 王族が全て入れ替わったなら、それは新しい国が興った事になる。そういう意味では、確かに前の国は滅んだと言える。


 しかし、それは『厄災』と呼べる物ではない。人々が持つ自浄作用による結果だ。決してマキナが元凶とは言えないだろう。


 ならば、千年前に『大厄災』は生まれていなかった? そう戸惑うボクの耳に、ローラの硬い声が届いた。


「ねえ、マキナ。他には何かないのですか? 人類が亡びる程の大きな災いは? マリーさんが調べて来いと言ったのです。貴方は何かを知っているはずなのです」


『人類が滅びる程の大きな災い?』


 ローラの説明にハッとなる。確かに僕達は、母さんの指示でやって来た。ならば、何も無いなんて事は有り得ない。


 僕の母さんは予言者かと思う程に感が鋭かった。そして、それは『天啓オラクル』という加護ギフトによるものらしいのだが……。


 いずれにしても、マキナは何かを知っているはず。ローラのその言葉は、どうやら正しかったらしい。


『ああ、何だ。『大厄災』とは『人類の脅威』のことか。それなら知ってるよ。それは当然、僕では無いけどね?』


 マキナの声色が変わる。先程までの軽いものでは無い。とても低くて、硬いものにだ。


 僕は思わず喉を鳴らす。そして、ピリリとした緊張感の中で、マキナはその名を告げた。


『『黒の竜神』の血に覚醒し、その力で世界を滅ぼそうとした者……。――『破壊神』メルト=ドラグニル。彼女こそが君達の言う、『大厄災』に該当する存在だ』


「メルト=ドラグニルだって……?」


 つい先日、僕達の前に現れた『大厄災』。彼女もまた、その名を告げた。


 いや、彼女はその名を名乗る際に、こう言っていた……。



 ――私の名はメルト=ドラグニル。竜帝の名を継ぐ者だ。覚えておくと良いぞ?



「……つまり、彼女は知っていたのか?」


 自身が『大厄災』であること。千年前にも『大厄災』が生まれていたこと。


 それを知った上で、その名を継いだと言っていたのか……?


 彼女と直接対峙した僕は、この場の誰よりも混乱する事となった。

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