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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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農業プラント

 僕達はローラの案内で農業プラントへとやって来た。そこはガラスに覆われた広大な施設であった。


 王都よりもなお広い土地。透明なガラスに覆われた美しい施設。それが五階層になり、各フロアには数多の植物が植えられていた。


 そして、農業プラント内で働く者の姿もあった。それは金属製のミニゴーレム。背丈は子供ほどだが、数え切れない程の数が動き続けている。


「凄いな……。農業プラントの中はこうなっていたのか……」


「はい、ご覧の通りです。それでは奥の祠に参りましょう」


 ローラにとっては見慣れた景色なのだろう。平然とした様子で奥へと進んで行く。


 僕とエリスは唖然としつつ、その後を追い掛ける。見慣れない景色で、どうしても理解が追い付かない。


「ここで働くゴーレム達は、機械神が操っているのかい?」


「いえ、彼が言うには自立した存在との事です。とはいえ、彼の指示には従うそうですが」


 確かにこれだけのゴーレムを使役するのは難しい。どれ程の技量と魔力量があっても、追い付くとは思えなかった。


 しかし、自立した存在とはどういう意味だ? ゴーレムとは違う魔物の一種なのだろうか?


「ローラお姉様。壁や床はガラスですか? ヒビも汚れも見当たらないのですが……」


「彼が言うには強化ガラスとの事です。汚れに関しては掃除担当がいるからでしょう」


 ローラがすっと指さす先に、一匹のゴーレムが居た。彼は手に何かの器具を持ち、ガラスを濡らしながら磨いている。


 そして、磨き終わった後は瞬時に乾く。どういう仕組みで掃除しているのか、僕にはさっぱり理解出来なかった。


 ……というか、別の掃除担当が僕達の後を付いて来ている。僕達の足跡を消す様に、床をピカピカに磨いていた。


「ちなみに、室内は温度管理もされており、年に四度の収穫が可能。そのずば抜けた生産量により、他国へも安価で大量の食材を輸出可能となっているのです」


「人族の領地の中心地。このパール王国が長年平和で、ここまで栄えた理由が良くわかるね……」


 パール王国は千年間戦争を行っていない。というよりも、パール王国の存在のお陰で、人族の間で戦争が起きた事がない。


 人族の領地では食料が捨て値で手に入る。飢える心配が無いので、危険を冒して他国へ攻める必要がないのだ。


 ただ、そのせいもあって、この国は腐敗した一面も持つ。『強欲の厄災』が生まれた原因でもあるのがもどかしい所だ……。


「さて、そこの金属台に乗って下さい。それで彼の元へと向かいます」


「ここに乗れば良いのかい? 向かうと言うのはどういう意味かな?」


 見れば目の前に、金属製の床が存在していた。全てがガラス製なので、そこだけが異質で異様に目立つ。


 しかし、ローラが平然と上に乗ったので、僕とエリスもそれに続く。すると、ローラは透明なパネルにすっと指を伸ばした。



 ――ウイイイィィィン……



 小さな振動音と共に視界が変化する。どうやら僕達は、地面の下に潜っているらしい。


 先程まではわからなかったが、この台はガラスの小部屋になっている。壁に触れてみても、摩擦を感じる事は無かった。


「さて、それでは降りて下さい」


 気付くと移動は止まり、目の前に金属の扉があった。その扉はゆっくりと開き、明るくて長い廊下が伸びていた。


 余りにも異質な光景過ぎて、最早問い掛ける言葉も出ない。僕とエリスは口を閉ざして、ただローラの後を追い掛ける事にした。


 ただ、長いと思った廊下は、意外と早く終わりを迎える。何故なら床が動いて、僕達を運んでくれたからだ。


 駆け抜ける様な速度は、実はちょっと楽しかった。ただ、僕は真剣な表情を崩さず、ローラに続いて新たな扉の前に立つ。


「お久しぶりです、ローラです。中に入れて貰えますか?」


『ローラ! 本当にローラかい?! 五年ぶりじゃないか!』


 ローラの声に応え、どこからか声が響く。僕とエリスは警戒するが、ローラは平然とした様子であった。


 そして、すぐに目の前の扉が開く。その奥は小さな金属の小部屋であり、金属で出来た小さな祠が建っていた。


「魔王軍との戦争がおわりましたもので。挨拶が遅くなり申し訳ありません」


『いやいや、構わないとも! 君が帰って来てくれた事が何よりの喜びさ!』


 硬い挨拶とは裏腹に、ローラの顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。ローラ自身も彼との再会を喜んでいるみたいだった。


 そして、実にフレンドリーなやり取りだが、その相手はこの祠自身だった。傍から見ると、実にシュールな光景である。


「その、ローラ……。この喋る祠が、機械神なのかな……?」


『ハハハッ! 喋る祠と来たか! 僕の生まれた時代では、サーバーと呼ばれていたんだけどね!』


 聞きなれない単語だな。博学なパッフェルなら知っているだろうか?


 目の前の存在を計りかねる僕に、ローラは平然とした様子で互いの紹介を始めた。


「彼等は私の友人で、アレックスとエリスです。アレックスは白神教で『勇者』と呼ばれる存在で、エリスはその婚約者となります」


『ほほう、勇者とは大きく出たな! ……まさか、本当にその子孫とか?』


 機械神がオーバーに驚きを示す。しかし、そのリアクションから、勇者を知っているのは間違いない。


 伝説では『大厄災』である彼を倒したのが勇者だ。彼が本物の『大厄災』なら知っていて当然なのだが……。


 ローラは否定して軽く説明を行う。そして、とうとう僕達に彼の紹介を行ってくれる。


「そして、彼の名はマキナです。機械神かどうかは、存じ上げませんが……」


『ハハッ、懐かしい名だね! でも、今の僕にそんな力は残ってないよ!』


 マキナと呼ばれた祠は、機械神である事を否定しなかった。ならば、千年前に『大厄災』だった者で間違い無いのだろう。


 到底信じられないが、この祠が世界を滅ぼそうとした存在。そう緊張する僕達に対して、マキナ気楽な口調で問い掛けて来た。


『ここに来れたって事は、彼等にも資格があるんだろうけど……。今日はどういう用件で来たのかな? ローラ一人じゃないって事は、何か理由があるんだよね?』


「はい、その通りです。今日はマキナに質問があって来ました」


 そう、僕達がやって来たのは『大厄災』を知る為。竜帝メルト=ドラグニルとの戦いに備える為なのである。


 僕とローラは耳を傾ける。そして、彼女はマキナへとその問いを投げ掛けた。


「マキナ、『大厄災』とは何なのでしょうか?」


『大厄災かい? 大厄災ってのは何の事だい?』


 ローラの問いに、逆に問い返すマキナ。流石にこの返事には、ローラも困って固まってしまう。


 調査の第一歩から躓く僕達。僕は『大厄災』の調査が前途多難に思え始めて来た……。

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