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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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想いを言葉に(ローラ視点)

 夜明け前の真っ暗な道を、私は二人の従者と共に歩き続ける。魔法の照明で足元を照らし、歩きなれた道でもあります。暗闇を歩く事に不安は特にありません。


 私は白神教の大聖堂へと到着しました。夜番の神殿騎士と礼を交わし、私達は大聖堂へと踏み込んで行く。


 すると、扉を開いてすぐの所に、待ち構えていた人物を発見しました。真っ白な大司教アークビショップの衣を纏う女性の姿を。


「あ、おかえり! ローラちゃん!」


「ただいま戻りました、マリーさん」


 これも天啓オラクルの能力でしょうか? マリーさんは私の戻りを把握していたのでしょう。


 マリーさんはアレックスとパッフェルの母親。そして、ソリッドの育ての親でもあります。


 私は廊下を並んで歩き、思っていた疑問を彼女に投げかけます。


「それにしても、本当に良かったのですか? 私の想いを伝えるだけで……」


「良いの、良いの! 想いはきちんと、言葉にして伝えておかないとね!」


 マリーさんはいつも通り、陽気な笑みを浮かべています。そこには一切の疑念が浮かんではいませんでした。


 ただ、マリーさんの答えは、私の望んでいたものではありません。私には先程の行為が、意味あるものと思えなかったからです。


「想いを言葉にする。それは確かに大切な事だと思います。けれど、あのタイミングで伝えに行くのは、場違い感が凄かったのですが……」


 決死の覚悟で居並ぶ騎士達の間に、私達は何食わぬ顔で現れた。そして、アレックスとエリスさんを祝福したいと伝え、満足して帰ってしまった。


 頭がおかしい女と思われなかっただろうか? 上から目線でウザい神官と思われてはいなかっただろうか?


 私ならきっとそう思う。こいつは何しに来たんだと、呆れた視線を送った事だろう。


「良いの、良いの! 思った事はすぐに伝える! 後回しにしたら、手遅れになる事だってあるんだからさ!」


「はあ……。そういうものでしょうか……?」


 マリーさんの指示はいつも正しい。そうパッフェルも言っていたし、天啓オラクルの恩恵もあるのでしょう。


 ただ、結果に至るまでの過程が説明されないがな……。天才のパッフェルならまだしも、凡人の私には理解出来ない言動が多いのです……。


 私が内心で大きく息を吐くと、マリーさんは笑顔で私の顔を覗き込んで来た。


「それで、ローラちゃん。二人に何を伝えて来たの?」


「友人として、二人を祝福・・したいと伝えましたが……」


 アレックスとは冒険者パーティー『ホープレイ』の仲間です。苦楽を分け合った親友だと思っています。


 そして、エリスさんは一人で居る事が多かった女性。見かけた際には声を掛け、友人になろうと努めて来ました。


 私は白神教の神官です。聖女云々を抜きにしても、その在り方は正しいはずです。


 だというのに、マリーさんは目を丸くすると、お腹を抱えて笑い出した。


「あ、あはははっ! 決戦前の二人に祝福・・を与えて来たのっ?! 『星の巫女』からの祝福・・なら間違いないね!」


「……どういう意味でしょうか?」


 『星の巫女』とは私の加護ギフト。いずれ神の御業に辿り着くものらしい。


 しかし、実態は多くの苦難に見舞われるだけ。私に何かの力を与えてくれるものではなかったりする。


 そして、その加護ギフトの鑑定結果により、私は聖女として認定された。その結果、多くの苦難の中に飛び込む運命となった。


 それ故に、初めはマリーさんにからかわれたのかと思いました。けれど、彼女の表情を見る限りでは、そういった悪意は感じられません。


「厄災同士の戦いなんて、私には想像も付きません。だから、私が願ったの二人の幸せだけです。どういう結果になろうとも、二人の未来が幸せであって欲しいと……」


「そうそう、そういうので良いのよ! 大切な友達には幸せであって欲しいよね? そういう事を口に出せるから、ローラちゃんは偉いのよ!」


 馬鹿にされている訳ではないのでしょう。けれど、これは子供扱いされているのでしょうか?


 正直、私からすればそんな当たり前の事を、どうして褒めるのかと思ってしまいます。


 勿論、若い頃は自分に自信が無くて、言いたい事も口に出来ない時期がありました。


 とはいえ、私も今やニ十歳の大人です。子供扱いは如何なものかと思う訳ですよ?


「……とりあえず、まずはお爺様にご報告です。厄災同士の戦いが、もう間もなく始まるのですから」


 私は目の前の扉にノックする。ここはお爺様が待つ書斎です。私が戻るまで、ずっと寝ずに待ってくれているのです。


 私にはいち早く伝える義務があります。お爺様にとっては、今日この日が五十年以上の戦いの、その決着の日となるのですから。


「まあ、心配いらないと思うけどね? ローラちゃんの祝福・・もある訳だし?」


 また、マリーさんが意味深な台詞を口にしています。ただ、私の祝福・・とか言ってるので、流石にこれはからかわれているのですかね?


 気にはなりましたが、扉の向こうから入る様にと声が届きます。私は扉を開いて、お爺様の書斎へと足を踏み込みました。


「待っていたぞ、ローラ。それでは話を聞かせてくれ」


「はい、お爺様。それ程多くの情報はありませんが……」


 席を立ちあがり、出迎えてくれるお爺様。現教皇のアルフレッド=ホーネストです。


 以前は厳しい人と思っていました。しかし、今のお爺様の顔には、優しい笑みが浮かんでいます。


 その笑みから、人は変わるものだと思いました。それも、全ては良い方向へと変わり始めている。


 横に並ぶマリーさんも、慈愛の眼差しで私を見つめています。二人の親戚に見つめられ、私の心が温かくなってきました。


「……唐突ですが、こういうのって何だか良いですね?」


「ふふ、そうだね。私もローラちゃんと同じ気持ちだよ」


 私の呟きにマリーさんが即座に返す。彼女はニカッと、満面の笑みを浮かべていた。


 その返答に私は再び嬉しくなる。やはり、想いを口にするのは大切なんだなと、私は改めて実感した。

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