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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第八章 パール王国の厄災と光の勇者
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動く計画

第八章は週一(土)更新とさせて頂きます!

落ち着きましたら週二(水・土)に戻したいと思います!

 僕の名前はアレックス=アマン。パール王国が擁する『光の勇者』。そして、魔王軍との戦いを終わらせた立役者という事になっている。


 その名声を活用して、僕は多くの同志を集めた。パール王国を狂わせる歪み。それの原因たる『国母』グリ―ディア=フォン=パールを討伐する為にだ。


 彼女こそがこの国に救う癌。全てを分断し、強者と弱者を生み出す悪魔。その正体は『強欲の厄災』と呼ばれる呪いの塊らしいのだ。


「……エリス、準備は出来たんだね?」


「はい、アレックス様。全ての準備は整っております」


 僕の前に跪ずく、婚約者のエリス=クリストフ。ここはクリストフ家の屋敷。そして、僕に与えられた客室でもある。


 僕はゆっくり頷き、腰かけていた椅子から立ち上がる。エリスのサラサラな金髪に触れ、優しく撫でながら彼女に告げる。


「良く戦力を揃えてくれたね。エリスが婚約者で、本当に良かったよ」


「ああ、アレックス様! そのお言葉だけで、エリスは報われます!」


 僕の足元で顔を上げるエリス。その頬は紅潮し、その瞳は狂気に歪んでいた。


 僕はその瞳をじっと見つめる。長く見つめれば、正気を失いそうな不安定な瞳。けれど、僕は加護ギフトの影響で、その狂気に呑まれる事は無い。


 僕の持つ『光の精霊に愛されし者』は、邪悪なものへの強い耐性を得る。この力があるお陰で、僕は『厄災』と対峙する資格を得たのである。


「騎士団のメンバーは、どの程度『強欲』に呑まれていたのかな?」


「三割程でした。隊長以上の騎士は全て。勿論、全て支配済みです」


 僕はゆっくりと頷く。地位ある者に絞っていたのだろう。三割とは言え、騎士団は殆どが掌握された状態だったらしい。


 それは長い時を掛けて、ゆっくりと蝕んだ結果である。『強欲の厄災』は光の精霊王に力を封じられている。一度に多くの人間を支配できないのだ。


 とはいえ、僅かな力で『欲』を集め、ゆっくりと成長を続けた。六十年以上の月日を掛けて、ついには光の精霊王を凌駕するまでになった。


「――だが、奴にも誤算があった」


 それは、このパール王国にもう一つの『厄災』が生まれたこと。そして、その『厄災』が『強欲の厄災』を敵だと認識した事である。


 『厄災』とは人々の恨みから生じる呪いだ。『強欲』が生み出した闘争。それにより人生を狂わされた者達。その復讐に燃える狂気こそが、もう一つの『厄災』の種となった。



 ――『狂気の厄災』エリス=クリストフ。



 彼女との出会いは運命だと言える。この国に歪みを生み出す存在を、僕達は共に許す事が出来なかったからだ。


 もし彼女と出会わなければ、僕は真の敵を知る事が無かった。そして、ソリッドの苦境を変える事も出来なかっただろう。


 しかし、僕達は出会い、惹かれ合った。共通の敵を排除し、歪みの無い世界を作り上げると言う目標を掲げる事になった。


 僕は『光の勇者』として衆目を集め、エリスはその陰で仲間を増やす。微かでも復讐心を持つ者は、彼女の支配から逃れる事が出来ないのだ。


 『強欲』で支配された者達も、その悉くが復讐心を宿していた。それ故に、力の封じられた状態の支配は、エリスの『狂気』で簡単に上書き出来たと言う訳だ。


「それでは行こうか、エリス?」


「はい、どこまでもお供致します」


 僕が手を差し出すと、彼女はその手を取る。うっとりした表情を浮かべて、引かれる手により立ち上がる。


 僕とエリスは手を握ったまま、部屋から出て行く。向かう先は、騎士団の訓練場である。そこにこの国の騎士団員が全て控えているからだ。


 『狂気』に支配された騎士達。そして、『強欲の厄災』を討ち滅ぼす為の勇者達である。


 無論、彼等では『強欲の厄災』を傷付ける事は出来ない。けれど、僕とエリスを無事に送り届ける役には立つだろう。


 宮殿の奥まで向かうのに、邪魔する者さえ居なければ良い。僕とエリスの二人が居れば、『強欲の厄災』を討ち滅ぼせるのだから。


「ふふふ、もう間もなくですわね……」


「ああ、僕達の望みは間もなく叶う」


 ピタリと僕に寄り添うエリス。その瞳さえ見なければ、只の恋する乙女にしか見えないだろう。


 けれど、彼女は『狂気の厄災』。その『狂気』が溢れ出せば、この国を滅ぼせる呪いでもある。


 僕のやっている事は、毒を以て毒を制す行為だ。白神教なら悪と断じる愚行となるはずである。


 それでも僕は止まる事は無い。ソリッドを救い、エリスを愛する。そこれそが、僕の成すべき事だと自覚しているからだ。


「お出かけですね? 途中までお供させて頂きます」


 廊下を歩いていると声が掛かった。僕とエリスを待っていた、スーツ姿の赤毛の青年。彼の名はマッシュ。エリスの執事である。


「マッシュ、君も来てくれるか。一緒に行くとしよう」


 彼はエリスの執事という事になっている。しかし、その忠誠心は僕へと向けられている。


 エリス自身がそれを望み、マッシュに許しているからだ。彼もエリスと共に、陰で僕の為に動いてくれる一人である。


 エリスと出会ったのは十一歳の頃。マッシュとの出会いは十三歳である。彼等との付き合いも随分と長くなっている。


 そして、その月日によって僕達の絆は深まっている。今では家族であるソリッドやパッフェルに、匹敵する程の信頼を置いている。


「さあ、それではケリを付けに行こう」


「「はい、アレックス様……!!!」」


 僕はエリスとマッシュを従え、クリストフ邸を後にする。騎士団と合流して、『国母』グリ―ディアの住まう宮殿へと向かう為に。


 僕達三人で始めた戦い。十年近い年月を掛けた計画。その終わりが近づいている。


 僕は興奮する心を落ち着けながら、望む世界を手にする為に歩み続けるのであった。

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