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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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鬼龍院家の結末

 私の名前は鬼龍院源蔵。鬼龍院家の当主であり、鬼人国の将軍――殿様である。


 ――思えばこれらは運命だったのだろうな。


 私が『憤怒の厄災』となったこと。吹雪が我が元に生まれたこと。そして、ソリッド殿が現れ、全てを救ったこと……。


 帰りの軍艦に乗りながら、そんな事を考えていた。私が一人で地平線に沈む夕日を眺めていると、そこへ娘の吹雪がやって来る。


「父上、ここは風が強う御座います。体を冷やさぬよう、船内へ御戻り下さい」


「うむ、心配を掛けたか? 少し考え事をしていたものでな……」


 一度は死にかけた為か、娘は私の身を酷く案じてくれる。些細な事でも小言を言われる。


 これでも私は国一番の武士。多少の風如きで、風邪を引く鍛え方はしていないのだがな。


「とはいえ……」


 真っ黒な髪に赤い瞳。実に美しい女性へと育った。これは亡き妻の血が色濃いお陰だろう。


 性格は私に似たのか、少々無骨な所がある。だが、そんな所も私には愛おしい。


 私は最愛の娘と向かい合う。そして、周りに誰も居ない事を確認し、気になっていた事を確認する。


「……吹雪は二人の事をどう見ておる?」


「ソリッド様とパッフェル様の事でしょうか?」


 娘の問いに頷きを返す。私が知りたいのは、二人が何者かということだ。


 底知れぬ存在とはわかるが、それ以上が理解出来ない。娘から見た両者が、どう見えるのかが知りたかったのだ。


 吹雪は少しばかり考える仕草を取る。そして、程なくしてこう答えた。


「――神に選ばれし者。私はそのように見ております」


「神に選ばれし者……。それは、黒の神と白の神にか?」


 私の問い掛けに吹雪は答えない。しばし考えた後に、ゆるゆると首を振る。


「そこまではわかりません。しかし、その可能性は十分にあるでしょう。そして、お二人は既に、私を超える神性を宿しておられます」


「な、何だと……? 吹雪を超える神性だと……」


 鬼龍院家の血筋は、必ず神性を宿している。それは、かつてのゴブリン王が、神より『神眼』を与えられた事に由来する。


 その神性を理解し、磨き上げると『神通力』を得る事が出来る。それを得る事こそが、鬼龍院家の当主となる条件となっている。


 しかし、吹雪は生まれながらに『神通力』を宿していた。周囲から『神童』と呼ばれ、明らかに我々とは別格の神性を纏っていたのだ。


 その吹雪を超える神性。にわかには信じがたいが、あの二人なら或いは、という思いもあった。


「我等は生まれつき神性を宿しています。それ故に勘違いをしがちですが、神性とは『信仰』される事により宿るものなのです。そして、パッフェル様は……」


「なるほど。ハーフリンク族か……」


 忍びから情報は上がっていた。パッフェル商会の従業員は、パッフェル=アマンを神の如く敬っていると。


 しかし、自らの目で見て確信した。あれは神の如くではない。彼等は神として信仰しているのだ。


 その『信仰』が力の源と言うならば納得が行く。一つの種族が『祈り』を捧げる存在。それが神でなくて何だと言うのだ?


 そして、『厄災』を宿した身だからこそ思う。呪いとは逆の方向で力を得る存在。私から見ると、何という皮肉な存在なのかと……。


「パッフェル殿については理解した。だが、ソリッド殿はどうだ? 彼を信仰する者が存在するのか?」


 忍びからの情報でも、そんな報告は無かった。魔王国での人気は高いが、彼を神と敬う者はいまい。


 ならば、彼の神性の源は何だ? 何が彼を神へと至らしめると言うのだろうか?


 その答えを求める私であったが、吹雪は眉を顰めてゆるゆると首を振る。


「確かな事はわかりません。けれど、あの御方は違う気がするのです。そもそもが、我々とは違う存在なのではと考えております」


「我々とは違う存在? 吹雪は何を言っておるのだ……?」


 私は神々しさを感じる程度の目しか持たない。吹雪と比べてみても、どちらが上かもわからない。その程度の弱い神性しか宿していない。


 しかし、吹雪は私とは違う。より強い神性を身に宿している。それ故に、私とは違う景色が見えているはずなのだが……。


「私もパッフェル様も、神性を身に纏っております。しかし、ソリッド様はその内に宿しているのです。恐らくは、魂の在り方が我々とは違う気がするのです……」


「魂の在り方か……。しかし、随分と自信無さ気な物言いだな?」


 吹雪はズバズバと物を言う方だ。わからない事でも、キッパリとわからないと宣言する子だ。


 それが何故、こんな曖昧な物言いなのだろうか? そう疑問に感じていると、吹雪は不安そうな表情でこう告げた。


「私はソリッド様の魂に触れました。けれど、その魂は硬い殻で覆われておりました。私はその殻越しに触れる事しか出来ていないのです。その中身が何なのか、知る事すら出来ませんでした……」


「魂が硬い殻に……?」


 恐らくは比喩なのだろう。強い力で覆われていたと言いたいのだろう。


 だが、どうして魂を覆っている? それは彼の魂を守る為なのだろうか?


 しかし、吹雪の態度を見るに違うのだろう。彼女は微かに身を震わせて、自信無さげに呟いた。


「アレは割ってはいけないもの……。外に出てはいけないものが巣くって居る……。私の勘が、そう告げています……」


 私は思わず喉を鳴らす。あの吹雪が恐怖で身を震わせている。『厄災』にすら平然と立ち向かう、あの吹雪がである……。


 私は一旦、呼吸を整える。これはあくまでも吹雪の予想。そして、これ以上を聞いても何も得る物はないだろう。


 私は吹雪の不安げな様子に気付く。そして、場の空気を変える為にも、話題を変える事にした。


「そういえば、パッフェル殿からの第二婦人の提案。良くあれを受ける気になったな」


「……仕方が無いではありませんか。パッフェル様が第三婦人で良いと言うのですから」


 私の問い掛けに、吹雪は頬を膨らませる。やはり、多少の不満はあったみたいだな。


 それと言うのも、吹雪はソリッド殿と婚約した気でいた。しかし、パッフェル殿から、ソリッド殿にはそんな気が無いと告げられたのだ。



 ――そう、吹雪の空回り……。



 それを聞かされて呆然とする吹雪。そこへ更なる追い打ちとして、ソリッド殿を懸想する女性の名が告げられた。


 魔王の一人娘であるチェルシー=ノーム姫。彼女もまた、ソリッド殿を狙う恋する乙女とのことであった。


 ライバルの存在に、吹雪も一度は火が付いた。しかし、次なるパッフェル殿の提案に、我等は度肝を抜かれる事となる。


『まずはチェルシーが第一婦人となる。そして、一夫多妻制の魔王国で、私は第二婦人の座に収まる計画を立ててるの。吹雪も計画に乗る気は有る? 有ると言うなら、私は第三婦人でも構わないんだけど……』


 つまり、同盟の提案である。既にチェルシー姫とパッフェル殿が同盟を組んでおり、そこに加わらないかと誘われたのだ。


 余りにも想定外であったが、断るという手は無かった。その選択はチェルシー姫とパッフェル殿を敵に回す事を意味する。


 チェルシー姫との一騎打ちなら、吹雪も挑んだであろう。しかし、パッフェル殿を敵に回すのだけは無い。アレは絶対に敵に回してはいけない存在だからだ。


 なので、二番と言う不名誉はあれど話を飲んだ。その事をどの程度気にしているかと思ったのだが、吹雪はあっけらかんとこう言い放った。


「まあ、良いのです。私とソリッド殿は赤い糸で結ばれた存在。前世でも来世でも、ずっと結ばれる定めなのですから」


「……ん? それは、神通力で見えたのか?」


 私如きの力では、ソリッド殿の宿業を見る事は出来なかった。前世や来世がどう繋がっているか、まったく見通せなかった。


 しかし、吹雪の『神通力』ならば、それが出来たのだろう。そう思ったのだが、吹雪の答えは意外なものであった。


「いえ、まったく見えませんでしたが? ただ、女の勘でわかりました。一目見た瞬間から、この御方こそが私の運命の人であると」


「お、おおぅ……」


 真剣な表情でキッパリと宣言する吹雪。その瞳には一点の曇りも無かった。


 そして、私は理解する。吹雪はただの恋する乙女。恋に盲目になっているのだと……。


「ち、父は応援しておるぞ……?」


「ありがとう御座います! ですが、これは決定事項ですので!」


 やはり迷いが無い。キッパリと言い切る娘に、私は内心でドン引きしていた。


 私はただ内心で健闘を祈る。あの好青年が、女性関係で苦しむ事が無いようにと……。

最近、仕事が少し忙しい状況です。

その為、次回の第八章から週一(土)更新とさせて頂きます!

落ち着きましたら週二(水・土)に戻したいと思います!

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