表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
131/162

祝勝会

 俺、セイレン大統領、ライザさんの三人は一時間程度待たされた。その間、俺はライザさんにより美味しいカフェラテを提供して貰い、その作り方を教えて貰っていた。


 そんな事をしている間に、パッフェルが会議室に戻って来る。むっつり顔の彼女と対照的に、鬼龍院親子はニコニコ顔であった。


「……交渉結果を伝えるわ。交易都市は吹雪を代官に置く。私は基本的に名前貸し。時々、通話で状況確認するだけって話になったから」


 ムスッとした表情で簡潔に告げるパッフェル。余り納得の行く結果では無かったのだろう。


 それも仕方が無い話だ。パッフェルは責任を負いたがらない。政治的に利用されるのを何よりも嫌う所があるからな。


「……それだけでは御座いませんよね?」


 パッフェルの隣に立つ吹雪姫はニコリと微笑む。そして、キラキラした瞳でパッフェルを見つめて告げる。


「交易都市の住民はハーフリンク族のみ。その他は滞在許可を得た者のみが、一時的に住む事を許されます。つまり、パッフェル様はあの地を、ハーフリンク族の国とするおつもりなのです」


「何だと……?」


 パッフェルとハーフリンク族との繋がりは強い。パッフェル商会の従業員が、全てハーフリンク族なのがその証明とも言える。


 流浪の民であるハーフリンク族は、フリーな商人である事が多い。そこに目を付け、スカウトしたのが彼等との関係の始まりだった。


 ただ、パッフェルの想像を超え、ハーフリンク族の熱意は凄まじかった。パッフェルを敬愛して、彼女の元にどんどんと集まり続けたのだ。


 心優しいパッフェルは、そんな彼等を見捨てる事が出来なくなった。気付けば彼等の未来を考え、導かねばならない立場となってしまったのだ。


「交易都市はパッフェル商会の支配地として良い。そういう条件で、パッフェル様の統治を認めて頂きました。サファイア共和国側としても、その条件で問題無いでしょうか?」


「うむ、構いませんぞ! 今回の交渉は全てパッフェル殿に一任しておりましたしな! 我が国を救って頂いた英雄に、我等は最大限の恩義を返させて貰う所存ですからな!」


 吹雪姫の問い掛けに、セイレン大統領が即答する。彼のパッフェルに対するスタンスは、この回答で良くわかった。


 それを満足げに見つめる源蔵殿。それを複雑な感情の入り混じった顔で、パッフェルは睨み付けていた。


「貴方の国って、本当に良く情報を集めているわね。私の泣き所を正確に突いて来てさ……」


「ふっ、我が国の忍びは優秀と言ったであろう? 今後は互いに仲良くやろうではないか」


 どうやら、今回の交渉は鬼龍院家が有利に進めたようだ。その理由として、他国の情報に精通した、鬼龍院家の情報網があったのだろう。


 相手の情報が無かったとはいえ、パッフェルが翻弄されるとは珍しい。そう思っていると、吹雪姫がクスリと微笑みこう告げた。


「それとチェルシー姫との顔合わせ。そちらもお忘れ無き様にお願いします……」


「わかってるわよ。ちゃんとセッティングするから、勝手に暴走しないでよ?」


 チェルシー姫? それは、魔王の一人娘、チェルシー=ノームの事だろうか?


 どうして、そんな話に? 同じ姫同士として、魔王国との繋がりを作るつもりか?


 俺は不思議に思ったが、パッフェルは説明する気が無いらしい。大きく息を吐くと、俺に向かってこう怒鳴って来た。


「一旦休憩! 甘い物を食べに行くわよ、ソリッド!」


「う、うむ……。俺は、まったく構わないのだが……?」


 どうもパッフェルはストレスが溜まってしまったらしい。今からたっぷりと甘やかす必要があるみたいだ。


 そして、俺も甘い物には興味が尽きない。そういう誘いなら、望む所ではあるのだが……。


「パッフェル様! 私もお供いたします!」


「お勧めの店が御座います。案内致しますね」


 即座に手を上げる吹雪姫。そして、案内役に手を上げるライザさん。


 二人は同行するつもりらしい。パッフェルは大仰に頷いているので、同行は許可されたらしい。


「ただ、残される二人は……」


 セイレン大統領に源蔵殿。少し前まで敵国同士だった大将同士。気まずい空気になるのでは……。


「源蔵殿で宜しいかな? 旨い酒があるのですが如何ですかな?」


「ほほう、それは興味深い。是非とも御馳走になるとしましょう」


 何やらフランクな雰囲気で部屋を出る二人。というか、まだ日中なのに飲む気なのか?


 まあ、誰も止めないし問題無いのだろう。そう思って俺は、二人の事を意識から消した。


「メロディーと小春も呼ぶわよ! 後はパッフェル商会にも声掛けるから! そのまま夜は、パッフェル商会で祝勝会よ!」


 自棄になったのか? 随分と羽振りの良い事を言い出した。パッフェル商会も急な話で困らないか?


 ……いや、困らないな。あそこの従業員は、パッフェルからの指示を心底嬉しそうに受け入れるからな。


「ふふふ、それは随分と楽しそうですね」


 パッフェルの隣にそっと寄り添う吹雪姫。ライザさんを背後に引き連れ、会議室から出て行こうとする。


 そして、パッフェルは視線をこちらに向ける。彼女は眉を顰めて俺にも声を掛ける。


「行くわよ、ソリッド! 私達が揃って無いと意味無いでしょ!」


「そういうものか? ……いや、そういうものなのだろうな」


 一見すると不機嫌そうに見えるパッフェルの態度。しかし、良く見ればその口角は微かに上がっている。


 パッフェルは素直に感情を表に出さない。それは子供の頃に、大人に裏切られた経験によるものだ。


 しかし、彼女は誰よりも優しい心を持つ。今はハーフリンク族の安寧の地を得る事が出来て、喜びではしゃぎたい気分なのだろう。


 そして、その喜びの場には俺が必要。そう思ってくれる彼女の想いに、俺は心の底から喜びを感じていた。


「確かに祝勝会だからな。二人が一緒でなければな」


「そういうこと! ちゃんとわかってんじゃない!」


 満面の笑みを浮かべるパッフェル。その笑みに、俺の頬も思わず緩んでしまう。


 喜びも悲しみも、ずっと一緒に分かち合って来たのだ。それが俺達には当たり前のことなのだ。



 ――パッフェルが俺の妹で良かった。



 そう改めて実感した俺は、穏やかな気持ちでパッフェルの頭を優しく撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ