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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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成功報酬

 源蔵殿の命が助かり、それで終わりとは行かなかった。鬼人国とサファイア共和国の関係をどうするか、両国の話し合いが必要だろうと言う話になったのだ。


 仲介人はパッフェルが手を上げた。そして、セイレン大統領に話を付け、秘密裏に源蔵殿と吹雪姫を領主邸へと招き入れる事となる。


 両国の統治者は互いに護衛も付けず、会議室のテーブルを囲む。直接対決は無かったが、互いに敵対していただのだ。初見では両者に緊張が見られた。


 俺は大丈夫かとは心配し、両者へと問い掛けた。ただ、俺が居るから大丈夫だろうと、何故だか互いに苦笑を浮かべていた。


「さて、司会進行は任せて貰うわ。私の説明は不要で良いかしら?」


「うむ、問題無い。パッフェル殿の名は我が国でも轟いておるしな」


 パッフェルの問いに、源蔵殿は不敵に笑う。けれど、パッフェルは肩を竦めて軽く受け流す。


 源蔵殿は少し寂しそうだ。隣に座る吹雪姫は、そんな父親をクスクス笑いながら眺めていた。


「まずこれは提案。鬼人国が攻め込む計画を、サファイア共和国は知らなかったって事にしない?」


「うむ、構いませんぞ! 国民に被害が無かった以上、それが両国にとって最善でしょうからな!」


 パッフェルの提案に、セイレン大統領が真っ先に乗っかる。余りに早い反応に、俺は驚きを覚えた。


 けれど、彼の背後に控えるライザさんも頷いている。これはあれだな。パッフェルが事前に根回ししているな……。


「という訳で、賠償とかの話も無し! この場は両国が今後、どう付き合って行くかを話す場にしましょう!」


「うむうむ! それが宜しいでしょうな!」


 強引に話を進めるパッフェル。それに全力で乗っかり続けるセイレン大統領。


 源蔵殿も吹雪姫も、二人のやり取りに唖然となる。ただ、源蔵殿は慌てて立ち上がり、二人に向かって叫ぶ。


「ま、待って欲しい! 我が国は一方的に攻め込んだのだぞ! そんな我が国に都合の良い話が、あって良いはずが……!」


「黙りなさい。誇りとか恥とか口にする気? 両国の平和を一番に考えるなら、そんなもは犬にでも食わせなさい」


 源蔵殿の言葉をピシャリと遮るパッフェル。余りに余りな言い分に、源蔵殿も口をパクパクと開閉していた。


 しかし、吹雪姫の瞳はキラキラと輝いていた。うっとりした表情で、パッフェルの事を見つめている。


「ああ、流石はソリッド様の妹君……。何と勇ましいのでしょう……」


「うむ、その通りだな。俺には勿体ない、出来た妹だと思っている」


 俺は胸を張って満足げに頷く。パッフェルが褒められて、少々気分が良くなっていたからだ。


 ただ、何故かパッフェルは俺に複雑な視線を向けていた。けれど、源蔵殿へと視線を戻し、ズバズバと話を続ける。


「良い? 只よりも高い物は無いの。貴方は多大な恩を受ける事になる。そして、それを前提に話を進める義務があるのよ?」


「……なるほど。歯に衣着せぬ言い方だが、そう言われれば納得は出来る」


 パッフェルの説明に源蔵殿は納得する。そして、スッキリした表情で椅子に腰を落とす。


 しかし、空気を読まぬセイレン大統領が、余計な説明を付け加えた。


「ははは、恩等を感じる必要はありませんぞ! 鬼人国を許す見返りに、我が国もパッフェル商会からの援助を頂いておりますからな!」


「――ちょっ……?! それは言わない約束だったでしょ!」


 どうやら、その辺りの根回しもしていたらしい。両国の関係改善の為に、パッフェルが身銭を切っていたのだろう。


 そして、本来はサファイア共和国が寛大な処置を取った。――というシナリオにする予定だったのだ。


 それをセイレン大統領が、アッサリとちゃぶ台返しをしてしまったのだろう……。


「いや、改めて考えたのですがね。黙っているのも不誠実でしょう? それで鬼人国に恩を売る等、我々もそこまで恥知らずではありませんからな!」


「ああ、もう馬鹿……! 男って馬鹿ばっかなんだから……!」


 パッフェルは誇りや恥は捨てろと言ったばかりだ。にも拘らずこの言い分。セイレン大統領も随分と面の皮が厚い御仁みたいだな……。


 そして、パッフェルがイラついた表情で歯ぎしりしていると、吹雪姫がクスクス笑いながら問い掛けた。


「それでパッフェル様は、見返りに何を得るおつもりでしょう? 転んでもただで起きる御方でも無いでしょう?」


「――いい所に気付いたわね!」


 吹雪姫の台詞に、パッと顔を輝かせるパッフェル。ニヒルに笑うと堂々と宣言する。


「これから両国が親しくなれば、交易を始める事になるわね? パッフェル商会の関税免除。そして、交易品の無制限化を希望するわ!」


「「う~ん……」」


 意気揚々と要求するパッフェルだったが、二人の反応はイマイチだった。反応が想定と違ったらしく、パッフェルも目を見開いて固まっている。


 すると、源蔵殿が何かを思い付いたらしく、セイレン大統領へと質問を行う。


「我とソリッド殿の戦った地。領域守護者の守護地は、サファイア共和国の領地という扱いだろうか?」


「いえ、あそこは我々が管理出来ませんからね。我が国の領地という扱いではありませんが……」


 確かに領域守護者の守護地は、人が管理できる場所では無い。どの国でもあっても、自分の領地とカウントしないのが普通だ。


 そんな当たり前の常識を、源蔵殿はわざわざ確認した。その意味を勘ぐっていると、源蔵殿からサラリとこんな提案が行われる。


「奇跡の代償か、あの地は霊脈が閉じた。最早、次の領域守護者が生まれる事もない。なればあの地に貿易都市を建設し、パッフェル殿に譲渡するのは如何だろうか?」


「「「――はあっ……?!」」」


 余りにも唐突な提案に、その場の皆が驚きで叫ぶ。しかし、源蔵殿は持論を更に展開する。


「両国が急に貿易は難しかろう。されど、パッフェル殿の治める地。それは両国が安心して交易を行える緩衝地帯となるだろう。どちらの国にも所属しない、中立地とするのが良いだろうな」


「……なるほど。確かに互いに遺恨が皆無ではない。信頼できる仲介人は欲しい所でしょうな。パッフェル=アマンの知名度があれば、我が国も安心して交易を行う事が出来ますな!」


 源蔵殿の提案に乗っかるセイレン大統領。ノリノリな感じで大きく頷いている。


 更にはライザさん、吹雪姫も好感触みたいだ。源蔵殿を「天才か?」という視線で見つめていた。


 しかし、当の本人はというと、慌ててテーブルをバンバンと叩く。


「じょ、冗談じゃないわよ! 私は領地なんて持たないからね! 領地経営なんてまっぴらごめんよ!」


「はっはっは、そこは両国から文官を送り出すとしましょう。パッフェル殿は指示だけ出せばよい」


「それは名案ですな! 両国の文官の交流も進み、将来的には国同士の交流も可能になるでしょう!」


 パッフェルは尚も抵抗の意思を見せるが、両国の代表は勝手に話を進めて行く。


 こうなるともう駄目だろうな。こういう流れの時は、逆らっても無駄だと俺は実体験で理解している。


 更に気を良くした源蔵殿は、楽しそうに話を続ける。


「くっくっく、我としては助力は惜しまぬぞ? パッフェル殿も将来的には身内。吹雪とソリッド殿が籍を入れ……」


「――ストォォォップ……!!!」


 パッフェルの叫びが室内に響き渡る。余りの大音量に、皆が驚いて固まってしまう。


 すると、パッフェルはユルリと立ち上がる。源蔵殿と吹雪姫の元まで歩き、微笑みながら両者の肩を掴む。


「――確信した。二人とはしっかり話し合う必要があるって」


「「え? えっ……?」」


 ニコニコと微笑むパッフェルだが、良く良く見れば目が笑っていない。その纏う空気は有無を言わせぬものであった。


「ちょっとばかし……。裏で話し合いましょうか?」


「「え? えっ……?」」


 パッフェルは二人の方をギリギリと握り締める。そして、強引に会議室から引きずり出して行く。


 パッフェルの雰囲気に飲まれ、二人は無抵抗で連れ出されてしまう。俺達はただその光景を見守ることしか出来なかった。


「「「…………」」」


 会議室に取り残された俺、セイレン大統領、ライザさん。俺達は互いに見つめ合い、何も言えずにパッフェル達の帰りを待つしかなかった。

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