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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第一章 根暗アサシンと駆け出し冒険者
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クエスト

 今回の依頼は『ハイキュアの花』の採取。上級ポーションの材料として需要はあるが、採取可能な時期や採取場所の関係で、入手困難な素材となっている。


 そして、依頼を受けのはミーティア達の初心者組。本来なら馬車で片道三日の森へ向かい、そこから魔獣の生息する深部へと向かう必要がある。彼等にとっては、それなりに難度の高い依頼であった。


 しかし、今回は俺の都合で時短する事にした。日帰り可能な秘密の採取地を、彼女達に披露する事にしたのだった。


「こんな近くに、ハイキュアの花が……」


「し、師匠……。どういう事ですかっ?!」


 呆然と立ち尽くすクーレッジ。驚きで目を丸くするミーティア。背後へと視線を向けると、岩肌に空いた小さな穴から、ハルとアシェイも這い出て来た。


 そして、四人が見つめる先には、紫色の花が群生していた。そう、これが今回の依頼内容である、ハイキュアの花である。


「以前に救った村人から、この場所を教えて貰ってな。栽培している花の、一割程度なら貰って構わないと言われている」


「ここの一割って……。依頼内容の倍以上はあるんじゃ……」


「――っていうか、ここって栽培された花畑なんですかっ?!」


 ハルがポツリと呟く。そして、それに続いてアシェイも叫び声を上げる。どうやら彼は、ハイキュアの花が栽培困難な事を知っているみたいだな。


 しかし、アシェイ以外は不思議そうな表情を浮かべていた。俺は他の三人に対して説明する。


「ハイキュアの花は強い魔力を宿し、一部の魔獣には最高の御馳走らしい。そして、その花が咲く時期は、グリーンキャタピラーの発生時期でもある。昆虫系の天敵となる魔獣が棲む森でしか、通常は生き残れない植物なのだ」


「そうなんです! グリーンキャタピラーを捕食する魔物は、最低でもLv10以上の脅威度が設定されています! その為、村を近くに作る事が出来ませんし、採取するにも一定レベルの冒険者が、パーティーを組んで挑む必要があるんですよ!」


 普段はオドオドしているアシェイが、興奮した様子で補足説明を行ってくれた。ただ、その興奮っぷりに、他のメンバーは若干引き気味な様子ではあったが。


 それはさて置き。俺は彼らに対して、この場所についての説明を続ける。


「つい最近まで戦争があっただろう? その村は課された重税に苦しんでいてな。五年ほど前に、どうにか新しい収入源をと検討していた。その際に俺は依頼を受けて、ハイキュアの種を彼らに届けたのだ」


「それって研究用ですよねっ?! 少数では研究になると思えません! そして、ハイキュアの花の種は希少で高価な品のはず! 重税で苦しむ村人達が、その費用を支払えたんですか?!」


 異常な程に興奮を見せるアシェイ。何が彼をそうさせるのだろう? 確か実家が農家だと聞いたので、過去に同じ研究でもしていたのだろうか?


 俺は内心で首を捻りつつ、現実ではゆっくりと首を振る。そして、真っ直ぐに彼の瞳を見つめ、俺はその問いに答えた。


「ギルドマスターから聞いているだろう? 俺は勇者パーティー『ホープレイ』の一員。『勇者アレックス』の兄弟にして『勇者の影』だ。俺が困っている人を助けるのは当然のこと。報酬なんて受け取れるはずが無いだろう?」


「――なっ……?!」


 アシェイは驚きで目を見開き、体は硬直してしまう。しかし、次第にフルフルと身を震わせ、やがてハラハラと涙を流し始めた。


 その反応に俺が戸惑っていると、ミーティアとハルが俺に詰め寄る。キラキラとして目で、俺を見上げて口を開く。


「師匠、カッコいいです! そういうのって、凄く憧れます!」


「流石ですソリッドさん。今後は兄貴って呼んで良いですか?」


 二人の視線がとても眩しい。こういう目を向けられた事が無く、どう反応して良いか困る。


 それと、兄貴呼びは勘弁してほしい。それを聞いたパッフェルが、どんな顔を見せるか想像出来ないしな……。


 そして、俺は何とも言えずに黙っていると、クーレッジがげんなりした表情で吐き捨てた。


「何ていうか……。見た目と中身のギャップがエグ過ぎです……」


「む、むう……?」


 それは褒められているのだろうか? それとも貶されているのだろうか? 嫌そうな顔をしているので、恐らくは後者な気がするが……。


 俺は四人への対応に困り、一先ず全てを脇に置く事にした。そして、何事も無かったかの様に、この場所の説明に戻る。


「研究を重ね、それが実ったのが昨年の事らしい。先日、戦場から王都へ帰る際に、たまたま村へ立ち寄ってな。その時に、この成果を披露して貰った訳だ。まあ、俺が必要とする機会は無いと思っていたが、今回は折角なので利用させて貰う事にした」


 利用した事は事後報告になるが、それで問題になる事はないだろう。彼等はこの地では珍しく、俺が友好関係を築けた人達だしな。


 そして、俺は周囲を加工岩に視線を這わせる。この場所は、村人達が必至で岩山を刳り貫いて作った栽培地なのだ。魔物が入れず、必要な光量が確保出来る様に、天井に穴をあけて。その手間を考えると、頭が下がる思いである。


 だからこそ、皆にはその事を告げねばならない。俺は四人に視線を這わせ、真剣な思いを彼らに告げる。


「この花畑は、一つの村が一丸となり、必死になって作り上げた場所だ。だから、決して他言しないで欲しい。この場所の情報が洩れれば、きっと良からぬ考えを持つ者達が、この地を荒らしてしまうだろうからな」


「も、勿論です! 私は誰にも言いません!」


「俺もです! 他言しないって約束します!」


「言えない……。これは血と涙の結晶だから……」


 元気よく答えるミーティアとハル。そちらは良いのだが、アシェイはいつまで泣いているのだろう?

 

 概ねは良好な反応が返って来た。しかし、最後にクーレッジが怪訝そうに尋ねて来た。


「けど、この花って今日中に納品するんですよね? 近場で採取したってバレない?」


「「「……あ」」」


 クーレッジの問いに、三人が揃って声を漏らす。その問いは、俺にとっても完全に盲点だった。


 ここまで来ておいて、どうするべきか。必死に頭を捻った俺は、一つの回答を導き出した。


「皆で必死に走った事にすれば――」


「いや、無理ですから。本来の採取地は、馬車で片道三日ですよ? 人間には無理です」


 俺の提案は、クーレッジにバッサリ切り捨てられる。どうやら俺には可能でも、彼等には出来ない提案だったらしい。


 冷たく見つめるクーレッジに、心配そうに見つめる他の三人。そのプレッシャーに押されながら、俺は苦し紛れの提案を出す。


「ギ、ギルドマスターに相談してみる……」


「……まあ、妥当ですね。私達だけで隠せる情報でも無いでしょうし」


 どうやら、クーレッジのお許しが出たみたいだ。他の三人もホッとした表情を浮かべている。


 ただ、俺は内心で溜息を吐く。今の俺はギルドマスターから指名依頼をこなしているのだ。それなのに、その依頼主に後始末を頼まねばならない。これでは本末転倒になっていないだろうか?


 俺が内心で唸り続けていると、クーレッジがずいっと踏み込んでくる。そして、俺を見上げながら冷たく告げた。


「仮にもS級冒険者なんですから。もっとしっかりして下さい」


「む、う……。面目ない……」


 今日のクーレッジは容赦がない。パッフェルが居ない事で、こうも態度が変わるとは……。


 とはいえ、彼女の言い分が間違っている訳でも無い。俺は自らの非を認め、深々と頭を下げた。


「あ、えっと……。それじゃあ、採取を始めましょうか!」


「そ、そうだな! 日が暮れる前に、帰らないとだしな!」


 ミーティアとハルの二人は、空気を変えようと気を使ってくれる。そして、クーレッジの背中を押しながら、花畑へと向かっていった。


 本来は俺が保護者のはずなのにな。二人に気を使わせた事を内心落ち込みながら、俺も花畑へと向かう事にした。


 ただ、ふと足を止めて背後へと振り返る。そこには一人佇むアシェイの姿があった。未だにハラハラと涙を流し続けるその姿が……。


 彼はいつまで泣いているのだろうか? 俺は内心で唸りながら、とりあえず彼の事はそっと置いておくことにした。

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