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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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動く事態

 俺は小春殿の指導に続き、吹雪姫からの指導を受ける事となった。


 気の基本はもう大丈夫らしい。そして、忍術は不要と言われ、俺は少し悲しい思いをした……。


 その代わりに、武士の奥義である武装覇気を早々に身に着ける事となったのだった。


「それでは、続きは吹雪が担当致します。まずは軽く、手合わせしてみましょうか?」


「ふむ……? 良くわからんが、宜しく頼む」


 今の吹雪姫は黒い簡素なドレス姿。元々来ていた着物よりは、動きやすい恰好ではある。


 けれど、戦いに向いた格好では無い。なので、俺も少しばかり油断していたらしい……。



 ――くるん……。



「――なっ……?」


 気付くと俺は地面に転がっていた。そして、吹雪姫は楽しそうに、俺を見下ろしている。


 俺が慌てて立ち上がると、背後の小春殿から注意が飛んだ。


「ソリッド様、油断なされぬ様に! 吹雪姫は国で二番目に強い『武士』なのです!」


「そう、なのか……?」


 見た目は可憐そうに見える美女。しかし、見た目通りの実力では無いという事らしい。


 しかし、油断したとは言え、今の状況は理解し難かった。俺よりも早い事よりも、何が起きたのか不明と言うのがな……。


「ソリッド様は、対人戦は不得手で御座いますか?」


「ふむ? 確かに得意とは言えないが……」


 戦争にも参加したが、俺は基本的に冒険者である。戦いの基本は魔獣や魔物がメインなのだ。


 苦手意識がある訳では無いが、対人戦に自信があると言う訳でも無かった。


「やはり、そうでしたか。視線や呼吸と言った、読み合いがまったくで御座いましたので……」


「――なるほど……。騎士等の職であれば、その様な訓練を行っていると聞くな……」


 アレックスは騎士に交じって訓練をしている。それ故に、俺よりもその手の読み合いに優れているだろう。


 しかし、俺の職はアサシン。正面きっての戦いでは無く、不意打ち等を得意としている。


 今回の様な状況では、レベルやスキルに関係なく、対人戦では不利になると言う事だろう。


「流石にこれらの修練は、一朝一夕とは行きません。ですので、短期で埋めれる個所から指導させて頂きます」


「ふむ、短期で埋めれる個所とは?」


 吹雪姫の提案に俺は期待する。先程の読み合いとなると、場数が物を言う部類である。


 まさか吹雪姫と死闘を繰り広げる訳にはいかないし、ずっと戦い続けるのも無理がある。


 なので、現実的な修行法があるなら、そちらを選びたいと言うのが本音であった。


「先程の私の速度。あれは武装覇気の初歩なのです。全身武装ではなく、踏み込みの際に、足だけを強化したので御座います」


「――なるほど……。そういう使い方が出来るのか……」


 気の力は思った以上に柔軟な物らしい。俺の知るどのスキルよりも使い方の幅がある。


 腕や足だけではない。目や耳も強化出来るかもしれない。そうであれば、更にその幅はグッと広がる。


「一つ一つの体の部位を強化し、自在に操れる様になった先に、武装覇気が御座います。まずは、足に気を集める修練から初めては如何でしょうか?」


「ああ、わかった。それでは、やってみよう」


 俺は気の流れに意識を向ける。漫然と体内を流れる気の力に対して。


 そして、足に向かう流れを強める。魂から溢れる力を、グッと絞り出してやる。



 ――ダンッ……!!!



 動作確認として、軽くジャンプしたつもりだった。だが、今の俺は空高く飛翔していた。


 高さで居れば、ドラゴンの背に居た時と同じだろう。これはかなり不味くないだろうか?


「ふむ……」


 俺は下に視線を向ける。幸いな事にパッフェルが指示を出し、皆の避難を開始していた。


 俺はホッと胸を撫で下ろし、着地に備えて足に再び気の力を流して行く。



 ――ゴガァァアン……!!!



 少しばかり足が痺れる。しかし、それ以外には、体に問題は無さそうだ。


 クレーターと化した足場から、俺はゆっくりと這い上がって行く。


 すると、カンカンに怒ったパッフェルが、俺の事を待ち構えていた。


「ちょっと、ソリッド! やるならやるで、一言あっても良いんじゃないの!」


「済まない……。ただ、流石にこれは、想定外だったのだ……」


 足に流れる気の力を強めた。そして、軽く跳ねただけのつもりだった。


 あんな上空に打ち上げられるとは誰も思うまい。少なくとも俺には想定出来なかった……。


 そして、それは吹雪姫も同じだったらしい。恐る恐る、俺に対して問い掛けて来た。


「もしや全身の気を、足の一点に集めたのでしょうか?」


「いや、魂の力を強めに足に流しただけなのだが……」


 俺の返答に、吹雪姫が目を見開く。そして、混乱した様子で、何やら考え始めた。


「え? 魂の力を強めに? その様な事が可能なのですか? 全身に流れる気の力は、常に一定のはずなのですが?」


「そう、なのか……? 魂から流れる力は、漏れ出るほんの一部だと思うのだが……」


 体感的には一割程度。捻り出せば、十倍くらいには強化出来る気がする。


 そして、先程出した力が三割程度だ。まだまだ強化できる余地が有りそうなんだがな……。


 俺と吹雪姫は共に頭を傾げる。ただ、そこに忘れていた人物からの声が届く。


「姐さん、ソリッドさん! ちょっと不味いかもです! この場所、探られてますよ!」


「探られてる? それって誰に?」


 声の主はメロディーだ。先程までは海に潜っており、今は海面に顔を出している。


 ただ、何やら焦った表情で、俺達に向かって大声で警告を続けている。


「お仲間です! この場所に、こんなに居るはずないので、はぐれの人魚達だと思います!」


「はぐれの人魚達……? まさか……!」


 メロディーの警告に、吹雪姫の顔が真っ青になる。そして、海の向こうへと視線を向ける。


 やがてその瞳は驚愕に見開かれる。彼女は震える声で、悔し気に言葉を漏らす。


「やられ、ました……。まさか、張られていたとは……」


 吹雪姫はこちらに振り返る。泣きそうな表情を浮かべると、深々と俺達に頭を下げた。


「お二人の存在が、我が父にバレました……。もはや、一刻の猶予もありません……」


「ちょっと待ちなさい。何が起きているか、ちゃんと説明して!」


 パッフェルが慌てた様子で、吹雪姫の腕を掴む。吹雪姫はポロリと涙を零すと、俺に対して縋る様な視線を向けて来た。


「我が父が、軍を編成しております……。この国へと攻め入るつもりです……」


「もしや、神通力の力で見えたのか……?」


 吹雪姫は神通力を持っている。それにより、遠くを見通すこと出来る。


 その力で鬼人国の光景を見たのだろう。小さく頷くその姿に、俺とパッフェルはそう理解した。


「……それで、どの程度の規模が、いつ頃に来そうなの?」


 俯く吹雪姫に対して、パッフェルは冷静に問い掛ける。こういう時のパッフェルは本当に頼りになる。


 吹雪姫は顔を上げ、申し訳なさそうに声を絞り出す。そして、その答えは無慈悲なものであった。


「軍艦五十隻、二千名の武士……。この国を滅ぼせるだけの戦力が……。明日の午後には上陸致します……」


「明日の午後……?! チッ、時間が無いわね……!」


 諦める事無く、対策を練ろうとするパッフェル。魔導デバイスを取り出し、ライザさんへと電話をかけ始めた。


 しかし、吹雪姫は諦めた様に、絶望の表情であった。俺はその表情から、彼女がまだ何かを隠していると直感していた。

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