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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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気の修練

 俺は新たなスキルーー忍術習得を目指し、小春殿の指導を受ける事となった。


 ただ、人目に付く場所は不味いとの事で、俺達はメロディーと出会った海岸へと移動する。


「ソリッド様! ここなら大丈夫そうです!」


「うむ、それなら良かった」


 なお、ライザさん達の同行は許可出来ないとの事で、メンバーは俺、パッフェル、吹雪姫、小春殿。それから同行を願ったメロディーの五人である。


 俺はパッフェルを抱え、小春殿はメロディーを抱えて走った。吹雪姫も意外と健脚で、ここまで息を切らさず走り切っていた。


 他には誰も居ない海岸で、俺と小春殿は向かい合う。そして、彼女からの指導が始まった。


「まずは忍術の基本をお教えします! 忍術ではマナを利用しません! 利用するのは生物が持つ生命エネルギーーー気と呼ばれる力になります!」


「生命エネルギーの気……?」


 パッフェル商会でも聞いたが、聞きなれない名前である。少なくとも大陸内では、そのような力は誰も使っていないはずだ。


「まずは実演してみましょう! 私が使える忍術は、風と土の属性になります!」


 小春殿はそう宣言すると、半眼となって印を結ぶ。すると、彼女の気配が希薄となり、目の前に居るのに存在感が無くなってしまう。


「何だ、これは……? 目の前の小春殿が、まるで幻のようだ……」


「これは風遁の術の一種です! 自身の生命力を風に乗せて拡散させ、気配を掴めなくする効果があります!」


 なるほど、これは凄い。盗賊や暗殺者のように、気配を読める職程に混乱する事となる。


 もし、斥候がこの忍術が使えたなら、獣から悟られずに済む事も可能だろう。


「次は土遁の術です! どうぞ、見て驚いて下さい!」


「――なっ……?!」


 小春殿は片膝を付いて、両手の手のひらを地面に付けた。すると、彼女の体は飲み込まれるように、地面の中へと消えて行った。


 そして、しばらくすると、俺のすぐ目の前に現れる。先程の風遁の術の効果もあり、移動中の気配がまるで読めなかった。


「忍術の修練を積めば、このような事も可能となります! ただ、気を使って属性変換するのは高等な忍術です! まずは気の扱いを学び、簡単な身体強化方を身に付けましょう!」


 小春殿はパッフェル並みに小柄だ。けれど、その身体能力はずば抜けている。


 先程はメロディーを抱えて、ここまで走り続けたのだ。それだけでも、その体力や筋力が見た目通りでは無いとわかる。


 恐らくは、それも忍術による強化なのだろう。俺は期待に胸を膨らませ、小春殿へと頷き返した。


「承知した。それで、気の扱いとは?」


「そ、そうですねぇ……。初心者に気の流れを理解するのは、非常に難しいんですよねぇ……。なので、ちょっと特殊な方法が必要ですかねぇ……」


 どうしたことだろう? 小春殿が顔を赤くして、ソワソワとし始めた。


 ハキハキと物を言う小春殿なのに、その言葉にも切れがない。俺が不思議に思っていると、彼女はおずおずと両手を伸ばして来た。


「わ、私の気を、ソリッド様に流したいなぁ、なんて……。その為に、両手を繋ぎたいなぁ、なんて思ったりして……」


「両手を握れば良いのか? これで良いか?」


 俺は差し出された手をギュッと握る。小春殿が指を広げていたので、指と指が絡むようにしっかりと握り締めた。


 すると、小春殿が両目を見開き、顔を上気させる。パクパクと口を開閉した後に、慌てて彼女は吹雪姫へとまくし立てた。


「ち、違うのです、吹雪様っ! これは修行の一環なのです! 決して、決して小春は、いやらしい気持ちで、こんな淫らな行為に及んだ訳では……!」


「ふふふ、落ち着きなさい? ちゃんとわかっていますよ?」


 ニコニコと笑顔で応える吹雪姫。これまで通り、穏やかそうな表情を浮かべている。


 ただ、何故だか周囲の温度が数度下がった気がする。妙なプレッシャーを感じるのだが、これはどういう事だろう?


 俺はブルリと体を震わせる。しかし、小春の方はガタガタと震え出していた。やはり、この辺りの気温が本当に下がったのだろうか?


「と、兎に角、気を流してみますね! ソリッド様は、体に流れる気の力を感じて下さい!」


「あ、ああ……。それでは、宜しく頼む……」


 小春殿の必死な表情に俺は驚かされる。彼女は何に焦っているのだろうか?


 ただ、小春殿はすぐに真剣な表情に変わる。そして、額に汗をかきながら、何やら首を傾けた。


「あれ? あれれ? これ、私じゃ無理かも……。ふ、吹雪様、代わって頂けませんか?」


「あらあら? 仕方ありませんね。それでは僭越ながら、吹雪が代わりを務めましょう♪」


 小春殿が安堵の表情で手を放す。その理由がわからず、俺は一人で首を傾げる。


 すると、場所を入れ替わる様に、吹雪姫が俺に前に立つ。そして、ギュッと俺を抱きしめて来た。


「……ちょっと待って貰えるだろうか? これはどういう事だろうか?」


「これも修行の一環で御座います。気を流しますので、そのままで……」


 先程、小春殿とは手を握るだけだった。どうして今回は抱きしめる必要があるのだろう?


 ただ、修行の一環と言われては仕方が無い。俺は気持ちを切り替え、真面目な気持ちで抱擁を受け入れた。


「――えっ、これは……? ぐぬぬ……」


「――む? 何だ、この感覚は……?」


 吹雪姫の体から、冷たい感覚が流れ込んで来る。ただ、実際に体が冷えている訳では無い。体の内側に、何かが流れ込んでいた。


 そして、その力により、俺の中の何かが揺り動かされる。その振動で体が熱くなり、不思議な力が湧き上がるのを感じていた。


「い、如何でしょうか、ソリッド様……? 気の活性化を、感じて頂けておりますか……?」


「あ、ああ……。これが気の活性化なのか……。不思議な力が、湧き上がって来ている……」


 気の流れや、気の活性化を感じる事は出来た。新しい感覚だが、決して嫌な感じはしない。


 ……それは良いのだが、吹雪姫は大丈夫だろうか? 余り人には見せられない顔なのだが?


 何やら額に脂汗を流し、物凄く力んだ表情なのだ。それ程までに、気の扱いとは難しいものなのだろうか?


 しかし、そこで静かに見守っていたパッフェルが動く。小春殿の傍まで近寄り、怪訝そうな表情で彼女に問いかける。


「これって普通じゃないんでしょ? どういう事か説明してくれる?」


「そ、そうですねぇ……。ザックリ言うと、ソリッド様の気が大き過ぎるんですよぉ……」


 俺の気が大き過ぎる? それはどういう意味だろうか?


 やはりと言うか、パッフェルも理解出来なかったらしい。続きを話せと、小春殿に視線を送っていた。


「えっと、気の大きさって、魂の大きさなんですよね……。ある程度の差は生まれつき有るし、精神の成長と共に大きくなるんですがぁ……。ソリッド様はちょっと異常かなって……」


「……異常って、どの程度?」


 パッフェルが目を細めて問う。それは小春殿の言葉から、何かを計ろうとしているみたいだった。


 そして、小春殿は色々と悩んだ末に、乾いた笑みでこう答えた。


「ソリッド様と比べたら、吹雪姫はチワワですね。私なんてアリンコでしょうか?」


「チワワが何かは知らなけど、存在の格が違うって意味かしらね……?」


 大まかな所しかわからない。しかし、俺の持つ気が大きいという話なのだろう。


 恐らく比較は誇張しての物だろうが、それでも大きな力が使えるとなると期待が膨らむ。


 ただ、今はそれよりも気になる事があった。それは、グッタリした様子の吹雪姫についてだ。


「大丈夫か? 随分と無理をしたようだが……」


「ええ、少々疲れました……。しばらく、このまま休ませて頂ければと……」


 やはり、気の扱いは相当に疲れるらしい。俺は申し訳ない気持ちで、吹雪姫へと頷き返した。


 すると、吹雪姫は腕に力を込め、俺を強く抱きしめる。それはとても、疲れている人の力では無いのだが……。


「……休むのであれば、この状態で無くても良いのでは?」


「ああ、何と逞しい胸板……。吹雪は幸せで御座います……」


 どうも聞こえていないらしい。吹雪姫は筋肉フェチなのか、俺の胸板に頬ずりをしている。


 そして、小春殿は物欲しそうな眼差しを俺に向け、パッフェルは冷たい視線を向けている。


 また、数度気温が下がった気がする。出来れば早く、この状態から抜け出したいものである……。

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