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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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厄災の根源

 吹雪姫から俺への願い。それは自らの父を殺して欲しいと言うものだった。


 戸惑う俺とパッフェルに対して、吹雪姫は感情を殺した声で話を続ける。


「先程も申しましたが、鬼人族は最も神に近き種族です。それ故に、王族の中には『神眼』のみでなく、『神通力』に目覚める者がおります。私もその一人となるのですが……」


「『神通力』? 聞いた事が無いわね。どういう力なの?」


 やはり、パッフェルも知らなかったか。俺が問うより早く、パッフェルが吹雪姫に質問していた。


 それに対して、吹雪姫は小さく頷く。そして、赤い瞳で俺とパッフェルを順に見つめる。


「『神通力』とは遠くの音を聞き、相手の心を読む事が出来る力。それに合わせて、相手が持つ宿業――輪廻のことわりを知る力となります」


「……前者はわかるとして、後者はどういう意味? 輪廻の理ってなに?」


 吹雪姫の口からは、次々と聞きなれない言葉が出てくる。パッフェルでもわからないなら、俺にわかるはずもないな……。


「輪廻の理とは、わかりやすく言えば生まれ変わりです。死した魂は循環し、新たな生命として生まれ変わります。全ての人々は前回の人生の宿業を背負い、その功罪により生まれと人生が決定するのです」


「――ちょっと待って。それって冗談じゃないわよね? マジの話なら世界の仕組み、と言うか……。神々の領域の話になるんじゃないのっ⁉」


 パッフェルが非常に狼狽えている。それ程までに凄い内容と言う事なのだろうか?


 俺はやはりついて行けていない。しかし、パッフェルの慌て方を見れば、尋常では無いという事だけはわかった。


「はい、仰る通りです。それ故に、この力は『神通力』と呼ばれるのです」


「ヤバイ、ヤバイ……。この国に来てから、ヤバイ話ばっかなんだけど……」


 パッフェルが頭を抱えている。涙目になっているので、そろそろキャパが限界かもしれない。


 俺はそっとパッフェルの頭を抱き寄せる。そして、彼女が落ち着く様に背中を撫でてやる。


「えっと、その……。まだ話は前段で、本題はここからとなるのですが……」


「ああ、構わない。そのまま続けてくれ」


 パッフェルをクールダウンさせる俺を、吹雪姫が困った瞳で見つめていた。


 ただ、俺が強く頷いた事で、戸惑いながらもそのまま説明を続ける。


「この『神通力』により知ったのです。我が父『鬼龍院 源蔵』は、五百年前の『呪いの厄災』の生まれ変わりであると。更にその力は増しております。今世では『憤怒の厄災』として、その力を覚醒させてしまったのです」


「は、はぁっ……?! あんたの父親が『憤怒の厄災』だって言うのっ……!!」


 驚愕で叫ぶパッフェルに、吹雪姫は静かに頷く。そして、悲痛な面持ちで更に続ける。


「そして、パッフェル様はかつて『呪いの厄災』に、止めを刺した者の生まれ変わり。つまり、我が父の最も警戒する相手となります。同じく『神通力』を持つ父が見れば、間違いなくパッフェル様の命を狙う事でしょう……」


「いやいや、マジで言ってんのっ?! 私の生まれ変わる前とか、マジで意味わかんないんだけどっ!」


 パッフェルの命を狙う? それは聞き捨てならないな……。


 パッフェルに危害を加える者は俺の敵だ。何があろうと許す訳には行かない……。


「――そして、その宿業の糸を断ち切る者。それこそがソリッド様なのです」


「……む? それはどういう意味だ?」


 急に話がこちらに向いた。見れば吹雪姫の赤い瞳が、縋る様に俺を見つめている。


 その詳しい意図までは汲み取れない。けれど、俺に助けを求めているのは確かにわかった。


「『厄災』とは人々の負の感情が蓄積された物です。例え倒しても拡散し、また集まってしまう呪いの一種なのです。ですので、五百年前の様に倒すだけでは不足。その宿業を断ち切る必要があるのです」


「……吹雪姫は、俺に何を望んでいる?」


 宿業を断ち切ると言われても、俺にはどうすれば良いかわからない。けれど、吹雪姫は俺ならばそれが可能と考えている。


 恐らく、何からの手段があるのだろう。そう思って問う俺に、吹雪姫は身を小さくしながらそっと呟く。


「『厄災』の源は感情です……。その感情を持つ者達が、納得出来る形で……。その宿業を、代わりに背負って欲しいのです……」


「宿業を背負う……?」


 やはり、彼女の話は難し過ぎる。俺にはさっぱり理解出来ない。


 けれど、どうやらパッフェルは違うらしい。彼女は顔を真っ赤にして、吹雪姫へを怒鳴りつけた。


「あんた、ソリッドに責任押し付ける気なの! あんたの父が統治者なんでしょ! なら、その責任はあんたの父親にあるんじゃないのっ?! どうして、ソリッドが代わりに背負わないといけないのよ!」


「仰る、通りです……。本来ならば父が……。可能ならば、私が背負う責務……。けれど、父は『厄災』に飲まれ、私ではその変わりが務まりません……。苦しみと悲しみの中に居る者達……。彼等と想いを供に出来る、ソリッド様でなければ……」


 俯きながら、白い手を握る吹雪姫。そんな彼女に、パッフェルはなおも怒鳴りつけようとする。


 しかし、俺はその肩を抱き寄せて止める。そして、驚きで見上げる彼女にこう告げた。


「苦しみと悲しみの中にいる者達が居る。ならば、それを救うのは俺の役目だ」


「ち、違う……。そんなこと、無い……」


 首をゆっくりと横に振り、泣きそうな顔で呟くパッフェル。俺の腕を握る手は、とても弱々しいものだった。


 俺はパッフェルに微笑みかける。そして、その茶色い髪に手を載せ、優しく頭を撫でる。


「俺はお前の兄だ。そして、『勇者アレックス』の弟――『勇者の影』だからな。弱き者を救う事こそ、俺の生き方なのだ」


「馬鹿……。ソリッドは本当に馬鹿なんだから……!」


 涙を浮かべて怒るパッフェル。しかし、その目には覚悟が宿っていた。やはり今回も、俺と共に戦ってくれるらしい。


 そして、俺は吹雪姫に視線を向ける。ただ、何故か彼女の姿がテーブルから消えていた。


「――この御恩は一生忘れません。我が父を討って頂いた暁には、私の全てを差し出しましょう。どうか、我々『鬼龍院』家をお助け下さい!」


 声の元を辿ると、床の上に吹雪姫を見つける。何故か彼女は床に伏せて、額を地面に擦り付けていた。


 何故、そんな事をしているかは理解出来ない。ただ、一国の姫にそんなポーズを取らせるのは、非常に不味い気がしている。


 俺は慌てて彼女に駆け寄り、腕を引いて立ち上げさせた。


「と、取り合えず立って貰えるか? 『鬼龍院』を助ける件は了承した。それよりも、これからどうするかを話し合おう」


「はい、承知致しました。吹雪はソリッド様のご意思に従います」


 俺が了承したからか、吹雪姫は嬉しそうに笑みを浮かべる。桜色に染まった頬には、少しドキリとさせられた。


 そして、何故だかパッフェルが盛大に溜息を吐いていた。何やら頭を抱えているが、何に頭を痛めているのだろうか?


「……よくわからんが、一先ずの方針は決定したな」


 吹雪姫の父親である『憤怒の厄災』。それを討つと同時に、『厄災』の源を断つらしい。


 詳しくはわからないが、パッフェルが居るなら大丈夫。俺とパッフェルの二人は、これまでに多くの困難を乗り越えて来たのだから。

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