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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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吹雪姫の嘆願

 海に漂っていた女性――吹雪は、自らを鬼人国の姫だと言う。


 俺とパッフェルの二人は、そんな吹雪姫の話に耳を傾け続けていた。


「――時にパッフェル様。ゴブリンと言う種族はご存じでしょうか?」


「ゴブリン? 聞いた事が無いわね……」


 パッフェルが俺に視線を向ける。俺も聞き覚えが無く、静かに首を横に振った。


 すると、吹雪姫は満足そうに頷く。そして、誇らしげに胸を張って話を続けた。


「千年前には数多く存在し、五百年前には滅びた種族です。魔族の中で最も弱く、最も虐げられていた種族の名がゴブリンと言います」


「五百年前に滅びた? それは弱かったから? それとも、五百年前の厄災によって?」


 突然の話題転換にパッフェルが戸惑っている。訝し気に眉を顰め、吹雪姫へと問いかけた。


 しかし、吹雪姫はゆっくりと首を振る。そして、穏やかな笑みと共にこう告げた。


「偉大な王の存在により、ゴブリン達は進化したのです。千年前より多くのゴブリンが、上位種のホブゴブリンに。そして、五百年後にはその全てが――鬼人族へと生まれ変わりました」


「――種の進化……」


 パッフェルが目を見開いている。それ程までに驚きの事実を、吹雪姫は口にしたのだろう。


 しかし、俺にはその意味が理解出来ていない。なのでただ、二人のやり取りを静かに見守る。


「最も弱かった種は、今や最も強き種へと生まれ変わりました。それまでは力は竜人族、知力と魔力は悪魔族。それが魔族の頂点とされていたのです。――しかし、今や鬼人族こそが、最も神に近き種と言われております」


「……聞いた事があるわ。鬼人族の一部に、『神眼』持ちが生まれるのよね?」


 パッフェルの言葉に吹雪姫が頷く。そして、互いに笑みを浮かべているのに、二人の間には妙な緊張感が漂っている。


 俺は完全に蚊帳の外だった。俺は『神眼』どころか、鬼人族がどういう種かも理解していないからだ。


 すると、吹雪姫が俺に視線を向ける。穏やかな笑みを浮かべると、俺に対して説明してくれた。


「『神眼』とは黒き神より授かった瞳。全てを見通す『鑑定』が可能な力となります。かつてゴブリン王と呼ばれた者の血族にのみ、受け継がれる特殊な能力で御座います」


「全てを見通す? 白神教の神官が行う『鑑定』の、上位版と思えば良いのか?」


 白神教の神官は、一定以上の修練を積むと『鑑定』スキルを覚える。それによって、相手の素性や犯罪歴等の、簡単な情報が見れるそうなのだ。


 ただし、『加護ギフト』等の特別な能力や、詳細な情報までは確認出来ない。それを行うには、『鑑定の水晶』が必要になって来る。


「その通りで御座います。正しく言うならば『鑑定の水晶』よりも上。『神眼』の能力であれば、相手の知りたい情報の全てを得る事が可能となります」


 それは凄まじいな。『鑑定の水晶』も全てがわかる訳では無い。そのせいでパッフェルも、『加護ギフト』の正しい効果がわからなかったしな。


 ただ、そうなると気になる事がある。もしかすると、俺の知りたい真実が、彼女にはわかるのではないだろうか?


「……その『神眼』を使えば、俺の『生まれ』もわかるのか?」


「――っ……?!」


 俺の問い掛けに、パッフェルが激しく動揺する。何故か顔が蒼白になっていた。


 何かを恐れるパッフェルの態度に、俺は何となく不安を覚える。しかし、その空気を壊す様に、吹雪姫がのんびりと答えた。


「申し訳御座いません。ソリッド様の生まれを知る事は出来ません」


「む? そうなのか?」


 全てを見通すと言うが、それは無理だったか。流石に全てと言うのは誇張だったのだろう。


 チラリと見ると、パッフェルの安堵する様子が見えた。しかし、その態度を問い詰める前に、吹雪姫が言葉の続きを口にする。


「正しく言えば、ソリッド様には『神眼』が通じません。『神眼』でも何も見えないのです」


「「――はっ……?」」


 何やら思っていたのと、まったく違う答えが返って来た。パッフェルですらポカンと口を開いている。


 そんな俺達を見て、吹雪姫はくすりと笑う。そして、赤い瞳を真っ直ぐ俺に向け、探る様に俺へと問いかけて来た。


「この力は黒き神より授かった力で御座います。それを防ぐという事は、ソリッド様もお持ちなのではないでしょうか? 我らが神より授かりし、何らかの力を……」


「黒き神より授かりし力……?」


 そんなものには心当たりがない。何を言っているのか、俺にはまったく理解出来なかった。


 だが、パッフェルが隣で滝の様な汗を流している。この反応はもしかして、何かを知っているんじゃなかろうか……?


 俺はパッフェルをジッと見つめるが、彼女はプイっと視線を逸らす。どうも何かを知っているが、話すつもりは無いみたいだった。


 そんな態度に俺は息を吐く。そして、聞き出すのを諦めた所で、吹雪姫がコロコロと笑い出した。


「お二人は本当に仲が宜しいのですね。やはり、お二人を訪ねて正解だった様です」


「――ちょっと待った。私達を訪ねて来た? それって、どういう意味?」


 パッフェルが慌てて問い掛ける。俺の追及を避ける意味もあるだろうが、それを口にする空気でも無いか……。


 それに、吹雪姫の発言が気になるのも確かだ。彼女と俺達の出会いは、偶然では無いと言うのだろうか?


 俺とパッフェルが吹雪姫を注視する。すると、吹雪姫は楽しそうに微笑みながら告げた。


「お二人のお噂は、配下よりかねがね伺っておりました。そして、この国の危機に駆け付けたと、緊急の知らせがつい先日……。これは運命と思い、私は配下と共に海へと飛び出したのです。――ただ、タイミング悪く戦闘が始まり、津波に飲み込まれる羽目に……」


「うぐっ……。津波の件は運が悪かったと思って……」


 確かにそれは運が悪いとしか言えない。パッフェルとしても意図してやった訳では無いしな。


 ただ、それでも悪いと思ってしまう。それが心優しいパッフェルと言う人物なのだ。


「ふふ、わかっております。確かにタイミングが悪かった――いえ、むしろ良かった? 目的であるソリッド様と、早々に接触出来たのですから」


「ふむ? それで俺と接触した目的とは?」


 楽しそうにコロコロと笑う吹雪姫。出会ってからずっと、彼女は実に楽しそうである。


 ただ、俺が目的を問うと初めて笑みが消えた。彼女は表情を消すと、目を伏せながら囁いた。


「この様な事を願うのは、実に心苦しいのですが……。頼れるのはソリッド様だけなのです……」


 それは苦悩なのだろうか? その瞳からは苦しそうにも、悩んでいる様にも見える。


 吹雪姫はグッと唇を噛む。しかし、すぐに顔を上げて、決意を込めて口を開いた。


「どうか……。どうかお願いします。我が父、『鬼龍院 源蔵』を――討って下さい!」


「「――なっ……?!」」


 吹雪姫の口にした想定外の願い。それは自らの父を殺して欲しいと言うもの。


 俺もパッフェルも戸惑い、互いにどうしたものかと見つめ合うのだった。

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