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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第七章 怒れる鬼人と影の勇者
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鬼人族の美女

 ライザさんの迎えにより、俺達は港へと移動した。ここでパッフェルと待ち合わせとなっている。


 それ自体は特に問題無い。魔導車の送迎も有り、実にスムーズに移動する事が出来た。


「ソリッドさん、ここが人間の街なんですね!」


「……ああ、そうだな」


 俺の右手を、人魚のメロディーが握っている。足は『人化の魔法』でサンダルを履いた、人間の足になっていた。


 彼女はニコニコと笑みを浮かべ、俺のことを見上げている。とても楽しそうで、離してくれと言える雰囲気ではない。


「はぁ、幸せです……。ソリッド様ぁ……」


「うむ……。それは、何よりだ……」


 俺の左手を、鬼人族の美女が握っている。年齢は恐らく俺と同じ二十歳程。額には一本の白い角が生えている。


 濡れた服はライザさんにより、着替えさせて貰っている。今は白いヒラヒラのドレスを身に纏っていた。



 ――どうしてこうなった?



 俺は振り返って、背後のライザさんを見る。彼女は何故か、青い顔で俯いている。


 俺の事を助けてくれる雰囲気ではない。というか、彼女自身が助けが必要そうな状態に見える。


「ひとまずは、パッフェルと合流するか……」


 メロディーはまだ良い。見た目は人間の少女で、俺と並んでも妹と思って貰えるだろう。


 だが、鬼人族の美女が不味い。彼女は人目を引く程の美女。周囲からの注目を集めまくっている。


 しかも、彼女は腰まで届く程の長髪。その色は俺と同じ黒色なのだ。俺と並んでいると、周囲は俺達を同じ魔族として考えるだろう。


 サファイア共和国は人族の領域で、最も魔族への偏見が強い国だ。変な輩に絡まれなければ良いのだが……。


「あ、ソリッドさん! 姐さんが居ますよ!」


「ああ、そうだな。あちらも気付いた様だな」


 メロディーの声で、俺は思考から引き戻される。そして、遠くに立つパッフェルの姿を確認した。


 遠目でも分かるが、彼女は大きく目を見開いている。それから、すぐに右手でこめかみを押さえ出した。


「あちらの方が、ソリッド様の妹君でしょうか? 随分とお可愛いのですね♪」


「うむ、自慢の妹だ。仲良くしてくれると助かる」


 どうやらパッフェルに対しては好感触みたいだな。


 まあ、彼女は多くの人に愛されている。元より俺と違って、一目で恐れられる事は無いのだが。


 隣でメロディーがブンブン手を振ると、あちらも軽く手を振り返す。


 そして、ゆっくりだが向こうからも、こちらへと歩み寄って来た。


「……で、これはどういう状況?」


「……俺も困っている所ではある」


 俺とパッフェルの視線は、鬼人族の美女へと向けられる。彼女はのほほんとした表情で、パッフェルへと微笑み返していた。


 だが、ハッと思い付いた様に手を放す。そして、深々とお辞儀をしながら、パッフェルへと挨拶を始める。


「お初にお目にかかります。私の名は吹雪と申します。この度はお兄様により、命を救われた者で御座います」


「いや、実際に命を救ったのはメロディーだがな……」


 海で浮かぶ彼女を引き上げたのも、人工呼吸で蘇生させたのもメロディーだ。


 俺はメロディーの手慣れた救助を、ただ眺めていたにすぎない。


 しかし、彼女――吹雪は首を振る。俺へと視線を移すと、蕩ける笑みで俺へと告げた。


「メロディー様へ助命を願われのはソリッド様。なれば、私の命の恩人は、ソリッド様で相違ございません。当然ながら、メロディー様へも感謝しておりますが」


「えへへ、良いってことよ! 私もソリッドさん、パッフェルさんに救われた身だしね!」


 何故だか意気投合している二人。メロディーが手を掲げると、吹雪も応じてハイタッチをし出した。


 その様子にパッフェルも、頭が痛そうに額に手を当てている。彼女は混乱を抑える様に、ゆっくりと俺達へと問いかけて来た。


「命の恩人はわかったけど、手を繋いでいる理由は? というか、貴女は何者なの?」


 パッフェルの問い掛けに、吹雪は穏やかな笑みを浮かべる。そして、頬に手を当てて、ほうっと息を吐きながら告げた。


「私が何者かは、折りを見てお話致しましょう。今ここで、話せる事では御座いません故に……」


 少し前に俺が聞いた時と、同じ回答を吹雪は返す。話す気が無い訳では無いのだが、今は話せないと言うのである。


 そして、彼女は俺へと視線を移すと、桜色に頬を染めながら囁いた。


「手を繋いでいるのは……。お察し頂けると嬉しいのですが……」


「え? うそ、でしょ……。やっぱり、そう言うことなの……?」


 パッフェルは愕然とした表情で吹雪を見つめる。そして、何かに気付いた様子で、頭を抱え始めた。


 だが、俺はパッフェルの態度に首を傾げる。何をそんなに、ショックを受ける必要があるのだろうか?


 吹雪は一人ぼっちで、手助けが必要な状況だ。今は一人でとても心細い状況である。


 そんな時に、俺が力になると告げたのだ。彼女が手を握るのは、その不安を紛らわせる為。


 それ以外の理由なんて、何も無いだろうに……。


 まあ、そんな事は重要ではない。それよりも、この後について、話をするするべきだろう。


「それで問題は片付いたで良いのだな? この後はどうする予定なのだ?」


「う~ん、それなんだけどね……。ちょっと、お母さんの件もあってさ……」


 母さんの件とは何の事だろうか? パッフェルが言葉を濁すのは、ここでは話せないという意味だろうか?


 状況が読めない俺は、ひとまずパッフェルの様子を見る。すると、彼女は探る様な視線を吹雪へと向ける。


「吹雪さん、どうしたい? 何か要望はある?」


「うふふっ、それではご要望が一つ御座います」


 俺は二人のやり取りに違和感を感じる。これは互いに腹の探り合いを行う時の空気だ。


 出会ったばかりの二人が、どうして腹の探り合いをしている? 互いに相手の何を察している?


 俺が状況を見守っていると、吹雪はおっとりした口調でこう告げた。


「三人だけで静かに話せる場を、ご用意頂けないでしょうか?」


「オッケー。じゃあ、私が経営してる支店まで行きましょうか」


 パッフェル商会はこの国にも支店があるのか。随分と手を広げているんだな。


 いや、そんな事はどうでも良いか。今のパッフェルの反応、恐らく吹雪の言葉を予想していた。


 やはり、二人は互いに何かを知っているみたいだな。


「それじゃあ、店はこの近くだから。歩いて向かいましょうか。――あっ、ライザさん達は先に戻って貰える?」


「……承知しました。お話が終わりましたら、ご連絡をお願い致します」


 パッフェルの言葉に、ライザさんは何かを飲み込む。言いたい事はあるが、言えない事情があるのだろう。


 背後に大統領とその娘もいるが、二人は口を噤んでいる。何となくだが、事情を察している雰囲気を感じる。


 そして、俺は状況がわからず一人――いや、メロディーと共に置いてけぼりとなっていた。


「今はパッフェルに任せる他ないか……」


「姐さんなら大丈夫じゃないですか?」


 俺の不安を他所に、呑気な口調のメロディー。ニコニコと俺へと笑みを向けていた。


 ただ、それがパッフェルへの信頼だと気付き、俺は自分の考えを改めた。


「うむ、そうだな。パッフェルならば問題ないか」


「何なら姐さんは、海賊船長だってやれますよ!」


 海賊云々は良くわからないが、人魚族なりの誉め言葉なのだろう。


 俺はそう納得すると、メロディーと手を繋ぎながら、パッフェル達の後を付いて行く事にした。

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