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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第一章 根暗アサシンと駆け出し冒険者
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検定試験

 ミーティアとクーレッジと出会い五日が経った。そして、俺はミーティアに、パッフェルはクーリッジへと指導を続けていた。


 その結果、ミーティアは九個のスキルを習得し、クーリッジも六個の魔法を習得した。ミーティアは更なる指導を望んだが、そろそろ一区切り付ける頃だろう。俺は二人に対して、ギルドで検定試験を受ける様に促したのだった。


 ただ、不安そうなミーティアの様子に気付き、盗賊ギルドへは俺が付き添う事になった。それと同時に、流れでパッフェルは魔術師ギルドに。クーリッジが異常に興奮していたのには、パッフェルも若干引き気味だった。


 まあ、そういう訳で、今の俺は盗賊ギルドの待合室で一人静かに待っていた。午前中は盗賊ギルドの加盟者の姿も多かったが、夕方近いこの時間では、彼らの姿も見られなくなった。


 知らない人達に囲まれるよりは、一人の方がとても落ち着く。そう安堵していた俺に、何者かの近づく気配が感じられた。


「よう、兄さん! ミーティアちゃんの付き添いだよね?」


「ああ、そうだ。検定試験の終わりを待たせて貰っている」


 馴れ馴れしい口調で近づいて来たのは、三十歳程の男性である。胸元には職員の証明書が見える為、盗賊ギルドの職員で間違いないだろう。


 軽薄な雰囲気の男は、俺の隣に並んで座る。そして、ポンポンと肩を叩きながら、馴れ馴れしい口調で話し続けて来た。


「兄さんが指導したんだって? もうすぐ全ての試験が終わるけど、全て合格になりそうだな。あの子も優秀だけど、指導した兄さんも中々なもんだね!」


「……そうか。ミーティアは無事に合格出来そうなのか」


 この馴れ馴れしい感じには慣れないが、職員からの話で俺の気持ちが上向く。ミーティアなら問題無いと思っていたが、万が一があってはという不安もあったからだ。


 期間限定とは言え、俺は師匠という立場である。その役目を果たせた事を喜んでいると、余韻も許されず、職員は俺へと話し続けて来た。


「戦闘、索敵、罠関連に採取。盗賊に求められる基本は、一通り揃っている。盗賊になって十日経たずにだぜ? ここまで優秀な子って、中々に居ないと思うんだよね」


「ほう、そうなのか?」


 ミーティアに求められたのもあるが、俺の判断で必要と思うスキルを教えて来た。とはいえ、俺は本家の盗賊ではないので、あくまでも基本的なスキルしか教えられなかったのだが。


 しかし、職員の評価は俺が思う以上に高いらしい。その事を驚いていると、職員は楽し気にニヤニヤ笑いを浮かべる。


「そりゃそうだろ。盗賊になる奴なんて、大抵が捻くれ者だ。職員が勧めようとも、戦闘に特化したり、悪さする為のスキルだけ覚えたり。まあ、そんな感じで満足して、それ以上の勉強なんて嫌がる奴ばかりなのさ」


「ああ、なるほど。ミーティアは良い意味で、盗賊らしくないからな」


 盗賊に陽気な者は多いが、素直な者は少ない。そんな中で、何でも覚えたがる素直な彼女は、希少な存在だと言えるのだろう。


 職員の言葉に俺は納得し、内心でウンウンと頷く。そんな俺に対し、職員はずいっと顔を近づけて問い掛けて来た。


「正直、あの子のポテンシャルなら、どのパーティーでも引く手数多だ。兄さんはあの子をどうする気だい? そのまま囲って、食っちまう気なのかい?」


「いや、食うって……」


 どうもこの職員は、俺がミーティアを指導しているのが、下心あっての事と思っているらしい。もしかしたら、過去にそういう不埒者が居たのかもしれないが……。


 俺は小さく息を吐き、ゆるゆると首を振る。そして、ニヤニヤ笑いの職員に対し、真っ直ぐな視線を向ける。


「俺は期間限定の師匠だ。危なっかしい彼女に、少しばかり手を貸しているに過ぎない。いずれ俺はこの王都を出るし、彼女とも別れる事になる」


「ふむ、つまり兄さんは、あの子とパーティーは組まないってんだな?」


 職員の問いかけに、俺はハッキリと頷いて見せる。そもそも、俺は勇者パーティー『ホープレイ』に所属している。他のパーティーを作る事も、入る事も出来ないのだ。


 というのも、原則としてパーティーの掛け持ちは出来ない。他のパーティーに所属するには、一旦今のパーティーを抜けるか、解散する必要があるのだ。


 通常の冒険者なら、パーティーは依頼の都度作る事がある。依頼が終われば解散し、また次の依頼ではメンバーが集まってパーティーを組むのだ。


 しかし、俺の場合は『ホープレイ』の脱退が認められなかった。アレックスの宣言のせいで、『ホープレイ』解散も出来ない。それ故に、俺は他のパーティーに所属出来ない状況にあった。


 職員は天井を見上げて、考える仕草を見せている。そして、チラッと俺に視線を向け、その目を細めながら告げた。


「……なら、あの子は別にパーティーを組むんだな? 兄さん以外の人達とって意味だが」


「そうなるな。後は幼馴染の魔術師が一人いる。彼女とは常に行動を共にするだろうがな」


 俺の返答で職員は再び黙考する。何やら頭の中では、色々と計算をしてそうな顔だ。


 俺が黙って待っていると、再び職員の視線が俺に向く。そして、真剣な視線で俺に対して忠告を行って来た。


「あの子に兄さんから、傭兵ギルドを勧める真似はしないで欲しい。今の傭兵ギルドは、終戦後ってのもあって、かなりゴタついててな……」


「ああ、戦場帰りの者達が多いからか。確かに傭兵ギルドはピリピリしていそうだな」


 魔王軍との戦場では、傭兵ギルドの所属者と肩を並べる機会が多くあった。金で雇われて戦場を渡り歩く彼らは、戦争で最も重宝される存在であるからだ。


 また、そんな職業に就く者達には、性格破綻者が非常に多い。そして、平和な環境に馴染めない彼等でも、仕事が終われば一時的な休息は取る。今のこの王都にも、多くの荒くれ者達が流れてきているのだ。


 確かに今の傭兵ギルドには、極力近寄りたいな。俺なんかが近寄れば、魔族呼ばわりされて、絡まれる可能性が非常に高い……。


「……まあ、俺から勧める事はない。そもそも、彼女に傭兵が向いているとも思わないしな」


「そっかそっか、それなら良いんだ。それじゃあ、残りの期間も、あの子の事を宜しくな!」


 職員はどことなくホッとした様子で席を立つ。そして、ヒラヒラと手を振りながら、俺の元から去って行った。


 何やら用事が済んだ感を出しているが、彼の目的は何だったのだろうか? 俺はいまいち理解出来ず、一人でモヤモヤした気持ちを抱える。


 しかし、再び誰かの近寄る気配が感じられた。そちらに視線を向けると、満面の笑みを浮かべたミーティアが、こちらへと駆け寄って来る所であった。


「師匠、全て合格です! ギルドカードも更新済みですよ!」


「ああ、おめでとう。ミーティアなら問題無いと思っていた」


 ミーティアは俺に対して、ギルドカードを掲げて見せる。更新済みだとアピールしたいのだろう。


 しかし、ギルドカード自体には、氏名と職業しか記載が無い。俺達は魔導デバイスを持たないので、その中の情報までは確認しようがなかった。


 俺は苦笑を浮かべ、ミーティアの頭に手を載せる。迷彩バンダナの上から頭を撫で、彼女に対して微笑んで告げる。


「だが、良くやった。これで一人前の盗賊に一歩前進だな」


「はい! 立派な盗賊に成れる様、まだまだ頑張ります!」


 俺は場違いと理解しながら、『立派な盗賊』と言う言葉にモヤっとする。勿論、彼女の言いたい事はわかるので、敢えてそれを口にしたりはしないが……。


 そして、俺はミーティアと二人で盗賊ギルドを後にする。魔術師ギルドで待つ、パッフェルおよびクーレッジと合流する為である。


「……ミーティア。何か食べたい物はあるか? 合格祝いとして、今夜は俺が奢ろう」


「え、えぇっ?! 良いんですか、師匠! それじゃ、えっと……。何が良いかな……」


 夕焼けに色付く街を並び、真剣な彼女の横顔を盗み見る。感情豊かで人懐っこい。そんな人から好かれる彼女の性格を、少しばかり羨ましいなと俺は感じていた。


 とはいえ、無い物ねだりをしても仕方が無い。俺は俺で変われないし、今更変わろうとも思っていない。彼女の様な存在と、楽しい時間を過ごせるだけで十分に幸せだと思い直した。


「あ、それじゃあステーキ! ドラゴン亭のステーキが良いです!」


「うむ、わかった。十枚でも二十枚でも、好きなだけ食べると良い」


 ドラゴン亭は、庶民では中々食べられない高級店である。とはいえ、何かのお祝いの時には、庶民でも奮発して利用する位の価格帯でもある。


 C級以上の中級冒険者になれば、彼女も気兼ねなく利用出来るだろう。しかし、今のE級では滅多に口に出来ないのが、ドラゴン亭のステーキという代物なのだ。


 気前よく応じた俺に、ミーティアは目を丸くしていた。『そんなに食べられませんよ!』と叫ぶ彼女を、俺は眩しく感じながら隣を歩き続けた。

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