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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第六章 サファイア共和国と天才魔導士
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究極奥義

 私は相棒の杖、世界樹の杖を手に前へ出る。そして、背後のネーレへと声を掛ける。


「私が魔法を完成させるまで時間を稼いで! あいつがビビッて逃げ出す、デカい奴をお見舞いするから!」


「わ、わかりました、師匠!」


 私の声にネーレが応える。若干声が震えているが、萎縮した感じは無い。この調子なら任せても大丈夫だろう。


 守りはネーレに託す。そう決めた私は、大海獣クラーケンを正面に捉え、究極奥義の発動を開始する。


「私の大精霊達。制御は私が行うから、その力を全て出しきって」


『『『『――ルオォォォ……!!!』』』』


 私の呼び掛けに応じ、四大精霊が力を解放する。そして、その力を私に対して預けて来た。


 本来の精霊魔法は、精霊が力の制御も全て行う。それが最も効率良く、最大威力で魔法を行使出来るからだ。


 しかし、今回はそう出来ない理由がある。それは私の考える究極奥義が、四大精霊の力を同時に放つ物だからである。


 勿論、大精霊達に任せて、バラバラに放って貰う事なら出来る。四大精霊が好き勝手に、敵に向かって魔法を放つのである。


 けれど、それをすれば必ず対消滅が起きる。火と水、水と土の様にぶつかり合うと、弱い方の属性が打ち消されてしまうのだ。


 では、四属性を同時に使わないという手はどうか? もしかすると、それでも領域守護者は引いてくれるかもしれない。


 しかし、上手く凌がれる可能性もある。水中に身を潜めて、水障壁ウォーターバリアで守りを固める。それでやり過ごされる可能性が残る……。




 ――それは非常に不味いのだ




 恐らくは長期戦となってしまう。そして、思わぬ被害を招く可能性が増えてしまう。


 相手も中距離戦、近距離戦と、色々な手を試してくるだろう。下手をしたら街を狙ったり、私達を避けてメロディーの方に向かうかもしれない。


 そうなると、私とネーレは後手に回ってしまう。この国を守れる可能性がグッと下がってしまうのだ。


 だからこそ、最大威力での短期決戦が望ましい。私の考える究極奥義が必要となるのである。


「師匠、来ます!」


「そっちは任せた!」


 大海獣クラーケンが魔法の準備に入った。奴の周りに海水が渦巻き、巨大な津波となって街へと解き放ったのだ。


 到着まではおよそ一分。そのまま放って置けば、この港町は津波に飲み込まれて壊滅してしまうだろう。


 けれど、その為の対策は抜かりない。その為にネーレへと、精霊魔法を伝授したのだから。


「お願い、ラ・メール! この街を守って!」


『――ルォォォ……!』


 ネーレの願いに応え、ラ・メールが力を解き放つ。大海獣クラーケンが使う魔法とは違い、こちらは腕を振るうかの様に当たり前の行為として。


 そして、大津波タイダルウェーブの影響範囲となる全領域の海岸に、水の壁が生み出された。その壁は大津波を平然と受け止め、全てを飲み込むと海の中へと消えて行った。


 なお、水の魔術に水障壁ウォーターバリアという物がある。これは自身の身を覆う程の壁であり、下位の精霊が生み出せるサイズでしかない。


 しかし、ラ・メールは大精霊である。その力は水障壁ウォーターバリアとは比較にならず、平然と街一つを覆い尽くす程のサイズであった。


 わかってはいたが、流石の防御力である。私は守りは問題無いと判断し、自らの制御に集中する。


「中々に、難しいわね……」


 今の私が行っているのは、火・水・土・風の力を一つに纏める制御。対消滅が起きない様に、上手く練り合わせる作業である。


 普通ならば不可能だと思われる行為だ。世界一の魔術師であっても、そんな制御は出来ないと言うだろう。




 ――けれど、こちとら天才魔導士。全魔法使いを導く者である。




 大精霊達と共に過ごし、共に成長して来たのだ。他の誰よりも精霊の力に精通している。


 精霊の力とは世界の力。世界を構成し、世界を動かす力となるものなのだ。


 そして、この世界を見ればわかる。精霊の力は上手く調和し、共存しながら働いている。


「だから、出来る……。私は世界の力を制御出来る……」


 私の大精霊達は、私を信じて力を預けてくれている。私はその預けられた力を、私のイメージする形に変えてやればよい。


 そして、私は既に魔法の真理に到達している。魔法を使うという事は、世界を動かすと言う事なのだ。


「パ、パッフェル様……! 領域守護者が向かっています……!」


「師匠の邪魔はさせない! 私とラ・メールが何とかします!」


 大津波タイダルウェーブでは効果が無いと判断したらしい。距離を詰めて、接近戦を挑むつもりみたいだ。


 けれど、ネーレがラ・メールへと指示を出す。今度はこちらが大津波タイダルウェーブを起こして、大海獣クラーケンを押し流していた。


「ふんっ、やるじゃん……」


 精霊魔法を覚えたてのひよっこが頑張っているのだ。私がやらなくてどうすると言うのだ。


 私は脳裏でイメージを練り上げていく。私のイメージする完璧なる調和。四大精霊が共存可能な魔法のイメージ……。




 ――それは、この世界そのもの……。




 私はこの美しく調和した世界を脳内で構築する。集まった力を世界の形に練り上げていく。


 そして、黄金の如くキラキラと輝く力が手中に生まれた。私はその美しく、小さな世界に魅了される。


「ああ、世界はかくも美しいのか……」


 これはまだ、世界の始まりに過ぎない。形も方向性も固まっていない、世界の種でしかないのだ。


 そんな力を使う事に、私は少しばかり勿体ないと感じる。これ程の素晴らしい力を、敵を追い払うために使わないといけないなんて……。


「けれど、その為に私はここに居る……」


 そう、私はこの国を救うために呼ばれた。そして、ひいてはソリッドと平和に過ごす未来の為に……。


 だから不本意ではあるが、この力を行使しよう。敵を打ち払うと言う、美しくない暴力の為に……。


「ごめんね。貴方を美しい世界にしてあげられなくて……。――究極奥義『世界崩壊ワールド・エンド』」


 私は世界の種を空へと放つ。そして、破壊と言う方向性を、その種に付与する。


 それであの種は、世界に穴を空ける程の力となる。領域守護者と言えども、只では済まない攻撃魔法へと……。




 ――ゾク……。




「え、今の悪寒は何……?」


 何故だかとても嫌な予感がした。言い知れぬ不安が、私の全身を包み込む。


 それと同時にふと気付く。私の体が黄金色に輝いている。――いや、私の大精霊達が送る力が、黄金色に輝いているのだ。


「これは……。何が起きているの……?」


 私の大精霊達が黄金色に輝いている。こんな事象はこれまで見た事がない。


 そして、これまで感じた事が無い、膨大な力が流れ続けている。これまで想定したことも無い、有り得ない程の魔力が集いつつあった。


「――っ……?!」


 私は自ら生み出した魔法。究極奥義『世界崩壊ワールド・エンド』の行方を捜す。


 それは空高く浮かび上がり、真っ黒な球体へと変化していた。


 その黒球は黄金の魔力を吸い続ける。黄金色の輝きを纏いながら肥大化して行く。


「ちょっと、待って……。それ以上は、絶対にダメッ……!」


 私が制止した事で、大精霊達による供給が止まる。黄金の魔力はそれ以上流れ込む事が無くなった。


 しかし、私は上空の黒球に目を見開く。その黒球は生きているかの如く、ドクンと大きく鼓動し始めていた……。

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