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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第六章 サファイア共和国と天才魔導士
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水の大精霊ラ・メール

 ネーレの修行を始めて三日目。今日も私は彼女と共に、訓練場へと集まっていた。


 昨日もずっと付き合っていたが、ネーレの修行は順調である。大精霊との簡単なコミュニケーションが取れるまでになった。


 まあ、言葉を話せる訳では無いので、光の輝き具合で、喜怒哀楽を感じられる程度のものではあるが……。


 とはいえ、ここまで絆が結べていれば問題無い。今日は予定通り本契約まで進めるだろう。


「ふふふっ、実に楽しみですね」


「ええ、そうですね」


 そして、諸々の手続きを終わらせ、今日はライザさんも参加している。かなり無理したらしく、今日の彼女は目の下隈が出来ている。


 というのも、彼女は魔法オタクらしく、精霊魔法の知識を貪欲に求めているからだ。自分が使えなくても、知る事自体に意味があるのだとか……。


「さて、ネーレ。その子の名前は決まったかしら?」


「はい、師匠! しっかりと考えて来ました!」


 ネーレはペンダントを握り締める。その手の隙間からは、眩いばかりの光が溢れていた。


 彼女の大精霊も、名付けが待ち遠しいみたいだ。期待感がそのまま光として表れている。


「なら、問題無いわ。さあ、その子に名前を伝えてあげて!」


「はい、わかりました!」


 ネーレはペンダントを両手で掲げる。天に向かって、真っ直ぐに手を伸ばす。


 そして、青く、眩く輝くペンダントに向けて、彼女は自らの想いを真っ直ぐに語った。


「貴女は私のパートナー! 私の願いを叶える存在! だから、誰よりも深い愛で、この国を守る存在であって欲しい!」


 ネーレの願いに応える様に、ペンダントが激しく点滅する。


「海に覆われたこの国において、貴女は恵みを齎す存在! 全ての人々を見守る、母なる海の様な存在であって欲しい!」


 それは彼女自身の望み。彼女自身が成りたかった姿。その望みを大精霊へと託すのだろう。


「だから……。――貴女の名前は『ラ・メール』! 母なる海という意味よ!」


『――ゥヲォォォ……!』


 ネーレの想いに応え、大精霊が姿を現す。大気中より水分が集まり、願いに応じた姿へと変わる。


「これが、私の大精霊……。ラ・メールの姿……?」


 その姿は人型へと変わり行く。ネーレより頭一つ分高い、大人の女性の姿であった。


 穏やかに微笑む母性を感じる顔立ち。それと同時に、どこかネーレに似た雰囲気の……。


「あの姿はまさか……。我が師、マリリン様……?」


 すぐ傍でライザさんが呟いていた。大精霊の姿を見て、その瞳には微かな涙が浮かんでいる。


 そして、ネーレ自身もその姿を呆然と見上げる。彼女の瞳からは、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。


「そんな……。どうして、お母さんの姿なの……?」


『――ルォォォ……♪』


 ネーレの大精霊――ラ・メールはスッと前に出る。そして、ネーレを優しく抱きしめた。


 愛する我が子へ想いを伝える様に。愛おしそうに、優しくその頭を撫でていた。私は戸惑うネーレに声を掛ける。


「……それがネーレの望みだからよ。貴女がそうあって欲しいと、心の奥底で望んだんでしょ?」


「これが……。私の、望み……?」


 どうやら、ネーレには自覚が無いらしい。どうして、ラ・メールがこの姿となったのか。


 きっと、彼女自身もわかってなかったのだ。自分が望む理想の姿について。


「ネーレはお母さんに……。――ううん、お母さんの代わりに、この国の救世主になりたかったんでしょ?」


「――あっ……。そう、なんだ……。私は、お母さんみたいに、なりたかったんだ……」


 ネーレは呆然と呟く。自分の本心に初めて気付いたみたいだった。


 彼女はポロポロと涙を零しながら、嬉しそうに微笑んだ。ラ・メールを見つめて、嬉しそうに言葉をかける。


「お母さん、私達を守ってくれてありがとう……。今度は私が、この国を守ってみせるから……」


「――キュオォォォ……!」


 ネーレの宣言に対し、ラ・メールは不満げに声を上げる。そして、抗議する様に抱擁する腕に力を込めた。


 初めは驚きに目を見開くネーレ。しかし、その想いが伝わったのか、すぐに苦笑を浮かべた。


「うん、そうだね。私が、じゃなかった。――私達が、だね?」


「――キュオォォォ……♪」


 今度はラ・メールも嬉しそうな声を上げる。喜びが溢れて、ネーレへと頬ずりまで始め出した。


 その光景に私は安堵の息を漏らす。これでどうやら、私の計画は問題無く進める事が出来るだろう。


 ラ・メールはきっと守りに強い力を発揮する。私との連携も、問題無くやれそうである。



 ――そう考える私に、ライザさんがポソッと囁いた。



「あれ? どうして、パッフェル様まで泣いて……」


「ば、バッカじゃないの……?! 私が泣く訳ないでしょ! ただ、埃が目に入っただけよ!」


 私は慌てて目元を拭う。咄嗟に出た言い訳に、自分でも苦しいと理解しつつ……。


 幸いな事に、ライザさんはそれ以上何も言う事が無かった。その辺りは出来た大人の対応と言える。


「ああ、もう……。本当に最悪……」


 私の目標はただ一つ。ソリッドと私の二人が、安心して暮らせる環境を得る事である。


 私はその為に私情を捨て、計算で行動して来た。余計な重荷は切り捨てて来たのだ。


 ソリッドと違って、私だけは冷静であり続けないといけないのに……。


「だから他人には、深入りしたくなかったのに……」


 ネーレのこんな姿を見せられて、私の心が重荷に感じる。これを切り捨てるのは、かなりの決意が必要となる。


 今回だけのはずだったのに……。この一件が終われば、他人に戻るはずだったのに……。


「今回の案件は、マジ面倒過ぎる……」


 私は目元を抑えながら、重く重く溜息を吐くのであった……。

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