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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第六章 サファイア共和国と天才魔導士
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人魚族の秘密

 厄介事が増えに増えるが、くよくよしても始まらない。私は気持ちを切り替え、メロディーへと問いかけた。


「貴女、領域守護者に追われてるのよね? なら、その領域に踏み込んだんだって事だよね?」


 メロディーは涙を堪えてコクリと頷く。そして、私が待ちの姿勢である事に気付き、自ら事情を話し始めた。


「実は私、騙されたんです……。あの領域は領域守護者の交代時期だって……。だからしばらくは、入っても安全だよって……」


「――ちょっと待って。領域守護者の交代時期って何なの?」


 誰に騙されたとか、聞きたい事は他にもある。しかし、今の言葉は聞き流せない。


 領域守護者の生態は、誰も詳しく知らない。けれど、メロディーは当然の様に、交代時期という言葉を使った。


 ならば、私達の知らない何かを知っている。もしかすると、それはこの問題の突破口になるかもしれない。


 問われたメロディーは、少し悩んだ表情を見せた。けれど、意を決した様子で語り始めた。


「これは人魚族しか知らない話だと思います。私達は領域守護者のすぐ傍が生活圏なので、長い歴史の中で気付いた事実なんですが……」


「「「…………」」」


 メロディーは勿体ぶる様に言葉を切る。そして、私達はゴクリと喉を鳴らし、彼女の言葉に耳を傾ける。


 すると、彼女は嬉しそうに口元を綻ばせ、その秘密を打ち明けた。


「領域守護者の寿命は百年。領域守護者になって百年経つと、体が崩れ去って海の藻屑と化すのです」


「百年経つと、海の藻屑に……?」


 ライザさんに視線を向けると、目を見開いて驚いている。やはり彼女でも知らない情報みたいだ。


 そして、私達が驚いたのが嬉しかったのだろう。メロディーは明るい顔で更に続ける。


「そして、領域守護者が消えた領域は、一年間程度、領域守護者が不在となります。その間は強い魔獣が集まって来て、誰が次の主になるか競い合います。そして、その地の主を半年間続けた魔獣が、領域守護者に昇格出来るんです」


「そんな、システムになっていたの……?」


 はっきり言って、とんでもない情報である。学会辺りで発表すれば、大陸中が大騒ぎとなるだろう。


 領域内には強い霊脈がある、領域守護者はそれを守る存在と知られている。しかし、その発生プロセスは、これまで誰も知り得なかった。


 それを人魚族は知っていた。そして、この少女は自らの保身の為だろうが、初めて多種族へと話したのだ。


「……領域守護者になれるのは、魔獣だけなのか?」


「「――っ……?!」」


 ソリッドの問い掛けに、私とライザさんが息を飲む。そして、慌ててメロディーへと視線を向けた。


 問われたメロディーは目をキラキラと輝かせる。うっとりした表情を浮かべ、ソリッドへと甘い息を漏らした。


「はぁ、そこに気付くなんて流石ですぅ……。ちなみに、これも本当は秘密なんですよ? ソリッドさんだから、特別に話すんですからね?」


「う、うむ……。それは、何というか……。恐縮だな……」


 媚を売る様な態度に、免疫の無いソリッドがたじろいでいる。何となく逃げたそうな雰囲気すら感じさせている。


 ただ、ここでソリッドに逃げられては困る。私は彼の腕をガッチリ掴み、メロディーの言葉に耳を傾けた。


「実は生き物なら誰でも成れるんです。というよりも、人魚族では領域を一つ確保しています。女王様が領域守護者となり、人魚にとっての楽園を維持してるんです」


「「――なっ、何ですって……?!」」


 私とライザさんの声がハモる。流石にこれは、同時に驚いて当然の事案である。


 領域守護者は人類が手出し出来ない存在。そのはずなのに、その力を手にした存在が居る。


 ハッキリ言って、その情報はヤバすぎる。下手をしたら、その情報を巡って各地で戦争が起きかねないレベルでだ。


 誰にも手を出せない絶大な力が手に入るのなら、人間以外の種族だって黙って見守るなんて事はないはずだから……。


「……人魚の女王はどんなお方なのだ? それ程の力を持ちながら、欲に溺れたりしないのか?」


「あー、それなんですけど……。領域守護者になるって事は、生物を辞めるって事なんですよ。その地を守るって使命以外は何も持たない、精霊みたいな存在になっちゃうんですよね……」


 純粋な疑問から問い掛けたソリッドに、メロディーは悲しそうな声で答える。しれっと話された会話だが、聞いてるこちらはヤバさに身が震える……。


 私とライザさんが固まってしまい、二人ののほほんとした会話が続く。誰も止める者が居ないので、ヤバイ会話が垂れ流し状態だった。


「精霊のような存在? それは大精霊と同格なのか? それとも、精霊王に匹敵するのか?」


「強さ的には大精霊と同格です。精霊王は別格の存在で、神様の手足ですからね。流石にそこまでは強くないですよ」


 ためになると、感心して聞いているソリッド。ソリッドの気を引けて嬉しそうなメロディー。


 能天気な二人のお陰で、何やら重大な情報が入手出来てしまった。その反動として、私の胃はキリキリと音を立て始めているが……。


「……き、聞いても良いかな、メロディー?」


「改まってどうしたの? 何を聞きたいの?」


 ソリッドとの距離が近づきご満悦らしい。私の問い掛けにも、にこやかに答えてくれる。


 私は色々な感情を抑えつつ、メロディーへと大切な問い掛けを行った。


「例えばだけど、大精霊の力を借りれたとするでしょ? その力であれば、領域守護者と戦えるってことかな?」


「うーん、どうなんだろう? 領域守護者の魔法と相殺は出来るのかな……。身を守る事は出来ても、それだけで倒すのは無理だと思うよ?」


「領域守護者の魔法と、総殺は出来るのか……。それって、人魚の女王様も同じなのかな?」


 私の問い掛けに、メロディーはコクリと頷く。人魚の女王様も大精霊と同格の強さと言う訳だ。



 ――もしかしたら、という疑念はあった。



 私の精霊魔法で、過去に領域守護者を傷付ける事は出来たからだ。しかし、今までそれを確かめる術が無かった。


 だが、彼女の証言を信じるなら、それはほぼ確信へと変わる。ずっと考え続けていた、あの究極奥義で何とか出来るはずだと……。


「後は、もう一つの懸念事項か……」


「え? どうかされましたか?」


 急に私の視線を受け、ライザさんが戸惑っている。私はふっと息を吐き、やれやれと首を振る。


 オロオロとするライザさんを無視し、私は頭の中で計画を練り始める。そして、全てを丸く収めるには、あのやり方が有効だと結論着ける。


「凄く……。ものすっごく、嫌だけど……! 私がやるしか無いんだろうなぁ……」


 私は肩を落としてトボトボと歩く。そして、戸惑うライザさんの近くで足を止めると、彼女の胸倉を捩じり上げた。


「――良い? 私が全て解決してあげる。だから、私の言葉に従いなさい」


 不機嫌さ全開の私に睨まれ、ライザさんの顔に冷や汗が吹き出す。私の中のどす黒いオーラを感じ取ったのか、彼女は必死にコクコクと頷き続けた。


 そして、私の想いが伝わったとわかり、私はライザさんを解放する。そして、車に戻ろうとしてふと気付く。


「ソリッド……。行っちゃうの……?」


「い、いや……。これはそのだな……」


 メロディーが絶対に離すまいと、ソリッドの体を抱きしめていた。下手をすると、そのまま海へと引きずり込む気配すら漂わせている。


 ソリッドに子供の腕を振り払う事なんて出来ない。それを知っている私は、大きく息を吐いて二人に告げる。


「私とライザさんは先に戻ってるから。ソリッドは作戦の目処が立つまで、メロディーの傍に居てあげて」


「――パッフェルさん、大好き!」


 今の私の発言で、私の株は大幅に上がったらしい。その事に苦笑しつつ、私は手を振って二人と別れた。


 問題の元凶ではあるが、彼女はまだ利用価値があるはずだ。下手に嫌われるよりは良いだろうと、自分で自分を納得させる私なのであった……。

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