第3話:城塞都市に住む男
大きな門の前にグリフォンが着陸すると、ルベルとフリージアはグリフォンから降りた。二人は目の前に広がる大きな建造物を見上げていた。
『ここは城塞都市チール。来たことあるかい?』
石畳の道を進みながらルベルが聞いた。
フリージアは目の前の建物に興味津々に答えた。
『ここがあのチールなのね!本でしか読んだこと無いわ。街全体がお城みたいねぇ』
『そうだろう。街全体が迷路のようになっていて、敵の襲来から王を守るように設計されてるんだ。さぁ、目的の場所はこっちだよ』
ルベルとフリージアは入り組んだ道を、右に左に進んで行った。
『ここだ』
『やっと着いたのね』
膝に手を当て、息を切らせながらフリージアが言った。
2人が着いた場所は年季を感じさせる鍛冶屋のような、ガラクタ置き場のような、そんな場所だった。
2人に気づいたように奥から人が歩いてきた。
その人が近づくにつれてと顔が鮮明に見えてきた。身長が低く小太りのドワーフと人間の間のような中年の男だ。
男はニヤニヤしながらルベルの顔を見て口を開いた。
『ルベルか、珍しいな1人じゃないなんて。しかも女と来た。恋人かい?』
ルベルは男の言葉を無視して、フリージアに男を紹介した。
『彼はアベンチュリン。どんな物でも持っている収集癖の男さ』
無視されたことを気にしていないのかアベンチュリンが答えた。
『まぁ道具屋ってところだ。よろしくな。ところで、そちらの女性は誰なんだ?』
『依頼人のフリージアだ。彼女の街でヴァンパイアが暴れていてな』
『フリージアちゃんか。よろしくな』
急に名前を呼ばれ驚いたようにフリージアは返事をした。
『あ、よろしくお願いします』
アベンチュリンは不思議そうな顔をしてルベルに聞いた。
『普段ヴァンパイアは人間社会に溶け込んでいるんだがな。どうして暴れだしたんだ!?』
『フリージアにヴァンパイアの姿で顔を見られたようでな。彼女に背格好の似ている女性ばかり襲うらしい』
『なるほどな。状況はなんとなく把握したよ。フリージアちゃんも可哀想にな...。お前の欲しいものは察しがついたよ。準備するから中でゆっくり待ってな』
そうアベンチュリンが言うと、彼を先頭に三人は建物の奥へ進んで行った。
ある程度進むと扉があった。
『ここで待っていてくれ。今から取ってくる』
そういうとルベルとフリージアを部屋に入れ、アベンチュリンは奥の方へと消えて行った。
部屋で二人になったルベルとフリージアは空いていた椅子に座った。
どことなく落ち着かないフリージアにルベルが聞いた。
『落ち着かないかい?』
『早く街へ行かないと、また今日も私のせいで何の罪も無い人が殺させるわ』
ルベルはその言葉を聞き、少し考えた後に話し始めた。
『君は何も悪くない。自分を責めないで。それに今日は誰も死なないから安心して』
そこまで自分のことを考えてくれているルベルに嬉しくなったフリージアは落ち着いて答えた。
『わかったわ。あなたを信じる』
それから数分沈黙が続き、アベンチュリンが戻って来た。
アベンチュリンが手に持っていた小瓶をルベルに見せながら言った。
『欲しかったのはこれか?』
『それは?』
フリージアが不思議そうに聞いた。
待っていましたと言わんばかりにアベンチュリンが饒舌に話し始めた
『これはな、聖水と言って、ヴァンパイアに飲ませるとヴァンパイアに取りつかれた人間を助けることができる。もしヴァンパイアに噛まれたら、すぐにこれを飲むんだ。じゃないと君もヴァンパイアになるか。力に適応出来ずに死ぬかだ。フリージアちゃんの分もあるよ』
そういうとアベンチュリンはフリージアとルベルに小瓶を投げた。
『それから念のためにこれも持っていけ』
アベンチュリンがそうルベルに言うとピストルをアベルに手渡した。
『アベンチュリン。俺は...』
アベルの言葉をかき消してアベンチュリンが言う。
『わかってる。お前にこれが必要ないことは、だが、何が起きるかわからない。いざという時は使うんだ。弾は1発。銀の銃弾に魔法を刻んである』
『わかった。使うことは無いが貰っておく』
そういうとルベルはポケットから麻の巾着を取り出すと、アベンチュリンに投げた。
飛んできた袋をキャッチするとアベンチュリンは言った。
『金は要らねぇ。俺は昔お前に助けられたんだ。その恩を返させてくれ』
『ダメだ。受け取るんだ。仮はもう十分返してもらった。さぁフリージア行こう』
『あ、はい』
話に置いて行かれていたフリージアは急に話かけられ、驚いたように椅子から立った。
『頑固なやつめ。金は貰っておこう』
もうアベンチュリンがつぶやくと、二人を玄関まで案内した。
玄関まで着くとアベンチュリンが言った。
『それじゃあな。またいつでも来いよルベル!!』
ルベルは片手を少し上げて答えた。
『あぁ。いつもありがとう。また来るよ』
フリージアはしっかりと頭を下げて言った。
『あ、ありがとうございました』
『そうだ。フリージアちゃんにはこれを上げよう。ドラゴンのクリスタルだよ』
アベンチュリンはフリージアに青く輝く水晶を渡した。
『いいのでしょうか』
『もちろん。お守りとして持っていなさい』
『ありがとうございます』
そうフリージアはいい手にクリスタルを握りしめた。
2人アベンチュリンに背を向け帰路を歩いて行った。そんな2人が見えなくなるまでアベンチュリンは大きく手を振っていた。