2.家族の絆(6)
「ユニス、ちょっといいかな?」
扉をたたくと、ユウリィは中にいるはずのユニスに声をかける。
「・・・・・・」返事がない。
「ユウ!」エリザが声をかけて、こちらにやって来る。
「あら、エリザ。どうしたの?」
「ユニスの事が気になってね。勉強って教えるのあまり得意じゃないから、ルヴィナとベネティアに後をまかしてきたわ」
「そうなの。ユニス、入るわよ」ユウリィが扉を開ける。
ユニスはベッドの上でひざを抱えてうずくまっていた。
「どうしたのユニス?」ユウリィがユニスの右隣に腰掛ける。
「ロファが何か意地悪でもしたの?」エリザも反対側に腰掛ける。
ユニスは黙って首を振ると、顔を上げておもむろに尋ねる。
「ロファから何か聞いてない?」二人は突然の質問の意味がわからない。
「例えばどんなこと?」ユウリィが優しく尋ねる。
「わかんない。でもロファ、私に何か隠してる!」ユニスは大声で叫ぶ。
「聞いてもはぐらかして教えてくれないの」
「それはロファだって隠し事の一つや二つはあると思うわよ、ユニス」
エリザが笑って答える。しかし、ロファが隠している事が何かに気付く。
「もしかしてロファ、まだ言ってないんじゃ・・・」
そのエリザの一言でユニスは顔をひざにうずめた。
「やっぱり!ロファ、私がまだ子供だから、だから隠してたんだ!」
「それは違うわよ、ユニス!」
ユウリィの一言はユニスに届かない・・・。
「ひどいよロファ!私には何も教えてくれなかった!何も、一言も!」
ユニスは涙声になっていた。ひどく興奮している。
「もう一人は嫌なの!一人はいや!一人にしないでロファ!」
「ユニス!!」
その声の鋭さにユニスが顔を上げる。そして・・・・・・
バチィン!!
一瞬、頭の中が真っ白になるユニス。ほおが熱い。
ユニスがたたかれた方を向くと、ユウリィが、目に涙をためて怒っていた。
息を整えて、落ち着いてから口を開くユウリィ。
「・・・ユニス。なんでそんな事を言うの?」ユニスの目をじっと見る。
「ねぇ、なんで?私達はあなたの家族じゃないの?私達じゃあ、あなたの家族にはなれないの?」ユウリィは涙を流していた。
「そうよ、ユニス。あたし達はみんな家族じゃない!」
エリザも力強く言う。
「確かに、いまはまだ家族とは言えないかもしれない。けど、だからこそこれからみんなで家族になろう、って一生懸命なんじゃない!」
ユニスがエリザの方を向く。エリザがユニスにほほ笑む。
「もうユニスもあたし達の家族なんだから、信じてくれなきゃ悲しいよ!」
「そうよユニス。ロファだけじゃなく、私達のことも信じてほしいな!」
ユウリィもそう言って、涙を拭いてほほ笑む。
ユニスは心が暖かくなる気がしていた。
(私の・・・家族・・・?)
その響きはとても懐かしく、そしていつまでもユニスの心で響いていた・・・。
(私を暖かく包んでくれる家族がいる・・・・・・?)
「そうよユニス」ユウリィが声をかける。優しい声・・・。
「あたし達はみんな家族よ」エリザの声。暖かい・・・。
ユニスは今、幸せに包まれていた。
「そうか、良かった・・・」
戻って来て一部始終を話し終えたユウリィに礼を言うロファ。
「もう心配いらねぇよ、ロファ」そうギルティスが言う。少し酔った様で言葉がぞんざいになっている。
「そうだね・・・」ロファが最後の一杯を空ける。空になった瓶は床に転がっていた。
「うまかったよギルティス、ありがとう。おやすみ、ユウリィ」
ロファは部屋に向かいながら明日の別れの事を考えていた。
また泣かしてしまうかもな、と思ったが心配はしていなかった。
ユニスにはもう、一緒に泣いてくれる家族がいるのだから・・・。
そして自分にも・・・。
今宵、夜空はどこまでも澄み渡り、天空の星々は、一つの大きな試練を見事乗り越えてみせたその全ての人々を、遥かな高みから見守る様に今も静かに瞬いていた・・・。