2.家族の絆(4)
その日の夜、いつもの運営会議の席上でロファはその事を口にした。
「なんでだよ、ロファ!」
ギルティスが睨みつける。
「訳を聞きたいわね。そうでなくちゃ納得出来ないわ」
ユウリィもまた冷静な口調と裏腹に怒っていた。
「・・・・・・」
ロファは目をつぶって黙っていた。
「黙っていると獅子をも倒すわたくしのロケット・パンチが火を噴きますよ。いくら紳士なわたくしでも限度がありますから・・・」
ベネティアが凄みを聞かしていう。ロファとはベネティアを挟んで反対にいるエリザも、黙ってはいるが怒っているとはっきりわかった。
「・・・ごめん、みんな。でも、おいらもう決めた事だから・・・」
「私達の相談なしに、でしょ!?そんなの認めないし、認められない!訳を教えてよ、ロファ!」
ユウリィがロファに畳み掛ける。
「落ち着けよ、ユウ」「だってギル・・・」
立ち上がりかけたユウリィを座らせるギルティス。
「どうして急にこの『家』を出ると言ったのか、そろそろ話してはくれませんか、ロファ?」
さっきまでの会議で今日の議長を努めていたルヴィナが、優しくロファに尋ねてくる。
その声でロファは目を開くと、みんなの顔を見て言った。
「ごめん、おいらの言い方が悪かったようだね。・・・本当は『家』を出るんじゃなくて、少しの間、旅に出たいんだ」
「旅・・・ですか?」ルヴィナが思わず聞き返す。
「うん」ロファは頷く。みんなの様子も少しずつ落ち着いてきた。
「ずっと・・・考えていたんだ。本当に悩んだよ。でも、そんな時アルマートが来て、おいら、彼に相談したんだ」
「じゃあアルマートが言ってた悩みってその事だったのね」
エリザが納得の声を上げた。
「それで彼は言ったよ。おいらの悩みは芸人にとって『最高に贅沢な悩み』だって。『帰れる場所があるのに迷う事は無い』とも。それでまた考えたんだ。本当ならこのまま、いつまでも一緒に暮らせたら確かに良かったんだけど・・・。でもそれは、芸人のおいらには苦しかったんだ」
「わたくし達と一緒に居る事が、ロファには苦しいのですか?」
ベネティアが珍しく静かな声で聞いてきた。
「そうじゃないよベネティア!そうじゃなくて・・・」
思わず声が詰まるロファ。
「アルマートが『芸人は一か所には居られない』と言っていたけれど、今ならその意味が解るよ」ロファはギルティスの顔を見る。
「どういうことだ?」ギルティスが話を促す。
「芸というのは色々な人々の前で行う事で腕を磨くんだ。だからとにかく場数をこなして腕を上げるんだけど、そのうちに、みんなの笑顔が嬉しくなって、その為に芸をするようになるんだ。そしていつしか離れられなくなる・・・」
「ロファ・・・」ユウリィがロファをじっと見る。
ロファは照れくさそうに少し笑う。
「芸は『魔物』さ・・・。それの持つ魔力が人を引き付ける。そしてそれに魅入られた者が『芸人』になる。そしてさまよい続ける事になるわけさ」
ロファがうっすらと笑う。その笑顔にルヴィナ達は背筋が寒くなった。
「と、いうわけさ!」突然、明るい声を出すロファ。
「なかなかの演技だったろう?おいら、自分の才能が怖いね!」
全員唖然としている・・・。
「だからさみんな、後のこと頼むよ。きっと帰って来るからさ!」
「ロファったら・・・」エリザは思わず苦笑する。
「わかりましたわロファ。仕方ありませんね・・・」
ルヴィナもロファを信じることにした。
「・・・それでいつ旅立つつもりだ?」
ギルティスが落ち着いた声で聞く。
「うーん、二、三日中には出るつもりだよ」
「そんなに早くなくてもいいじゃない!」
ユウリィが抗議の声を上げる。
「いや、そうしないとさすがにおいらも決心が鈍るから・・・」
そう言って頭をかくロファを見てベネティアが口を開く。
「それで・・・ユニスはどうするんだい?」
「う・・・」答えに詰まるロファ。
ロファは黒髪で、不思議な印象の瞳を持つ少女の事を思い出していた。
「ユニスは・・・」