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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
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2.家族の絆(3)

 遠い昔、一人の美しい少女がいた。少女は絶えず変わり続けるその魅力ゆえに誰からも愛されていたのだが、少女は幼なじみの少年一人を深く愛して他の者には目もくれなかった。

 そんなある日、彼女の姿が神の目にとまり、神はその美しい少女に自らの愛を語り求婚するが、少女はやはり目もくれなかった。

 怒った神は少女が二度と愛の言葉が聞こえぬように聴力を奪い、少女の最愛の少年までも隠してしまった。

 聴力だけでなく、愛する少年までも失ったその少女の悲しみは深く、神を恨み、呪い、いつしか少女は鬼になってしまった。

 鬼になった少女はその身を恥じて、暗い洞窟の中に閉じこもってしまう様になった。そして少女は少年を思い、泣き暮らしていた。

 その少女の様子にさすがの神も哀れに思い、天地自然の理を表す踊りを少女に教えた。少女が一度踊り出すと、その間だけ少女は元の姿を取り戻す事ができた。

 そして少女は愛する少年を探すために踊り続けながらの果てしない旅に出ていった。


 これが踊り子の誕生になる。


 その頃、少年は遠くの谷で暮らしていた。

 突然に最愛の少女から引き離された少年は毎日を泣き暮らしていたのだが、その為、少年は視力を失ってしまった。

 光を失った少年は風の音を聞き、ついに谷の入り口を見つけた。そして少年は石で回りをたたきながら谷を抜ける努力を続けた。

 谷を抜けた少年は両手に石を持ち、今度はそれらをたたく事で少女への合図とした。

 だが少年が少女と出会うことはなく、今度は合図に合わせて声も出す事にした。


 これが楽師の誕生となる。


 これが芸人の誕生であるがそれと同時に二人の少年少女の恋と、そして芸人の悲しい宿命の始まりであった・・・。

 少女の名前は『夢』と言い、踊り疲れて鬼の姿に戻ったときは『悪夢』と言う・・・。


「これは芸人誕生の伝承です。伝承の中では少年と、少女『夢』は出会う事なく永遠にさまよい続けます」

「何が言いたいんだ?」ロファは静かに、しかし鋭く尋ねた。

「・・・芸人は一か所に留まることはできない。これはその事も語っています。芸人が『真昼の夢』である限りは・・・。それはわかっているのでしょう?」

「・・・・・・」ロファは黙っていた。黙るしかなかった・・・。

「だが、あなたは数少ない例外になれそうですねロファ」

「どういうことだ?」

「あなたには家族がいて、家庭がある。そういうことですよ」

 ロファはじっと、アルマートを見ていた。アルマートは一瞬だけ真顔になるとにこやかに笑った。

「帰れる場所があるのに迷うことなどないでしょう。あなたの悩みは芸人にとって最高に贅沢な悩みですよ!」

 ・・・・・・!その通りだとロファも思う。

「どうです、少しは参考になりましたか?まぁ、よく考えなさい。誰でもない、あなた自身の事なのですから・・・」

 アルマートに一言礼を言うと、ロファは部屋を後にした・・・。


 アルマートは、来てから三日目で、灯の家を後にすることにした。

 子供達もルヴィナ達も、もう少し居てくれる様にアルマートに頼んだが、アルマートは名残惜しそうな顔で断った。

「少しの間ではありましたが楽しかったですよ。ありがとう」

 アルマートが僅かに頭を下げるとルヴィナが慌てて頭を上げさせる。

「そんな・・・。私達の方こそあなたのおかげでとても楽しかったですわ。どうかお体には十分に気を付けてくださいね」

「本当に。また近くに寄ったら必ず来てくださいアルマート。子供達と共に楽しみにしてますから」

 そう言ってギルティスはアルマートと握手をかわす。

「ありがとうギルティス。あなたも末永く奥方と仲良くね」

「ええ、わかっています」ギルティスも神妙に頷くとユウリィの方を向く。

「また楽しい話を聞かせて頂戴ね、アルマート」

「エリザも子供達と仲良くね。あまり無理はしないように・・・」

「今度来たときにはわたくしの特別メニュー『海千山千フルコース』をごちそう致しますよ」

 機械生命体であるベネティアの頭についた大きな一つ目が楽しそうに笑っていた。

「ベネティア、君のような男に会えて、私も久しぶりに楽しかったですよ。だが、あまりハメを外して失敗することの無いように気を付けて」

 アルマートは心底楽しそうに笑った。

「元気でね、アルマート。はい、プレゼント!」

 ユニスが右手を上げると、その手の中に一輪の白い花が現れる。

「ありがとうユニス。大切にしますよ」

 差し出されたユニスの手から花をうやうやしく受け取るアルマート。

 そして・・・・・・

「お元気で、アルマート」ロファが右手を出す。

 ユニスに貰った花を上着のポケットに挿すと、ロファの手を握る。

「迷いは晴れましたか?」アルマートの顔は笑っていた。

 しかし、目の中の光は笑ってはいない・・・。

「どう思うアルマート?」ロファはいたずら小僧の笑みを浮かべて言う。

 一瞬、きょとんとした感じになったアルマートはすぐに大声で笑い出した。みんなはそんなアルマートを不思議そうに見ていた。

「少しは参考になったようですね・・・」

 そしてアルマートは、最後にもう一度お礼を言うと次の街へと向かって行った・・・。

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