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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ジーン・レイナート・アーカイヴス
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5.フェイタル・マドンナ(2)

 その日の夜にはジーンが新妻を連れて帰ってきた事は風よりも速くハイランド中に伝わりみんなの噂の的となっていた。

 当の夫妻は『長旅で疲れたから』と、あの後食事をするとあっさりと我が家に帰っていた。

「しかしジーンが結婚した事も驚きだが・・・」

「ジーンってああいう娘が好みだったんですねぇ・・・」

 夫婦としては遙かに先輩にあたるランスバート夫妻は昼間の二人の事を、何となく昔の自分達と重ね合わせながら話していた。

 ルゥはまだセリカには会っていなかったが、ミルや仲間達から色々と話を聞いている為大体の想像はできた。

「結婚してまだ一ヶ月か・・・。その割には随分と落ち着いた雰囲気らしいな」

「まぁ、それは人それぞれですから・・・。それよりもセリカなんですけど・・・」

「何か気になるのか?」

「はい。一言で『人見知りで大人しい』と言えばそうなのかも知れないですけど、どことなくゼロさんに似ているような気がするんです・・・」

「ゼロに?」

「はい。性格、というよりも中身でしょうか?シュンやキラのように感情を抑制しているというのではなく、まるで感情そのものが欠落しているような、そんな感じがして・・・」

 ルゥは殊、人を見る目に関してはミルに対し絶大な信頼を置いている。その彼女がそこまで言う事にルゥはセリカという少女に対する関心がわいた。

「彼女も冒険者なのか?」

「おそらくは・・・。歩いて物音一つたてる事も無く食事中にもそれとなく注意を辺りに配っていましたから・・・。それでいて殺気を消す事に慣れている様ですしおそらく彼女は・・・」

「・・・やれやれ。ジーンは相変わらず面倒見が良いということだな・・・」

「そうですね」

 失笑するルゥに対しミルはクスクスと笑った。


「・・・平和な街ね・・・」

 窓から外を眺めつつセリカはそう呟いた。

「ああ」

 ジーンはセリカの背中に孤独が忍び込むのを防ぐかのように彼女の体を抱きしめる。

「・・・ほんとうに、よかったの?」

 何が、とはジーンは聞かない。セリカを自分の方に振り向かせると答え代わりの口づけをする。

「これからはずっと二人だ。・・・たとえ行き先が地獄でも・・・」

 セリカはジーンの体をきつく抱きしめる。

「私、あなたとなら死ねるわ。でも、こんなにも『生きたい』と思ったのもあなたに会えたからだわ・・・」

「・・・死なないよ、俺は。神を欺いても、悪魔を出し抜いてでも、俺は生きる。たとえこの手が多くの血で塗れていこうともね・・・」

「私は生きる。あなたが望んだように。『・・・』ではなく『セリカ』として・・・」

 二人はこの日、改めて『誓い』を確かめあうのであった・・・。


 そしてまたしばらくの間はおおむね平和な日々が過ぎていった。

 例えばマリアとセフィーが二人でジーンに詰め寄ったあげく泣き出したため、ジーンに『女殺し』の悪名が付いたり、ロファとセリカと三人でサントレア教会に遊びに行った際ゼロとセリカの間で物言わぬ友情が芽生えたり、セリカが生活費を稼ぐと言ってアルディスと共にウェイトレスのアルバイトをした時、セリカにセクハラを働いた客の一人が次の瞬間己のした所行を激しく後悔する事となった等いくつか事件らしい事も起こったりもしたが・・・。

 はじめの内はなかなかセリカと打ち解けなかった仲間達も、取っつきにくいのが最初だけだとわかるとすぐに親しくなっていった。無論、ジーンが周囲に気を配ったからとも言えるのだが・・・。

 だがそんな騒がしくも平和な日々はその男がハイランドに来た事で破られる事となった・・・。


 レイナート家の食事は主にセリカが担当していた。

「家事は・・・妻の役目だから・・・」

 余談だがこの台詞を聞いた時ジーンは感動の余り滝のような涙を流したと、後にロファが証言している。

 そのロファは現在、レイナート夫妻と共に暮らしている。

新婚家庭を邪魔する気はないと、ロファはジーンの教会を出ていこうとしたのだが・・・

「家族は・・・賑やかな方がいい・・・」

 というセリカの一言があったので、今では三人仲良く暮らしていた。

 そして今日も、セリカは夕飯の準備のために買い物をしていた。

 頬に手を当て小首を傾げる新妻というと妙な気持ちになりそうだがセリカの場合、そんな色気は全然なかった。

むしろ妙な凄みが感じられて慣れないと怖いものがある。

「お前がそんな仕草を見せるとは驚いたぞ、ダガー」

 その一言に、セリカは稲妻に打たれたかのように全身が反応した。体中に緊張が走る。

「・・・マスター・・・」

「迎えに来たぞダガー。お前には、まだやってもらわねばならん事があるからな・・・」

「はい・・・」

 セリカはその言葉に逆らはなかった。逆らおうとも思わなかった。

自分が生きている限りいつかこの日が来るだろうと、覚悟はできていたから・・・。


 その日の夕方、ジーンは買い物に出たまま戻って来ないセリカを探して家を出た。

 そしてあちこちを尋ね歩く内にジーンは自分宛のある言伝を耳にした。


              『村外れにて待つ。グラン』


 その名を耳にした途端ジーンはすべてを理解し、村外れに向かって全速力で走り出していた。

 彼が否定しようとした『過去』が、ついに彼を捕まえた瞬間だった―。

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