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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ジーン・レイナート・アーカイヴス
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4.君と共にある自由(2)

 そんなある日、顔色の良くないティアラを無理矢理屋敷まで連れて帰った後一人で晩酌をしていると、見慣れぬ男達が二人、ジーンを挟むように座った。

「お前がジーン・レイナートだな?」

「・・・誰だ、てめぇら?」

 ジーンが睨みを利かせると、右隣に座った男が酒場の喧噪に紛れるような小声で囁いた。「我々は、偉大なるファクルデス様の下僕だ・・・」

 その一言で、ジーンは一気に警戒モードまで自分の意識を持っていく。まだ殆ど酔っていなかったのは幸いだった。

 しかし男達はジーンのそんな変化に気づいてはいないらしく、そのまま話を続けた。

「・・・お前もまた、我らが神の祝福を受けた者・・・。どうだ、我らの元へ来ないか?共にこの世をファクルデス様のものとするべく戦おうぞ!!」

「お断りだな。誰がどうしようと俺は俺だ。神様なんざ関係ねぇ・・・」

 表面上は大人しいジーンだったが、内心ではひどく殺気立っていた。

 実はジーンは、邪神ファクルデスを殊の外嫌っていた。その理由はただ一つ、己が呪われた出生ゆえであった。

(俺は邪神とは関係ない! 俺は生まれる前から俺なんだ!!)

 幼い頃のジーンは、『人間から生まれた妖魔』としていつも蔑まれる毎日であった。

『邪神の子』『悪魔の子』『呪われた子供』・・・。

ジーンはそんな謂われのない誹謗中傷にいつも傷つき苦しんでいたのに、彼の両親は彼を守ろうとはしなかった。

 なぜなら彼らもまた同じく傷つき苦しんでいたし、何より周りが言っている事が本当の事だったから。疑心暗鬼に駆られた夫婦は子供を愛してはいたがそれ以上に憎んでもいたのだった。

愛そうと守ろうとすると、ついそれよりも先に手や、罵る言葉が出そうになり、愛する子供を追いつめそうになる。だから夫婦はあえて無関心を装った。それが彼らが子供に対してできる唯一の事でもあった。

 だからジーンは邪神を憎んだ。

 彼から愛するすべての物を遠ざけた存在だったから・・・。

 そんな事など知る由もない男は酒を一口あおってから口を開く。

「・・・ふ、青いな。まぁよい。今日の所は話をしたかっただけだ。だがよく考えることだなジーン。お前がどうあがこうと、所詮、運命からは逃れられないのさ・・・」

 そう言い残すと男達は酒場を後にした。

 ジーンはグラスに残った酒を一気にあおった。


「・・・どうしたのジーン?」

 ティアラが心配そうに顔をのぞき込む。

「何がだ?」

「さっきからずっと難しい顔してるわよ。ここの所、なんだか様子も変だし・・・。どうしたの?」

「お前には関係ない」

 吐き捨てるようにジーンは言った。

 ティアラは納得できなかったがとりあえず黙っておく事にした。

 ジーンが不機嫌な理由は先日酒場であった二人組のせいであった。

 あの後も、男達は何かに付けジーンの元にやって来ては自分達の仲間になるように言ってきた。

 彼らはジーンの事を『ファクルデスの申し子』と呼び、ジーンは邪神にとって最高の依代である事を説明した。だからそんなジーンに、自分達の旗頭となってほしいのだとかき口説いた。

告げられた真実に、ジーンはそれほど驚かなかった。『ああ、やっぱりそうなのか』と思う程度であった。子供の頃ならともかく、今のジーンにはもはやそんな事実は意味をなさなかった。

そんな事よりも、ジーンは男達の見え透いた汚い欲望の方が不愉快だった。自分を旗頭に据える事で他の仲間達から一歩抜きん出て、自らの低劣な欲望も満たそうという魂胆がひどく醜かった。

 何よりこの自分を、他でもない自分以外の人間が利用しようと考えている事がジーンには許せなかった。

 だからジーンはそんな彼らとしきりに反発していた。

 しかし業を煮やした彼らはとうとうジーンを脅迫し始めたのだ。

『自分達に従わないならお前が大事に思う人間の命はない』と・・・。

 そんな見え透いた脅しに屈するつもりは更々なかったが、それでももしティアラに何かあったらと考えて、・・・そんな自分にジーンは一人いらついていた。

(俺が大事なのは俺だけだ! 他人がどうなろうと俺には関係ないじゃねぇか!! お前までぼけてどうする、ジーン!?)

 しきりに頭をかきむしりながら不機嫌そうにジーンは歩いていく。

「・・・変なジーン・・・」

 ティアラもまたいかにも不満そうにジーンの後についていく。

 そしてそんな二人の姿を見張る二つの影の存在に、二人は気づいていなかった・・・。


 その日もティアラはジーンに会うために町中を歩いていた。

 ジーンの姿を探しながらティアラは、今日こそジーンの不機嫌の理由を聞き出してやろうと思っていた。そこへ・・・

「そこのお嬢さん、落とし物だよ・・・」

突然ティアラは後ろから男に声を掛けられた。

「え!? 私、何も落としてなんか・・・」

 不思議そうにティアラが後ろを振り向いた途端、ティアラは別の男に後ろから口を塞がれ、前の男に殴られて気絶してしまう。

 そして男達は大人しくなったティアラを人気のない裏路地へと運んでいった。


「・・・珍しくいないなアイツ・・・。今日は来てないのか・・・」

 その日ジ-ンは朝から嫌な予感がしていた。

 なぜだか落ち着かない気持ちでとにかくティアラを見つけようとしていた。

 すると、急に目の前騒がしくなっていた。どうやら路地裏で何かあったらしい。

いつもなら通り過ぎるジーンだったが、胸によぎる不吉な予感にジーンは慌てて駆け出した。

 人混みを掻き分けてジーンが見た物。それは無惨にも小さな胸を紅く染めたティアラの死体であった・・・。

 その時、ジーンの体の中に熱い衝動が走った。

(何だ・・・この気持ちは?)

 視線がティアラから外せない。胸を自らの血で紅く染めあげた少女の姿から・・・。

(こんな気持ち・・・知らない。わからない。何で目が熱いんだ?)

 ジーンは自分が泣いている事も、泣いている理由もわからなかった。

(ティアラ・・・ティアラ、ティアラ、ティアラ――――――!!)

 その瞬間、ジーンの中で何かが弾け、そして別の何かが目覚めた。


 それから三日後、やはり街のとある裏路地から二つの男の死体が発見された。

 二人とも、寸分違わず一発で心臓を何かに打ち抜かれていた。

 死体が荒らされた様子はなく、証拠も目撃者も残っていなかった。

 こうして幾つかの謎が生まれた。

 一つ目は犯人の目的。

 金目の物が盗まれていない事から何らかの怨恨だと思われる。

二つ目は凶器。

 二人の心臓は完全に貫かれ、体の中にも凶器と思われる物は残っていなかった。しかし傷口からして弓矢による物ではなく、何か、小さくて丸い物が体を貫いたと思われる。

 余り普及はしていないが銃器の可能性も考えられたが、他の臓器に傷がない事、また、傷口から判断してもおそらくは違うと思われる。

 考えられるとすれば何か、小石のような物を弾いて体を貫いたと思われるが、そうなると余程の至近距離から発射したとしてもそうとう並外れた力の持ち主でなければならない。そしてそれは既に人を越えたレベルでもある。

 そして三つ目は犯人の正体。

金を盗まず、証拠を残さず、一撃で相手を即死させる腕前と謎の武器。

 職業暗殺者とも考えられるがそれだけの腕を持つ暗殺者の存在はどこのギルドでも知られていない。その為、今回の一件で多くの裏組織がかなり大がかりに犯人を捜索しているらしいが未だ見つかってはいない・・・。

 意外にも犯人の唯一の手がかりといえそうな物を大神殿だけは持っていた。

 殺された二人は異端者、つまりファクルデス信者の疑いがあり、神殿側が以前から目星をつけていた者達だったのだ。

 この事件についての詳しい報告書を読み上げた後ジェラルドは、執務室に一人でいるにも関わらず小さい声でぽつりと呟いた。

「アインが、目覚めてしまったか・・・」

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