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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ジーン・レイナート・アーカイヴス
54/60

3.ラナンキュラスの蕾姫

今回も短いため1話完結です

「う~ん、いい天気だぁ!」

 新年を迎えてからもう一ヶ月が過ぎ、寒さがいよいよ最も厳しい時期になっていた。

 しかしそれは遠くない春の訪れを感じさせるものでもあった。

 謹慎開けという事もあって、今のジーンは少なからず浮かれた気分で散歩をしていた。

 すると、どこからともなく子供達の声が耳に届いた。

 賑やかな笑い声の中にしかし、少女の声が混ざっている事をジーンは聞き逃さなかった。

 そしてすぐさま現場へ駆けて行く。

 見ると、数人の男の子達が囲うようにして一人の少女をからかっている所にでくわした。

「こら! 女の子はいじめるものじゃなくてかわいがるものだろうが!!」

 ジーンの姿を見ると子供達はたちまちのうちに逃げ出してしまった。

「大丈夫? ケガとかはしてない?」

 ジーンは優しく声を掛けるが、少女は俯いたまま泣きやまない。

「ほらほら、そんなに泣いてばかりだとかわいい顔がグショグショになってしまうよ。 さあ、涙を拭いて・・・」

 すると少女は余計に激しく泣き出した。

「ワタシ、可愛くなんかないもん! 化け物なんだもん!!」

「そんな事ないよ。それに本当に君が化け物だったらそんなに泣いたりしないよ。さあ、顔を上げてごらん? お兄ちゃんは君がどんな子でも嫌ったりしないよ」

「・・・・・」

「困った事があるならお兄ちゃんに話してごらん。きっと力になれるから・・・」

「ホントに・・・?」

 少女がおずおずとした声で尋ねる。

「ああ、本当だよ」

 ジーンは少女を安心させるように静かな声で言った。

 すると、ようやく少女は顔を上げた。

 見ると少女の顔はひどくむくみ、目元が大きく腫れていた。泣いていたせいとも言えるがどうにもそれだけといった感じではない。

「・・・いつからいじめられ始めたんだい?」

 ジーンが少女に尋ねると、ある日突然目元が大きく腫れ上がってからそれを見た男の子達が気味悪がって彼女をいじめるようになったのだという。

 以前はいつも一緒に遊んでいたらしいのだが・・・。

「ワタシ、もうこれからずっと独りぼっちなんだ・・・」

 顔が醜く腫れ上がった事からの不安と、友達が離れていった寂しさから、少女は悲しそうにつぶやいた。

「そんな事はないよ。少なくともお兄ちゃんはずっと君の友達だよ」

 それを聞いた少女は目元に涙を溜めつつもジーンを見た。

「お兄ちゃんが・・・友達?」

「そうだよ。お兄ちゃんの名前はジーン。ジーン・レイナートっていうんだ。君は?」

「ワタシ、セフィー」

「セフィーか。よろしくねセフィー。ほら、これでもう二人は友達だよ」

 おどけた調子で言うジーンのセリフに、セフィーはようやくクスクスと笑い声をあげた。


「さて、それじゃあこれからお兄ちゃんとデートをしようか?」

「ええっ!? で、デート?」

 友達になったとはいえ、年上の男性からの思いも掛けない申し出に、仮にもレディーのセフィーは大いに慌てた。

「そうそうデートデート! さぁ行こう!!」

 しかしジーンはそんなセフィーの心の内を知ってか知らずか強引に彼女の手を握ると、さっさと歩き始めた。


 ジーンとセフィーが向かった場所、そこはジーンにとって鬼門になりつつある『フラワーガーデン』であった。

「あらあらジーンさん、随分とお久しぶりですねぇ」

 いつもと変わらぬ優しい笑顔で二人を迎えてくれたのはこの『フラワーガーデン』の主、エディ・アリスであった。

「や、やぁ。こんにちはエディ」

 内心、エディに対してトラウマが出来つつあるジーンだったがセフィーのいる手前、努めて平静を装うのだった。

「ところでエディ、実はある花を探しているのだけれど・・・」

 そう言ってジーンはエディに耳打ちする。

「ああ、それでしたらあちらに・・・。でも残念ながらまだ咲いてはいませんよ?」

「ああ、それでいいんだ。ありがとうエディ。行こうかセフィー」

 そう言ってジーンは再びセフィーの手を引いて歩き始めた。

 セフィーがもう一度振り向くと、エディもそれに気がついてにっこりと微笑んだ。

「キレイな女性ひと・・・。お兄ちゃんの恋人?」

子供というものはとても無邪気で、そして時に残酷だ。ジーンは思わず身震いしていた。

「ど、どうしてそう思うんだいセフィー?」

 笑顔がかなり引きつっている。

「だってお兄ちゃん、あの人の前だとなんだか変だから。もしかして私のせいかと思って・・・」

 ここら辺はさすがに小さくても女。誤解はしているが妙に鋭い。

「全然大丈夫。あのお姉さんとは全くそんなんじゃないから。ただ、ちょっと苦手なだけで・・・」

「どうして?」

 セフィーが不思議そうに首を傾げた。

「ま、まぁいいじゃないの。・・・あ、それより着いたようだよ」

 そうして二人は、未だ花開く事のない蕾のままの花壇の前で立ち止まった。

「ねぇ、セフィー。君はこの蕾を美しいと思うかい?」

 その花の蕾はまだ小さくて堅く、とても美しいと言うほどではなかった。

「ううん。特別醜いって訳じゃあないけど美しいかって聞かれたら・・・」

 言葉の語尾を濁しつつ、ジーンの機嫌を損ねるんじゃないかとビクビクしながらそう言うセフィーに、しかしジーンはにっこりと微笑んだ。

「そうだね。この蕾はちょうど今のセフィーと同じなんだ」

 そう何気なく言ったジーンの一言にセフィーの顔が暗くなる。

 遠回しに『可愛くない、醜い』言われたように思ったのだ。

 そんなセフィーの様子に気づいているのか、ジーンは言葉を続けた。

「だからこの花が満開になる頃には、きっとセフィーも元の可愛い女の子に戻ってるよ」

「えっ!?」

 セフィーが驚いて顔を見上げると、そこにはジーンの自信満々な笑顔があった。


 あれから2週間がたった。

「だいぶ腫れも引いてきたみたいだね」

 ジーンが優しい声でそう言う。

「うん! もう殆ど目立たなくなったでしょ?」

 そう言って元気に答えるのはあのセフィーだった。

 二人は今、初めて会った時に約束したように、再びフラワーガーデンへと向かっていた。

「さすがはミネルバさん特製の目薬って所かな。あんなに酷かった『ものもらい』がこうも早く治るんだから」

 そうなのだ。

 あの日、フラワーガーデンを後にしたジーンとセフィーはその足で薬師ミネルバ宅へと向かったのだった。

 そこでミネルバにセフィーを診てもらうと、ミネルバはすぐさまセフィーの為に『ものもらい』治療用の目薬と、肌荒れ用の塗り薬を作ってくれたのだった。

 それらをつけ続けた結果、セフィーは本来の素顔である愛らしい顔立ちへと戻ったのだった。

 おかげで彼女をいじめていた少年達とも仲直りをして今では仲良く遊んでいるという。

 もちろんその仲介役となったのは少年達に事情を話した後説教をして改心させたジーンであった・・・。


 そんなこんなといろいろあって、今日再び、ジーンはセフィーを誘ってフラワーガーデンへとやって来たのだった。

「さぁ着いたぞ!」

「え? ・・・うわぁ♪」

 二人が立っている目の前の花壇はとても2週間前と同じ花壇だとは思えない程色鮮やかで、華やいでいた。

 薄い花びらが幾重にも重なったその姿は蕾の時からは想像もできない程の美しい広がりを見せていた。

 花の色も赤、ピンク、オレンジ、白、黄色と実に多彩で何とも豊かである。

「信じられない・・・! あの蕾がこんなに綺麗になるなんて・・・」

「この花の名前は『ラナンキュラス』と言うんだ。気に入ったかい?」

「うん! ワタシ大好き!!」

セフィーは興奮しながらも花から目を逸らそうとはしなかった。

 その様子にジーンも大いに満足していた。

「女の子もこのラナンキュラスと同じなんだよ。今のセフィーはまだ2週間前に見た小さな蕾にすぎないんだ」

 ジーンは優しく、祈るような声で語りかける。

「植物はね、種から芽を出して生長して・・・一番綺麗になるその前に、蕾のままでいっぱいいっぱい力を蓄えるんだ。そうして長い時間いろんな事に耐えながら力をためて、初めて綺麗に咲くんだよ」

「そうなんだ・・・」

 セフィーは感心しながら聞いていた。

「いいかい?セフィーはまだ小さな蕾なんだ。だから焦らないで・・・。これからもたくさん嫌なことがあるかも知れないけどそれと同じくらい良いこともあるはずだから、辛いことがあってもがんばって、自分の中に力をいっぱいにためるんだ。そしていつか好きな人ができたなら、その時こそゆっくりゆっくり咲けばいい。ゆっくりゆっくり『好き』という気持ちをいっぱいに広げて大きくし、色鮮やかに咲けばいい。その時まで、セフィーは『蕾姫』のままでいいんだよ」

 ジーンの口にした聞き慣れない言葉にセフィーが首を傾げる。

「蕾姫って?」

「・・・いつの日か花開くことを約束された、美しいお姫様のことだよ」

 それを聞いたセフィーは思わずぽぉっと顔を赤らめる。

「なんだかステキ・・・」

「気に入ってもらえて良かったよ」

 色とりどりに咲き乱れるラナンキュラスの花々を前に一人夢見心地のセフィー。

 そんなセフィーを横目に見つつジーンは考えていた。

(ラナンキュラスの花言葉は『晴れやかな魅力』というのだけれど・・・セフィーなら大丈夫だろうな、きっと)

 こうして二人は時間を忘れてゆっくりと、ラナンキュラスの美しさに酔いしれるのであった。




 ・・・とこれで終われば美しかったのだが、物語にはまだ続きがあった。

 この後、『白き翼』内で幾つかの噂がまことしやかに流れたのである。それは・・・

「ねえねえ、実はジーンてロリコンだったって本当!?」

「うそぉ~!? じゃあ普段のあの軽い態度はそれを隠すためのカモフラージュなの?」

「しかもジーンたら相手の子を連れてマリアに会いに行ったらしいわよ!」

「それじゃあなぁに、ジーンたら本気って事!? ・・・マリアかわいそう・・・」

「エディが何度かフラワーガーデン内でデート中の二人を見たらしいわよ」

「ああ、それならオレも見た。・・・まぁ、遠目に見てもカワイ子ちゃんだったからな。ありゃあ将来美人になるぜぇ・・・」

「しかもその子の親ってかなりのお金持ちって話じゃねぇか」

「くぅ~! ジーンの野郎、今の内から手懐けといて将来逆タマ狙いかよぉ!?」

「さらに今の内から育てておけば、将来理想の女性になるかも知れないしなぁ・・・」

「となれば一挙両得ってか!? ちくしょおあの『ちゃっかり猫』がぁ~!!」


 こうしてジーンはやむなく人里を離れ山籠もりをする事になったという・・・。

「人の噂も七十五日かぁ。当分の間は自給自足・・・って、何でこうなるのぉ~!?」

 ジーンのそんな叫び声はしかし誰にも届かず、ただ空しく山々に響きわたるのであった・・・。

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