1.あいつが噂の『ちゃっかり猫』(2)
「ああ、マリアさん。ミネルバさんのお孫さんね」
『白き翼』でミルの手料理に舌鼓をうつジーンに彼女がそう教えてくれた。
「知ってるのミル?」
口一杯にほうばった肉じゃがを飲み込んで、ジーンがそう尋ねる。
「ええ。ミネルバさんはとても腕のいい薬師でよく傷薬とかを貰いに行ったりしてるの」
「私も知ってます。時々薬草を届けに行ったりしますから・・・。とても感じが良くて、いかにも『老婦人』って感じ何ですよぉ」
そう言ってディアはテーブルの上のタロットを一枚一枚ひっくり返している。何とも彼女らしくマイペースなノリだ。
「へぇ、それじゃあ俺も一度ご挨拶に伺わねば。女性に対する礼儀に反するし・・・」
「ジーンの場合は行かない方がかえって失礼じゃないかもな。女性の扱いも半人前のお前が言ってはミネルバにしてもマリアにしても不愉快な思いをするだけだ」
そう一言で言ってのけるレヴァインは、ペットのプテリュクスうさぎの『ジゼル』に餌を与えていた。
「いるよなよく。『オレは女性の扱いに慣れている』と思いこんで女性の気持ちを考えない奴・・・」
「何だジーン、反省してるのか? 少しは大人になったじゃないか・・・」
お互いに目を合わせる事無く、しかし目に見えない火花を飛び散らす二人。
二人とも『女好き』という事で互いをライバル視することが多かった。
「あーはっは♪ ほらシンウィも見てごらん? おもしろいよ」
「・・・暇な奴ら」
アルフィが焼いたお菓子を口にしながら、双子の片割れであるシンウィは半ば呆れ気味に呟いた。
「二人とも、いい加減そこまでにしておけ。ったく、仲が良いのか悪いのか・・・」
『白き翼』の若きオーナーでもあるルゥはため息をついた。
「でもでもマリアさん、いいなぁ・・・。ティモンズさんって優しいし、かっこいいし、私もはやくそんな人見つけて幸せになりたーい♪」
と、どこか乙女チックに遠くを見つめるアルディス。
「じゃあ俺と幸せになろうよアルディス」
「え~、ジーンさんとですか・・・? しょうがないですね、考えといてあげますよ♪」
「やったぁ!」
ジーンは無邪気に喜んでいた。
「・・・ジーンは幸せな奴だなぁ。そう言うお気楽なところは自分も見直さなければいけないかもなぁ・・・」
カイム・ミナモトはそんなジーンを見てニコニコと笑っていた。
「ところでそのティモンズって奴の事なんだけど、ちょっと教えてくれないかな?」
「ティモンズさんがどうかしたのジーン?」
ミルが食器を洗いつつ尋ねる。
「うん、ちょっと気になる事があってね・・・」
数日後、ジーンは早速ミネルバ宅を訪れていた。
「すいませ~ん、ミネルバさんはいらっしゃいますかぁ?」
するとドアが開き、中からマリアが顔を出した。
「どちら様ですか・・・、って、あなたは!」
「奇遇だね。なんだか運命を感じないかい?」
一瞬、驚いた顔を見せたマリアだったが、ジーンのとぼけた台詞にすぐ笑顔を見せる。
「残念でした。それよりおばあちゃんに会いに来たんでしょう? どうぞ中へ・・・」
マリアに促される形でジーンが中に入ると、ロッキングチェアーに腰をかけた品の良い老婆と目があった。
「初めましてミネルバさん。俺の名前はジーン・レイナート。突然に訪れてすいません。実は傷薬を分けて頂きたいのですが・・・」
「あんたが噂の『ちゃっかり猫』かい? なかなかいい男じゃないか・・・」
「おばあちゃん! ジーンさんに失礼よ!!」
「そんな事はないよマリア。ミネルバさんこそチャーミングでいらっしゃいますね」
「おや、若いのに『女』をよく知っているじゃないか・・・。気に入ったよ」
「ありがとうございます♪」
二人のどこか大人びた会話に未だ少女のマリアはただ呆然とするのだった・・・。
「・・・ありがとうございます、こんなに分けてもらって良かったのですか・・・」
薬の入った袋を握りしめ、ジーンは尋ねる。
「別にかまいはしないよ。材料はいくらでもあるしね。教会にケガ人が来るというのは割とある事なんだろう?」
「まぁ、確かに。いつの世にも暴力は無くならないものですからね・・・困ったものです」
「そんな事いった所で、あんたも昔は相当ならしたんじゃないのかい?」
マリアが入れてくれたハーブティーを口に含んでいたジーンが思わずむせ返る。
「・・・どうやら図星のようだねぇ・・・」
「もう、おばあちゃん! すいません、ジーンさん。おばあちゃんたら本当に口が悪くて・・・」
「ゲホッ、ガホッ! ・・・き、気にしなくてもいいよ。それよりその壁に掛けてある絵はいいね・・・。見ているとなんだかホッとするよ・・・」
そう言ってジーンは暖炉の上に掛けられた一枚の絵を指さした。
暖かな色と筆使いによって描かれたその絵は、確かに誰もが心の中に宿している灯火の火を印象的に浮かび上がらせた感じがした。
「ありがとうございます。 ・・・それ、父の絵なんです・・・。もう何年も前に絵の修行をする為に王都に行ったきりなんですけど・・・」
「あんなバカ息子の事なんか、あたしゃ知らないよ!まだ幼かったマリアを一人残して出ていった身勝手な男なんか息子じゃないよ!!」
「おばあちゃん、そんな・・・!!」
「・・・さてと、すっかり長居をしてしまった。そろそろ俺もおいとまするとするよ」
口ゲンカに発展しそうになる所をすかさず話題を切り上げることで封じたジーンは、席を立ち上がった。
それを見たマリアも立ち上がり、戸口の所で見送りをしてくれた。
「ごめんなさい・・・私」
「俺の事なら気にしないでマリア。それに俺に対して悪い事をしたと思うのなら、きちんと仲直りしておくんだよ。いいね?」
誰とは言わない。言わなくても当人が一番わかっていたから。
「うん、ありがとうジーンさん」
ジーンはその声を背中越しに聞き、手をヒラヒラと振るのであった。
『拝啓 親愛なる友へ』
その夜、ジーンは教会にあらかじめ備え付けてあった文机に向かい、一通の手紙をしたためた。
「・・・頼んだぜ・・・」
ジーンは一人、誰にともなくそうつぶやいていた。




