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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
フェレル・リンク・アーカイヴス
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6.風の後継者(2)

 明くる朝、フェレルはフィリアに会う為、救護用テントへと向かった。

「こんにちは~。フィリア、いるかい?」

 ひょっこりとテントの中を覗き込んだフェレルにレーレが気づいてからかった。

「あら、フェレル? なぁに、またデートのお誘いに来たのかしら?」

「たまにはレーレもデートするかい? 半日くらいならヒマ見つけるけど?」

 フェレルのそんな軽口にレーレはわざと首をすくめた。

「遠慮しとくわ。あなたに半日も任せたら私、何をされるかわからないもの・・・」

「人聞きの悪い。こう見えても私は相手を選んでいるつもりだよ?」

「それってどういう意味よ!!」

「お待たせしましたフェレル。それじゃあ少しの間出かけてきますから、その間よろしくお願いしますねレーレ」

 これ以上続くと取っ組み合いのケンカにまで発展しそうだったので、フィリアは慌ててフェレルを連れて外へ出ていった。


 二人は少し早めのお昼を取る為に食堂へ入ると、それぞれに注文を済ませた。

 ウェイトレスがテーブルを離れた所でフィリアがフェレルに話しかけた。

「それで、今日は一体何の御用ですかフェレル?」

 フィリアはいつもの口調でフェレルに尋ねてはいたが、おおよその見当は付けていた。

「正直に言わないと・・・」

「わ、わかったからとりあえず落ち着いて!!」

 まだ何もしてないのにフェレルは慌ててフィリアを宥めにかかった。

 そうして呼吸を一つ整えると口を開く。

「明日、時間あるかな?」

「えっ!?」

 思わぬフェレルの一言にフィリアが戸惑いを見せる。

「ちょっと話があるもんだからさ・・・。いつ頃ならヒマかなぁって思ってさ・・・」

 『話がある』の一言に、フィリアは今までの平穏がついに破られる時が来た事を悟った。

「私の方はいつでも・・・。特に用事は入っていませんので・・・」

「そっか。それじゃあ今日と同じ位の時間にまた会いに来るよ。用件はその時に話すからさ・・・」

「いま話せないのですか?」

 フィリアの質問にフェレルは頷く。

「ちょっと一人で考えたい事があってね・・・。その答えがまだ出ていないから、今は話せない。でも明日になったら必ず話すから! 約束は守るからさ」

「そうですか。わかりました」

 今のフェレルの言葉にウソはないと見抜いたフィリアはとりあえず納得した。

「でもそれでしたら最初から明日来て下されれば良かったのに・・・」

 そんなフィリアの呟きにフェレルは子供のように言った。

「だってそれじゃあフィリアとこうして二人で食事が出来ないじゃないか!」

「まぁ、フェレルったら!!」

フィリアはそんなフェレルの言葉に呆れながらも、内心では少しだけ嬉しく思っていた。

そしてウェイトレスが食事を運んでくると、二人は打って変わって明るい雰囲気で食事を楽しんだ。


 その日の晩も、フェレルは昨夜と同じ森の中にいた。

 昼間、フィリアの顔を見た分だけ今のフェレルには心の余裕があった。

 そして一日置いた事により昨夜の疑問に対しても少しは冷静に考えられそうであった。

「・・・私はやはり行かなければならない。彼女の目的が本当に『私自身の死』であるとしても逃げ出すわけにはいかない! 例え逃げても追いつめられるだろうし、事は私一人の問題ではなさそうな気がする・・・。もしこれが『一族』にまつわる問題であるなら、唯一の生き残りである私が決着をつけなければならないだろう!!」

 枯れ枝をくべる。一瞬、炎はその勢いを強くするがすぐに元に戻る。

「もし彼女がシャーリィと何らかの関わりを持っていて、その意志を継いで私を狙うのだとしても、私は逃げるわけにはいかない。・・・辛くても、乗り越えなければ、私はフィリアと未来を同じくする事はできない!!」

 フェレルは、子供のように泣き叫ぶフィリアを抱きしめた時の、あの温もりを思い出す。

「今の私には・・・失いたくないものである。大切にしたい『想い』がある! 例えそれが再び私を狂わせるとしても、自分の気持ちと彼女の信頼に、もう嘘はつけない・・・!!」

 フェレルはその時、覚悟を決めた。

それは『いつでも死ねる』と言った誤った覚悟ではなく、『何よりも自分を大事にする』という『真の覚悟』であった。

 それは死すべき時を見定めた人間だけが持てる『誇りある決意』でもあった。

『どんな恥辱にも甘んじ、死すべき時に死ぬ為に生き抜く強さ』

 フェレルは覚悟という言葉の本当の意味を、この時初めて悟った気がした。


 夜が明けて、病人やケガ人を見て回りながらフィリアはフェレルが来るのを待っていた。

 ついに彼の命を狙う相手が動き始めたのだ。そしてフェレルはその事でフィリアに話があると言っていたのだ。

 フィリアはたとえフェレルが何と言っても彼について行き、もし彼が命を投げ出すような真似をしたらそれを防ぎ、また、逆にもしもフェレルが命の危険にさらされた時には彼

を守ろうと決意していた。

 だがそんな彼女の決意は、実に意外な形で不意にされる事となった。

「緊急御前会議? よりにもよって今日、この日に!」

 邪魔者は城からやって来た。

 何でも外交上においてある問題が発生し、その対策を練る為に急遽会議が開かれる事となり、その席にフィリアも出席して欲しいとの国王ムラクモ=アズマ、及びナミ姫からの伝令がフィリアの元にやって来たのである。

 フィリアが呼ばれる理由としては、やはり国王トヨクモ=アズマの体を気遣う意味が含まれている為、断る事はまずできない。

「会議の予定としては夕刻まで行われるとの事です」

「・・・わかりました。今すぐ出仕の準備を致しますのでしばらくお待ちください」

「わかりました。では馬車の方でお待ちしております」

 フィリアは心の中でフェレルが来る事を願っていたが、結局、その願いが間に合う事はなかった。


 フィリアが城へ出仕してから少しして、フェレルはテントへやって来たが、フィリアが城からの急な呼び出しの為に出掛けてしまった事、そして夕方までは帰らない事をレーレから聞かされると、フェレルは目に見えて明らかに肩を落とした。

 フェレルは今日の決戦の場にフィリアにも来て欲しいと思っていたのだ。

もし自分に何かがあった場合、フィリアの助けを借りるつもりだったのだ。

 だが、強大な運命を司る力は、そんなフェレルの弱気な態度を忌み嫌うかの如く、二人を大きく引き離してしまった!!

「・・・フェレル・・・?」

 いつもと様子の違うフェレルを心配するように、レーレが声を掛ける。

「・・・一つ、頼んでもいいかなレーレ?」

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