2.自由な風のように(3)
「・・・こんな所にいたんですね・・・」
フィリアが静かに言った。
「居心地が良くってね」
フェレルは顔を見ずにそう言った。
「何もないのに?」
フィリアが不思議に思ってそう尋ねると、フェレルは黙って首を振る。
「・・・『希望』がある」
その一言はあまりに自然で、フィリアの心にもスッと入ってきた。
「イティーナで、何を得たのか聞いてたよね?」
フェレルは突然、思い返したかのように言った。
「あ、あれは・・・」
声が沈み込むフィリアに、フェレルはしかし、きっぱりと告げた。
「『自由』を・・・。そしてどう生きるべきかを学んだつもりさ」
「どんな生き方ですか?」
フェレルはフィリアの顔を見て、ニカッと笑う。
「すべてを受け入れそれを乗り越えるという生き方さ・・・」
フェレルのその清々しいまでの笑顔にドキッとしつつ、フィリアは何とか平静を保つ。
「自由でいると・・・いい事ばかりじゃない。逆に嫌な事ばかりが起こる・・・。でもね」
フェレルは空を見上げる。
「何の制限もない、本当の自分でいられるんだ」
その時、二人の間を気まぐれな風が過ぎ去っていった。
フィリアを連れてきた少年も、フェレルに言われてみんなの元へと向かった後であり、だから今、ここにはフェレルとフィリアの二人だけであった。
「・・・フェレル・・・」
フィリアは静かにフェレルの前まで近づいていく。
「・・・のバカぁ!!」
強烈なフィリアの右フックがフェレルの顔面をとらえる。
「おごぉ!!」
フェレルは思わず蹈鞴を踏んで腰をつく。
呆然とフィリアを見上げていると、彼女は怒ったようにフェレルに言う。
「・・・さんっざん人に心配懸けさせてぇ、そのくせ何事もなかったみたいな顔してて、これじゃあ心配していた私がバカみたいじゃないですかぁ! ・・・心配した・・・」
フィリアは涙で濡れた顔を隠すように両手を覆うと、火が点いたように泣き始めた。
(この人でも、泣くことがあるのか・・・)
などと考えつつ立ち上がったフェレルは、優しくフィリアを宥める。
「ごめん・・・なさい。まさかそんなに心配してくれてたとは思わなくって・・・」
フィリアは一向に泣きやまない。
「もう、私は嫌われたものだとばかり思っていたから、他の仲間にも気まずくて会いに行けなくて・・・。あのとき君が、とても疲れているように見えたものだから、わざと怒らせるような言い方をしたんだけど、後になって『あれは嫌われたな』って思って、失恋の自棄を仕事にぶつけていたわけで・・・。だから・・・ああもう、私が全部悪かったからいい加減泣きやんでくれよぉ!」
今のフェレルには、フィリアが一刻も早く泣きやんでくれるよう、胸を貸す事しか出来なかった・・・。
こうした一連の騒動の後、最貧民地区の状況を重く見たナミ姫は、復興の中心部をしばらくの間最貧民地区にすることを決定した。
その主要メンバーとしては、当初の予定に入っていなかった、フェレルをはじめとするイティーナからの移住希望者の殆どを当てることにした。
だから実際には中心部が二つできたようなものであった。
特に、フェレル達イティーナ組は今までに培われたノウハウとチームワークがあった為、最貧民地区において目覚ましい成果を上げる事となる。
さて、フェレルとフィリア、二人のその後の関係はというと・・・
「はい、ご苦労様でした。それじゃあ次は・・・」
「あのぉ、フィリア?」
「はい?」
「休憩時間は・・・?」
「もう一頑張りした後ごゆっくりどうぞ♪」
「そ、そんなぁ・・・。私、もうヘトヘト何だけどぉ・・・」
「・・・私のこと、嫌いなんですね?」
「へ!? いや、そんな事はないですよぉ、はい」
「だったら、私を悲しませたお詫びとして、せーぜい、働いて下さいね♪」
「そ、それは・・・でもあの時は・・・」
「やっぱり嫌いなんですねぇ!?」
「わっかりました! やります、やりたい、やらせてください!!」
「そうですか? じゃあ遠慮なく・・・」
(どうして私、こんな女に惚れたんだろう・・・)
女の涙は高くつくと、フェレルは体全体で覚えたのだった。
(ウフフ。私、男の人に泣かされたの、初めてなんですよ・・・)
必死に働くフェレルの後ろ姿を見ながら、フィリアはそっと、心の中でそうつぶやくのだった・・・。
これで2話目も終了です。3話目は2部構成になります




