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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
32/60

14.アンティーク・メモリー

在庫一掃セールのラストです。某有名作品と名前の感じが似ていますが書いてた当時は全く知りませんでした。今は大好きです!(笑)

 澄み切った青空。流れていく白い雲。

風は心地よく吹き、広場の喧噪やざわめきを遠くへ運ぶ。

 街の人々はそれぞれに不要となった品々を持って来ては売ったり交換したりしている。 最近ではバザーのある日の夜はそのままみんなで大宴会となる事が多い為、広場はちょっとしたお祭り騒ぎの様相を呈していた。

「盛り上がってるなぁ・・・」

 ロファ・サーフェもまた、そんなお祭り気分を満喫している者の一人だった。

 彼が今日バザーで探している物は手品の練習に使うためのトランプであった。

 彼が使うと本来長く使う事ができるはずのトランプが、まるで消耗品と大差がなくなるのは不思議なことである。

(あら? あれは・・・)

「どうしたのリシュリタ?」

 ロファは背中に背負ったリシュリタに声を掛ける。

(あそこから・・・何か強いものを感じるんです・・・)

「強いもの?」

ロファはこう見えても波動感知の能力を持っていたが、リシュリタが感じたものはそれとはどうやら違うものであるようだった。

(何故かしら、不思議と懐かしい・・・と言うよりは何か近いものを感じるんです・・・)

 ロファはリシュリタの感性を信じ、主に小道具を多く並べている男のスペースに向かって歩き始めた。


「こんにちは! ちょっと見せてもらうよ!!」

「ああ、いいよ・・・」

 四十も半ばを過ぎたかのような男が、口元に優しい笑みを浮かべていた。

 敷物の上には種々雑多な物達が、それぞれに自分の存在を自己主張していた。

古ぼけた時計に埃がかかった絵画、怪しげな人形・・・。

 そう言った物の中でロファが見ていた物は、美しい彫り物が施された一つの箱であった。

男もそれに気づく。

「それか・・・。それはうちの小屋で見つけた物なんだが鍵がかかっていてな。しかもその鍵も無くなっていて開けられないんだ。でもその彫り物は見事な物だろう? だから実用には向かなくても観賞用としてなら売れるかも知れないと思って持って来たんだ。もっとも折角の美しい彫り物のはいった箱だと言っても横に穴があけられていてなぁ。観賞用にするにしても今ひとつな品物なんだがな・・・」

 ロファは試しにその箱を持ってみた。

 重い。

 軽く振ってみたが音はしない。という事は内側で固定されているという事だ。

 重心は穴のあいている右側に傾いていた。

(もしかしてこれは・・・!)

 ロファの頭の中に子供の頃の記憶が甦ってきた時、リシュリタがロファに語りかけた。

(この箱・・・。この箱から『何か』を感じるの!!)

「何だってぇ!?」

 突然に大声を上げたロファを男は薄気味悪そうに見ていた。

 しかし当のロファは自分の世界に入っていてその事に気づかない。

 ふっと我に返ったロファはその箱を抱き締めると男に向かって言った。

「おじさん、この箱・・・おいらに譲ってくれない?」


 その日の夜

宴会も終わり、それぞれが家路についた後、ギルティスとユウは自分達の部屋でのんびりとくつろいでいた。

 コンコン!

「はあ~い、どなた?」

 ユウが立ち上がって扉を開けると、そこにはロファが、昼間買った箱を抱えて立っていた。

「こんばんはユウ、ギル」

 ロファはニッコリ笑って部屋の中に入る。

「どうしたんだこんな夜更けに?」

 ベッドの上に寝そべって本を読んでいたギルティスは、体を起こすと端に腰を掛ける形で座る。

「実はねぇ、おいら、宝物を入れた箱の鍵をなくしちゃってさぁ。箱が開けられなくなっちゃったんだ・・・」

 子供のように照れ笑いを浮かべるロファの姿を見てギルティスは、やれやれといった様に肩をすくめた。

「ったく、しょうがねえなぁ・・・ホレ、持ってきてみ? 開けてやるからさ」

「ありがとうギル! ・・・でも中は見るなよ?」

ロファが忘れずしっかり釘を打つ。

 ギルティスは苦笑する。

「わかったわかった。しっかしお前、宝物を入れた箱の鍵なんかなくすなよ・・・。それに二十歳をもう幾年も経った男がそんな女の子みたいな事するなよ・・・」

「あら、別にいいじゃないギル。いくつになっても宝物は宝物でしょ? それに、ロファらしいじゃない・・・」

 二十歳も間近の自分の妻の言い分にギルティスは『人の事は言えないか・・・』などと思いつつロファから箱を受け取る。

「まぁそうだけど、さ・・・よし、開いたぜロファ!」

 ギルティスはいともあっさりと鍵を開けるとロファに箱を返した。

「さっすがぁギル! 恩に着るよ!!」

「いいっていいって。何なら今度、俺が合い鍵を作ってやろうか?」

 ギルティスのその申し出にロファは急に大人びた表情になると微笑みを浮かべた。

「・・・その必要はないよ。それじゃ、お休みギル、ユウ」

「お休みなさいロファ」

 ロファが部屋から出ていくと、ユウは静かに扉に鍵をかけ直す。

 そうして振り返った時、ギルティスが何かを考え込んでいた。

「どうしたの?」

 ユウがギルティスの隣に腰を掛ける。

ギルティスはユウの肩をそっと抱き寄せると、ぽつりと言った。

「あの鍵・・・何であんなに錆びた感じがしたんだ?」


 ユエリーの朝は早い。

 その日もまた、小鳥達が窓の戸をつつく音で目を覚ました。

「おはよう、みんな」

 部屋の窓をそっと開けると朝の空気と小鳥達がユエリーの周りを優しく包み込む。

 彼女が右手を持ち上げるとその人差し指に一羽の小鳥がとまって羽を休める。

 それはまるで幻想的な、一枚の絵のような静かな朝の一時であった。

 コンコン!

「誰ですか?」

「私でございますお嬢様。お目覚めでしたでしょうか?」

 それは彼女の家の忠実な老執事であった。

 ユエリーは上着を一枚羽織ると扉を開ける。

「おはようございます。私に何かようですか?」

 もちろん用があるから彼は来たのだ。彼は一日のスケジュールを規則正しく行う。

 その彼が朝食前にユエリーの所に顔を出すなど、何か用事でもなければあり得ない事であった。

「お客様でございます」

「お客様? こんなに朝早くから来るなんて、きっと大事な用なのでしょうね。わかりました。すぐ行きます」

 ユエリーがそう言うと、老執事は丁寧に頭を下げて歩いて行った。

 扉を閉めて一人になると、ユエリーは小さく呟いた。

「いったい誰なのかしら、こんなに朝早くにやって来るなんて・・・」


 着替えて部屋から出たユエリーは家人の者に、お客様を朝食に招待するように言いつけた。

ユエリーは先に食堂に着いて席に座っていると、先程の家人の者が一人の若者を連れて来た。

「・・・こんなに朝早くから・・・。ルヴィナにはちゃんと言って来ましたかロファ?」

「メモを残してきたから大丈夫! それにおいらがいなくなるのはいつもの事だからそんなに心配はしてないよ」

 ユエリーは呆れたようにため息をつく。

「あなたがいなくなる時は殆ど、あなた自身に危険が及ぶ時だったという事をお忘れですか? ・・・まったく。あんまりルヴィナに心配を掛けてはいけませんよロファ」

 ユエリーは子供をたしなめるかの様にロファに注意してから、にこやかに微笑み、久しぶりに会う友人を手厚くもてなすのだった。


「・・・ところで、今日は何の御用ですかロファ? また何か困った事でも?」

 口元をきれいにナプキンで拭い、正面からロファを見つめた。

「そうじゃないんだ。実は今日はユエリーに本を貸してもらいに来たんだ」

「本!? それだけの為にこんな朝早くからわざわざ?」

 ユエリーが呆れた様に言った。

「・・・ちょっとね。それに普段ユエリーが目を通す様な物でもないと思うから、探すのに時間がかかると思ってね・・・」

 ロファは執事に朝の紅茶をできたら自分の分はコーヒーにしてくれるように頼む。

 執事は『かしこまりました』と言って下がる。

「それからその本、外に持ち出してもいいかなぁ? おいらそれを持って出かけたい所があるんだ・・・」

「それは別にいいですけど・・・。閲覧可能な範囲でなら何を何冊持って行こうと一向に私は構いませんけど、一体どんな本を探しているのですか?」

 ユエリーが興味を持って尋ねるが、ロファは笑って教えない。

 ロファの相変わらずの秘密主義にも困った物だが、笑っている以上はどんなに追求したところで何も言わないだろうという事は、さすがにユエリーにもわかってきた。

ユエリーは一つ、溜息をついた。

「・・・わかりました。もう何も聞かないですし、手も出したりしません。そのかわり、いつか話せる時が来たら必ず教えて下さいね!」

そう言ってユエリーはロファの頼みを快諾した。

「ありがとうユエリー。近い内に必ず、約束は果たすよ!」

 ロファもまた、ユエリーにそう誓うのであった。


 地下書庫


 ロファが地下書庫に入ってから、もう数時間が経っていた。

「あったぁ!!」

 ロファはようやくにしてお目当ての本を見つけだし、本の中身を確認する。

 そして・・・

「うん。これは使えそうだ! えっと他には・・・」

 ロファは長梯子の上に危なげなく立つと、次なる本の確認を急いだ。


「え!? ロファはユエリーの所にお邪魔していたのですか?」

ルヴィナはユエリーの話に驚きつつ、『しょうがない人ですね』と言って苦笑した。

「メモを残してきたって聞きましたけど?」

 ユエリーはルヴィナのその反応に、ロファが自分に嘘をついたのではと疑問を抱いた。

「ええ、確かに・・・。でも『ちょっと出かけてきます。今日明日中には帰れないと思うけど心配しないで下さい』としか書いてなくて・・・。そうですか、ユエリーの所へ行ってたんですか・・・」

 ルヴィナはしみじみと納得していた。

この『灯の家』とユエリーの屋敷とは『旅門開扉配列』で繋がっていて、お互いに自由に行き来する事が可能であった。

「でも他に行く所があると言ってまた出て行ってしまいました。どこに行ったのかはわかりませんが・・・」

 申し訳なさそうに言うユエリーに、ルヴィナが首を振って優しく答える。

「ありがとうユエリー。それだけわかれば十分ですわ。きっとロファはまた、新しい『夢』を見つけたのでしょう・・・。心配するだけ損ですわ」

 ユエリーに余計な心配をかけさせまいとしてルヴィナはわざと突き放した言い方をした。

 それに、ルヴィナは本気でそう思っていた。そこら辺はやはり付き合いの長さ故の慣れであろう・・・。

「今度はどんな素敵な『夢』なのかしら・・・」

 そんなルヴィナの一言にユエリーもまた、胸の内がわくわくするのを抑える事はできなかった・・・。


 日もすっかり暮れ始め、西の空が赤く染まり始めた頃、ランバートはそのひ最後の患者の診療を終えた。

「ふぅ、今日も疲れたなぁ・・・」

しかしそんな言葉とは裏腹に、ランバートの心には不思議な充足感が満ちていた。

 それはやはり、一日を無事に終えた事に対しての喜びと、薬師として多くの人々を助けたという事の誇りからくる清々しさとも言えた。

「・・・さてと、今日の夕飯は何にしようかなぁ・・・」

 ランバートが着ていた白衣を脱いで畳み、夕飯の買い物に出ようとしたその時、扉を激しく叩く音がした。

(急患だろうか? しかしもし患者ならこんな裏口からじゃなくて受付のある入り口の方から来ると思うんだけど・・・)

 そう思って何となく身構えていると、外から声が聞こえてきた。

「おお~い、ランバートぉ! おいらだよ、開けてくれよぉ~!」

(この声は・・・!)

 ランバートが慌てて扉を開けると、そこには何冊かの本と古ぼけた感じのする箱を両手に持って背中に荷物を背負ったロファがいかにも疲れた顔をして立っていた。

「やっぱり! どうしたんだいロファ、何かあったのかい?」

 ランバートは驚きつつもロファを家の中に迎え入れる。

 ロファはランバートの顔を見上げるとニカッと笑い、

「手を貸してくれないか、ランバート?」

と言うのであった。


「こ、これは・・・!」

「な、おいらの言った通りだろう?」

 ランバートの見せた予想通りの反応にロファは満足げに微笑む。

「でも僕にできるかどうか・・・」

 ランバートが心配そうにそう呟いた。

「大丈夫だって。こうしてわざわざ解説書まで探して持って来たんだし、何とかなるってきっと!」

「し、しかし・・・」

 まだためらいの消えないランバートにロファは深々と頭を下げた。

「頼むよランバート。おいらにはランバートしかいないんだ。それに、うまくいけばリシュリタの言っている事が何なのか、そしてこの箱は何を望んでいるのか・・・。それら全てがわかるかも知れないんだ。ダメならダメでそれはランバートの責任じゃない。だからさ、ランバート・・・」

 必死に頭を下げ続けるロファにランバートは観念したかのように肩をすくめて言った。

「・・・わかった。ロファがそこまで僕の事を頼りにしてくれているというのなら・・・僕、やってみるよ!!」

 それを聞くとロファは顔を上げて笑った。

「ありがとうランバート!これでうまくいったなら一番の功労者はランバートだぜ!!」

「さぁ始めようかロファ。それじゃあ、まずはそこの工具箱から取ってくれるかい・・・」


 ロファが姿を消してからすでに一週間が経った。

 その日、ロファは驚いた事にランバートを引き連れて『灯の家』に帰って来たのだった。

 そして家の中に入るなり二人は『夜まで寝かせてくれ』と言って、事情説明もそこそこに、それぞれあてがわれたベッドの上へと倒れ込んで爆睡してしまった。

「何だぁ、あいつら・・・」

 それを見ていたギルティスは呆れてそれしか言えなかった。

 夕飯の準備が整う頃になるとロファとランバートは、おのおのユニスとテナーの二人によって起こされ、食堂に向かうのだった。

食堂に着くと二人は夕食の席の中にユエリーの姿がある事に気づいた。

「今度はランバートの所に行っていたのですかロファ? 一体、二人して何をしていたんです?」

 ユエリーに向かい合うような形で二人は座り、ユニスはロファの、テナーはランバートの、それぞれ隣に腰を下ろした。

ユエリーの質問に対して二人は顔を見合わせるとニカッと笑い、そのままイタズラ小僧のように笑い続けていた。

「な、何なんです、一体?」

 そんな二人の様子にユエリーはわずかに肩がヒクついていた。

 何とか笑いを堪えると、ロファはユエリーに向かって、

「まあまあ。夕飯が終わったらちゃあんとみんなにも教えてあげるからさ・・・」

「本当!?」

「ああ、本当さユニス。その為においらはユエリーから本を借りてランバートにも協力してもらったんだからさ・・・」

「それって楽しい事?」

「もちろん! 僕とロファで一生懸命頑張ったんだからね。だからきっと楽しくなるよ」

「良かったですねテナー」

「うん!」

テナーは嬉しそうに大きく頷いた。

 こうして、久々に『灯の家』で過ごす穏やかなディナー・タイムは確実に過ぎていくのであった。


 食事が終わると、『家族』は全員居間へと集まっていた。

 これからロファとランバートの二人が、面白い物を見せてくれる事になっていた。

「ねぇ、はやく早くぅ!」

 待ちきれない子供達は二人をしきりに急かした。

「・・・さてと、それじゃあお待たせしましたぁ! 本日の主役を紹介しまぁす!」

 そう言ってロファはテーブルの上の品物にかけられたハンカチを取り去った。

 すると、横にネジ巻きのような物がくっついたへんてこな箱がそこに姿を現した。

「ああ! それ、この間の・・・」

ギルティスはその箱に見覚えがあった。

 なぜならその箱は他ならぬ『ロファの宝箱』だったからだ。

「でもこの間見た時にはあんなの付いてなかったわ」

 ユウはわずかに首を傾げる。

 そんな二人の反応を心の中で面白く思いながらロファはおもむろにネジを回す。

「これくらいでいいかな・・・。よし行くよ! みんな静かに・・・」

 居間がシ~ンと静まり返るのを待ってからロファはランバートに一つ頷き、ランバートが箱のふたを開けた。

 すると、どこからともなく澄んだ音色が響いてきた。

「わぁ・・・っ!!」

 子供達は大いに驚くと、再び静かに耳を傾けるのだった。

「素敵な曲ですねぇ・・・」

「うん・・・」

「綺麗な音色ですぅ・・・」

「これは機導の作り出した音ですね・・・」

 さすがに機獣人であるベネティアにはそれがすぐにわかった。

 しかしそれ以上は何も語らず、ただじっと耳を澄ませるのであった。

「この曲は、もしかして・・・」

 ユエリーは、以前にこの曲を聴いたことがある事に気づいた。

 しかしユエリーは何も言わず、他にならって機導が奏でるその音色を一緒に楽しむのであった・・・。


 演奏が終了すると、ワァッという大きな拍手が沸き起こった。

「すごいすごいすごお~い!」

「ねぇねぇ今のなんて曲!?」

「もう一回やってやってぇ!!」

 子供達は大いに興奮してロファとランバートにすがりついた。

 大勢の子供達にもみくちゃにされながらも、二人は心底喜んでいた・・・。


「この箱はね、機導術で音を出す箱で、その名も『オルゴール』と言うんだ・・・」

 ロファは以前にランバートにした時と同じように、みんなにも丁寧に説明した。

 事のいきさつは先日のチャリティバザーでリシュリタの言葉に従いこの壊れかけた『オルゴール』を見つけた事から始まった。

 ギルティスに鍵を開けさせて中身を見たロファは、その箱の中が変わった形をしている事から、これはまさしく本物だと確信した。

 幼い頃に一度だけ見た事のあるこの魔法の箱を、ロファは何とかして蘇らせたかった。

 そこでユエリーの家にある大量の蔵書の中から『オルゴール』について記された古代書を見つけだし、それを持って機導術の心得を持つランバートの家へと向かった。

 事情を説明して協力をこぎつけたロファは、早速二人でその機導に以上がないかを確認した。

 幸いにして大きな障害はなく、それでも悪戦苦闘しながら、二人はそれをついに現代に甦らせたのだった。

その説明を聞いてルヴィナはようやくロファの行動に納得した。

 ルヴィナは箱に近づくとネジを回し、ふたを開けた。

 箱からは再び同じ曲が流れ始める。

「・・・オルゴールの音色って美しいのにどこか・・・寂しい音色なんですね・・・」

 ルヴィナのそんな一言は、オルゴールの旋律と共に心の中に染み込んできた・・・。

「そうですね・・・。これは別にこの曲のせいという訳でもなく、『オルゴール』というこの箱特有の音色なんでしょうね・・・」

「あれ!? もしかしてユエリーはこの曲の事、知ってるの?」

ロファが驚いて尋ねると、ユエリーはこの曲について自分が知っている事を話し始めた。

「この曲は、昔の大作曲家アルヘイムの『アンティーク・メモリー』という曲です・・・」

「・・・『アンティーク・メモリー』・・・」

「素敵な名前ねぇ・・・」

「この曲にピッタリですぅ・・・」

 ユウ、エリザ、サラの三人は、それぞれのロマンスに浸っていた。

「・・・アルヘイム?」

 しかしロファはその作曲家の名前の方が気になっていた。

 たしかどこかで聞いた気がするのだ・・・。

「この曲は幼くして病気で亡くなった彼の娘に捧げられた曲として有名なんですよ」

 ユエリーはこの曲に関する逸話についても聞かせてくれた。

「その娘の名前って・・・もしかしてティファ?」

 ランバートは突然、思いも掛けない発言をした。

「え、ええ・・・。ランバートも御存知だったのですか?」

 しかしランバートはそれには答えずロファの方に向き直って言った。

「すごい! すごい事になったよロファ!!」

「ど、どうしたんだよランバートぉぉぉ!」

 ランバートに肩を掴まれ前後に体を揺すられながらロファが尋ねた。

「忘れたのかいロファ? ふたの裏側に彫ってあった名前のことを!!」

 その一言で、ロファにもランバートの言いたい事がはっきりとわかった。

「それじゃあこれって、もしかして・・・」

「そう。このオルゴールこそ、作曲家アルヘイムが娘の為に作らせたオルゴールだったんだよ!」

『ええ~!!』

 さすがにその一言には全員が驚いた。

「どういう事です、事情を説明してもらえますか?」

 ルヴィナの問いかけに二人は作業中に気づいたある事を話し始めた。

 ロファとランバートの二人は、この箱のふたを一時的に取り外した時、その裏側にある言葉が彫られている事に気づいた。

 その言葉とは・・・


        『この曲に 我が最愛のティファを託す アルヘイム』


 最初、その言葉に気づいた時は対して気にもとめなかったのだが・・・。

「そうか・・・。だからリシュリタが気が付いたんだ!」

 ロファは密かに気になっていた事にようやく答えを見いだした気がした。

「・・・親が子供を思う気持ちが一杯に詰まっていたから、だから同じ立場のリシュリタにはわかったんだ! ただのオルゴールではないって!!」

 もしかしたら、このオルゴールには誰も聞く事のできない『声』を持った、『ティファ』という名の心が宿っているのかも知れない。もしくはティファ自身の心が・・・。

「切ないわけですね・・・」

 ユエリーは一言、そう呟いた。

 偉大なる大作曲家の残した強い『想い』は数百年の月日を越えて、今、より深い『愛情』となってここに甦ったのだった・・・。

「数百年に渡って消える事なく磨かれた『想い』か・・・。まさしく古き良き思い出、『アンティーク・メモリー』だね・・・」


 ティファは歌う。いまだ幼き日の事を・・・。

 生まれつき体が弱く、寝たきりだった自分を励まそうと、いろんな曲を弾いて楽しませてくれた優しい父への愛情を込めて・・・。

 そんな懐かしき日々への想いを、機導が奏でる旋律に乗せて・・・。


 この後、この『ティファのオルゴール』は『灯の家』の宝物として残る事になる。

 売れば大金が手に入るとしても『灯の家』の住人が、いまや『もう一人の家族』となったティファを売りに出す事は決してないだろう。

『ティファのオルゴール』はわざわざ居間に彼女の居場所を作って、そこに保管される事となった。

 そして夕食後には必ず、ティファの歌う『アンティーク・メモリー』を聞く事がいつの間にか『灯の家』の日課となっていた。

それは主に、大人達が子供達に対する深い愛情を忘れないように日々誓いを新たにするという意味合いも含んでいた。


(私、いつの日かティファとも話せるようになれたらいいな・・・)

 リシュリタのそんな無邪気な願いは、そのままロファの願いでもあった。

そんな二人は今日も一緒に『アンティーク・メモリー』を口ずさむのであった・・・。

これで清書データのあるものは終了です。あとは過去にプリントアウトしたものからデータをサルベージするものとこの後に書く予定だった最終話の下書きを完成させて清書するもののみです。

ただ今のところはその予定はありません

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