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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
31/60

13.星を落とした道化師

在庫一掃セールその3です。そして恐らく作者史上最も評判の良かった作品だと思います。お楽しみくださいませ

           

                  お伽話が聞こえる


            

            心の一番深いところからきこえる声


            お伽話のように あまりにもきれいで


            とても不可能に思えてしまうけど


             信じてみようよ




               願いは叶うよ




柳原 望 「お伽噺がきこえる」




   シナリオ・イメージ「センチメンタル・グラフィティ


        広島・七瀬 優(笑)





 皆さんは、『奇跡』とはどのようなものだとお思いですか?

 

 このお話に入る前に少しだけ、考えてみてはくれませんか


 今回のお話は、とある一人の少年と『奇跡』との、その『初めての出会い』の物語です


 さぁ、物語はまず彼の登場から始まります・・・




「・・・・・」

 ロファ・サーフェはその時、暗い夜空に浮かび上がる満天の星空を見上げていた。

 簡単な星の見方はゼルダと共に過ごした半年の間で覚えていた。

 だがそれは、生活の一環として殆ど仕方なしに覚えたものだったのだが・・・。

 あの『事件』から一ヶ月ほどの間、ゼルダも『灯の家』で一緒に暮らしていた。

 その間に、ゼルダはロファにある置き土産を残していった。

 そして今は、事件から三ヶ月が経とうとしていた・・・。

「・・・よし!」

 ロファはその心の中で、あるとっておきの『計画』をたてていた。



「ねぇねぇ、ロファぁ。お菓子買ってぇ~!」

 金髪も愛らしい一人の美少女が、ロファの腕にすがりつくと甘えた声でおねだりをした。

「ダメだよテナー。今日はお買い物だけの約束だろう?」

 そんなテナーを優しくふりほどくと、ロファはそのまま歩き続けた。

「でもでもあのお菓子、とぉってもおいしそうだったよねルイシェ」

「うん! ねぇロファいいでしょ、おねがぁい!」

 しかし今度は黒髪の女の子と魔獣人の女の子といった美少女タッグ二人組を相手にする事となってしまった。

「二人まで・・・」

 今日ロファは、私用で街に買い物に出てきていた。

すると、当然のごとくついてきたのはユニスであった。

ユニスとロファが二人で出かけようとしていたので、それを見たテナーも一緒についてきた。

ユニスとテナーといった大の仲良しの二人がロファと一緒にどこかに行こうとしているのを見て、ルイシェもやはりついてきた。

 結果的にロファは、『灯の家』が誇る『かしまし三人娘』ことユニス、テナー、ルイシェを連れて買い物をする事となったのであった。

ただでさえ子供に甘いロファなのに、美少女三人の『お願い』を拒み続けることなどできるはずもなくて、結局、他の子供達との分け隔てをしない為にも全員分のお菓子を買う羽目となり、それだけでロファには多大な出費となったのだった・・・。

「わぁい! ありがとうロファ!!」

「ありがとうロファ! だからロファ、だ~いすき!!」

「うれしい! ありがとうロファ!!」

テナー、ユニス、ルイシェがそれぞれ、ロファに対してお礼を言った。

「な、なぁに、別にいいさ!」

三人娘の喜ぶ姿に、思わず『買って良かった』などと思う極甘なロファであった。

「あれ?」

せっかくだからと四人はのんびり街を歩いていていたのだが、ユニスが急に立ち止まった。

「どうしたのユニス?」

テナーがユニスを振り返って尋ねる。

「どこかで・・・誰かが喧嘩してるような声が聞こえるの・・・」

「うん。こっちの方みたいだね」

そう言ってルイシェが指し示した方向にロファが走り出す。

路地を二つ程入って右を向くと三叉路になっていて、その正面で子供達四人が一人を一方的にいじめていた。

「コラ、何をしてる!!」

少年達はロファの事に気がつくと、それぞれ左右に分かれて逃げ出した。

逃げ出した子供達にはかまわず、ロファは慌てていじめられていた少年に駆け寄った。

「おい、大丈夫か?」

 ロファは倒れている少年の体を抱え起こす。

「あ・・・う・・・」

大きな怪我こそ無かったが、少年の体は痣だらけであった。

(・・・ひどい、痣だらけ・・・。ここは一旦『家』まで連れていって、そこで怪我の手当をした方が良さそうですねロファ)

背中に背負ったシタールの精霊・リシュリタがロファにそう提案する。

「うん、そうだね。・・・悪いけどユニス、おいらの荷物も持っていってくれるかい?」

「わかった!」

「私も手伝うね」

そう言ってユニスとルイシェはロファの荷物を手分けして持った。

「それじゃあテナーは先に戻ってルヴィナに薬箱を用意してくれるように伝えてくれるかい?」

「うん! じゃあ先に行くね!」

「頼んだよテナー」

 ロファは少年を抱きかかえると足早に歩き始めた。


 『家』に着くと、前もってテナーから知らせを受けていたルヴィナが迎えに出て来て、少年の怪我の具合をざっと確認する。

そして少年を保健室に運ばせると、ベッドの上に横にし、傷口を洗い、痣になっている所も含めて薬を塗った。

 傷がしみるのだろう。少年は顔をしかめはしたが、歯を食いしばって泣かなかった。

「はい、終わり」

一通り、怪我の手当を済ませると、ルヴィナは優しく微笑んだ。

「痛くないか僕?」

ロファが少年に声を掛ける。

「僕じゃない! 俺の名はライルだ!!」

ベッドの上で体を起こし、少年はロファを睨み付けた。

「その様子なら平気だな!」

ロファはその少年、ライルの態度に怒るよりも、むしろ納得してしまった。

「じゃあライル。いったい何があったのか、もしよかったら聞かせてくれませんか?」

ルヴィナは少年の手を取って、優しい声で尋ねた。

ライルは、最初の内はだんまりを決め込んだが、ルヴィナがじっと見つめてくるので、仕方なさそうに口を開いた。

内心は、とても照れていたのだ。

「・・・あいつら、父ちゃんがいないからって俺の事を馬鹿にしたんだ・・・」

「まぁ?」

「きみ、お父さんがいないのか・・・?」

ロファとルヴィナの気まずそうな顔に気づくと、ライルは大きな声で指摘した。

「言っとくけど、死んでないからな! 父ちゃん、遠くに働きに行ったまま、まだ帰って来ないだけだからな! 勝手に殺すんじゃないぞっ!!」

「ご、ごめんなさい・・・」

 ルヴィナもロファも素直に謝った。

「でもそれなら別におかしくないだろう。それがどうしていじめの理由になるんだ?」

ここ、アルムトゥバルは一度は滅んだ都市の為、仕事も少ない。

そこで、ある一定期間、近くの街まで行って仕事をする親も多い為、ロファの抱いた疑問は至極的を得ていた。

「・・・父ちゃん・・・予定よりも二ヶ月近くも経つのにまだ帰って来ないんだ・・・」

そう言うとライルは寂しそうに俯いてしまった。

「そうかぁ・・・、で、父ちゃんの名前は?」

「・・・ジェリク・・・」

「ねぇライル、もし何なら私達であなたのお父様を捜してあげましょうか?」

ルヴィナは少年を不憫に思い、また、ライルの母親の事も考えた上でそう言った。

だが・・・

「余計な事すんなよ!」

ライルは大声で怒鳴る。

「父ちゃんは腕が良くて優しいから、きっと他にも仕事を頼まれたんだ! なのに俺らが行ったら父ちゃんの仕事の邪魔になる! だから余計な事はするなよな!」

頑なに父を信じ続ける少年の姿に、ロファは少し前までの自分の姿を重ねた。

家族や仲間達だけを信じていれば幸せだった昔の自分を。

兄がいる事など知らなかった自分を・・・。

「・・・じゃあさ、できるだけ早く帰って来るようにお祈りでもするんだな。願いが叶うかも知れないぞ」

「そんなの、誰が信じるものか!」

ライルはキッと、ロファを睨み付ける。

「俺と母ちゃん、毎日毎日お祈りしてたんだぞ! 怪我もなく、病気もせずに、無事に帰って来ますようにって。でも父ちゃんはまだ帰って来ないじゃないかっ! お祈りや奇跡なんて、誰が信じるもんかぁ!!」

ライルは勢い良くベッドから飛び降りると、建物から出ていってしまった・・・。

「・・・私、あの子を傷つけてしまったかしら・・・」

「そんな事ないよルヴィナ」

落ち込むルヴィナをロファが慰める。

「実際、仕事が順調にいかなかったり、仕事が速く終わったから余計に仕事を増やしたりして帰りが遅くなる人って多いじゃないか。ここはともかく、あの子の言うとおりにしておこう」

「そうですね・・・。それにしても」

ルヴィナはしかし悲しそうに言う。

「まだ小さいのに・・・ユニスやテナー達より小さいのに、『奇跡なんか信じない』だなんて・・・。とても悲しいですね」

その点はロファも気になっていた。しかしあの様子では、ただ単に父親を見つけて連れ帰ったとしても納得しないだろう。

「とりあえず、ルヴィナが落ち込んだからってどうしようもないよ。その事についてはおいらが何とか考えるから、ルヴィナも元気を出してよ、ね?」

ルヴィナはロファの一言に微笑みはしたが、しばらくはこのままかも知れなかった。

「そうだ! 今度おいらさぁ、手品のステージを企画しようと思ってるんだ。その時にあの子とあの子のお母さんも呼ぼうよ。場所も郊外の広場を予定しているし、それを見て少しは元気を出してもらおうよ!」

「・・・そうですね!」

その一言で、何とかルヴィナは立ち直ったみたいだった。

(あのぉ、ロファ。ちょっといいですか?)

その時、リシュリタがおずおずとロファに声を掛ける。

「何だい、リシュリタ?」

ロファがこの上なく優しい声で話しかける。

(実は、今度の『計画』の事で私、少し考えたんですけど・・・)

「ごめん、ルヴィナ。しばらくおいら、自分の部屋に籠もるけど、その間、誰も来させないでくれるかい?」

「?・・・ええ、いいですけど」

「それじゃあ頼むよ」

事情も話さずに頼むだけ頼むと、ロファもまた、保健室を出ていった。

ルヴィナにはリシュリタの声は聞こえないのだが、おそらくはさっき話していた『ステージ』の事であろうと見当が付いた。

「あ、でも、どうして今回は『庭』じゃなくて『郊外』なんでしょう?」

それについても不思議に思ったが、演出家のロファの事である。

きっと何か考えがあっての事だろうし、彼はいつもこちらの期待を遙かに上回るステージを見せてくれていた。

だから今、ルヴィナがすべき事はまず、専用の扉を開いてユエリーの屋敷にお邪魔する事であった・・・。


(・・・と、いう事なんだけど・・・)

リシュリタの提案に、ロファは満足そうに頷いた。

「うん、そいつは良いね。君はなんて素敵な女性なんだリシュリタ!」

ロファは喜びの余り、リシュリタの首筋(?)に口づけをする。

(や、やだぁ、ロファったらぁ・・・!)

リシュリタは急にいつものお姉様口調が一変して、甘い声になる。

「フッフッフッ。意外な所でネタもできたし、今度のステージはバッチリ決めるぞぉ!!」

(がんばってね、あ・な・た♪ なんちゃって、私ったら私ったら・・・!)

リシュリタはすっかりメロメロ状態になっていた。


 そして次の日


「ちょっと出かけてきます。ステージ材料の仕入れなので心配しないで下さい。


    ロファ・サーフェ


P.S. 愛してるよユニス(笑)」


 という文面の手紙が、ロファの部屋の扉に張ってあった。

ユニスは結局、置いてきぼりにされた悔しさと手紙の内容の嬉しさに、その日は一日中落ち着かなかった。


「そうですか。それでユニスは興奮してたんですね」

ルヴィナから事の下りを聞いたユエリーはクスクスと笑った。

ロファが旅立ってから三日目、『灯の家』にいつもの面々が殆ど揃った。

今回いるのはユエリ-、リュウ、シンディ、ランバート、ディクスレイ、オルニカの六人であった。

カイは相変わらずの旅暮らし、ウィックも今は本業の方で出かけていた。

「そうなのよユエリー。全くロファったら調子がいいんだから。ユニスがかわいそうだわ」

「ユウの言う通りだけどさ。あいつとしても余計な心配を掛けさせたくなかったんだろう」

「まぁ、文面が文面だもんなぁ。ちょっとマジにはなれないよなぁ、そりゃあ・・・」

ギルティスの言う事にリュウも納得する。

「でも、ロファも照れ屋さんですから、この機を活かして告白してしまおうと、考えたのかも知れませんよ」

「・・・ベネティア。面白くない」

「目が据わってるよセレナ」

シンディは緊張した面もちでつぶやいた。

「しかしあいつ、一体何を買いに行ったのか・・・」

「一人で行ったって事は、大きかったり重くない物よね・・・」

「それでいて人目を避けて買いに行く物・・・」

「・・・なんかそう考えてくと、だんだん危険な物かアブナイ物になってきますぅ・・・」

「例えば毒とか劇薬・・・」

「例えば大人の女性がいっぱい出てくるような本でちゅとか・・・」

ディクスレイが問題を提起し、エリザとセレトがそれに条件を付け、サラが具体的にして、ランバートとオルニカがその例を挙げる。

 しかし謎はかえって深まってしまった・・・。

「お茶、冷めますよ」

ルヴィナは一人、ニコニコ笑ってそう言った。

恋をすると、女は変わる・・・・・・。

 様々な思惑にも気づかずに、ロファはそれから更に三日後に帰ってきた。


「ただいまぁ!」

「あ、お帰りなさぁい!」

「ねぇねぇ、おみやげはぁ?」

ルイシェとテナーはロファの帰宅に気がつくと、早速、彼の元に駆け出した。

熱烈な歓迎の理由に気が付くとロファはすまなそうに言った。

「ごめんよ。今回はおみやげ無いんだ・・・」

「えぇ~?」

「ちぇ、がっかりぃ・・・」

いつの間にか集まっていた子供達は一同に肩を落とした。

「お帰りなさいロファ」

「やぁ、ただいまルヴィナ」

「お邪魔しています、ロファ」

ルヴィナの隣に立つユエリ-がロファに向かい軽く会釈をする。

他の仲間達も二人の後ろで挨拶してくる。

「やぁみんな。来てたんだね」

「ああ。・・・ところでロファさぁ、いったい何を買いに行ってたんだ?」

リュウは好奇心に勝てずにロファに尋ねる。

「え? ・・・うん、まぁ、ちょっとね・・・」

ロファにしては珍しく歯切れの悪い返事だった。

「どうしたんだよロファ。何も隠す事無いだろう? それともお前もしかして・・・」

「? 何だよギル? ・・・あ、もしかしてお前、あの時言った事を思い出してんじゃあ・・・」

「はっはっは! ロファもまだまだ若いですねぇ・・・」

 ギルティスとロファとベネティア、三人はとても意味深な会話をしていた。

「何? あの時の事って・・・」

ユウがギルティスに尋ねる。

「え!? い、いやぁ別に何でもないぞ! な、そうだよなロファ、ベネティア?」

「う、うん! そうだよねベネティア?」

「これで二人に貸し一つですね。フッフッフ・・・」

『う゛っ・・・』

ベネティアの不敵な笑い声に、二人は声を一にして凍り付く。

「・・・後で白状させましょうね・・・」

「気になるですぅ」

「まったくこの三バカトリオは・・・」

ユウ、サラ、エリザの三人の目が鋭く光った事を、他の仲間達は黙っておく事にした・・・。

「ところでロファ、誰かに何か言う事はありませんか?」

「へ? あ・・・」

ユエリーは後ろに隠れていたユニスをロファの前へと促した。

ユニスは俯いたまま、じっと黙っていた。

「・・・ただいまユニス。黙って出ていって、その、・・・ゴメン」

ロファは素直に謝ったがユニスはじっと動かない。

ロファはユニスの肩を掴んでしゃがみ込むと、下から顔をのぞき込む。

「本当は、連れて行こうかとも考えたんだけれど、ユニスにもまだはやいと思ったし、それにおいら、ユニスの喜ぶ顔が見たかったから、だから・・・」

「ユニスにも? それってどういう意味だい? それに『喜ぶ顔が見たいから連れてかない』って?」

 ランバートが鋭く突っ込む。

「ユニスにもって言うのは、年齢的にまだはやいという事と、おいらがユニスと旅をするのはまだはやいっていう意味さ。今のおいらにはユニスを守れるだけの力も自信もないから・・・。それともう一つの質問の答えは、手品って言うのはネタがバレたらつまらないだろう?」

ユニスはそれを聞くと少しだけ顔を上げる。

そんなユニスに、ロファは百点満点の笑みを浮かべて言った。

「期待してていいよユニス。どこでも品薄の品物だったけど、売り切れだけにはなっていなかったから。今度の舞台はきっと、一生に一度の思い出になると思うよ・・・」

ロファの顔には自信が溢れていた。

(あれ・・・?)

ユニスはロファの顔をじっと見つめる。

「? どうしたのユニス?」

「ううん別に、何でもない!」

そう言ってユニスも明るい笑顔を見せる。

(なんだかロファ・・・、変わったね)

ロファの中で起きているその『変化』に気づいているのは、現時点では二人だけだった。

「随分と自信を持ってまちゅけど、結局、何を買ってきたんでちゅ?」

そんなユニスの心中を知るはずもなく、オルニカは先程と同じ質問をした。

するとロファはニッコリ笑って

「ちょっと・・・『奇跡』を一つ、ね・・・」


そして次の日、ロファ達は街の郊外にやって来ていた。

街の人達の協力もあって、簡単な野外パーティの準備も整った。

料理はお弁当のおかずにもなりそうな物を選んで持ってきたが、その場でスープを作ったりもしたので、会場はちょっとしたキャンプのように盛り上がっていた。

 子供達も街の人々も、そして仲間達さえもが、今夜の舞台の開幕を待ちわびていた。

 それというのもロファが『二代目襲名記念にみんなの度肝を抜いてみせるさ!』と吹聴してまわったからである。

「大見得きると後が大変だぞ」

そう言ってディクスレイが冗談半分にからかったが、

「ディクスレイにも見せてあげるよ。おいらだけの『魔法』をね!」

と言ってロファは不敵に笑って見せたのである。

「ロファも・・・もうすっかり元気になりましたね」

ユエリーがルヴィナにそう言って話しかけた。

「本当に、みんなには心配ばかりお掛けしましたねユエリー・・・」

ルヴィナもユエリーに微笑み返した。

「しかし・・・本当にロファは根っからの芸人なんですね。普段はまるで頼り無いのに今だけは、とても頼もしく見えるんですもの・・・」

その一言に、側にいたシンディとセレナも一緒になって笑った。

「そうね。普段はまるで格好良くないもんね!」

「もう三十近いはずなのに、大人の渋さよりも子供っぽさが目立つもんね!」

「・・・・・はっきり言ってくれちゃって・・・・・」

四人が驚いて振り向くと、そこには地面に「の」の字を書いているロファの姿があった。

「いいもん! おいらなんかどうせさ、カイやシャロムみたいにカッコ良くも強くもないし、大人でもないですよぉ・・・。フーンだ!」

「ろ、ロファ?」

「あ~あ、イジケちゃってもう・・・」

「ほ、ほらロファ、そんなトコでイジケないで・・・。男の子が見てますよ」

ユエリーは恥ずかしさに顔を赤らめつつもロファの肩をたたいた。

「あら、ライル! それに・・・ライルの、お母様ですか?」

ルヴィナはなるべく平静さを装うことができたが、かえってこの場合は余計に不自然な動きとなった。

「先日は、うちの子がお世話になったそうで・・・」

「何て事無いよ!それよりも、よく来てくれたねライル!」

瞬時の内にロファは立ち直っていた。

「は、はやい!」

「やるなぁロファ!」

近くで成り行きを見届けていたセレトとリュウはそう呟いた。

「別に・・・」

しかしライルはロファの顔を見向きもしなかった。

「ライル!!」

母親が息子をきつくたしな窘める。

そんな様子に苦笑しながらもロファは言った。


「今夜、おいらはライルに・・二つの奇跡を用意したんだ。『奇跡』を・・・起こしてあげるよ」

 ライルが驚いてロファを見上げると、ロファはライルに笑いかけ、ステージへと向かうのだった。


「レディィィス、アンド、ジェントルメェェェン! 只今より『二代目ロファ・サーフェ襲名記念パーティ』を開幕いたしまぁぁぁす!!」

会場は一気にワァッとわき起こった。

「今夜はよくぞ、この場にお出でくださいました! そのご厚意に感謝して今日は、我が家に代々伝わる『奇跡の魔法』をご披露したいと思いまぁす!!」

ロファは大きく胸を張ると大声で告げた。

「名付けて、『星空のグラデーション』!! 今夜だけは特別に、夜空を大きくかき混ぜて、星のシャワーで心の疲れを洗い流すことといたしましょう!」

「おおっ!」と観客が激しくざわめいた。

「どんな手品かなぁユエリー?」

 テナーがユエリーの手を取り、顔を見上げてくる。

「さぁ? でもきっと、とってもすばらしい物だと思いますよ」

ユエリーはそう言ってテナーに優しく微笑んだ。

「あいつがこれ程に自信を持って行う手品はこれが初めてだな・・・」

「そうだなディクスレイ。あいつの事だ。またきっととんでもない事をしでかすんだろうさ」

そう言って笑うギルティスはとても楽しそうだった。

空いたままのグラスに、隣に立つユウがワインをつぎ足してやる。

「何だかワクワクしますぅ」

「私もドキドキしてきたわ・・・」

サラとエリザも先程より、舞台に視線が釘付けとなっていた。

「・・・一生に一度、できるかどうかのこの『魔法』、ほんの少々時間がかかりますので、今少しお待ちくださいませ・・・」

そう言ってステージを降りたロファは、裏の草むらに姿を消してしまった。

「なぁんだ、今すぐ見られるわけじゃないんだ」

ルイシェは少しがっかりした。

「でも、そう時間はかからないと思うよ。きっとね、ロファは私達の『見たい』って気持ちを大きくするために時間をとったんだと思う。それも『演出』だってロファ、前に言ってたもの!」

さすがにユニスは鋭かった。

理由の半分を見事に言い当てて見せた。

「そんな事言って本当はあいつ、ビビって逃げ出したんじゃないのか?」

『ああー!』

ユニスとルイシェが二人して指をさした少年は、あのライル少年だった。

「あいつが家にやって来て、母ちゃんと俺をやたらに誘ったもんだからよ。ま、あいつの無様なトコでも見てやろうと思って来たんだけどさ・・・」

「失礼ね! ロファの手品、凄いんだからね!!」

少年の無礼な一言にユニスがくってかかる。

「フン、何が『奇跡』だ!! そんなもんあるもんか!」

少年はあからさまにバカにしてみせる。

「あるもん! ロファは魔法使いなんだから!! きっと今夜だって『奇跡』を起こしてくれるわ!」

「ヘン! 後でウソつき呼ばわりされて泣いても知らないからな!」

「あんたなんか嫌い! あっち行って!!」

ユニスは涙目になりつつ、ライルを追い払うかのように手を振った。

ライルもこれ以上はさすがにつっかからなかった。

「ユニス・・・」

ルイシェはユニスを優しく慰めた。


 三十分ほど経って、ロファは再びステージ上に姿を現した。

「さぁて準備が整いました。皆さん右手を挙げてもらえますか?」

全員が右手を高くあげる。

「ではその右手の先に見えるものは?」

「お星様っ!」

金色の髪がふわふわして、目もぱっちりとした六歳くらいの少女が元気よく答えた。

「ありがとうマヌエル。どうやらおいらの友達は君だけになってしまったみたいだ」

会場が静かな笑いに包まれる。

「これからワン、トゥー、スリーと数えます。すると、皆さんが御覧の星空が、大きく騒ぎ始めます。星は臆病ですから、あまり驚かさないで下さいね。それから安全の確保の為にここには星を落としませんのであしからず。それではいきます、ワン!」

フッ、と静かになる。

「トゥー!」

人々の視線が夜空に釘付けとなる。

「・・・スリー!」

そして人々は固唾を呑んで待つ!

しかし、夜空では何も起きようとはしなかった・・・。

客の一人が文句を付けようとしたその時、

「あ、流れ星だぁ!」

一人の少年が声を上げる。そして次々にあちこちでも騒ぎ始めた。

「すご~い!!」

天空に流れる数十、数百の流星。それはまさしく『奇跡』の光景だった。


「昔から、流れ星は願い事を叶えてくれる事で有名です。今夜はこんなにたくさん降っているのですから、願えば一つくらい、叶うかも知れませんよ」

ロファのその一言で、会場中の人々が星に願いをかけ始める。

仲間達もしばらくは唖然としていたが、折角だからとそれぞれの思いを祈りに変える。

ライルはまだ呆然としていた。

 まさか、まさか本当に星が降るとは思わなかったのだ。

「そんな・・・」

「願い事をしてみたらどうだいライル?」

ロファがライル少年の元にやって来た。

「奇跡は起きてるんだ。今ならどさくさ紛れにもう一つくらい起きるかもしないよ」

「・・・ホントか!?」

ロファが笑って請け負うと、少年はすぐさま祈り始めた。

「父ちゃんが、・・・父ちゃんが早く帰ってきますように・・・」

少年は強く強く祈った。

ライルの母もまた、そんな息子の姿に涙しつつ、静かに祈り始めた。

そして、

「・・・ライル・・・」

少年の後ろの方で、誰かが優しく彼の名を呼ぶ声が聞こえた。

ライルと母親はその声にハッとする。

忘れるはずのない、忘れようがない懐かしいこの声は・・・。

「・・・父ちゃん!」

二人が振り向いた先に立っていたのはライルの父・ジェリクであった。

「父ちゃ~ん!」

「あなた~!」

二人はジェリクの腕の中に飛び込むと、それが幻ではない事を確かめた。

ジェリクは二人をしっかりと抱きしめる。

「すまなかった・・・。仕事も終わりに近づいた頃になって事故があってね、それで仲間達が大勢けがをしたものだから作業が遅れてしまったんだ。・・・心配させて、本当にすまなかった・・・」

「父ちゃん!」

ライルは今、父の腕の中で激しく泣いた。

ずっと泣くのを堪えていたのだ。母の前では泣くまいと、必死に涙を堪えてきたのだ。でもやっと、大声を出して泣くことができた。

三人は互いにお互いの温もりを感じているのだった・・・。

「これは・・・、あなたの仕業ですね?」

ルヴィナはロファの側に来るとニッコリと笑った。

ロファは優しく微笑んだままだった。

「今夜は五十年に一度の夜だからね。こんな奇跡が起きてもいいだろう?」

「五十年に一度?」

ルヴィナはそう言って首を傾げる。

 ロファはしまった、という顔をしたが、すぐに諦めた。

「ルヴィナだけにネタをばらすとね、きょうこの日この時間に星が降ることは、ずっと前からゼルダに聞いて知ってたんだ。『五十年に一度の大流星群』の日だってね」

「それじゃあ、これはロファの力では・・・」

「でもみんな楽しんでるだろう?」

ロファはいたずら小僧のように笑った。

「確かにこれは単なる『現象』にすぎないけれど、それを『奇跡』に仕立て上げた事、それがおいらの使った『魔法』の正体さ!」

ルヴィナは驚きながらもロファの話に耳を傾けていた。

「本当は『奇跡』なんてそこら中にあるものなんだよ。今夜の出来事にしたって五十年に一度しか起きないのだから『奇跡』と言えるんじゃないか?こんな風に見られること事態、もう既に『奇跡』だよ。何せ、五十年に一度の出来事を事前に知り、それを上手に料理して、みんなには『手品』と称して紹介した。その結果、みんなが同じ幸せに浸っている。奇跡は起こすものじゃなく捕まえるものなのさ!」

ルヴィナはそれを聞くと感慨深げに呟いた。

「確かに、こうして人が人と知り合い、同じ一つの場所にいるという事も、私達が奇跡の確率をくぐり抜けてたどり着いた結果の一つなんですね・・・」

そう考えると、世界がとても不思議な物に見える。

「そうだね。世界はおいら達にウソをついて演出することで、人々に『奇跡』を悟らせまいとしているのかな? 当たり前の事なんて本当は何一つ無くて、すべては『奇跡』で成り立っているのに、派手な演出でそれを誤魔化してしまう。その内に、人々は奇跡を感じる感覚をマヒさせてしまったんだね。・・・今夜の手品よりも、こうしてみんなでいる事の方がより『奇跡的』だということに、果たして何人の人が気づくかな?」

ロファの表情はいつの間にかとても穏やかなものとなっていた。

「さぁ・・・。でも、今夜のステージはの事は、きっとみんなの中に残り続けると思いますよ」

そう言ってルヴィナは、再び夜空をはしる流星群に目を向けた。

星は今も衰えることなく降り注いでいる。

(・・・あなたも今、私と同じように星を眺めているのかしら・・・)

ルヴィナは胸の思いを彼に届けてくれるよう、流星群に祈った。


こうしてステージは無事、大成功に終わった。

リュウやユニスはどうなってるのか仕掛けを知りたがったが、ロファは決して教えようとはしなかった。

リクエストの声も多く、また、今回の件でロファの名は一層広く知れ渡ったのだが、ロファはこれ以後、この不思議な『魔法』を使うことは二度となかった。


そんなある日、彼は自らが受け持つ『芸人哲学講座』の中で、『奇跡』についてこう語った。

「いま生きている事。この場に立っている事。そして、こうして皆さんと共にあるという事。これらすべてが私にとって『奇跡』です・・・」

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