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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
3/60

1.そして未来は輝いている(3)

今後の作品はもっと長いので分割しました

 倒れ伏しながらも僅かに意識を残していたロファは、そんな彼女の絶叫を耳にしていた。

 そして気付いた。何故彼女の笑顔にかつて守ろうとした少女の笑顔が重なって見えたのか。

(『あきらめ』の気持ちだったんだ・・・。かつての彼女は『自分の未来』に対してどこか諦めている感じだった・・・。)

 かつての、寂しいとも悲しいとも言えるフォルの笑顔を思い出す。

(ユニスもまた、『自分の未来』を諦めていたのかもしれない・・・。

 誰も助けてはくれない、誰も自分を必要としていない。だから自分には未来は無いんだという『あきらめ』の気持ちが、彼女の笑顔を孤独にしていたんだ・・・)

 その事はまだ10歳の少女にとってどんなに辛い認識だったのだろう。

 そう考えるとロファはひどく胸が痛んだ。その時、

「そのとおりですわ」

 という、聞き慣れた声がロファの耳に入って来た。


「あなたの言う通りですよ。誰もが好きで孤児になった訳ではないのです」

 人混みが割れて、そこに司祭のローブを着た20代半ばの女性が現れた。

 彼女の後ろには数人の、ロファの大切な仲間達が姿を見せる。

 そして彼女は少女のような優しい微笑みをユニスに向けた。

 その様子を見て不利とでも思ったのか、明らかに男達が怯む。

「あなた方にも人として、同じ冒険者としての心があるなら今すぐその娘を放しなさい!」

 坊主に近づくと彼女は厳しい顔でそう言った。

 その迫力に飲まれて坊主が少し後ろに退く。

「さぁ!」 坊主に向かって再度一喝する。「早く!」

「わ、わかったよぉ!」と情けない声を上げながら坊主はユニスを彼女に向って突き飛ばし、仲間と共に逃げていった。

「・・・怖かった・・・」

 緊張の糸が切れた途端、襲ってきた恐怖の為にユニスは肩を震わせていた。

「もう大丈夫ですわ」

 そう言って彼女が優しく、だけどしっかりと抱きしめるとユニスは肩の力を抜いた。

 その様子を上体を仲間達に支えられながらロファは見ていた。

「どうしてここに・・・?」ロファがそう尋ねた。

 街の人々の多くは突如現れ、この場を収めた女性がいったい何者か気になっていた。ユニスも顔を上げて彼女の顔を見るとロファの方を向く。

「どーせ助けてくれるらもう少し早いほうが良かったな、おいら」

 いたずらが見つかった子供のような顔をしてロファが言う。

「しばらく姿を見せないから心配していたんですよ。この街の方々が私の所に来て、事情を聞かされたときには本当にびっくりしましたわ!」

 呆れた顔でロファを見ると、ユニスから離れてそちらに向かう。

「ひどいケガを・・・。じっとしてくださいね」

 ユニスは隣で彼女のする応急処置を手伝う。

「ごめんね、ロファ。私のせいで・・・」泣きながらユニスがあやまる。

 その様子にロファが苦笑する。

「ユニスのせいじゃないよ。君にまで怖い思いをさせたおいらが悪いのさ。だからもう泣くなよ・・・」

 右手を上げてユニスの頭を撫でる。

「本当にありがとうルヴィナさん、みんな。おかげで助かったよ」

 街の人が用意した担架に仲間達の手で乗せられながらロファが礼を言う。

「これに懲りたら、もう無茶なことはやめましょうね、ロファ」

 まるで教え子を諭すかのようにロファをたしなめるルヴィナ。

 これではどっちが年上かわからなくなる。

 だが口調とは裏腹に、ロファの無事を確かに喜んでいるのがわかった。

 少し笑って、目をつぶるロファの耳にルヴィナに話しかける街の人の声が聞こえてきた。

「あなたが・・・司祭様なのですか?」

 ロファは暗い闇の底に落ちていった。


 あれからもう二週間がたつ・・・

 無邪気に駆け回る子供達。世話をする大人たちの明るい声。そんな和やかな空気に包まれた孤児院の前にロファは立っていた。

「あなたの部屋はいつでも空いていますわ。子供達もみんなあなたの芸を見たがっている事を忘れないでくださいね、ロファ」

 ルヴィナは静かな笑顔でそう告げた。

「思わず長居をしてしまったね。もっと早くに出るつもりだったんだけど居心地が良くてね。多分、遠からず『帰って』来ると思うよ」

 そう言ってにっこりと笑うロファ。

「私も一緒に行く!」

 ユニスはさっきから目に涙をためてそう言っていた。

「ユニスはいつからそんなに泣き虫になったんだい?泣いてばかりいると顔がしわくちゃのおばあさんになっちゃうぞ」

 からかってそう言うロファ。

「私がしわくちゃのおばあちゃんになったらロファのせいだからね責任取ってもらうんだから!」

 ロファを睨んでユニスが言う。

「どこでそういう事を覚えたんだユニスは?いくら心の広いおいらでもおばあさんが相手はいやだなぁ・・・」

 本気で厭そうな顔をするロファ。

「じゃあ私も連れてって、お願い!」

 ユニスがロファにしがみつく。

 ロファはユニスを離すとまじめな顔になる。

「ダメだよユニス。君のことを心配するルヴィナさんやみんなの気持ちを考えるんだ」

 ロファはずるいかなぁと思いつつもルヴィナの名をだす。

 さすがにこの一言は効いたのか、ユニスはがっくりうなだれる。

 ロファはそんなユニスの頭を撫でると、優しい声で言う。

「やっとたどり着けた君の『家』だろう?それにもう君は一人じゃないんだからさ」

「だけど・・・」ユニスの声は沈んでいた。

 その肩をルヴィナが優しくつかむ。

「ロファだってすぐに帰って来るわ。彼もそう言っていたでしょう?」

 だが、ユニスは相変わらず下を向いたままだった。

「ユニス・・・」ルヴィナが困ったようにロファを見る。

「でもね・・・」ロファが静かに話し始める。

「いつの日か、おいらよりも手品が上手になっていたら嫌でも引っ張り歩いて稼いでもらうつもりだからね」

「えっ!?」ユニスが顔を上げると、ロファが笑っていた。

 そしていつもの口調に戻る。

「だからせいぜい腕を磨いていておくれ。その為にここに残すんだから」

「ホントに!? 」

 彼女の顔から涙は消え、かわりに笑顔が現れる。

「君には貸しがある。借りは返してもらうよ。でも、そのときになってもまだ聞き分けの無い子供のままなら連れてかないよ。子守はもうゴメンだからね!」

 そう言ってロファが笑う。ルヴィナは苦笑交じりという感じだった。

「まかせて!絶対に上手くなって見せるし、目を見張るような美人にもなって見せるわ!そしたら今度は私が荷物持ちとして側に置いてあげる。だからずっとひとりでいてよね。二人も荷物持ちなんて私、いらないんだから!約束よ、ロファ」

 顔を赤くしながらユニスがロファに抱き着く。

(なんか・・・うまくユニスに誘導されているような気がするなぁ)

 ロファはユニスが大人になったらを考えて少しぞっとした。

 十年後、彼女は大陸でも有数の手品師になっているだろうなとロファは思う。自分はその時、果たして彼女の荷物持ちなのだろうか?

(どうやらおいらの未来に選択の余地が無くなったみたいだ・・・)

 そう思うと悲しくなる。少しは未来を考える余地が欲しいと思う。

 だが、彼に抱き着いて笑顔を浮かべるユニスの幸せそうな様子を見ていると、どんな未来も、本人の努力と希望があれば、それはいくらでも輝くものなのかもしれないと思えてくる。現にユニスは輝く自分の未来の為に行動を開始してるし、自らの希望をかなえた当の本人も目の前にいる。

「未来って言うのはいつでも輝いているものなんだね」とロファが言う。

「そうかもしれませんわね」ルヴィナもそう言って祈りを捧げる。

「ロファの未来は私がバラ色に輝かせてあげるわね」ユニスが笑う。

「・・・わぁいうれしいや。ハッハッハッ」わざとらしい笑い。

「・・・・・何か不満なのロファ?」ユニスの顔が歪む。目に涙が。

「い、いやぁ、そんなことないって、うん。うれしいよユニス」

 慌てるロファ。その一言に安心するユニス。

「なら、頑張ってロファより手品が上手になるからね!」

 ロファから離れるユニス。ロファが空を見上げる。日はもう真上にある。

「じゃあ、本当にもう行くよ。急がないと次の街には夜になるから」

 ロファは二人に別れを告げて歩き始める。

「あなたの旅に神のご加護を!」ルヴィナが祈る。

「約束、忘れないでね!」ユニスが後ろで手を振っている。

 ロファもまた、背を向けたままで手を振った。

 そして今、三人の未来は強く輝いているのであった・・・。

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