8.灯の家・宴会物語(二日目)・3
全7話構成の5話目になります。
そして夕方・・・
『灯の家』の庭とも言える元・校庭は、今ではすっかり野外ステージに変わっていた。
ルヴィナたっての希望により司会はサラが務め、街の人達にも、これを機会に交流の場として解放することにした。
今、人々はそれぞれに酒を味わい、料理を楽しみ、会話に花を咲かせていた。
するとステージ壇上に、くるくると回りながらサラが登場する。
そして中央まで来て止まると、始まりの挨拶を告げる。
「は~い皆さん、準備はいいですかぁ?」
サラの一言に、会場が一気に盛り上がる。
「それでは皆さん、景気良く参りましょう!!」
サラはグラスを取って高くかかげる。
「かんぱぁい!」『かんぱぁい!!』
『灯の家』初の『宴会』は、こうして幕を開けた。
「盛り上がってるわねぇ」 レイナは軽く一口、ワインを飲んで言う。
「たまにはこういうのも良いな」
ディクスレイもテーブルの料理を美味しそうに食べていた。
「おいら、毎日こうだったら、ここに通い詰めるのにな」
リュウは先程から、ものすごい勢いで料理を消化していた。
「セレナ、これ美味しいよ」
「・・・あ、ほんとう。おいし~い!」
いつの間にか仲良くなっていたシンディとセレナは、テーブル上のデザートに歓喜の声をあげていた。
「・・・これ、うまいぜ」
「あ、ありがとう、カイ」
顔を赤くし目線を逸らしつつも、ユエリーの好みにあった料理をわざわざ小皿に取り分けて差し出すカイ。
ユエリーの顔も赤かったが、それは酒のせいだけではないだろう。
「あ、ギル。私にもそれ取って」
ユウが小皿に料理を取っていたギルに声をかける。
「お前なぁ・・・。あんまり食うと太るぜ」
そう言いつつもしっかり小皿に取ってやるギルティス。
「大丈夫よ。ちゃーんとこの後、運動するもの」
「それってお前、もしかして・・・」
その時、ステージ上に再びサラが現れると彼女は
「かぁくしげ~たいか~い!」と叫んだ。
「一番、ユニス・アストーリア。手品をしまぁ~す!」
会場は可愛らしい手品師の登場に沸き立ったが、『家族』達は今、重大なことに気付いていた。
「ユニスって、アストーリアという名字でしたのね・・・」
ルヴィナは感慨深げにそう呟いた。
彼らは誰も、ユニスの下の名前を知らなかったのである。
「二番、リュウ・ディルト。軽業やります!」
リュウの軽業は、決して人を楽しませる形のものではなかったが、その動きは力強く、躍動感に溢れていて、その余りの見事さに会場はまさに、拍手の嵐。
「三番、エリザ・アマラス。剣舞いきます!」
エリザは腰の剣を抜くと、ゆっくりと舞い始める。
エリザは暇な時にはよく、ソードダンサーたるユウから直に手ほどきを受けていた。
エリザのそのあでやかな美しさに思わずため息が漏れる。
「四番、ユウ・リィランド。ダンスを披露します!」
「ああ、やっぱり・・・」 ギルティスの予想は当たっていた
本家本元たるユウは、その優雅な動きと艶のある流し目で、会場の男どもの視線を釘付けにする。
「ギ、ギル、落ち着いて・・・」
「離せ、セレト! はなせぇ~!」
セレトはステージに上がろうとするギルティスを必死に捕まえていた。
「ちくしょう~お前らぁ、そんな目つきでユウを見てんじゃねぇ~!!」
「あらあら・・・」 レイナはその様子を目の端にとらえて苦笑する。
「本当にあの二人、仲が良いんですねぇ・・・」
ユエリーは少しうらやましそうにそちらを見て、ルヴィナに話しかける。
「私は、ユウやユエリー達がうらやましいですわ」
ルヴィナは小さくため息をつく。
「え?」
意外なその一言にルヴィナの方を振り向くが、そこにはいつもと変わらぬ優しい笑顔が浮かんでいるだけだった。
宴会が始まって一時間が過ぎ、時刻はすでに夜七時。
会場は今や絶好調であった!!
「カぁラオケーたいーかい~!!」 サラが、本日の企画第二弾を発表する。
「ふっ、わたくしの番ですね!!」
そう言ってステージに立ったベネティアの体が、変形を始める。
「うおっ! なんだなんだ一体!?」
ギルティスはベネティアの変形を初めて見るので、ひどく動揺していた。
「どうなってんだぁ!?」 それはどうやらリュウも同じ様だった。
そして変形が終わると、そこには一台のカラオケマシンが登場していた。
「一番、ルヴィナ」
いつの間にステージに上がっていたのか、ルヴィナはマイクを片手に歌い出す。
「・・・・・・」
「わあっ!!」
ルヴィナの、そのしっとりとして聞く者の心をつかむ歌声は、会場全体を包み込み、ユニスはすっかり聞き惚れていた。
ルヴィナって、こんなに歌が上手だったんだ・・・。
ルヴィナが歌い終わると、会場に拍手の渦が巻き起こる。
「二番、レイナ」
続いてステージに上がったのはレイナだった。
「・・・・・・」
酒の勢いもあってか、軽くスッテプを踏みながら、小気味良く歌う。
レイナの歌声に人々はどこか、さわやかな気分になっていった。
レイナお姉さま、すてき! とってもかっこいい!!
「・・・三番、ギルティス。いきま~す!!」
ステージ上のレイナに指名され、すっかり調子に乗りながらギルティスが歌う。
「頑張って、ギル!」 ユウは大きく手を振って、ギルティスを応援する。
「・・・・・・」
さっきまでの気さくな彼はそこにはなく、一転して引き締まった顔つきを見せるギルティス。
「ギル・・・」
ユウは、ただ呆然と、ギルティスの立つステージを見ていた。
すごぉい!! へぇ、ギルってこんな顔も出来るんだ。
なんだか怖いくらいなのに、不思議と・・・かっこいい!!
ギルティスの気迫の歌声により、会場は一気に引き締められた。
「ギル、かっこいい! 愛してるぅ~!」
ユウはすっかり惚れなおしていた。
「よーし、勝負だ! かかってこい、カイ!!」
「お、俺かよ!?」
ギルティスの突然の指名に、飲んでいたワインでむせるカイ。
「指名は絶対ですぅ~!」 すかさずサラが注釈を入れる。
「わかったよ! ったく、なんで俺が・・・」
「頑張って、カイ」 振り向くと、ユエリーが優しく微笑んでいた。
ユエリーの応援を背中に受けて、カイはステージに上がる。
「四番、カイ」
そしてマイクを片手に持つと、ゆっくりとした口調で言葉をつむぐ。
「・・・・・・」
意外に優しいこの声は、聞く者をして、リラックスさせていく。
だが、その歌詞はと言えば・・・
わぁ、カイさんってだいたーん! これってやっぱりユエリーお姉さまとの事よね。いいなぁユエリーお姉さま。・・・いつかロファも、こんなラブ・ソング、私に歌ってくれないかなぁ・・・。
「・・・僕が側にいるから・・・」
最後のフレーズを口ずさむと、カイは静かにマイクをおろす。
「いいぞぉ、色男!」「憎いね大将!」「今夜はハンバーグだ!」
会場は今、異様な熱気に包まれていた。
「カイもなかなかやるじゃないか」
ディクスレイはそう言って楽しそうに笑う。
「良かったでちゅね、ユエリー」
いつの間にか側に立っていたオルニカにそう声をかけられて、思いっきり顔が赤くなるユエリー。
「そこ! 何か吹き込んでるだろ、オルニカ? 次はお前が行け!」
目ざとくカイがオルニカを見つけ、指名する。
ただ単にユエリーを見ていて、たまたま気付いただけかも知れないが・・・。
「あたしがでちゅか!?」 仕方なくオルニカはステージに上がる。
「五番、オルニカ。歌いまちゅ!」
元気良く登場した愛らしい少女に、思わず人々の顔もほころぶ。
「・・・・・・♪」
元気な発声と可愛らしい歌声に、オルニカ可愛さ全快であった(笑)!!
とぉっても不思議ねオルニカって・・・。私でも『可愛い』って思えるのに、ロファよりも年上なのかも知れないなんて・・・。
最初から最後まで、オルニカはテンションを下げる事なく元気に歌いきった。
「どうもでちゅ!!」
オルニカのそんな一言と同時に何故か「カワイイー!」「抱きしめたーい!」「こっち向いてオルニカー!」という女性陣の黄色い声(?)が飛んだ。
「なんだなんだ?」 リュウはその様子を少しだけ怖いと思った。
「それじゃあ次はディクスレイにお願いしまちゅ!」
そう言って、オルニカはディクスレイを指名する。
「わかった」
ディクスレイはすっと席を立つとステージに向かい、マイクを受け取る。
「六番、ディクスレイ。いくぜ!!」
ステージ上に現れた長身の若者をしげしげと眺めていた人々は、その第一声にビクッとした。
「・・・・・・」
調子の良いテンポに合わせて響いてくる、ディクスレイのシャウトが心地よい・・・。
若者らしい歌声が、人々の疲れを吹き飛ばしていく。
なんだか、一見すると不器用そうなのに、とっても上手に歌うんだ・・・。
「サンキュウ!」
マイクを持つ手を天に突き出すようにして、ディクスレイは叫ぶ。
会場はすっかり興奮のるつぼだ。
「よーし、次はシンディが歌えよ」
そう言ってマイクをシンディに向ける。
「え~、あたしも!?」
シンディが少し困った顔をする。
「大丈夫だってシンディ!」
シンディが振り返ると、リュウは明るい笑顔を見せる。
「リュウ・・・」
シンディはリュウの、そんな優しさが嬉しかった。
「もうみんな酔っぱらってるから、いくら下手でも平気だって・・・」
シンディは思いっきりリュウの顔面に拳をめり込ませた。
「・・・リュウのバカ!!」
シンディはステージに上がってマイクを受け取ると、ゆっくり深呼吸をする。
「七番、シンディ」
シンディは心を落ち着かせると、はっきりとした声で歌い出した。
「いってぇ~。シンディの奴、おもいっきり殴りやがって・・・」
「自業自得だろ」
顔を押さえてうずくまるリュウに、カイはぽつりとつぶやく。
「なにぃ~。カイ、てんめぇ!」
「静かになさい二人とも!! シンディがいま歌っているんですよ!!」
今にも口げんかを始めかねない二人を、ユエリーがきつくたしなめる。
「・・・・・・」
この曲も、軽快な音楽ではあったが、シンディの熱い歌声にとても良くあっていた。
ステージ上で歌うシンディの横顔が、時々大人びて見える・・・。
私と四つしか違わないのに、なんだかとっても大人に見えたりする・・・。
「・・・うまいな」
歌が終わると、リュウは一言、素直にそう言った。
「どうもありがとう!!」
もちろん、リュウの声が聞こえていたわけではなく、ステージ上のシンディは、彼女に向けられる声援にたいして礼を言う。
「さてと、私も歌ったんだから、当然次は・・・」と言って、シンディがユエリーの方を見る。
視線に気付いて、ユエリーはシンディの方を振り向く。
「私、ですか・・・?」
シンディはにっこりと微笑んで、頷く。
仕方なく心の中で観念して、ユエリーはステージに向かう。
「・・・大丈夫さ」
カイは、ユエリーにだけ聞こえるような小さい声で、そう言った。
ユエリーは礼を言うようかの様にカイに対して微笑むと、ゆっくりとステージに上がっていった。
「八番、ユエリー。歌います」
会場はこの、匂い立つような美女の登場で、一気に静かになっていった。
「・・・・・・」
曲調は再びゆっくりしたものに変わり、澄んだ歌声が会場に響きわたる。
しかもこの歌詞はまた・・・
ユエリーお姉さまもすごぉい!! ユエリーお姉さまとカイさんは、強い絆で繋がっているのね! いいなぁ、うらやましい・・・。
「・・・・・・♪」
歌が終わり、優雅に一礼をするユエリー。
今まで、ユエリーの歌う、静かで強いラブ・ソングを聞いていた人々は、一斉に拍手を送った。
「それでは、残るはあと一人ですわね」
ユエリーは、まだかすかに頬を赤らめながら、にっこりと笑って言った。
「え!? でも、あと誰かいましたかぁ?」
困った顔をしてやってくるサラに、ユエリーは黙ってマイクを渡す。
「はい、最後」 しばし呆気にとられてしまうサラ。
「そう言えば・・・。確かにサラには司会を頼んでいたので、サラ自身は何にも出ていませんでしたね」
ルヴィナはその様子を遠くから見ていて、そう思い当たった。
「・・・わかりましたぁ。不肖、サラ。歌わせてもらいますぅ!」
さすがは名司会。張り切って宣言するとサラは、胸の前でマイクを握り、体全体でリズムを取って歌い始める。
肩まで伸びた髪を左右でまとめたリボンが踊るように揺れる。
「・・・・・・」
何とも小刻みな調子の曲でありながら、不思議とサラにはそれが合っていた。
さすがに前回『あんこたより』で優勝した程の実力者。難しい曲でもなんなくカバーする。
へぇ、サラお姉ちゃんってすっごく歌が上手なんだぁ・・・。料理はあんなに下手なのに・・・。
「ありがとうございましたぁ!!」
観客は全員総立ちで拍手をしていて、優勝は決まったようなものだった。
その時である
「お姉ちゃん、僕も歌いたぁい!」
突然、何処からともなくそんな声が響きわたる。
ステージ上のサラの側には、いつの間にか、一人の小さな少年が立っていた。
ボロボロのマントに身を包み、帽子を目深にかぶったその少年は、どうやら長い旅をしてきたようで体中が埃にまみれていた。
サラはその風体よりも、大魔法師のユエリーとは比べられないにしても、一応、魔法士の称号を持つ自分が、こんな小さな子供の気配に気付かなかった。その事の方が気になってはいたのだが・・・。
「ねぇ、ダメ?」
すがりつくようにこちらを見上げる少年の、その不安げな瞳に思わずサラの理性はどこかに消える。
「もちろん、いいわよ!」
「やったぁ!!」 少年は嬉しそうに飛び跳ねる。
サラは一瞬、『しまった』と思いもしたが、すぐにその考えを頭の中から打ち払う。
何故かあの少年には、不思議と懐かしい気持ちにさせられるから・・・。
「あ、そうだ! 僕、お名前は?」
サラはステージ中央に立つ少年に駆け寄ってそう尋ねる。
「・・・まだわからないかい、サラ?」 少年は不意にサラの顔を覗き込む。
「えっ!?」
少年はいたずらに成功した時のように笑うと、マントの下から大分使い慣らしたシタールを取り出して、軽く調子を確かめると歌い始める。
「あ、あのシタール!?」
セレナは確かにそのシタールに見覚えがあった。あの花の模様は・・・。




