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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
2/60

1.そして未来は輝いている(2)

今後の作品はもっと長いので分割しました

 あれからどれくらい経ったのだろうか?ロファは不意に目を覚ました。

 起き上がろうとすると体のあちこちが痛かった。

「大丈夫?」

 傍には少女が座っていた。心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。

「うん、ありがとう。君のおかげで大分楽になったよ」

 そう言ってロファは笑って見せる。

 すると安心したように少女も笑顔を返した。彼女の笑顔に似ている気がするのは気のせいだろうか?

 髪は肩より少し下まであるのだがひどくぼさぼさで、顔は泥にまみれ、着ている服もボロボロだった。

 そして、空には星が瞬いている。

(そうかこの子・・・)

 ロファはようやく、彼女が孤児だという事に気がついた。


「ルヴィナの所までは少し距離もあるし、こんな時間じゃなぁ」

 とりあえず荷物は無事だった。金は奴らに全部取られてしまい一銭もなかったが・・・。

 街のはずれでロファは火を焚きお互いに自己紹介を済ませた後に少女と食事を取っていた。

 二人はものすごい勢いで食べている。

 そして食事の合間に、少女は少しずつ自分の事を話し始めた・・・。

 

 少女の名前はユニス。年は10歳で両親を三年前に火事で亡くしているという。

 その後は頼る当てもなく、ずっと一人で生きてきたそうだ。

 食事が終わり、暖かいミルクに砂糖を入れたものをロファが差し出すとユニスはそれ受け取り、一口飲んでまた話し始めた。

 生きる為に食べ物を盗んだりして街を追い出された事もあると言うし、孤児同士で力を合わせて暮らしたりもしたそうだが、寂しさや飢えの為に仲間達がいつしか狂暴になり怖くなってそこも逃げ出したらしい。

 そして今いるこの街に流れ着いたが大人達の態度はどこも変わりはしなかったと言う。


「私、生きてちゃいけないのかな?」


 ぽつりとつぶやくユニスの姿にロファは悲しい気持ちになった。

 まだ10歳なのに生きている事を否定されたかのようなその少女の姿がたまらなく悲しかった。


『子供達に罪はありません!』


 ロファはルヴィナとの会話を思い出していた。


『本当なら、未来を担うはずの子供達を大人達はその力の及ぶ限り守るべきなのに・・・。

 しかし現状は徒に子供達を虐げて、まるで罪は力の弱い子供達にあるかのように振る舞っています。

 自分達の罪すらも、棚に上げるどころか子供達に押し付けています。それはとても悲しい事ですわ・・・』


 ロファは正直、その時はそれ程には思っていなかった。


『子供達は大人が思うよりもずっと賢くて、そして傷つきやすいのです。

 自由な発想と行動力を持っているからこそ、余計に孤独に敏感なのです。

 だって、自由でいるという事は孤独になるという事と同じですもの・・・』


(自由の代償は孤独)


 それはロファにとって、芸人の家に生まれ、芸人の道を選んだ時から言われ続けた言葉にして、16の旅立ちの時から今日までに片時も離れた事のないもう一つの影のような、そんな真理であった。


『子供達は小鳥と同じ。

 自由に大空を飛べるけれど、家庭という名の宿り木が無ければいつかは地上に落ちてしまう。

 家庭という名の宿り木は可愛い小鳥たちに食事を与え、眠る場所を与え、それとなく外敵や強風から小鳥たちを守ります。

 見えない翼を持つ天使達は、唯一家庭の中でこそ安らげるのですわ』


 だから、そんな子供達の為にも家庭を作りたいと言っていたルヴィナの、優しくも強い微笑みをロファは思い出していた。

「ロファ?」

 ユニスが声をかけてくるがロファはそれに気づかず、赤々と燃える焚火を見つめていた。

(飛び続ける事の苦しさは誰よりも知っている・・・)

 二人の気持ちなど気にした風もなく、決して落ちる事のない天の星々は今も天の高みで冷たく瞬いていた。


 次の日

 ロファは今日も街中で『灯の家』と『虹の舞』を続けていた。

 ユニスはそんなロファの姿をわき目も振らずに真剣に見ていた。

 だが2日目の今日は流石に人も集まらなくなってきていた。

 仕方なく他の芸も色々とやってはみるがあまり変化は無かった。

 しかも昨日の怪我が今日になって治っているはずもなく、体中の痛みに耐えての芸でもあるため不手際も多く、次第に休憩も長くなっていった。

 一日の稼ぎを使ってロファはユニスに新しい服を買った。

 流石に上下別々に買える程は無く、上下が一体となり、頭からかぶるような服であった。

 着るもの一式を彼女に買って、その余ったお金でパンを買った。

 買った服は金を取られた彼が買える中で一番良いものを買ったのだが粗末な物には違いなかった。

 だがユニスはこれを殊のほか喜び、濡らした布で体中を拭いてから初めて新しく買った衣服を着た。

 そしてロファはユニスに色々な事を話して聞かせた。

 動物・植物は殆ど知らなかったが各地で見た様々な芸の数々やサーカスで働いていた時の事。

 仲間達とやった宴会の事などは話す事が出来た。

 ユニスはその日、ロファが音を上げるまで話の催促を止めなかった。


 三日目

 本当なら今頃は孤児院になる予定の建物の中で片づけを手伝うはずだったのだが・・・

 そう思いながらロファが芸を始めようとすると、彼の腕をユニスが掴んだ。

「なんだいユニス?」

 振り向いたロファの顔を見てユニスは思いきった様に口を開く。

「私もやる!」

「へっ!?」

 最初は冗談かと思ったがユニスの目は少しも笑っていなかった。

「で、でもユニスには無理じゃないかな?」

「出来るわ!」

 そう言うとユニスはロファのマジックカードを取り出し、彼の目の前で手品を披露してみせた。

 ロファからすればまだまだ粗削りだが、確かに上手く出来た。

「ユニス、君、手品できたの?」

「昨日ね、一日ずうっと見てて覚えたの!スゴイでしょ!?」

 そう言って笑うユニスに微笑みながらもロファは内心で冷や汗をかいていた。

(嘘だろ?おいらの手品がたった一日で!しかも見ていただけでなんて・・・)

 思わず愕然とするロファ。

(この娘は凄い才能を秘めている!)

「だから・・・今日から私も手伝ってあげるね!」

 ユニスがそう言ってロファに微笑みかける。

 ロファは内心の驚きを悟られないようにする為に、ただただ笑う事しか出来なかった・・・。

 

 そして二人は、というより今日はユニスをメインに、ロファがユニスのフォローをするという形で芸を披露した。

 『灯の家』を演じる時はユニスは子供の一人を演じ、アドリブでロファに対応していた。

 一日目にひどい目にあったにも拘らず芸を続けるロファとこの街を暗い顔をして彷徨っていた少女が、今では明るく笑い、芸をしている姿を見て街の人々も再び、二人の事が気になり始めていた。

 四日目になると、また元のように人が集まり始めていた。

 五日目になると孤児院について聞きに来る者も現れた。

 ユニスの才能を認めたロファは、三日目の夜から本格的にユニスに芸を仕込み始めていた。

 ユニスは、真綿が水を吸収するようにロファの教えを吸収していくが、真綿と違う点はロファにも思いつかない様な手品をユニスが独自で生み出したりしたという点であった。

 

 いつしか六日目が過ぎ、一週間が経とうとしていた。

「ハイ、次は赤い花です!」

 ユニスは元気な声でそう言うと、左手を隠しているハンカチを取る。

 すると突然、一輪の赤い花がその手の中に現れる。

 ユニスはその花を若い男女のカップルに差し出して笑顔を見せる。

「これ、お姉さんにあげますね!」

 ありがとうと言って微笑み返す女性。

「お姉さん、とっても幸せそうね!良いなぁ、私も恋をしてみたいなぁ・・・」

 ユニスがそう言うと若いカップルは赤面し、観客の間にも穏やかな笑いが生まれる。

「10年経ったら考えても良いよユニス?」

「10年経っても相手がいないなんて可哀想だから考えておいてあげるわねロファ!」

 二人のその軽口で再び人々の間に笑いが生まれる。

 ロファは少し拗ねたそぶりを見せると気を取り直し、おもむろにカードを手にしてその鮮やかなカードの腕前を披露する。

 今度はおおっ!といった感嘆の声が漏れる。

 さすがのユニスもこれにはただ溜息をつくばかりである。

「この絵をよく見て。上下正しいね?でも一回転すると・・・」

 全員が息を飲む。緊張が走る。全ての目線がカードに集中するその瞬間!

「・・・まぁ普通は変わるわけがないよね」と笑うロファ。

 その様子に全員が呆気にとられる。しかし、

「じゃあ今度は逆に一回転すると・・・アレ!?上下逆さまだぁ!」

 今度は見ていた全員が笑う番だった。


 今日は一日目よりも多くの客が集まり、そして多くの人が孤児院について聞きに来た。

 中には協力を申し出る人もいた。

 ロファとユニスはその事をとても喜ぶのだった。

 だが昼が過ぎて午後も半ばになった頃、再び奴らが現れた!

「随分と羽振りがよさそうだなぁ、小僧?」

「目上の者に挨拶一つ満足にできないなんて小僧より劣るぜ、坊主?」

 男はまさかロファが反発するとは思わず一瞬戸惑うが、すぐに怒って怒鳴り出す!

「オレは21だぜ小僧!」

「おいらは25だぜ坊主!」

 そのセリフにユニスが驚いて尋ねる。

「うそぉ?ロファって25歳だったの!?」

「あれ?言ってなかったっけ?」

 その言葉にユニスは頷く。

 身長が少し低く、普段の言動も子供っぽいので間違われやすいが、確かにロファは25歳だった!

 ちなみにユニスはロファの事を18か19だと思っていた(しかも少し年齢を水増しして)

 男は少し顔が赤くなっていた。興奮しているようだ。

「う、うるせぇ!てめぇなんざ小僧で十分だ!」

「あ、開き直った」

「やかましい!」

 ユニスの指摘に怒鳴りつける。どうやら本気で怒らせたようだ。目が据わっていた。

「後ろに隠れていろユニス」

 声を落としてそう言うロファの言葉通りに隠れるユニス。

 そんなユニスの不安をロファは背中に感じていた。

「ぶっ殺す!!」

 冒険者4人組が全員腰の剣を抜く。

「逃げろユニス!」

 そう言うとロファは荷物に向かって駆け出した。

 一人が剣を振り下ろす。

 ロファはかろうじてそれを避けるが、すぐに左手から突きが来る。

 突きを横にかわし、何とか荷物に辿り着くとダガーを掴み、鞘から引き抜く。

「やってやるぅ!」

 ロファはダガーを構えると正面の男に突っ込んだ。

 剣が振り下ろされるのにも構わず一気に間合いを詰める。

「ロファ!」

 目を見開き、ユニスが叫ぶ!

 ロファは体を僅かにずらすと左肩で相手の剣を受ける。

「なにぃ!?」

 その行動に男が慌てる。

 それは相手の動きを誘ったロファの一世一代の攻撃だった!

 剣を根元で受けたので傷は浅いが軽傷ではない。だがそれを覚悟しての捨て身の戦法でもあった。

 ロファはダガーを相手の喉元に突きつけて「動くな!」と残りの三人に向けてそう叫ぶ。

「動くとこいつを殺す!」

 その言葉に男がヒッ、と情けない声を上げた。その時、

「まだだぁ!」

 坊主と呼ばれた男が叫ぶ。そして

「キャア!」

 ユニスの悲鳴が聞こえた。

「ユニス!」

 ロファの顔に緊張が走る。思わずダガーを落としそうになる。

「この娘を助けたけりゃ武器を捨てな!」

 坊主の顔に嫌味な笑いが浮かぶ。 

「くっ・・・」

 こうなると為す術なしである。

「武器を捨てないでロファ!」

 ユニスが強い口調でそう言った。

 しかしロファではこの四人を相手に勝つ事は出来ない。

 その為に奇襲をかけたのだがかえって隙を作ってしまった。

 やむを得ずロファはダガーを落とす。

 それを見た二人がロファに殴りかかる。人質の男もそれに加わった。

 見る間にロファはユニスの前でボロ雑巾になってしまう。

「ロファぁぁぁ!!」

 その姿にユニスが絶叫する。

 坊主はその様子に満足げに頷く。

「へっ、こんな孤児の娘一人の為に・・・。バカな奴だぜ!」

「何がバカよっ!!」

 ユニスが上目遣いに坊主を睨む。

「私も生きているのよ!私だって生きたいのよ!だけど大人達は誰も私を助けてくれなかった・・・」

 ユニスの声はいつしか弱弱しくかすれていた。

「何かしようとすれば邪魔さえもしたわ!・・・誰も、誰も好きで孤児になった訳じゃないのに!!」

 ユニスは泣いていた。小さな肩を震わせて激しく泣いていた。

 坊主は圧倒されていた。坊主のみでなく周りの大人達全員がこのか弱い少女の、生きている事さえ大人達に否定されたこの少女一人の気迫に圧倒されたのだ。

 それは大人達に否定され続けてきた小さな少女の魂の叫びであった!

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