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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
19/60

8.灯の家・宴会物語(一日目)・2

全7話構成の2話目になります

「みんな、今日は本当にどうもありがとう。おかげで助かりましたわ」

 ルヴィナが後ろを振り返って礼を言う。

「そんな事気にするなよルヴィナ」

 ギルティスがいたずらっぽく笑う。

「そうさ。俺達が手伝うって言ったんだからさ!」

 セレトも、多少興奮しながら同意する。

「なに興奮してるのよセレトは!」

 エリザがそう言ってセレトを茶化す。

「べ、別に興奮してなんか・・・」 セレトは慌てて言い返そうとする。

「悩み多き少年をからかってはいけませんよ、エリザ」

ベネティアも淡々と言う。

「そうよ。思春期の男の子が年上の女性に憧れるのは仕方のない事なんだから」

「あ、憧れるだなんて、そ、そんな・・・」

ひたすら顔が赤くなるセレト。

「ねぇ、ユウにもそう言うことがあったの?」

 セレナは興味津々に尋ねる。

「私はいつでもギル一筋よ♪」と、ユウはのろけた。

「は、恥ずかしいからやめろよ!」 ギルティスも思いっきり赤面していた。

そんな感じでふざけ合いながら、一行は家に着いた。

もはや時は夕暮れ。しかしルヴィナやエリザ、ユウにセレナ達はこれから夕食を作らねばならない。

「今日は俺達が作るから、ユウ達は休めよ」

 ギルティスは優しい声でそう告げる。

「いいえ、手伝ってもらって疲れているのにそんなこと頼めませんわ。私なら平気です。ユニスにも手伝ってもらいますし。だからエリザ達だけでも今日はもう休んで下さい」

「それこそ、できない相談よ! 疲れているのはみんな一緒なんだし。私たちも手伝うわ!」

 そう言ってユウは猛然と反発する。

 その時、セレトは『我が家』の異変に気付いた。

「なぁ、どうして今日は誰も庭で遊んでないんだ?」

「そう言えば、そうですね」 ベネティアもその一言で不審に思う。

いつもなら、それこそルヴィナ達の内の誰かが言うまで、外で元気に遊んでいるはずの子供達が、今日に限って一人もいない。

「どうやら家の中みたいね」 セレナは油断無く『我が家』を見据えた。

「とにかく、家に入ってみましょう!」

ルヴィナの意見に全員が賛成すると、玄関のドアを開ける。すると・・・

「あら?」 エリザは思わず驚いた。

家の中に入ると、何ともおいしそうな匂いがただよっていたのである。

「この匂いは?」 ユウも、空腹を刺激する料理の匂いに、思わず警戒を緩める。

「あ、ルヴィナお母さん。お帰りなさーい!」

四、五歳の少年はルヴィナを見つけると、パタパタと駆けてくる。

「ただいま、ユーリ」 ルヴィナはユーリ少年を抱き留める。

「ユーリ、誰か来てるのかい?」

ギルティスはユーリの目線に合わせてしゃがみ込む。

「うん! あのね、ユニスお姉ちゃんが『この人達はロファやルヴィナ母さんのお友達だよ』って言ってた。それで今、みんなで夕食を作ってたの!」

「私達の友達・・・? もしかして!!」

ユウの一言に、セレトとセレナ以外は全員、『まさか』という顔をして食堂に向かう。

 食堂から子供達のにぎやかな声がする。

 しかしそんな子供達の声の中に、何とも懐かしく、よく知っている声が聞こえてくる。

「あ、走っちゃ駄目ですぅ!」

「好き嫌い言わずに全部食べましょうね」

「お、コレうまい!」

「ああ! 何つまみ食いしてんのよ!!」

「おい、それはこっちだって!」

「それじゃあキミはコレをあそこに置いてきて」

「うおっと! 危ないから走ったら駄目だぞ」

まさか、本当に・・・。

「あ、お帰りなさいルヴィナ!」

ユニスは食堂入り口に呆然と立っていたルヴィナに気付いて声をかける。

 そしてそのユニスの一言に、食事の準備を手伝っていた子供達、何よりも夕食を作り準備をしていたカイ達の動きが止まり、一斉にルヴィナ達の方を見る。

「やぁ、元気だったかいみんな!」

最初に口を開いたのは、やはりリュウであった。

その一言で、食堂は一挙に再会の嵐に包まれた。


 ルヴィナ達もユエリーお姉さま達(笑)も、とても嬉しそう。ルヴィナは余りの嬉しさにとうとう泣き出して、カイさんとユエリーお姉さまが慌ててそれをなだめて、レイナお姉さまとシンディさんはギルやユウと楽しそうに話し込んでいるし、ベネティアとディクスレイさん、それにリュウお兄ちゃんは何か三人で盛り上がって笑っているわ。エリザはサラさんと何かをとても懐かしそうに話してる。でもみんな、ロファがいなくて少し寂しそう・・・。


「とりあえず、積もる話は夕食をすませてからゆっくりとしましょう」


 レイナお姉さまの言うとおり! 私、もうおなかすいちゃった。今日のスープは、ユエリーお姉さまが手伝ってくれたから、ちょっと自信があるんだ。みんな『美味しい』って言ってくれるかな・・・?


 そして夕食が終わると、いつもの様にリビングに集まる。

「ああ、そうだわ! みんな、旅の疲れが残っているでしょう? もし良かったらお先にお風呂をどうぞ」とルヴィナは提案する。

「私達よりも、子供達の方を先に入れてあげて下さいな」

 ユエリーはそう言ってやんわりと断る。

「ならみんなで入りましょう、ユエリーお姉さま!」             

ユニスは張り切って提案する。

「それもそうね。そうしましょうよ。どうせ男湯と女湯に分かれているし、家のお風呂は大きく作ってあるから窮屈にはならないわよ」

ユニスの意見にエリザも賛成する。

「いいわね。折角の機会だし、男は男、女は女で裸のつきあいをしましょうか!」

「どうした少年?」 

ディクスレイがセレトに声をかける。

「い、いえ別に・・・」

レイナの一言に、思わず赤面してしまったセレト。

「スケベ」 セレナはそんな弟に容赦なくそう言った。

「よーし、そうと決まったら早速風呂だぁ! 小僧ども、風呂場に直行!!」

リュウの一言で少年達は風呂場に駆け出し、リュウも子供達の後に続いた。

「全く、リュウったら・・・」 シンディは呆れたようにため息をつく。

「相変わらずだなリュウは」 ギルティスは思わず苦笑する。


 元気な人。でも、何となくロファにそっくり。ロファのお友達っておもしろい人ばかり!


「わぁ、大きなお風呂!」 シンディが歓喜の声を上げる。

「ゆったりとしていて、素敵なお風呂ですわね・・・」

 ユエリーが続いて風呂場に入る。

「本当ですぅ!」 サラも嬉しそうにはしゃいでいる。

「でもユエリーは貴族だから、余り変わらないんじゃない?」

 エリザがふと尋ねる

「そんな事はないですよエリザ。実用的にする為に無駄はなるべく減らしてますし、それに私一人でこんなに大きなお風呂だとかえって心細くなりますし・・・」

「それはそうよね」 レイナも桶で湯をすくい、体を流す。

「みんなも体を洗ってから入るんですよ」 ルヴィナは子供達に優しく言う。

 そしてそれぞれ、石鹸を泡てると体を洗い始める。

「あの・・・、背中を流しても良いですか?」

ユニスはユエリーの側に行くとおどおどと尋ねる。

「・・・ええ。お願いしますわユニス」

ユエリーがそう言って微笑むと、ユニスは早速ユエリーの背中を流し始める。

その白く、キメ細やかな肌にうっとりとしながらユニスは尋ねる。

「どうしたらお姉さまみたいに綺麗になれますか?」

「えっ?」 ユエリーは、ユニスの突然の質問に少し困惑する。

「・・・ユニスも大きくなれば、私よりもずっと綺麗になりますよ」

ユエリーは優しく微笑んでそう言った。

「ユニスが『綺麗になりたい』って心から思えば、きっと綺麗になれますよ」

「ホントに!?」 ユニスは肩越しに、ユエリーの顔をのぞき込む。

「ユニスが綺麗になりたいのは、もしかしてロファの為ですか?」

今度はユニスが戸惑うが、一つ息をはき、落ち着いてから頷く。

「ロファは・・・幸せですね。ユニスみたいに可愛い娘にここまで一途に思ってもらって・・・」 ユエリーは愛おしむかのようにユニスに微笑む。


 どうしたんだろう? なんだかお姉さまの横顔がとても寂しそう・・・。


 その頃、男湯では・・・

「くらえ、水鉄砲!」 リュウが湯船の中で子供相手に湯をかける。

「負けるなホルト。やり返すぞ!」

「そうだ。俺達がついてるぞ!」

横からギルティスとディクスレイがホルト少年に水鉄砲のコツを授ける。

「えいっ、えいっ!」 湯は鋭くリュウの顔にかかる。

「うわっ! 汚ぇぞ三人がかりだなんて!」 リュウが怒る。

「子供相手なんだから当然のハンデだろう?」

 そう言ってギルティスが鼻で笑う。

「おい、ユウ! このダンナの分だけでも手を貸せよ!」

「仕方ないわねぇ・・・。勝負よ、ギル!」 ユウがギルティスに応戦する。

「む、ちくしょう!」 ユウの攻撃に、ギルティスは両手で顔を守る。

「よーし。野郎ども、今だぁ!」 リュウの叫びに応じる子供が、約半数。

「みんな、俺に力を貸してくれぇ!」

ギルティスの願いに応じる子供も、また半数。

そして風呂場は一瞬にして戦場と化した。

「・・・やってられないぜ」 カイが風呂場の隅でそうぼやく。

「活気があって良いと思いますがね」

カイは何となく横目にベネティアを見ると、風呂に入れる機獣人というのは一体何人いるのだろう、などと考える。

 そこへ、流れ弾ならぬ流れ湯が、カイの顔面に直撃した。

「・・・・・!」 思いっきり顔を濡らしながら、カイの肩が怒りにわななく。

「あ、やっべぇ・・・」 リュウが僅かに後ろに退く。

「今やった奴は誰だぁ!」

怒りの形相でそう叫びながらカイもこの、今となっては乱戦の様子を呈しているこの状況に加わっていった。

「・・・まだまだ若いですね、カイも」

ベネティアは、自分だけ達観すると、のんびりと湯に浸かりくつろいでいた・・・。


「ああ、いいお湯だったわ」 レイナがタオルで首筋の汗を軽く拭く。

「本当に・・・」

 ユエリーの顔も上気した為か、ほんのりと薄く朱に染まっていた。

「・・・そりゃあ良かったな」 カイは疲れたように声をかけてくる。

「ど、どうしたんですか、カイ。それに皆さんも・・・」

「男同士の秘密ですよ、ユエリー」

ベネティアだけが疲れた様子も見せず淡々と答えた。

「男湯で何があったのかしら・・・」 エリザは不思議そうに男達を見ていた。

その時、玄関の扉を叩く小さな物音が聞こえた。

「誰でしょう、こんな時間に・・・」 そう言うとルヴィナが玄関に向かう。

「用心して下さい、ルヴィナ」 ルヴィナに注意を促しながらセレトも後を追う。

「一体、誰だろう? もしかしてロファかな?」 ギルティスがぽつりと呟く。

「え、ロファ!?」 ユニスはそれを聞くと、玄関に向かって走り出す。

「馬鹿!!」 ユウはギルティスをたしなめると、ユニスの後を追う。

「まぁ、あなたは!!」 突然、ルヴィナのそんな声が辺りに響く。

 慌てて全員玄関に向かうと、そこには一人の童女が立っていた。

「オルニカ!!」 仲間達の声が一斉にハモる。

「ずるいでちゅよ、みんな。自分達だけで『灯の家』に行くなんて・・・。置いてきぼりだなんてひどいでちゅ!」

その童女、オルニカは可愛い顔をふくれっ面にして怒る。

「ごめんなさい、オルニカ」 レイナがオルニカに謝る。

「でも、よく来れましたねオルニカ?」 ユエリーが不思議に思って尋ねる。

「まぁまぁ、くわしい話は明日にする事にして・・・。とりあえず、おなかは空いてませんか、オルニカ。残り物ですけど、よければ暖めますから、先にお風呂に入って待ってて下さいな」と、笑って歓迎するルヴィナ。

「ありがとうでちゅ。それじゃあ、お言葉に甘えるでちゅ!」

嬉しそうに笑ってオルニカが礼を言う。

 ルヴィナはエリザに頼んでオルニカを女湯に案内させると、自らは調理場に向かった。

「今の人は・・・?」 ユニスが隣に立つベネティアに尋ねる。

「オルニカと言って、やはりわたくし達の仲間ですよ。見た目はユニスと代わりはないですが、ああ見えても、おそらくロファよりも年上なんじゃないですか?」

「えっ? ロファよりも年上!?」


本当に、ロファの周りって変わった人ばかりなのね。あーあ、でもロファじゃなかったな。がっかり。・・・早く帰って来ないかなぁ、ロファ・・・。


結局、この日はみんな疲れているという理由から、汗がひくと、すぐに寝床に入ってしまった・・・。


    そして二日目へ・・・

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