8.灯の家・宴会物語(一日目)・1
こちらは全7話構成になります。
今日はとっても素敵な「晴れ」曜日。
雲は真っ白。わずかに暖かくなってきた風は花の匂いを運んでくる。
そう言えばロファが言ってたっけ。
「これでまた、働かなきゃならない。芸は好きだけど、それでもこんな日は一日昼寝で過ごしたい」って。
そう言いながらも顔が笑っていたのを覚えてる。変な所で素直じゃないのよね、ロファは。
「あれが『灯の家』か・・・」
カイは、元は学校だったものをロファやルヴィナ達が手を加えて孤児院にしたという、『灯の家』を僅かに遠目で見つめる。
「まぁ、子供達があんなにも元気に遊んでますよカイ」
カイの隣に寄り添う様にして歩いていたユエリーの、その整った美しい顔に優しい笑顔が浮かぶ。
「お、やってるな!やっぱ子供は元気でなくちゃな!!」
二人の少し後からついて歩くリュウが張り切った声を上げる。
「リュウがあそこに混じったら、うっかり間違えそうだな」
さらにその後をのんびりと歩くディクスレイが、ぽつりと言う。「何か言いたいならはっきりさせようぜ、ディクスレイ」
「何か思い当たる所があるようだな、リュウ」
リュウの一言を軽く返して、ディクスレイは苦笑する。
「ほら、二人とも。これから孤児院に行くのに険悪な雰囲気ただよわせないの!」 間に割って入るようにレナが二人を制する。
「そうよ!リュウもすぐケンカ腰になるのやめなさいよね!」
窘めるようシンディがリュウを睨む。
「あら、あれはサラじゃありません?」
突如、ユエリーは前を歩いている一人の少女を指さして言う。
「あら、ホント」 レイナもその姿を認めて頷く。
「おお~い、サラぁ!」 リュウが大声を張り上げる。
すると、前を歩いていたサラは後ろを振り向いてかつての仲間達の姿を見つけると、立ち止まって片手を大きく振る。
七人は、街を縦横に走る通りの真ん中で再会した。
「みなさん、お元気でしたかぁ?」 サラはにこやかに微笑む。
「ええ。あなたはお元気でしたか、サラ?」 ユエリーも優しい笑顔でこたえる
「もちろんですぅ! ・・・ところで、皆さんも『灯の家』に行くんですかぁ?」
「皆さんも、って事はお前もかサラ?」 サラの一言にカイは尋ね返す。
「そうですぅ」 サラは元気良く答えた。
「へぇ、そうだったのかぁ」 リュウが納得がいったように軽く頷く。
「それなら一緒に行こうよ!」
シンディのその一言により、七人は互いの近況を話しながら、『灯の家』に向かって歩き始めた。
「ごめんくださぁ~い!」
元は校門だった『灯の家』の玄関にたどり着くと、リュウは大きな声で挨拶をした。
その大声に、子供達は全員、不思議そうにこちらを見ていた。
あれ、お客さんかな? 困ったなぁ・・・。今日は街のお仕事でルヴィナ達はもちろん、セレトもセレナいないんだよねぇ。う~ん、どうしよう?
「何の返事もないな」 カイが冷静に状況を分析する。
「おかしいですわねぇ・・・」 ユエリーも僅かに首を傾げる。
子供達は数人ずつ輪になっている。どうやら相談しているようだ。
「ルヴィナ達がいないのかも知れないな」
子供達の様子からディクスレイはそう見て取る。
「そうかもね」 その一言にレイナも同意する。
「あれ、女の子が一人、こっち来るわよ」
シンディの声でみんなが振り向くと一人の、きれいな黒髪を肩より少し下で整えた、利発そうな少女が建物から出て、こちらに駆けてくる。
そして少女は彼らの前で立ち止まると、一つ大きく深呼吸をしてから、深々とお辞儀をする。
「こんにちは。『灯の家』にようこそ!」
「まぁ、かわいい!」 ユエリーはその愛らしい仕草に思わず顔がほころんだ。 少女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「ありがとうございます。私、とても嬉しい!」
少女は一言お礼を言うと、明るい笑顔を見せた。
「ねぇキミ、お名前は?」 レイナはしゃがんで少女と目線を同じにして尋ねる。「私はユニスと言います。年は十歳です!」
「まだ十歳なのにちゃんとした挨拶が出来るなんてすごいですぅ!」
サラは感激していた。
「じゃあユニス。ルヴィナ、もしくはロファは今、いないのか?」
ぶっきらぼうに尋ねるカイに少し怯えていたユニスは、『ロファ』という一言を聞くと、身を乗り出すようにカイに迫る。
「な、何だよ!?」 今度はカイが慌てていた。
ユニスの、思いがけない迫力に、知らず知らず冷や汗が流れる。
ユニスはそんなカイの様子もおかまいなしに尋ねる。
「お兄さん達、ロファのお友達なの?」
なぁんだ、そうだったんだ。
最初に声をかけられたとき、『私、殴られちゃうのかな?』って思ったけど、ロファのお友達なんだ!
ルヴィナや、たぶんギル達の事も知ってそうだし、それに、こんなに綺麗で優しそうなお姉さんが一緒なんだもん。きっと悪い人達じゃないわ!
「うん。ルヴィナ達は朝から街の人に頼まれてお仕事に行ってるし、ロファは・・・」
「ロファに何か?」 ユエリーが静かに尋ねる。
一瞬、七人の間にも緊張が走る。
「・・・ロファは、もう半年以上前に旅に出たまま、まだ帰って来ないの・・・」 そう言うと、ユニスはひどく寂しそうにうつむいた。
その様子からユニスの、ロファに対する特別の『思い』に気づいたのは女性陣だけであった。
「ごめんなさいね・・・」 レイナはそう言って、ユニスを優しく抱きしめる。「お、お姉さん?」 ユニスは僅かに戸惑う。
「私はレイナよ。よろしくね」
レイナは、ユニスの体を離して、穏やかに微笑む。
「私はユエリーです。ユエリーと呼んで下さいね、ユニス」
ユエリーも優しく微笑む。
「おいらの名前はリュウって言うんだ。よろしくな!」
リュウは親指で自分を指してそう名乗る。
「あたしはシンディよ。よろしくね」
そしてシンディは右手を差し出す。
「俺の名はディクスレイ。そしてこっちの仏頂面なのがカイさ」
ディクスレイは自己紹介をした後にカイを紹介する。
「よろしくな」
カイはそう言うと腕を組んで黙っていたが、ふと、足下の子犬の事を思い出す。
「それとコイツはコールって言うんだ」
「わぁ、可愛い子犬!」
ユニスが子犬の頭を撫でると、コールもユニスの手をなめ返す。
「そしてわたいはサラですぅ! よろしくね、ユニス」
元気な声でそう言うと、サラは人なつこそうな笑顔をユニスに向けた。
「みんなよろしく! それじゃあこれは、ほんのご挨拶にございます」
大人びた口上を一つ述べてユニスが手を叩くと、カイ達の手に突然、一輪の花があらわれた!
「お、おい、コレって・・・」 リュウは慌てて仲間達の顔を見る。
仲間達の顔にも驚きの表情が浮かんでいた。
「大切なお客様をお迎えする時に使いなさいって、ロファが教えてくれたの!」「そ、そうなの・・・」 どことなく、ユエリーの笑顔もぎこちなく見える。
いくらロファが教えたからとは言え、こうも簡単に、しかも自分達にタネを見破らせずに手品が出来るなんて・・・。
「なんかちょっと悔しいですぅ・・・」 サラはぽつりと呟いた。
なぜなら、彼女も『宴会』の時にロファから手品を教わっていたが、ここまで上手には出来なかったのである。
「サンキュウ、ユニス!」
ディクスレイがその大きな手でユニスの頭を撫でてやると、ユニスは嬉しそうに笑った。