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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
17/60

4.心はいつもあなたと共に(3)

全3部の最終話です。

「どうしてその男を殴ったんだよ、あんた?」

 セレトは興味津々に尋ねる。

「仲間を馬鹿にされて黙っていられるわけ無いだろ」

 ロファは笑ってそう言った。

「で、本当に悪いのはどっちだったの?」

 セレナもすっかり、ロファの事を警戒しなくなっていた。

「いつだって正義は強い者に味方するのさ。良きにしろ悪しきにしろ、ね」

 ロファはいたずら小僧の顔つきでそう答える。

「じゃあまさか・・・」

 セレトの言葉が途切れる。

「セレトの考えてる事とは多分違うよ。悪いのは本当にあいつらだったのさ」

 ロファが得意そうに腕を組んで構える。

 セレトとセレナの二人は、その様子にしばし呆然とする。

「どうしてそうわかったの?」

 セレナが不思議そうな顔でロファに尋ねる。

「そりゃあなんたって、みんなでニコニコ、優しく質問したら、何故か脅えながらだけど白状したからね」

 二人はその光景を頭に浮かべると、その男達に同情した。

「でもさ、なんでロファにはそいつの言う事がウソだってわかったのさ?」

 今度はセレトが尋ねてくる。

「なぁに簡単さぁ。そいつ、カイが殴られそうになった時、密かにほくそ笑んでやがったのさ!」

 ロファはあっさりと答える。

「芸人をなめるなってね。常にステージの上に立って、お客の顔からステージ全体まで細かに見渡しているんだよ。バレないと思ったのか、勝ったと思って油断したのかも知れないけど、余りにもお粗末に過ぎたね」

 顔は笑っていたが、ロファの目には怒りが見えた。

「・・・・・」

 二人は黙ってロファを見ていた。

「というわけで、おいらは二人に親近感がもてるね。それにおいら、セレトもセレナも好きだし、信じてるからさ。だから二人にもおいらの事、好きじゃなくてもいいから、信用してもらいたいな・・・」

「・・・あんた、変わってるな」

 セレトが静かに口を開く。

「そりゃあ、おいらは男前だからな!」

 胸を張ってそう言うロファ。

「それはないわね」

 きっぱりとセレナが訂正する。

「グサッ! わーん、お姉ちゃんのいじわるぅ~!」

「セレナはお前の姉ちゃんじゃねぇし、そのカッコで言うな!!」

 セレトが手足の縮んだままのロファを指さして怒る。

「お兄ちゃん、こわぁ~い!!」

 ロファはぐすぐす泣きだした。

「お、おい。泣くなよ・・・」

 セレトが途端に慌てる。

「アハハハハ!!」

 突然、セレナが明るい声で笑いだす。

 その声に、ロファとセレトは思わず顔を見合わせると、つられて二人も笑い出した。

(もう心配いりませんね・・・)

 リシュリタは三人の笑い声を心地よく聞いていた・・・。


「それじゃ、元気でやるんだよ!」

 ロファと双子は屋敷の前に立っていた。

「本当に大丈夫なのか・・・?」

 セレトが不安そうな声を出す。

「なにビビッてんのさ、らしくない!心配いらないって。『あんちゃん』の言う事を信じろって!!」

そう言って、セレトの背中をバンバンたたいて笑うロファ。

「あんちゃん・・・?」

 セレナが首を傾げる。

「そっ!『灯の家』じゃあみんな家族さ、遠慮はいらないよ。でもお客じゃないんだからしっかり家事を手伝うんだよ」

 しっかりと目を見据えてロファが言う。

「家族・・・」

 セレトが姉の顔を見る。セレナもまた、弟の顔を見ていた。

「そうさ、家族だよ!」

 ロファは静かに微笑む。

「だからもう、そんな寂しい顔をするなよ二人とも!」

 そこで突然、ロファが二人の顔に水鉄砲(水芸の応用)で水をかける。

「きゃあ!」「て、てめぇ!」

「それでいい」

 ロファの少し小さい体がぐっ、と二人を抱き締める。

「信じてるからさ。たとえ心を傷つけられても信じ続けるからさ・・・」

「ロファ・・・」

 セレナが横目にロファを見る。

「だからもし、何か困った事が起きたなら、おいらを呼べよ! 他人の無責任な言葉に哀しい顔をする前に・・・。おいらを信じろ、な!!」

 そしてロファは二人を強く抱き締める。

「・・・信じていいんだな?」

 セレトがそうつぶやく。

「当たり前さ」

 セレトの頭を軽く小突く。

「本当に来てくれる?」

 セレナが不安そうにささやく。

「必ず助けに行くよ」

 セレナの頭を優しく撫でる。

「おいらを信じて『家族』も信じろ! 人を信じたいなら、たとえ傷つく事になっても諦めちゃダメだ! 信じ続ける事が、本当の意味で人を『信じる』という事なのだから!!」

 ロファが二人から離れると笑顔を見せる。

「・・・わかったよ」

 セレトが静かに頷く。

「なら、おいらもそろそろ行くけど、本当に路銀はそれで足りるかい?」「私達二人分だもの。むしろ多い位だわ!」

 セレナがあかるく微笑む。

「盗みはナシだぞ!」

 ロファはしっかり注意する。

「ロファの方こそ、オレ達の事をもっと信じろって!!」

 セレトも厭味の無い、明るい笑顔で言い返す。

どうやら、一本取られてしまったようだ。

「わかったよ。それじゃあ気を付けて行けよ」

「早く帰って来てねぇ!」

「荷物取られたりすんなよな!」

 『家族』に見送られながら、ロファは再び旅を続けた。


(ねぇ、ロファ?)

 双子と別れて少しして、リシュリタが話しかけて来た。

「何だい、リシュリタ?」

 ロファはリシュリタをそっと奏でる。

(・・・助けてくれて、ありがとう)

 ロファにはリシュリタが微笑んだように思えた。

「べ、別に、たいした事じゃないさ」

 なんとなく照れてしまうロファ。

(でも・・・、私は嬉しかったわ)

「リシュリタ!?」

 ロファは思わずドキドキしていた。

『な、なんで・・・?』

 心の中に疑問詞が浮かぶ。

 ロファは、自分の顔が赤くなっていることには気づかなかった。

(ずっと・・・、ずっと側に置いてくださいね)

 リシュリタの声が震えていた。

(もう、会えないかと思ったから・・・)

 ロファはそこでやっと気づいた。

 さらわれた時のリシュリタの気持ちに・・・。

「リシュリタは・・・俺が守るよ!」

(・・・・・!)

「約束・・・するからさ。信じてほしいな」

 ロファは照れながらも、静かな声で優しく告げる。

(・・・ロファ!)

 リシュリタの心は喜びで満たされていた。

「君がさらわれた時、なんで居場所がわかったと思う?」

(えっ!?)

 確かにそうであった。リシュリタには、わからなかった。

 ロファは空を見上げて、こう答えた。

「たとえ遠くに離れていても、リシュリタの『声』だけは、いつもおいらの心に響いていたから・・・。それで声のする方に向かって行ったわけさ」

 知らなかった・・・。リシュリタは心の奥でそう思った。

「これも、『奇跡』の一つなのかもしれないね。・・・ぜひ一度、会って話をしてみたかったな。楽士でありながらいくつもの『奇跡』を用意した、まるでおとぎ話に出て来る『魔法使い』みたいな、君の『母上』にさ・・・」

(お母様・・・)

 リシュリタは遠くの空に、今は亡きその姿を見たような気がした。

「おいらでも・・・なれるかな、そんな『魔法使い』に。ねぇ、リシュリタ?」

 そう言って将来の夢を語るロファの顔は、まるで無邪気な子供のようであり、リシュリタはその笑顔をたまらなく愛おしく思った。

(少なくとも、私にとっては幸せを呼ぶ『魔法使い』だわ・・・)

 その一言に、ロファは嬉しそうに笑うのだった・・・。

これで以上です

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