4.心はいつもあなたと共に(2)
全3部の内の2話目です。
そして三人は改めて自己紹介をした。
少年セレトと美少女セレナは十五才の双子の姉弟であり、そして・・・
「妖魔族か」
ロファは何かを懐かしむように、その言葉を口にした。
(カイの奴、元気にしてるかなぁ・・・)
ロファはつい少し前まで共に旅をしていた、妖魔族の若者の事を思い出す。
いつも、どこか一線を画した感じで仲間達と共にいたカイ。
ことさらに、自分を悪者に仕立て上げようとしていたかに見えたカイ。
ロファはこの、自ら心を曲げて、また、そうであり続けようとしたこの青年の事をひどく気に入っていた。
「あんたもオレ達の事を妖魔扱いすんのかよ!」
セレトが、今にも噛みつきそうな態度でロファに食って掛かる。
そんなセレトの態度に、ロファは満面の笑みを浮かべる。
「かわいい奴だなぁ、君は」
「まさかお前ってそう言う・・・」
セレトもセレナも後ずさる。
その一言にロファはきっぱりと反論する。
「いいえ、おいらの興味は女性だけです!」
(・・・その発言も少し危険だと思うわロファ)
あぐらをかいて座るロファの上に置かれる形のリシュリタがそうロファに忠告する。
「まぁとにかく、少しは信用してくれていいよ。それに・・・」
「それに・・・?」
セレナがその先を促す。
「君みたいな人の扱いは慣れてるつもりだよ」とロファは笑う。
「どーいう意味だよ!?」
少し怒ったフリをしてロファを睨むセレト。
それを別段気にする風もなく、何事もないかのように口を開く。
「昔、君によく似た奴と旅をしててね・・・」
そしてロファは手元のリシュリタを優しく奏でながら、あの懐かしい日々について語り出す・・・。
「何か用かロファ?」
顔だけをこちらに向けて、カイがロファにそう尋ねる。「お金なら、少しだけれど貸してあげるよカイ」
ロファは真剣な顔してそう言った。
「どういう意味だよ?」
思わずムッ、とするカイ。
「不景気な顔してるって言ってんのさ!」
そう言ってロファが笑う。
「アハハ、そりゃ言えてる!」
ロファの横を歩いていたリュウもこれに同意する。
「うるせぇ! そんなの、俺の勝手だろ・・・」
カイはそう言ってそっぽを向く。
すると、ロファは彼らの前を行くフォルに向かって大声で叫ぶ。
「フォルぅ! カイがフォルの事、好きだって!!」
「えっ!?」
その一言にフォルの顔が赤く染まる。
「て、てめぇ、ロファ。待ちやがれ!!」
カイがロファを捕まえようとする。
「照れなくても良いのに・・・。あ、勿論、おいらも大好きだよフォル!!」
そう言いながらロファは辺りを駆け回る。フォルはその一言に、はにかんだ笑顔を見せる。
一行はグラディウス山に向かう途中であった。グラディウス山にあるという『剣』を目指して・・・。
とは思えぬ程に、ロファは毎日、誰かをからかっては遊んでいた。
ターゲットはいつも、不安や緊張のしすぎの人間だった為、仲間達は迂闊に緊張する事もできない。
「今度はカイの奴か・・・」
ロファを追い掛け回すカイの姿を見ながら、クラトは苦笑する。
「ロファも本当に元気でちゅね」
そう言って呆れたように、しかし優しく微笑むオルニカもつい先日、ロファから水鉄砲をくらっていた。
その時のオルニカは、先行きの見えない大きな不安で心が重くなっていた時だった。
「ホントに・・・。でもロファみたいな人も一人はいた方が良いと、あたしは思うわ。大勢だとゴメンだけど・・・」
シンディは、オルニカと並んで歩きながらそう言った。
「そうですね」
そのすぐ後ろを歩いていたユエリーもそれに同意する。
「しかし・・・」
クラトは、捕まえたロファの頭をたたいているカイの姿をじっと見ていた。
「どうしたの、クラト?」
それに気づいて、シンディがクラトの方を見る。
「いや、カイも随分と打ち解けてきたなと思ってな」
そう言ってクラトは、初めて会った時の事を思いだす。
「そうね・・・」
シンディもそうつぶやく。
今ではもう遠い昔のように思える・・・・・。
こうしてみんなで旅を続けていると、不思議と、出会ってからの月日さえも忘れてしまいそうである・・・・・。
「わーん、カイがおいらの事いじめたよぉ、フォルぅ!!」
そんなみんなの感慨を、ロファの泣き声が打ち破る。
「あんまり人をからかってばかりいちゃダメですよロファ」
フォルが、えぐえぐ言ってるロファの頭を優しく撫でてやる。
「ロファは・・・だんだん子供っぽくなってきたな」
フォルの腕の中で泣きじゃくるロファを見て、クラトがしんみりとつぶやく。
その一言に全員、ただ重く、頷くのであった・・・・・。
その日の晩、一行はある街で宿を取っていた。
「なんだと、このガキぃ!」
男が酔ってふらついた足取りで席を立つ。
「やる気かよ?」
カイも立ち上がると体を構える。
「おい、一体どうしたんだよカイ?」
隣のテーブルで食事をしていたリュウが、慌ててカイに声をかける。
「お前には関係ない」
相手の男を睨み据えつつ、カイは静かに言った。
「な、何だよそれは!」
リュウがカイの態度に腹を立てるのと同時に、男はカイに殴りかかる。
そのパンチを左に沈むようによけると、カイの右ストレートが相手のあごにきれいに決まる。
男は勢いよく吹っ飛び、そのまま気絶した。
「これはどうした事だ、カイ?」
クラトは側に近づき事情を聞く。
「別に、ただ・・・」
「そいつが因縁をつけてきたんだ!!」
気絶した男の仲間がカイを指さしてそう言った。
「・・・本当か、カイ?」
クラトが静かにカイに尋ねる。
「ち、違う! 俺は・・・」
「とんでもねぇ野郎だ、てめぇ。オレのダチをのしておいてよく言うぜ!」
「カイ・・・」
クラトの声に一抹の不安がまじる。
カイは口をつぐむと、一つ俯いてから
「・・・そうさ、俺が悪いんだよ。気にいらねぇから殴ってやったのさ!!」
(どうせ誰も、俺の言う事なんか信じやしない・・・)
心の中でそう思いつつ、カイは静かに笑った。
「そうか」
するとクラトは、カイの襟首をつかみ殴ろうとする。
その時、仲間の男は、誰にも気づかれないようにほくそ笑んだ。
・・・つもりだった。
「待った、クラト!!」
その一言に、今にもカイの顔面を襲いかかろうとしていたクラトの右腕が、寸前で止まる。
「・・・なんだ、ロファ」
クラトは、人込みを掻き分けて現れるロファの方を振り向き、声をかける。
「カイはそんな事で人を殴る奴じゃない!」
ロファはきっぱりと言う。
カイは一瞬だけ驚いた後、しかし声高に笑い始める。
「買いかぶるな! ロファ、俺は本当に殴ったんだ・・・」
カイはロファの方を向いて冷笑する。
「なるほどねぇ・・・」
何かを考え込むかのようにそうつぶやくと、ロファは仲間の男の側に行く。
「ほうら、本人だってああやって認めてるじゃねぇか。余計な差し出口を挟むんじゃねぇよ!!」
男は明らかに、カイが殴られるのを止められて不機嫌になっていた。
すると突然、ロファはそいつを殴り飛ばす。
「お前も、さっきから余計な差し出口を挟むんじゃねぇよ!! 横でピーチクパーチク騒がれたら、うるさくて本当の事がわからねぇだろ?」
そう言ってロファは男の仲間を睨みつける。その目はいつになく冷ややかだ。
「ロファ、お前・・・」
クラトやカイ、そして仲間達は、みんな唖然としていた。
(こんなロファは初めて見る)
仲間達の当惑を他所に、ロファはカイに笑いかける。
「これでおいらも仲間入りだよ、カイ」
ロファがにっこりと笑う。
「バ、バカ野郎! お前、一体何やってんだよ!!」
カイはふと、我に返りロファを怒鳴る。
「おいらはカイを信じる。カイだけじゃない、みんなの事を信じてる。おいらの信じる仲間達に、理由も無く相手を殴る奴なんて一人もいない。だからカイが殴ったんなら、そいつは殴られてしかるべき奴らなんだ!!」
ロファの毅然とした態度の発言は、仲間達の心を揺さぶった。
さっきまでの形勢有利が、一転して不利になりつつあるのを見て、仲間の男は慌てて大声で叫ぶ。
しかし、その一言でそいつは完璧に自滅した。
「こ、こいつ何言ってやがる。こんな金目野郎の事を簡単に信じ・・・」
仲間の男の一言は、クラトの右足によって途中で止められ、最後まで続く事はなかった。顔にはきれいに靴の跡が残る。
「おれたちの仲間に金目野郎なんて奴は一人もいない。ここにいるのはカイという男だけだ!!」
そう言って、クラトは悠然と男の前に立ち塞がる。そしてクラトの側には、いつのまにか仲間達も立っていた。
「もう一度確認しようか?」
優しい声で相手の喉元に剣を突き付けるシンディ。
「何て言ったっけ、今?」
指をボキボキ鳴らしながらリュウが尋ねる。
「よろしければもう一度おっしゃってくれません?」
ユエリーもメイスを構えてにっこり微笑む。
仲間の男は、意識の持続をあっさりと放棄した・・・。
次でラストです