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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
13/60

3.思いは時を超えて(4)

本日2回目の投稿になります。まだの方は一つ前からお読みください

 四日目

 今日は朝からシタールの練習をしていた。食事の量を少なくし、たくさんの美味しい料理を食べるための準備もした。

 そしてロファは夕方、迎えに来たマリウスと共に領主・フィオネルの屋敷に向かった。


 屋敷は街の中心を少しはずれた所に建っていた。

 屋敷に入り、二階の客間の一室に案内されると、ロファはそこで待つように言われた。

 待つこと僅か、ロファがふかふかのソファに身を沈めていると、後方で扉の開く音と三人分の足音が聞こえた。

「きみがロファ・サーフェかい?」若い男の声、おそらく領主の声だろう。

 ソファから立ち上がると、ロファは挨拶をしようと振り向いたが、真ん中の女性を見て動きが止まった。

「お久しぶりね、ロファ」

 彼女、『舞姫』イリスは、六年前と変わらぬ笑みを浮かべていた・・・。


 夕食になるまで二人はお互いの事を語り合った。

 ロファは旅から旅の連続であったが、この一年で仲間も『我が家』もできたことを話して聞かせた。

 『虹の舞』の完成、及び『灯の家』の設立についてイリスはとても驚いたが、喜んでもくれた。

 イリスの方はというと、あの後ずっとサーカスで流れていたのだが、二年前に座長が亡くなり一座が解散すると、仕方なく一人で旅に出た。そしてイリスはこの街にたどり着いて、この街の領主・フィオネルと出会い、半年前に結婚したのだと言う。

「イリス、結婚できたの?」

 この甚だ失礼な発言にイリスは夫人らしからぬ鉄拳制裁で報いた。

「面白い人だ、あなたは!」フィオネルとロファの二人は、お互いにすぐに打ち解けてしまった。

 ロファはそこを逃さず彼に交渉して、『灯の家』の援助協力者の一人となってもらった。

 そしてついでにこの街に住むみなし児達を、当人が望んだなら、『灯の家』まで無事に送ってもらう事を頼んでおいた。

「でも、まさかあなたが孤児院を建てるなんてね・・・」

 イリスが信じられないといった感じでため息をつく。

「おいらがじゃないよ。ルヴィナさんが、それにみんなもだよ!」

 そう言ってロファが否定する。

「でもあなたもかかわったのでしょう?はっきり言って、あの頃からは想像もつかないわ!」

「それを言うならイリスだってそうだよ。なにせ、おてんばだったから・・・」

 そこで、はっ、と気がつくロファ。

「なんですって!?」イリスが形の良い眉をつり上げる。

「うわっ、暴力反対!!」頭を庇って逃げ出すロファ。

「こら、まてぇ、逃げるなぁ!!」手を振り上げて追いかけるイリス。

 フィオネルはそんな二人をうらやましそうに見ていた・・・。

 

 夕食の時間になっても二人のやり取りは軽快に続いた。

 そうしておなか一杯満喫したロファは、大広間の真ん中で床に直接座ると、シタールを構える。

 するとマリウスは、そのシタールに彫られている花の文様に気づいた。

「そ、それは・・・」マリウスは思わず驚きの声を上げる。

「どうしたんだいマリウス?」

 ロファの正面になるソファに、イリスと共に座っていたフィオネルが尋ねる。

 その声にも気づかずにマリウスがつぶやく。

「あ、あのシタールは・・・」

 昨日、ロファに会った時は後ろにあったのでたいして気にもとめなかったのだが、あれは・・・。

「実は本日は、このシタールで一曲ご披露しようかと思っていましたが、弾きはじめてまだ日も浅く、しかも芸に厳しく、手がはやい方が一人いらっしゃいますので、申し訳ありませんが今日のところは止めにしたいと思います」

「誰の手がはやいって、ロファ?」

「それは職業上の秘密ですよ奥方様」ロファはそう言ってとぼけてみせた。

「ですが、あいにく今日は他の芸の準備がありませんのでまた日を改めて後日に、そう三日ほどお時間を頂きたいのですが・・・」

「本当にダメなのかい?イリスの事なら気にしないで一曲弾いて欲しいな」

 フィオネルが残念そうな顔をして尋ねてくる。

 それに対してロファはすまなそうに首を振り、

「いいえ、それだけではなくて、正直、突然のイリスとの再会に少々戸惑っていまして、とても芸ができるような状態ではないのです。だからどうか今日のところは・・・」と言って深々と謝罪する。

「そうか、なら仕方ないね・・・」

 フィオネルは、少し残念に思いながらも納得して、三日後で了承した。

「それでは、おいらはこれで・・・」

 ロファは立ちあがると玄関に向かって歩き出す。

「あら、せっかく会えたのに・・・。空き部屋があるから今夜ぐらい泊っていきなさいよ」

「そうもいかないよ。荷物もおいてきたしね」

 そういうイリスに笑顔で断ると再び歩き出す。

「そう・・・」

 ロファには何故か、そのとき見せたイリスの笑顔がひどく寂しそうに思えた。

 イリスは外の門のところまでロファを見送りに来た。

「ありがとうイリス。もう、ここでいいよ」ロファが礼を言う。

 イリスは黙ってロファを見ていた。

 その目がどこか切なそうでロファをくぎづけにした。

「イリス・・・?」

「強くなったのね、ロファ。私の助けがいらないほどに・・・」

 イリスがロファの顔を見つめる。ロファが苦笑する。

「強くなんかないよ。逆に、いつまでも弱くてみんなに迷惑をかけて・・・」

「そんなことはないわ!」イリスが言葉の途中で強く否定する。

「・・・昔よりずっと強くなったのよ・・・」

 イリスは弱々しくそう言って俯いた。

 ロファはこんな弱気なイリスを見るのは初めてだった。

「話し方からして違うわ。私の知ってるロファはそんなに穏やかに話すことはなかったし、いつも辛そうだった。見ていて痛々しくなる程に・・・」

「そいうイリスは弱くなったね。昔のイリスはもっと自信に溢れていたよ」

 イリスが顔を上げる。ロファはイリスの顔から思わず目を背けてしまう。

 哀しげなイリスを背にして、ロファは宿に戻っていった・・・。


 寝室に戻るとイリスはベッドに泣き崩れた。

「ロファ・・・」脳裏にロファの姿が浮かぶ。

(何が弱くなったよ!私が一体どんな思い、どんな気持ちで旅をしてきたのか知らないくせに、勝手なこと言わないでよ!)

 一座が解散すると、イリスは一人、ロファを探して旅を続けてきた。彼女の愛した少年の、今では青年となったロファの姿を求めて・・・。

 だが、イリスがロファに出会うことは無く、すれ違いすら無かった。

 それでもイリスはロファを探していたのだ!

 しかしいつしか、イリスはロファの姿を探すことは無くなり、そして彼女はフィオネルと出会い、結婚したのだ。

 それからたった半年で、ロファはイリスの前に突然現れたのだ。

「ひどすぎるわよロファ!」

 イリスの悲痛な叫びにこたえる声はどこからも無かった。


 宿屋に帰って来たロファは一言も口を開かなかった。

「・・・・・・」

 ロファはただ黙って窓枠に腰掛けながら、夜空に浮かぶ星を見ていた・・・。 

とりあえず本日はここまでになります。昔の私はよくこんな長い話を書いたもんだと痛感しております(笑)

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