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千夜狩猫アーカイヴス  作者: 千夜狩猫
ロファ・サーフェ・アーカイヴス
11/60

3.思いは時を超えて(2)

こんばんは。明日は朝が早いのに切りが良いところまでと思ったら寝るのが遅くなってしまいました(笑)

 次の日の朝

 ロファは真っ先に昨日の古道具屋に向かった。寝不足の目をこすりながら。

 そして店に着くとロファは店主にあのシタールの由来について尋ねた。

 店主から愛想の良い笑顔は消えて、どこか悲しげな表情になる。

「あのシタールですか?あれは、そう、もう二十年以上昔になりますか。一人の女楽士がこの街にいましてね。歌が上手で、美しく、気立ても良くて子供好きだった彼女は街の者皆に好かれていました・・・」

 昔を懐かしむようにゆっくりと語る店主。

「ですから突然、この街で姿を見なくなると街の者、特に男達はがっくりと肩を落としたものです」

 多分この人もそうなんだろうな、と思いつつもロファは黙って聞いていた。

「そんなある日のこと、彼女はうちの店に急に現れると、『誰か、この子の声が聞こえた人に売って欲しい』、そう言ってあのシタールを売りに来たのです。

一体どうしたのか、私がそう尋ねると彼女は、ただ笑って店を出て行きました。

彼女が、誰かの子供を出産して少したってから亡くなったという噂が流れたのはそのすぐ後でした・・・」

ロファはその話の不思議さ以上に気にかかる事があった。

「あのシタールの声を聞く?」 店主もわからないとばかりに首をふる。

「ええ、そうです。彼女、まぁ、今となっては果たして当人だったのかどうかはわかりませんが、そう言ってましたよ」

(『約束』ですよ・・・、ロファ)

 『記憶』の続き。それは間違いなく自分の名前を呼んでいた・・・。

「おじさん、あのシタールをおいらに売ってくれないか?」


「・・・報告は以上でございますフィオネル様」

「そうか、わかった。ありがとうマリウス」

 彼は目の前で膝をついてかしこまる男にそう声をかけた。

 この部屋は広い屋敷の一室を執務室にした部屋である。重厚そうな机と本棚が部屋の中に置かれ、そしてこの部屋と、ここら一帯を治める領主の後ろには大きな窓があった。

 この領主の名をフィオネルと言う。年は二十三才とまだ若いが、彼はすでに良き領主としてこの街の人々に慕われていた。

 少し前に、三才年上の美貌の踊り子と幸せな結婚をし、その妻もよく領主を支え、彼に足りないところを補っていた。

「ところで昨日、なかなかたいした腕の芸人を見かけましたぞ、若」

「その『若』って言うのもそろそろやめてくれないかマリウス?」

 彼はやんわりと部下兼守り役をたしなめる。

「は、すいません若」

 そう言って謝罪するマリウスに苦笑しながら、話を促す。

「で、どんな芸人だったんだい?」 フィオネルは子供の様に無邪気に尋ねた。

 マリウスはそんな主人を微笑ましく思いながら口を開く。

「はい、まだこの街に着いたばかりのようで、年は二十代半ばといったところでしょうか・・・」

「じい、そんな事ではなくて・・・」 フィオネルが憮然としている。

「わかりました」 マリウスはその場に立つと話し始めた。

「やっておりました芸はパントマイムでしたが、これがかなりこまやかな芸風で、そう、一人芝居の演技を得意としているのではないかと・・・」

「ずるいですよフィオ!」 突如、隣の私室に通じる扉が開いた。

 そこに現れたのは美しい黒髪を後ろでまとめ、背が少し高く、勝ち気そうな美女であった。

「芸の話をする時は私もご一緒にさせてもらうと言ったではありませんか」

 彼女はまるで弟にするように夫をしかる。

「すみません。あなたが外から帰っていたとは気づかなくて・・・」

 少し微笑みながら妻に謝る。

「じゃあ、許してさしあげますわ」

 そう言って彼女は明るく笑い、彼の側に立つ。

「あ、今、椅子を・・・」

「いいえ、それやりも続きを話してくださいなマリウス」

 フィオネルの左肩に手を置いてマリウスを見る。

「わかりました」 そしてまた話し始める。

「なかなか堂に入った演技で、客との掛け合いにも慣れている様子。見ていてあきることが無い道化師でございました」

「へぇ、道化師とは珍しいね」

 フィオネルが妻を見上げると、彼女は何かを懐かしむような表情をしていた。

「どうしました?」

 フィオネルが声をかけると、その声で彼女は、はっ、と我に返る。

「いいえ・・・。ちょっと昔を思い出していて・・・」

 彼女が二十歳の時に別れた、一つ年下の少年。サーカスでの彼の役割もまた、道化師であった。

(元気でやってるかしら・・・)

 自分の腕の未熟さをいつも嘆き、内に閉じこもりがちだった少年。悩み、傷つき、苦しみながらも芸から離れることができずにいた少年。そして・・・。

「それでその道化師の名前は何て言うんだい?」

 フィオネルの心は決まっていた。ぜひその道化師に会ってみたい、と。

「たしか、ロファ・サーフェとか・・・」


 ロファは宿に戻ると、そっとシタールを奏でてみる。

 今まで、このシタールに興味を持っても、買いたいという人はいなかったらしく店主は、ロファこそ彼女の言った人物だろうと、喜んで売ってくれた。

 深く心に染み入るような音色。それは部屋の中で広がり、弾けて消える。

(『約束』ですよ・・・、ロファ)

 それは遠き日の『約束』・・・。


まだまだ話は続きます。眠くなかったらまた明日がんばります!(笑)

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