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精霊の星 ~丘の魔王の研究所~  作者: 月見 カラス
第1章 ヴィータ編
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第3話 ヴィータ

 薄闇に囲われて、少女は目を覚ます。


 ぼーっとした視点が、何を見るでもなく、ただ何かを見ようとしていた。

 知らない天井、知らない壁、知らないベッド。


(ここはどこ?)


 体を起き上げると、左腕に違和感を覚え、掻きむしった。点滴が繋がれていた。


(気を失ったんだ。ここは……病院じゃなさそうだけど……点滴?誰か来る前に早く行かなくちゃ)


 気持ちは(はや)く、身体は鈍い。フラつく足取りで、なんとか(あゆ)もうとした時だ。


「どこへ行くんだい?そんな厄介な能力を持っているのに――」


 声の方には、青年がいた。暗がり同化した黒いローブから、白い肌が不気味に浮かぶ。青年は、椅子に腰かけたまま、ゆったりと少女を見ていた。

 同時に、白熱電球に火が灯る。


「能力?なんのこと?」

「隠さなくていい。その必要はない。寝ている間にも少し調べたからね」

「調べた?」


 少女は、ベッドから青年までの間に、等間隔に置かれてた植木鉢が目に入った。


「射程おおよそ3m、君に近いほどしおれているだろう?近づくほど強く働き、直接触れると格段に強くなる。無意識下でも発動し続け、これは君が力を制御できていないことを意味している」


 少女は驚き、戸惑い、それでも強気な視線で青年を睨んだ。


「何が言いたいの?」

「別に?不合理だと思っただけさ。ここを離れても、また倒れるのは目に見えている。次は、誰が君を拾う?良い人か?その良い人は、君の能力を見ても良い人でいられるかな?」

「あなたは違うって言いたいの?」


「……自己紹介が遅れたね。私はアビス、君と同じ精霊だ」

「精霊……?」

「魂のレベルで存在し、魔法と呼ばれる不思議な力を使う存在。君のように憑依して、初めて力が使える」


「じゃあ、あなたも何か能力を持っているの?」

「うん、でも今は君について語りたいねえ」


「命を奪う力に、そんなに興味があるの?」

「”命を奪う”ねえ……。ん-……これは個人的な見解なんだが、魔法といっても何でもできる訳じゃあないんだ。例えば、重力を操る魔法はない。少なくとも、私の知る限りは」


「どういうこと?」

「重力を決定するのは、万有引力の法則。質量と距離。これは科学だ。科学とは、この世の理。神の創った法。何人も破ることはできない。精霊も例外ではない。我々は神などではないのだから」


「言いたいことが分からないんだけど?」

「生命エネルギーなんてエネルギーは存在しない。つまり君の能力も、科学的に説明ができると思っているよ」

「科学的に……」


「君がその能力をどうしたいのかは知らないけど、理解を深めて、悪くなることはないと思うけどねえ」

「わたしは……誰かの命を奪いたいとは思わない。傷つけたいなんて願わない。……信じてもらえないかもしれないけど」


「……そういえば、名前を聞いていなかったね」

「……覚えてない」


「ん-……力の制御が出来てないことと言い、本当に生まれたばかりの精霊なのかもしれないねえ。では、何か記憶は残っているかな?」


「記憶?」


「古い精霊の習慣さ。一番深い記憶、一番焼き付いている記憶、そこから名を付ける」

「記憶……」


 ……少女は少し考え込んだ。


「『生きて』って、どういう意味だと思う?」


「『生きて』?」

「誰かに、そう言われた気がするの……。いつ言われたかは覚えてないけど……。これはあなたの言う、魂のレベルで存在していた時の記憶なの?」

「その可能性もあるし、その体の持ち主の記憶の可能性もあるねえ」


「持ち主?」


「精霊が宿る最も多いパターンは、死後間もない体に憑依(ひょうい)すること。君の場合はこれだね。次に胎児(たいじ)、それから生きている体と共生するパターン、無機物に宿るケースも確認されている」

「じゃあ……この体は……」

疫病(えきびょう)流行(はや)っているからねえ。最初に目覚めた時は、病院だったのだろう?」


「……」


「しかし『生きて』か……。なぜだろうねえ。いいだろう、君の名は『ヴィータ』だ」

「ヴィータ……」

「美しい響きだろう」


「……それで、これからどうするの?」

「まず、君の能力を解明しよう!」


 アビスは不敵に笑った――。

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