第3章 自由を謳歌するケダモノ
僕らは保安官事務所を後にして、街のメインストリートに戻ってきた。
「えーと‥地図だとドゥラホーン渓谷はここから右にしばらく進んだら着くみたいだよ♪」
「右って?方角を教えて欲しいんだけど‥」
「こっちだよー♪」
レイカは右を振り向いて進もうとしている。
「ちょっと待って」
僕はレイカの肩を掴んで止めに入る。
「あのさ‥方角って分かる?」
「法学?私はそんなに頭良くないよー」
どうやらレイカは方向音痴‥というか地図の読み方を知らないみたいだ。
「ちょっと地図を貸して」
どうやら右というのは南西の方角らしく、山岳地帯が広がっているようだ。
「山岳地帯か‥歩いてじゃ行けないね」
「じゃあお馬さんに乗って行こうよ♪」
確かに周りの人達は基本的に馬で移動しているようだ。
「じゃあ馬を貰いに行こうか」
僕らは街にある馬屋に行くことにした。
「いらっしゃい!どんな馬をお探しかな?」
「はーい♪私は白馬に乗った王子様が欲しいです!」
「白馬?ソイツはこの辺りじゃ生まれないよ。オススメはテネシーウォーカーかな、こいつは初心者でも乗りやすいぞ」
納屋の奥から栗毛の馬が顔を覗かせている。
「馬に乗るのは初めてだろ?」
「はい‥この馬はどんな子なんですか?」
「軍馬みたいに速くは走れないけど、落ち着いた滑らかな走りをするから長距離を移動しても疲れにくいんだ。性格は穏やかで、スタミナも十分だから人気の品種なんだよ。」
「そっか‥じゃあこの子を貰おうかな♪」
「オッケー♪じゃあテネシーウォーカーを二頭出すから外で待っててくれ」
しばらく待つと納屋から二頭の馬達が出てきた。
「どうやって乗るの?」
ここだ!レイカにカッコいい所を見せたい‥馬なんか高価な乗り物に乗ったこと無いけどね。
「ここは僕に任せて」
「ユージン?」
「馬とまず仲良くなる事が大切なんだよ」
僕は馬に寄り添って身体を撫で始めた。
「サワサワ」
「本当だ、気持ち良さそうに身体を震わせてるね」
「あっ、兄ちゃんマズイよ」
「えっ?」
テネシーウォーカーは身体を震わせると、僕の足を思い切り踏んできた。
「痛い痛い!!」
「さすがユージン、馬と仲良しなんだね‥」
しまった‥出鼻を挫かれてしまった。
次は華麗に馬に飛び乗ろう!
「じゃあ馬に乗るね。馬の後ろから近づいて‥一気に飛び乗るんだ!」
「あっ、兄ちゃん死亡フラグだね。」
「えっ?」
テネシーウォーカーは高らかに後ろ足を上げて、僕にジャンピング・ニー・バットをお見舞いした。
「なんて綺麗な蹴り技なんだ‥」
僕の側頭部に往年の名プロレスラーの技が炸裂する。
「ユージン!!ギブ?ギブアップ?」
いつの間にかレイカはレフェリーになりきって、倒れる僕にカウントを取り始めた。
「ワン!ツー!スリー!カンカンカン♪物語は終了でーす♪皆さんさようなら♪」
「まだ序盤だし!冒険は始まったばかりだし!」
「あっ、ユージンが復活した。」
「馬の蹴りで死ぬ奴も居るのに‥お兄ちゃんタフだなあ。」
なんて事だ‥格好付けたいのに、ダサイ姿しか見せられない。
「おおー、お嬢さん本当に乗馬するのは初めてかい?」
「わーい♪ユージン!楽しいよ♪」
レイカはいつの間にか乗馬スキルを身に付けて、テネシーウォーカーを自由自在に乗りこなしている。
「レイカは凄いなあ‥僕も乗らないと‥」
まず片足を鐙に引っ掻けて、一気に馬の背中によじ登る。姿勢を正して背中に跨がると、丁度成人男性に肩車された目線の高さになる。
「眺めが良いなあ」
「兄ちゃんも乗れたね、じゃあ軽くその辺を走ってきなよ。」
「うん、ありがとう。」
「ユージン!こっちだよー、着いてきなよ♪」
レイカは既に遠くまで進んでしまったみたいだ。
「よし‥いけ!テネシーウォーク!!」
僕は足で出発の合図を送ると、テネシーウォークはゆっくりと動き始めた。
「ユージン!早く来て!凄い眺めだよ♪」
僕はゆっくりと馬で坂道を登って、レイカの元に着いた。小高い丘の上から遠くまで見渡せる。
新大陸の大地は広大で遥か先に、巨大な山脈が存在している。草原には踏み固められた街道があり、馬車が世話しなく行き交っていた。
「あの街道を通れば隣の街まで着くんだよね?」
「そのはずだよ。まずは街道を通って、ドゥラホーン渓谷に向かおう。それじゃ、一度馬屋に戻ろうか。」
「分かったわ。じゃあ馬から降りるわね。」
そう言うとレイカはテネシーウォーカーから降りてしまった。
「どうしたの、もしかして歩いて行くつもり?」
「ユージンの背中に乗せなさい。」
「えっ?」
「乗馬は想像以上に疲れるわね。やっぱり人間の背中が良いわ、ほら、膝をついて屈んで。早く」
「つまり、僕は君を背中に乗せて、赤ちゃんみたいに、ハイハイするって事?」
「ドレイにとってはご褒美でしょ?」
「…はい。では背中にお乗りください、ご主人様。」
僕は不服そうな態度をアピールしながら、レイカを背中に乗せて進みだした。
「とっても快適よ♪さすが私の男の子ね。」
僕はとても不機嫌だった。どうしても納得いかない事がある。一言言ってやる!!
「レイカ!僕の首輪を引っ張って!早く!」
「えっ…そんな、ユージン貴方まさか、遂にドMに目覚めたのね!!いいわ、思う存分自分を解放しなさい♪」
レイカは思い切り首輪を引っ張ってくれた。
閉鎖的な故郷で隠していたフェチ、長く忘れていた感覚だ。
「神様ありがとうございます!僕は自由だー!」
脳内麻薬であるアドレナリンが僕の頭を支配すると膝の痛みは吹き飛び、猛烈な勢いで赤ちゃんのハイハイで大地を駆け巡り始めた。
「わーい♪凄いスピードね!周りを見てごらん、沢山の野性動物達が貴方の奇行を見守ってるわよ。」
泥まみれのマスクラットやオジロジャクウサギが僕をキョトンとした表情で見詰めている。
何か物足りない
やっぱり人間に見られたい…そう可愛い女の子に!
「ママー、僕ミルクが飲みたいの…飲ませて、ね?」
「おーヨシヨシ♪可愛い赤ちゃんでちゅねー。頑張った、ご褒美にママのミルクを飲ませてあげるね♪」
マジで!!よっしゃぁぁ!!
僕は完全に狂気の権化となり、更に加速して新幹線並みの速さでハイハイをしている。
「あっ、馬屋さんが見えたよ♪」
ヤバい!他人にこの姿を見られたく無い。どうしよう、止まろうかな。
「このまま、突き進みなさい。そして公衆の面前で情けない姿を晒すのよ♪」
「そんな…これ以上は無理だよ。僕の世間体が…」
「ユージン、貴方は何のために故郷を離れて新大陸まで来たの?私に罵られながら、惨めな姿を晒すためよね?思い出した?」
そうだっけ…何か他に大切な目的があったような気がするけど。でもご主人様の命令だし、ドレイとして頑張らないとな。
「ユージン!突貫します!」
「ラストパートよ!競走馬の鞭でやる気を出しなさい♪ゴールは街の門よ!」
バシィ!
僕のお尻に女王様からの愛のムチが鋭く刻まれると、全身が燃え上がるように興奮してきた。
「あと少し…もうすぐ栄光のゴールだ!」
数々の試練を乗り越えて遂に街の門にたどり着いた。麗しのレディの温もりを背中に感じながら、赤ちゃんハイハイポーズを掲げて思い切り叫んだ!
「僕は…自由だ!!」
街の人々が一斉に振り返り、僕らを凝視している。暫く静寂に包まれると、一人の幼女が僕を指差して至極当然の疑問を口に出した。
「マミー、あの人変だよ?」
僕は刑務所に居る。不思議だよね、こんな真面目な人間なのに、逮捕されるなんて人生はなんて不合理なんだろう。
「罪状は公共の場での公然わいせつです。罪を認めますか?ユージン=マクガヴァン?」
ジャクソン=スミス保安官は冷静に職務を遂行している。
「はい…認めます」
「全く…私も沢山の犯罪者と関わってきたけど、君みたいなタイプは初めてかな。しかもバウンティハンターの依頼を受けてる最中に逮捕されるなんて前代未聞だよ。君への依頼を取り消しても良いかな?」
「すいません!それだけは許してください!」
「まあ幸い、全裸になった訳でも無いから罪は軽いよ。但し、次は本当に裁判所まで連れていくからね。」
「ありがとうございます。」
「もう行きなさい。早くバウンティハンターとしてバリーレイダーズ一味を捕まえてくるんだ。」
僕は手錠を外れ、久しぶりに外の空気を満喫した。
「ユージン、お帰りなさい。罪を償えたかしら?」
レイカはいつも通り、曇り一つ無い笑顔で出迎えてくれた。
「ふっ、待たせたね。刑務所から華麗に脱獄してきたばかりさ。さあ、お手をどうぞ。Missレイカ。」
「ありがとう。そんな脱獄犯のユージンに見て欲しい紙があるの。はい、この貼り紙を見てね。」
レイカは保安官事務所に張り出されている一枚の紙を指差している。
WANTED ユージン=マクガヴァン
罪状 変質者
仮懲役 150年
「何だよこれー?僕の量刑が重すぎー」
「合衆国では過去の懲役が加算されていくシステムなの。つまり今回の罪以前の懲役もしっかり加算されてるのよ。」
「そんな…僕は罪なんて犯した覚えはないよ。」
「貴方の過去の罪が詳しく書いてあるから。見てみるわね。」
ユージン=マクガヴァンの悪行
1 小学校低学年の頃、ママに甘える振りをして、おっぱいを吸っていた。仮懲役20年
2 友達から本を借りているのに、自分の物にした。仮懲役15年
4 New♪公共の場で女王様プレイを堪能した。仮懲役15年
5 川に落ちて、溺れかけた子猫を助けた。仮懲役100年
「ちょっと待って!何で子猫を助けたのに、懲役100年なの!?それに僕の黒歴史を何で知ってるの?忘れていたのに…」
「神様は全てをお見通しなのよ。過去の罪から逃れる事は出来ないわ。」
「うぅ…恥ずかしい。もう外に出れないよ。僕はどうやって生きていけばいいんだろう。」
「大丈夫よ。貴方みたい変人には、このレイカ=プレシェットが居るわ。ユージンは私に依存するしか無いのよ。理解した?」
そうだ、こんな変人を見捨てないでくれるのはレイカだけなんだよね。僕は何て幸せなんだろう。これからも一層、彼女を大切にしていこう。僕は心を入れ替えて、爽やかな笑顔で彼女に語りかける。
「ご褒美にママのミルクを飲ませてくれる約束だよね?そこの茂みに隠れて赤ちゃんプレイをしませんか?」
「懲りてない堕犬ね…お仕置きが足りないようだわ。」
バシィ!
強烈なビンタが頬と脳を揺らし、新たな快感に酔いしれる僕なのであった。
お読み頂き、ありがとうございます。
もしかすると…不愉快に思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、ご容赦下さい。
毎週金曜日の19時に続きをアップロードするので、良ければお楽しみください♪