序章 ホムラの炎に包まれて
真夜中なのに太陽が真っ赤に燃えている。
お日様は私達に温もりと恵みを与えてくれるけど、目の前の炎は攻撃的だ。遥か直上に浮かぶ紅蓮の恒星は水素原子の核融合による膨大なエネルギーで全てを焼き尽くす。そんな巨大な質量の太陽が浮かんでいるのに、辺りは暗闇に包まれ、何も照らさない。
木々の嘲りすら息を潜めて、気配を消している。
世界が彼に怯えている。
愛用する白銀のリボルバーを腰に携え、闇夜に溶け込み、一人佇んでいた。
次第に目が慣れてくる。無数のシカバネが彼に懺悔を捧げていた。黒焦げの炭人はまるで時が止まったかのように、自然な姿勢で固まっていた。
彼に近付く愚かな天使は蝋燭の翼をもがれて、その身を穢れた大地に墜とす。
次第に太陽は私の元に近付いて来た。空に手が届きそうな感覚を覚えると、暗闇の大地が灼熱の炎に包まれる。
私は村の中に居たようだ。
幸せな家族の思い出、故郷を懐かしむ気持ち、区別と差別の狭間でもがいた日々が全てホムラの炎に呑み込まれている。
私も焼かれるのかな。不思議と怖くなかった。
彼にはそれだけの理由がある。決して皆が納得する訳でも無いし、殺戮の罪は許されない。
私は知らなかった。過ちを犯した人間の物語を。
彼がこっちを振り向いた。
深い鮮血を浴びたショットガンコートを身に纏い、踵の撃鉄を打ち鳴らしながら私の元に歩み寄る。
見慣れた顔に暗い影が掛かる。まるで彼の心の闇が表情を隠しているみたいだ。虚ろな眼差しを覗き込むと、かつての輝きは失われ、白く淀んでいた。
思わず息を飲んでしまう。すると私の気配に反応して、機械のような正確な動作でリボルバーの銃口を私に向けてきた。
躊躇なんて存在しない。彼はそうして生き延びてきた。張り詰めるピアノ線が私の首筋に絡まり、何時でも絞首刑のように奈落の底に落ちる準備が出来ている。
彼の胸元に光るドックタグが見える。惨めに生命を捧げる、地獄の番犬に与えられし僅な人間らしさだ。
何か刻み込まれている
「Dear Emily」
私の名前では無い
彼女の名前でも無い
誰の名前なのかな?クスクス♪
ねえ‥どうせあなたはワルい人
沢山奪って傷つけて
なのになぜ?
アナタはそんなに優しいの?
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