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第一章 過去編 第三話 朱鷺亭

商隊護衛任務の終了後、商隊長より任務完了証を貰った謙信達は二人で魔窟用の道具を購入する為、商店を回っていた。


「うひゃー!人人人っすね!」

「優斗、落ち着け。田舎者丸出しだぞ?!」

「まさかここまで人が多いなんて思ってなかったっすよ」


有明大橋から萬代橋まで続く西大通りを北上し古町ふるまちを目指していた。





◇◆◇


新潟市は暗黒時代突入時、日本国内の他の自治体同様に大混乱に陥った。

人々は亀裂から溢れる魔物達に蹂躙され生存圏を失っていくうちに端へ端へと安寧を求め逃げる事になる。

新潟市に限った事ではないが、平和な土地で自由を謳歌していた人々に今からスマフォを捨てて鉄パイプ(武器)を持てと言われても無理な話である。


新潟市は海に面している事と亀裂から多少距離があった為、魔物発生当初は被害が殆どなかった地域と言える。但し、それは必ずしも良かった事とはとても言えなかった。周辺から避難して来る人々からの話を真実として受け入れるのに時間が掛かってしまい魔物への対応が遅れ、結果的に常軌を逸する人的被害が発生する事になる。

これは日本全国に言える事であり、糸電話レベルの通信しかない状況では致し方ないと言えたのかもしれない。


それでも生存圏を賭け戦った新潟市民は勇敢であった。行政機関、自衛隊、警察、医療機関などが総力を挙げて結集し魔物に対抗したのである。


数々の人魔大戦を経験し新潟市はなんとか生き残る事ができたが人口は避難民を含めても2046年現在10万人程度になってしまい旧時代の栄華を取り戻すまでには至っていない状態である。


生き残ると言う意味で幸運だったのは新潟市には新潟島と呼ばれるエリアがあった事である。信濃川を分水した為、海に面した地域が人工の島の様になり魔物の襲来を信濃川に架かる橋での戦いで撃退する事ができたのだ。


何故魔物が川に入って攻めて来なかったのかは不明だし、空から攻めてくる種族の魔物が少なかったのも幸運であった。


余談ではあるが、魔物達の被害も尋常ではなく新潟市中央区周辺からは組織だった行動をする事がなくなり、最近では新潟島南部の千歳大橋を渡った旧時代の県庁を起点として南へ2km程にある旧新潟バイバスの高架下を塞ぎ防壁として人間の勢力圏を拡大している最中である。


新潟市のように地形に恵まれていた場所、組織力を発揮し守った場所など日本各地にはまだまだ多くの人類の生存圏が残されている。





◇◆◇


新潟島は北から魔窟街→港湾街→古町(商業・工業)→大学街(医療・研究施設)→住宅街→農地(信濃川を渡った対岸にも農地が広がっている)の6種のエリアに分かれている。


 謙信と優斗は2階建て木造家屋が長屋の様に並んでいる通りを人の波を掻き分けながら買物をしていた。


「……これは確かに凄い人だな。職人達の仕事終わりの時間帯だな。悪い時間帯に来てしまったようだ」


夕暮れ時になり古町と呼ばれるエリアは商店や飲食店などが集まっている為、萬代橋付近の鍛冶街、工業街から流れてくる職人達に因って大変な賑わいを見せていた。


田舎の生活しか知らない優斗を危惧し買物もそこそこに謙信は宿に向かう事にした。


「優斗!こっちだ。この路地から信濃川に抜けるぞ」

「りょ、了解っすぅぅぅ」


人酔いしてフラフラになっている優斗を捕まえて無理やり路地に入り、進んで行くと何とか信濃川の堤防に出る事が出来た。


「け、謙さん。限界っす。きゅ、休憩を……」

「もう宿は直ぐそこだ。この程度で諦めていたらお前は人魔決戦で死ぬぞ?!」

「うへぇ……」

「決戦ってのはな人間も魔物も総力を挙げて戦うんだ、人と魔物の海の中で戦うのと一緒だぞ?」

「確かにそうかもしれないっすけど……。わかったっす。弱音を吐いてすいません」

「本当に直ぐそこだから、がんばれよ!」


激励されたからか優斗は元気を出して謙信について行くのであった。


「ほら、ここだ」


謙信の指さす先には2階建ての木造家屋が有り、入口の隣に宿泊【朱鷺亭】と木看板に白字で書いてあった。


「こ、ここっすね。やっと着いた……」


引き戸を開けて中に入り正面にある受付を見ると誰もいなかった。夕食の支度をしているのかと思い謙信は大きな声で店員を呼ぶ。


「誰かー?誰かいないかー?」

「はーい。あら?!誰かと思えば謙さん。いらっしゃい」


右手の食堂から長い黒髪を左肩に寄せ赤い紐で髪を纏めた美人が藍色の小袖を着て受付にやって来た。


「有紀!久しぶりだね」

「本当に久しぶり2年ぶりかしら?」

「その位になるかもしれないね。手紙は偶に書いてたけどやっぱり久々に会うと嬉しいもんだ」

「やだわ、謙さんったら嬉しいだなんて。私だって嬉しいわよ・・・ふふふ。」


直江有紀と言うこの女性は【朱鷺亭】の女将であり謙信の友人の一人で、頭が上がらない数少ない相手とも言える。


「け、謙さん……」

「あっ。こっちは五十嵐優斗って言うんだ。明日から魔窟を案内してやる予定なんだよ。当分、世話になるつもりだからお願い出来るかな?」

「えぇ、もちろん平気よ。ただ、今は狭い個室しか空いてないから別々で良いわよね?」

「あぁ、二部屋頼むよ」

「丁度、二部屋空いてるから良かったわ。片方はちょっと狭いけど一人なら十分寛げるから安心してね、優斗君」

「は、はいっす!」


謙信と有紀はお互い簡単な近況報告を終えると早速部屋に案内してもらう。


「その肩に止まっているのは鷲?うちは問題無いけど泊まれる所はそう多くも無いかも知れないわね」

「この鷲は従魔で名前をブン太って言うんだ。突然来て申し訳なかったね。来る事がわかっていたら前もって連絡するつもりだったんだけど、丁度新潟市に向かう隊商がいたもんだから便乗して来たんだよ」

「そう…。取り合えず部屋に案内しましょう」


受付左手の階段を有紀に付いて上がっていく。

宿の中は手入れが行届いており、清潔感のある廊下や階段には装飾品が所々飾ってある。高級旅館とはいかないが、これなら20室ある部屋が満室なのも頷けると思った謙信である。


「優斗君は右手の一番奥の部屋よ。これ鍵ね」

「はいっす。よろしくお願いしまっす!」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね。それから謙さんはこっち」


2階に上がり優斗に鍵を渡して部屋を指差した後、謙信は有紀の案内で部屋に向かって行った。



次回から過去編へ

説明を増やすとテンポが悪くなりますよね。

過去編(20話程予定)が終わりましたら設定集的な物を入れようと思います。

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