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第一章 過去編 第一話 謙信と優斗とブン太

あの大停電から26年の月日が経った。

――2046年 夏――


今年で43歳になる謙信は、隊商を護衛する任務で新潟市に向かっていた。昔、この道は国道と呼ばれていた。市民ランナーやサイクリスト達のトレーニングに最適な道とされ市民に愛されていたが、今はもうその面影はない。海風に因って国道402号線は砂が堆積する砂丘の様になっていた。


砂に埋もれた国道を5台の荷馬車と多くの探索者が護衛し北上していた。最後尾を護衛する男が二人、黄土色の服の上から黒革の装備に身を包んだ長野謙信と五十嵐優斗が会話をしていた。


 長野謙信は今年で43歳になるベテラン探索者である。五十嵐優斗は20歳、まだ若手の探索者の優斗に謙信は色々な事を教えながら歩いていた。


「優斗。昨日説明した新世代の話はちゃんと頭に入ってるか?」

「ちゃんと入っていますよ!ほらここに」


優斗はポケットから取り出したメモをヒラヒラと見せつけるようにしてきた。


「ちゃんと覚えたかって聞いたんだぞ?メモってるだけマシだが新潟市に着くまでに覚えろよ?ほら見せてみろ!」

「あ、ちょ、ちょっと!」


優斗からメモを奪うと謙信は書かれている内容を確認し始めた。


=============================

旧世代~新世代(2020~2046)(優斗が記載したのは( )の文章のみ)

2020年 世界事変

世界事変は当初大規模停電と思われていたが、実は只の停電ではなかった。

電気・化石燃料(石油・ガス)・火薬などの人類必須のエネルギー、化学技術が消失したのである。

その三日後には世界規模の大地震が発生し、大地に生じた亀裂から溢れ出てきた魔物との生存競争に於いて人類は未曽有の危機に陥った。

(2020年の世界事変以降に生まれた人を新世代と言う)


2023年 魔素の発見

人類の英知の元となる資源の消失により時代は大きく退化する事になる。

江戸時代末期のような状態を受け入れるには先進国の多くの人類は耐える事が出来なくなっていた。

そんな時に人類は新しいエネルギーとなる魔素を発見する。


2029年 魔素の実用化(魔素計測器などの発明)

世界事変から魔素の発見に至り人類は魔素の研究を開始する。

魔素とは何か?魔素で何が出来るのか?

人類は過去の栄華を取り戻すべく研究に邁進した結果、魔素計測器の発明や魔素の燃料、通貨としての実用化を本格的に開始する事になる。


2032年 魔物の知的覚醒と人類の進化

これまでは只管人類を襲う事しかしなかった魔物達が集団での組織的行動を始めるようになる。

同時期に人類には特殊な能力に目覚める、又は特殊な能力を持って生まれた者達が現れ、生まれるようになる。(2020年世界事変以降に生まれた人類は特殊な能力を必ず持って生まれるので新世代と言われ、世界事変以前の人々を旧世代とした。)


2035年~2038年 人魔大戦の激化

この頃から魔物達は種族毎に社会性を持つようになる。

魔物達は知的覚醒により集落や勢力圏を持つようになり繁殖を始める。


2041年~ 人類の反攻開始

人類は最盛期の3割以下の人口に落ち込みはしたが暗黒時代を乗越える事により魔物への反攻を開始する事になる。(←今ココ)

反攻が可能になった原因としては、主戦力が新世代になった事による戦力の増強、魔素エネルギーの技術拡大、組織化が進み治安の回復などが挙げられる。


=============================


「優斗?これ教本ほぼマルパクリじゃねーかよ」

「いやいや、そんな事ないっすよ?ほらココちゃんと書いてるじゃないっすか?」

「おい?(←今ココ)ってなんだよ?お前俺達が必死に戦った事を何だと思っているんだ?」

「え?尊敬してるっすよ、感謝しかないっすよ!」

「優斗、そうは言うが……(溜息)」


 今まで弥彦村の市民ギルドに所属していた優斗は魔窟がある新潟市に活動拠点を移そうとしている。育った弥彦村では周りの人達は優しくしてくれただろう。だが、これからは自分で仲間を募り行動して行かなくてはならない。大分、能天気な優斗を謙信は心配していた。


「歴史が苦手なのは知ってるが、旧世代の人間との会話は注意しろよ?下手に口を滑らして揉めても事だからな」

「はいっす!」

「はいっす!じゃねーよ本当に・・・。(溜息)」


海岸沿いの道は涼しい潮風と夏の暑さが合わさり、何とも気持ちが良い。


暫く歩いていると必死にメモを覗き込んでいた優斗が謙信に話しかけてきた。


「謙さん、旧時代ってそんなに良かったんですか?」

「良いか悪いかで言ったら今よりもずっと良かったぞ。毎日腹一杯飯は食えるし、皆武器なんて持っていなかった。優斗が考えている100倍は良い時代だったな。まぁ、想像なんかできないだろうし説明も正直できないんだがな・・・」

「説明できないって・・・。前に言ってた良い所が多すぎて面倒って奴ですか?」

「そうだな。面倒っちゃ面倒だけど今みたいに単純じゃなかったんだよ。生きるか死ぬかの選択肢以外が多すぎたんだ。」

「生きるか死ぬか以外?それ以外って確かに想像もできませんね・・・」

「だろ?働かないでも飯が食える人間がいたり自由をはき違えて暴走したって20歳以下なら許してくれるそんな時代だったんだよ」

「なんすかそれ?確かに想像できないっすね」


今回の護衛は、弥彦村から新潟市までの片道1日の簡単な護衛任務であるが、ベテランの謙信が参加するのには一つの目的があった。

見習い期間が終わり5等級探索者と成った優斗の初めての魔窟――ダンジョン、迷宮等呼び名はその土地の魔素溜りに因む――探索を指導する為である。

謙信は弥彦村の中目道場の免許皆伝で、偶に教える手伝いをしていた。優斗はその門下生で子供の頃から謙信の冒険談を聞き、魔窟に連れていく約束をさせられていた。


「優斗がもう20歳か…。子供の頃からの約束とは言え本当に連れていく事になるとはな」

「へへん。謙さんから一本取ったらって約束したじゃないっすか。今更ですよ?」

「男に二言はないが一本って言っても当てただけだろ?」

「当てれたら連れてくって約束したじゃないっすか。二言はないんでしょ?」


 子供の頃の優斗は弥彦村でガキ大将であった。生意気ではあったが年少者を思いやる気持ちには好感が持てたので、謙信はよく優斗の相手をしていたのである。


「分かった分かった。まぁ探索者に最低限必要な事位はちゃんと教えてやるよ」

「さっすが謙さん!」


砂上の国道402号を隊商の護衛をしながら歩いていると道路に影が走った。空を見上げると翼を広げ青い空を舞う鳥が飛んでいるのを確認できる。


(ん?どうやら新潟市が見えて来たみたいだな。)


謙信が徐に左腕を上げるのを合図に、体長50cm程のオウギワシが空から下りてきて左肩に止まる。腰についている袋から干し肉を出してオウギワシに与えると嬉しそうに食べ始めた。

謙信は肩に止まるオウギワシに語り掛ける。


『ブン太警戒ありがとうな』

『この辺一帯に魔物はいないヨ』

『それならもう安心して良いな。そろそろ町も見えてくるから小型化していてくれ』

『あいヨ!』


肩に止まったオウギワシがぼやける様に小さくなっていき、手の平に乗る大きさになった所でサイズが止まると優斗が物欲しそうに話しかけてきた。


「ブン太!格好良いなー、良いなー。欲しいなー」

「優斗、落ち着け。ブン太が嫌がるぞ?」


ブン太は普通のオウギワシ(別名:ハーピーイーグル)ではなく聖獣ホーリーイーグルである。

全体的に白く柔らかい羽毛に包まれ頭上の扇形の羽と翼の先端が青く神秘的な雰囲気を醸し出している。


動物のオウギワシは成体になれば全長1m翼開長2mと言う猛禽類最大の大きさまで成長し、獰猛に獲物を捕らえる空の王者である。ブン太は固有能力として体の大きさを変える事ができ、戦闘時には全長2m程になりサイズ変更を自在に使いこなす聖獣である。

但し、聖獣の存在は確認されていない。その為、謙信はブン太を魔物として使役していると言う事を建前として世間には通している。


「だってー、従魔なんて憧れちゃいますよ!どうしたら従魔って手に入るんっすか?」

「こればっかりは運と言うしかないな。その辺にいるシャドウウルフの魔物の幼生でも見つけて育てれば可能性はない事もないんじゃないか?」


 2046年の新潟市付近では魔物を従属していると言う者はいないが、全国的にいないと言う訳ではなく数人だが探索者界隈では情報として流れていた。


「えー、猛禽類は無理っすか?」

「猛禽に限らず鳥類は諦めた方が良いぞ?こいつらの巣は2級の探索者でもそうそう近づけないからな」

「そ、そんなに大変なんすか!俺にはまだまだ無理だなー」

「まぁ、諦めなければ不可能なんて事はないさ」


 謙信と優斗とブン太は左手に見える海から吹く潮風に吹かれながら、砂丘の様に砂が積もった道を歩いて行く。


説明が分かり辛いと思いますが、物語の核心に触れない程度の説明とご理解頂ければと思います。

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