2.疾風さん。
「しっぷうのハヤテ……。なんか、頭痛が痛いみたいな……」
「ふふふふ。それ以上を口にすれば、喉元掻っ捌いてやる」
「あー、一応気にしてるんだ」
ボクの指摘に、ハヤテは不敵に笑いながらそう言った。
どうやら自身の二つ名について、本人も違和感を抱いているらしい。これ以上はツッコまない方が、彼のためなのかもしれない。
とりあえず、このままでは話が前に進まないので要件を教えてもらおう。
「それで、疾風さんはどうして魔王城に?」
「ふふふふ。よくぞ聞いた――」
訊ねると、彼はまたポーズを決めてこう言った。
「リリスが陥落したと聞いてな。だとすれば、四天王が動くのは当然だろう? ――お飾りとはいえ、自分たちの主が敗れたのだからな」
「へー……、でもそれって――」
ボクはそれを聞いて、少しだけ声の調子を下げる。
そして、睨みつけるようにして口にした。
「要するに、自分が上に立つための体のいい口実だよね?」――と。
すると緩やかだった空気が一変した。
ハヤテはスッと目を細めると、どこか愉快そうに笑う。
「なるほど、底抜けの馬鹿ではないらしい」
「え、馬鹿にされてたの?」
「演じずともよい」
「…………」
そして、こちらが惚けると鋭く指摘した。
ボクは口元に笑みを浮かべながらも、その言葉に黙り込む。ハヤテはそんなこちらを見て、いつでも戦えるような体勢を取った。
「うつけを騙る、人間――しかも、農民ときたか。ともなれば、その腹の底を明かしてみるのも一興というもの……!」
湧き上がるのは魔力、というものだろうか。
一般人であるボクにはない、力の流れ。それが、彼の足の方に流れ込んでいくのが分かった。これはおそらく、身体能力強化系の魔法、というやつだ。
その程度の知識なら、ボクにでもあった。
「いくぞ、マルカ――我が高速の一撃、喰らうがいい!」
そして、その直後だった。
「あ、消えた」
目の前から、ハヤテの姿が消えたのは。
ボクは棒立ちのまま、気配を探った。すると――。
「ふふふふ。見えないだろう! ならば、死ね!!」
声が聞こえた。
風を切る音が聞こえる。
うん、これなら問題なく――。
「てりゃああああ――」
「えい」
「うぼらはぁ!?」
前方に右ストレートを放つ。
するとそれは、完璧にハヤテの顎を打ち砕いた。
きりもみ回転しながら、吹き飛んでいく四天王の一人。壁に激突して伸びてしまった彼を眺めて、ボクは清々しく額の汗を拭った。
そして、こう告げる。
「速いだけじゃダメだよ。ちゃんと、気配も消さないと」――と。
◆
「な、なにが起きているのだ……?」
――ハヤテが玉砕してから、数時間後。
リリスは額を押さえて、眉間に皺をよせていた。
対してマルカは依然として伸びたままのハヤテを、木の棒でつついている。
「わ、我には何も見えなかった」
そんな現魔王を見ながら、呟く少女。
少なくとも、ハヤテは弱くない。それだけは、たしかだった。
やはり問題なのは、この農民を名乗る青年の規格外の強さなのである。
「なぁ、マルカ? いったい、どうやって鍛えたんだ」
「ん……?」
その根源が知りたくなって、リリスは彼に訊ねた。
するとマルカは、満面の笑みでこう答える。
「いや、農作業やってたら自然に、ね!」――と。
少女はそれを聞いて、即座にツッコんだ。
「そんなわけないだろー!?」




