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プロローグ 最強の農民、魔王になる。







「よ、よよよよっよよよ、よくきた勇者よ! おま、お前に良い話がある!」




 魔王城の最上階に飛び込むと、角を生やした一人の少女がそう言った。

 顔面蒼白で、胸を張りながらも膝から下をがくがくと震わせて。



「我と手を組めば、世界の半分をやろう……っ!」――と。



 それは破格の条件だった。

 世界の半分をもらえるなんて、なんということだろう。でも――。



「それって、キミを倒せば全部貰える、ってことだよね?」

「ひぃっ!?」



 裏を返せば、この子を倒せばすべてが手に入るということ。

 ボクは鍬を構えた。



「あと、それにボクは勇者じゃないよ?」

「な、そんな馬――」

「農民です」

「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁあ!?」



 そして、一つ訂正すると少女は絶叫する。

 膝から崩れ落ちて、嘆くのだった。








 ――それで、どうなったのかというと。



「そもそも、人間側が敗北したこの世界に勇者なんているわけないよ。キミ、一応は魔王をやってるんだから、その辺の整合性は理解できない?」

「うぅ……。一応、とか言わないでくれぇ……」



 ボクと少女――魔王リリスは、ひとまずの停戦をすることにした。

 というのも、まずは話し合いが大事だということ。何でもかんでも、暴力で解決するのは良くなかった。

 というわけだから、そこに至ってボクはゆっくりと彼女を観察する。



「それにしても、魔王ってずいぶん小さいんだね」

「小さい言うな!?」



 で、思わず出た感想がそれ。

 だって小さいものは小さいのだから、仕方ない。

 小柄で長い金の髪が美しい少女。魔族特有の赤い瞳は潤んでおり、フリルと布地のバランスを間違えたような衣装を着ていた。

 背中には小さな黒い羽、腰からは尻尾が生えている。



「わ、我はその……。先代から引き継いだだけの、お飾りだから……」

「あぁ、それでこんなに弱いんだね」

「弱い言うな!? お前が異常に強いんだ!!」



 ボクが納得したように言うと、リリスは涙目で怒った。



「そもそも、なんだ農民って! 人間の村で畑を耕してたのか!?」

「うん」

「真顔で言うな!?」

「だって、農作業してただけだもん」

「農作業してただけで、魔王城の魔物が倒されてたまるか!!」



 正直に答えているだけなのに。

 どうやら、こちらの素性を信じていないリリスは喚くのだった。しかしこれでは話が先に進まないので、ボクは先ほどのリリスの言葉を引き合いに出す。



「ところで、世界をもらっていいんだよね?」

「はへ……?」



 目を丸くする少女魔王。



「いや、だってキミが魔王でしょう? 倒せたんだから、ボクが世界を支配しても良い、ってことだよね?」

「え、あ、いや――」

「よし! それじゃ、声明を出しちゃおう!!」

「待ってくれぇぇぇぇぇぇえ!?」









 ――その日、魔族に支配された世界に激震が走った。

 曰く、一人の農民によって魔王が打倒され、支配者が変わったというのだ。ぶっちゃけた話、数少ない人間も、魔族たちも唖然である。



 しかし、これにて停滞していた世界が動き始めた。





「ボク、今日から魔王になりました! よろしくー!」





 陽気な農民――マルカの宣言によって。



 


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