プロローグ 最強の農民、魔王になる。
「よ、よよよよっよよよ、よくきた勇者よ! おま、お前に良い話がある!」
魔王城の最上階に飛び込むと、角を生やした一人の少女がそう言った。
顔面蒼白で、胸を張りながらも膝から下をがくがくと震わせて。
「我と手を組めば、世界の半分をやろう……っ!」――と。
それは破格の条件だった。
世界の半分をもらえるなんて、なんということだろう。でも――。
「それって、キミを倒せば全部貰える、ってことだよね?」
「ひぃっ!?」
裏を返せば、この子を倒せばすべてが手に入るということ。
ボクは鍬を構えた。
「あと、それにボクは勇者じゃないよ?」
「な、そんな馬――」
「農民です」
「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁあ!?」
そして、一つ訂正すると少女は絶叫する。
膝から崩れ落ちて、嘆くのだった。
◆
――それで、どうなったのかというと。
「そもそも、人間側が敗北したこの世界に勇者なんているわけないよ。キミ、一応は魔王をやってるんだから、その辺の整合性は理解できない?」
「うぅ……。一応、とか言わないでくれぇ……」
ボクと少女――魔王リリスは、ひとまずの停戦をすることにした。
というのも、まずは話し合いが大事だということ。何でもかんでも、暴力で解決するのは良くなかった。
というわけだから、そこに至ってボクはゆっくりと彼女を観察する。
「それにしても、魔王ってずいぶん小さいんだね」
「小さい言うな!?」
で、思わず出た感想がそれ。
だって小さいものは小さいのだから、仕方ない。
小柄で長い金の髪が美しい少女。魔族特有の赤い瞳は潤んでおり、フリルと布地のバランスを間違えたような衣装を着ていた。
背中には小さな黒い羽、腰からは尻尾が生えている。
「わ、我はその……。先代から引き継いだだけの、お飾りだから……」
「あぁ、それでこんなに弱いんだね」
「弱い言うな!? お前が異常に強いんだ!!」
ボクが納得したように言うと、リリスは涙目で怒った。
「そもそも、なんだ農民って! 人間の村で畑を耕してたのか!?」
「うん」
「真顔で言うな!?」
「だって、農作業してただけだもん」
「農作業してただけで、魔王城の魔物が倒されてたまるか!!」
正直に答えているだけなのに。
どうやら、こちらの素性を信じていないリリスは喚くのだった。しかしこれでは話が先に進まないので、ボクは先ほどのリリスの言葉を引き合いに出す。
「ところで、世界をもらっていいんだよね?」
「はへ……?」
目を丸くする少女魔王。
「いや、だってキミが魔王でしょう? 倒せたんだから、ボクが世界を支配しても良い、ってことだよね?」
「え、あ、いや――」
「よし! それじゃ、声明を出しちゃおう!!」
「待ってくれぇぇぇぇぇぇえ!?」
◆
――その日、魔族に支配された世界に激震が走った。
曰く、一人の農民によって魔王が打倒され、支配者が変わったというのだ。ぶっちゃけた話、数少ない人間も、魔族たちも唖然である。
しかし、これにて停滞していた世界が動き始めた。
「ボク、今日から魔王になりました! よろしくー!」
陽気な農民――マルカの宣言によって。
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