記憶は何処に
毎週土曜・日曜の何れかの更新だけになりそうです。今度の長期休暇には再びペースが上がるかもですが。
それ以降、会話を再現したり、街中を巡ってみたり、色々な事を試してみたが、結局記憶は戻ることはなかった。
午後7時、夏とは言っても八月の中旬である。流石に日も短くなってきており、既に日は沈みかけている。結実がまだ高校生なことも考えて、そろそろ帰るべき時間だろう。
明日は…そうだな。町だけでなく、学校の裏山などを調べてみるのもいいかもしれないな。
蝉の死骸が地面に転がっている。つぶさないように気を付けて歩く。地面を見て、しっかりと。空を飛ぶまだ生きている蝉は声を上げ、その存在を主張しているというのに見向きもせずに。そして、また一匹、蝉が地面に落下した。
~~翌朝~~
着替えも終えた。今日の予定の再確認をしようか。今日は裏山に行こうと考えていたはずだ。さてと、二日かけて私は初対面の時の会話を思い出せた。その時、私が副次的に思い出せたのは白い髪と白い肌そして、声だったはずだ。
ふむ、結実には今日の予定は話したはずだったから、もう一度共有しておくべきか。
私の部屋の隣が結実の部屋なため、すぐに相談することが可能だ。
部屋から出て、結実の部屋をノックする。
「結実、いるか?」
「ん~!いるよ~!でもまだ入っちゃダメね!着替えてるから!」
「わかった」
数十秒ほど待っていたら、結実が部屋から顔を出して、手招きをしている。
部屋に入り、早速本題に入る。
「今日の予定に齟齬が無いか、確かめておきたいのだが、今日の予定は裏山に行くことであっているか?」
「え?うん。合ってるよ。そんなことのために来たの?お兄ちゃんが予定とか忘れたこと無い気がするんだけど?……あれ?マジで忘れたことなくない?」
「……そうか。ならいいんだが」
出所のわからない記憶の違和感に首をひねる。
なんだ?これは。この違和感は何だ?あの子関連のことなのか?ならば、思い出さなくてはいけない。
焦燥は渦を巻き、思考をその中心へと引き寄せようとする。
一つ一つ思い出せ。これまでの出来事で何か引っかかることはないか?私は一昨日結実への失言を謝罪しようと命を懸け、その後、あの子関連の事で思い出せることを探すため、結実とともに外へと出た。暑かったため、途中でコンビニに……。
……私は何故、結実に高級なアイスを買うことを許可したんだ?たとえ結実が手伝ってくれていたとしても、私の生活に余裕が残っていたとしても、その判断は少し違う気がする。私らしくない気がする。何かしてもらった時のお礼のような形ならまだしも、手伝ってくれている、ただそれだけで買うだろうか?失言の謝罪も含めてか?いや、それはあの時は既に水に流れていたはず……。
なんだ?何か忘れているのではないか?
恐らく、結実には急に黙った私が変に映ったのだろう。
「おにーちゃーん?どったの?黙っちゃって。妹とは言え女の子の部屋に入っていきなりだんまりさんはちょっとあれじゃないんですか~?……そ、それに私、一昨日はこ、ここ告白までしたのにさっ」
「いや、すまない。一昨日、コンビニでアイスを買っただろう?その時、私は何故、結実にハーゲン〇ッツを買ったのだったかをよく覚えていなくてな。何故だったかわかるか?」
結実は心底不思議そうな顔をして、
「ん?そうだったっけ?一昨日はお兄ちゃんが昨夜の失言のお詫びだって言って、私と一日デートもどきをしてくれただけだったと思うんだけど?まあ、例のあの子の記憶探しの方がメインだったけどね。ブラブラする以外に何かしたっけ?
あと、私の言葉はスルーですか~?」
「……そうか。
結実の部屋だったら、何度も入っただろう?緊張しないのは当然だ。それに愛召の部屋にも時々だが招待されるからな。はっきり言って女性の部屋というだけでは特別視できなくなってしまった」
「そっかぁ。そんなんだと一生結婚できないんだからね!その時は私がもらうけどね?」
「安心してくれ。私は結婚サイトでは、かなり引っ張りだこだからな。いざとなれば、そちらにお世話になろうと考えているからな」
結実は冗談を言っているような軽い口調で
「ほう?それで私が納得するとでも?」
と言ったので、私もそれに冗談で返す。
「恋愛に障害は付き物だろう?」
結実は窓の方へと振り向いて、小声で呟く。
「……だったら私、諦めなくても……?」
「……何か言ったか?」
学生の頃とよりも今の私は言葉を逃すことがチャンスを逃すこととほぼ同義のことになっているような所で企業戦士をしている関係上、人の言葉を拾うことに長けている。これまでは、それで未来予知を節約できたり、純粋に会話がスムーズに進んだりとプラスしかなかったが、まさかこのような落とし穴があるとは思わなかった。咄嗟に嘘を吐いたが、流石に察されているだろう。
ここで先の言葉を覆す事をするのは結実に余計な失言をしてしまうことになりかねない。やめておくべきだろう。……だが、もしも、また結実が私を諦めきれなくなってしまったら?私はどうすればいいのだろうか。ならば、ここで否定をしておくべき……?いや、しかし……
そのように女々しくも考えに耽っているうちに結実が声を上げる。
「……ま、そっか。
そうだなぁ。もしかして、一昨日の記憶の一部が切り取られてるんじゃないかな?丁度、お兄ちゃんみたいにさ!」
「ふむ、そうか。……ならば、何故私はハーゲンダッ〇を買った理由を覚えていないだけなのに対して、結実はコンビニに行ったこと自体を忘れていたんだ?……そういえば、結実の記憶では、長野範義についての記憶はどうなっているんだ?」
「ん?なんでお兄ちゃんが長野くんを知ってるの?もしかして、お兄ちゃんは男の娘好き…?えっと、ぼく、ふしぎだなぁ。兄さんがそんなこと知っているだなんて、思わなかったや」
「別に男の娘好きではない。それに、男の娘好きだからと言って、何というのだったか?確か……、ぼくっこだったか?が好きというのも偏見だな」
「そう?まあ、とりあえず今日はコンビニと裏山の方に行ってみよっか!途中で一昨日の何を忘れてたかを考えながらね!」
確かにそれが適切か。
「そうするか」
一先ず、朝に家でやらなくてはいけないことは一通りやった。
それでは、家を出発しようか。
おっと、一昨日購入した麦茶を忘れていた。持っていこうか。飲み切らなくてはもったいないからな。
『おやおや?これはフラグかな?』と思ったそこのあなた、多分そうです。このフラグは少しあからさまですかね?




