超獣と超人
それなりの距離を移動したはずだ。そろそろ休憩をとるべきだろう。ここは都会なためビルなどの建築物が周囲に林立している。近くの適当なビルに入り、化け物に見つからないよう二階へと移動する。
ここなら流石にもう大丈夫だろうと判断し、途中で別れることもできただろうに結局、最後までついてきた例のスマホの青年に話しかける。
「お前は私について来て、良かったのか?」
「はい?俺っすか?」
「そうだが?」
「俺はオッサンについてくのが、安全だーって思ったんで!」
短慮さはこの道中に改善したが、代償のように妙な敬語で話し始めた。敬意のようなものは確かに感じるが、そうじゃないだろう。見た目はかなり良いというのに、残念な感じ漂う男である。
「……そうか、互いに名前が分からないのは不便だろう。折角落ち着ける場所にきたのだ。自己紹介としないか?そして、俺はオッサンではないお兄さんだ」
「あー、その、失礼を承知で言うっすよ?お兄さんはちょっとキツいんじゃないかなって思うっす。……ですが、雰囲気からこれまでの経験が滲み出る渋いおじさんという方向性です。おじさん特有の嫌な臭いもなく、髭も揃えられていて、第一印象は紳士的な人に感じれます。なので大丈夫っす!イケオジっす!」
かはっ!いや、わかっていた、私も昨年20代を卒業したのだ。お兄さんとは呼べないことなど、そう、わかっていたのだ。本当だ。嘘ではない。俺はオッサンなのか。それに、これまで雑な敬語だったのが、フォローの時に丁寧になっているのが心に染みる、消毒液が傷口に染みる感じだが。それでも、治癒ではあるからまあいいだろう。
「あ、あー。オッサンも「あ?」…お兄さんも動揺とかするんすね。でも、そっすね!自己紹介忘れてたっす!じゃあ、俺からいかせてもらうっす!俺の名前は麦畑茶起っす。茶起って響きが女っぽいんで、昔から『麦茶』って呼ばれてるんすよ。是非是非、麦茶と呼んでほしいっす!」
ふ~、落ち着いた。よし、自己紹介だな。
「あ~、その、なんだ、済まない。動揺した。私は四茅野憧成だ。こんな訳の分からない状況で、俺について来るという信頼に応えなくてはならないと考えている。どれくらいの付き合いになるかはわからないが、よろしく頼む。今後の事だが、……そうだな自分の中で行動方針を決めておいてくれ。後で、二人だけだが、簡単にディスカッションをしたい」
「わかったっす」
そう言って、麦茶は考え込み始めた。
さて、この道中にわかった事をまとめようか。
まず、あの巨大牛ガエル以外にも、意味の分からない生物が多くいた。
高速で宙を泳ぐ魚、動く樹木、
雷を纏う筋骨隆々の狼、一つ目の大男。
これ以外にもいたが、すべてを挙げるとキリがない。話をする分にはこの4種で十分だろう。簡単な分析結果をスマホのメモに箇条書きしようか。ソーラー充電器を常備しておいて良かった。
・生物としての生息域は当然のように逸脱する。(ソース:スカイフィッシュ)
・物理法則を無視するものが多い。(ソース:フェンリル)
・基本的に巨大化はしている。(ソース:全て)
・何らかの生物が本地として存在している。(ソース:全て)
・植物も本地と成り得る。(ソース:トレント)※但し、この結果のソースはトレント一匹のみ。
・人間も本地となるが、知性が著しく下がっている個体しか確認できなかった。(ソース:サイクロプス)
何だこれは。まるでファンタジーが現実になっているような……。麦茶とのディスカッションはまだまだ先だ。他のやるべき事を消化しよう。そうだな。携帯が使えるのだから、会社や家族の現状確認はすべきか。手段は…。
チャラン♪
スマホの通知が来た。……スマホのオフライン機能以外も使えるのか。携帯会社は逞しいな。えっと?これは会社からの連絡か。
避難所と世界各国の化物への見解をまとめたページのURLか、あっさりとした内容だな。状況が状況だからだろうが。だがしかし、簡素な物でも、自身から情報を発信できる程度の余裕があるようだ。会社への確認は不要不急だな。
とりあえず、怪物に対する世界各国の見解を確かめておきたい。URLを開く。
………なんだと?一つ目の大男が確認できた時点でまさかとは思っていたが、10人中1人位が超能力のようなものに目覚めているらしい。
また、知性が見られない超能力者のことを『超獣』、知性が見られる超能力者のことを超人』と呼ぶようだ。
超人は差別の対象とされないように少しでも、語感のいい言葉を選んだとのことだ。…わざわざ、それを発表するあたり、各国が少しでも超人を確保しようと躍起になっているのが伺える。
超獣については現在調査中というものが殆どを占めている。
能力の有無の調べ方は、軽い物に何かをぶつけるイメージをして、物が何か変化したら、体外操作系、
それ以外にも、全身に力を入れて、自身に何らかの変化があれば、自己干渉系の能力、と言ったように様々な調べ方と対応する能力があり、まだ見つかってない方法もあるだろう。
もしかしたら、道中で起きた幻のような感覚も能力だったのかも知れないな。
会社が大丈夫なら、家族の無事を確認しなければ。
プルルルル、プルルルル、
『はーい、ハローお兄ちゃん?今をときめくJKの結実だよ!そっちはだいじょぶ?こっちは近くの競馬場の馬たちに羽が生えて、ぐるぐる回り始めてリアルメリーゴーランドになったよ!そのまま、天に飛び立っちゃったけどね。背中には誰も乗ってなかったから、もーまんたいっ!』
危険性は低そうだ。よかった。
「……ふふ、何だそれは?今度帰省したらどこに行ったかを軽く調べてみるというのも面白いかもな」
『お?口調ちょっと戻ったんじゃない?』
「それよりも私は母に電話を掛けたつもりだったが」
『うん、これママのだし』
「なら、何故、結実が出る」
『う~ん、ノリ?』
「そうか。母に代わってくれないか?」
『はいはーい、ママ~?!お兄ちゃんが代わってだって~?!』
うるさい、わざとスマホの近くで大声出してないか?
『はい~、代わったわ~、母の~夢乃です~』
「母よ、それは知っている。ところで結実に聞いたが、本当に問題はないのか?」
『ええ、そうね~。問題とは~ちょっと違うけど~家の近くの~水族館かしら~?なんと~!海の超獣と超人が~大量発生してるらしいわ~』
「なっ!マズいじゃないか!今すぐにでも避難しないと!」
『大丈夫よ~、海の超人の指揮の下~、遊園地になったから~ハリセンボンの~観覧車~ほんと~すご~いのよ~!今度~、憧叶さんの~休みにでも~乗りに行きたいわ~」
一応本当に凄いのだろうな。母は感動すると、早口になるのを抑えようとして、更に間延びした口調になるからな。はっきり言うと、普段から遅いため、早口くらいで丁度いいのだが。それにしても、超人は人間だけではないということでいいのだろうか?
そして、父の休みに行くという母の言葉が叶えられた事は殆ど無い。父はまず間違いなく、緊急で仕事が入って行けなくなったり、割引がついて母がこっそり行ってしまったりして結局父とは一緒に行かなくなる。
「それにしても~、さっきの憧ちゃん~、昔に戻ったみたい~だったわ~。えっと~、とってもベリグッよ~」
「何だ?その頭痛が痛いの様な言葉は」
(あ~!ママ、ズルい!私がお兄ちゃんに言うつもりだったのに!)
そろそろ切るか。父も不在のようだからな。……いや、これは聞かねばなるまい。
「母、質問だが、海の超人とはなんだ?」
「超人の~海の生き物~バージョンよ~」
「なる程、ありがとう。では、切るがいいか?」
「ちょ~っと待って~?結実ちゃんが~一言あるって~」
「お兄ちゃん!次はいつ頃帰るの!?」
「一ヶ月後ぐらいになるだろう。そちらは問題ないか?」
「うん!こっちはいつでもウェルカムだよ?」
「そうか。では切るぞ。またな」
「バイバーイ、お兄ちゃん!」「またね~、憧ちゃん」
主人公は動揺すると口調や一人称が変わります。
2020/05/27 全体的に表現を修正