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都市を破壊する牛ガエル

よろしくお願いします!

 私の名前は四茅野憧成(よちのしょうせい)、ただのしがないサラリーマンだ。


 今は7月の中旬という夏の中心のような日である。世の学生の多くは今頃、夏休みに入っている時期ではなかろうか。正直なところ羨ましいが、それ以上に今通っている会社での仕事には遣り甲斐のようなものを感じているし、所謂生きるためにも会社に通わざるを得ない。


 そんな私も若い頃は馬鹿なこともしたが、今では普通の人を自称しても、差し支え無い常識人に更生して、企業戦士として、日々奮闘しているが、昔は無茶もしたものだ。


 そんな下らない事を学生が役得をするような時期が近づくと考えてしまうのは年を食ったからだろうか。


 今日もいつも通りに会社に向かい、労働し、家に帰り、明日の労働に備えるそんな代わり映えのない日常となる。そう思っていたのは、きっと私だけではなかっただろう。


 ズズううぅぅぅぅぅん………


 そんな凄まじい音というよりも衝撃波と呼んだ方が正しく感じるようなピリピリとした空気。きっと私だけではないここにいる全員、いやあれを見た全員が小説でよく見る『日常が崩れ去る音』というものを体感したのではなかろうか。きっとそれは人間が積み上げてきた物の崩壊と共に響く衝撃波のようなものだったのだ。


 そんな非現実と比較してしまうほどにあれは異常だった。


 2キロメートル程前方に巨大な牛ガエルが現れたのだ。近くの首都スカイタワーと比較してみると、高さは50メートル程もあるのではなかろうか。一体いかなる法則が働いて地上でその身体を維持させているのか皆目検討もつかない。だが、あれからすれば人間等、蟻となんら変わらない矮小な存在であることだけは本能的に理解できた。


「なんだ……あれは……」


 そんな有りがちなセリフを吐いたのは私なのかどうかすらもわからない。そのような普通は呆然としたり、混乱したりするような状況を前にした私は場違い甚だしくも


――ワクワクしていた。


 別に私は武闘派ベジタリアンという訳ではない。寧ろ、安定こそ至上と考える人物だと自称している。だが、そんな考え方をする阿呆を私は一人知っている。


 そうか、私はまだ…。


 嫌なことを思い出し自己嫌悪に陥る。


 いや、違う今はそんな時間ではない。『今、私が何をするべきか?』私の中の全てが声をそろえてその問に対して、全く同じ解を導き出す。


 クッ、こんなこと昔の俺(馬鹿)を思い出すからしたくないが、今は私のエゴは無視すべきだろう。少なくとも今はそんなものに構っていられる余裕はない。


「皆さん!ここは危険です!!直ぐに離れましょう!」


 ……嘘だろう?こんな時でも写真を撮るのか。焦りで肩を掴む力が少々強かっただろうか?指示を言語化して、今している行動のリスクを伝える。


「今は避難を優先して下さい!それにその行為はあなた自身だけでなく、周囲の人すらも危険に晒す行為なことを自覚して下さい!」


 くっ、微妙か。もっと、なにか付け足さなくては、伝わり切らない恐れが……


「ウゼェ。なんだよ、オッサン。俺に関係ねぇし、どうせあれ告知されて無いイベントかなんかっしょ?」


 ……何を言っているんだ。もしあれが特殊な技術による拡張現実(AR)等であろうと、公式なものなら、誰が見ても問題無い見た目を選ぶだろうし、通勤ラッシュの時間帯からも外すだろう。つまり、あれはほぼ確実に得体の知れない何かなのだ。理性的に叱ろうと言葉を選ぼうとした時に


「ハァ、オッサンいい歳して、俺が主人公だ~なんて思ってんの?」


 認めたくはないが、……図星だったのだろう。理性は保った状態ではあるが、口から敬語というフィルターが外れる。


「あれが公に認められた何かだと、本当に思っているのか。ここは危険かもしれないと言っているんだ。お前だけならまだしも周囲の邪魔にもなっている。今すぐ、移動しろ」


 一先ず、腕を掴んで避難の邪魔にならないように移動する。誘導は少し時間をおいてハッとした人が行ってくれている。正直言って有難い。その人たちに会釈をしたのち、移動のスピードを上げる。


 フィルターが外れると同時に行動が多少なり大胆になっている。冷静に頭は回転しているが、その思考を体に影響させることができずに、今の感情的な行動を止めることなど出来はしない。


「はぁ?ちょっ!腕掴むな!オッサン、マジキメェ!……わ、わかったよわかった!腕痛えんだけど!?」


 少し移動して、時間が経つことにより、行動に理性が宿っていく。……私はこんなに怒り易かったのか。怒り方は昔よりも静かになっている。あの男がなにか喚いているが、手を離すにしてももう少し開けた場所でないといけない。


「よし、ここでいいだろう。で、お前の考えを言ってみろ」


 最早、この男に敬語は不要だろう。寧ろ、これまで私が敬語を使ってきた人に対しての失礼にあたる。


「え?あ?いや、そのなんていうか、あんなに強く掴まなくてもいいんじゃないかな~ってアハハハ…」


 ここまで引っ張って来たことでかなり萎縮させてしまったようだ。正論で殴る大人は私も嫌いだったなと思いつつも正論の鉄槌を振りかぶる。


「しかし、弱く掴んでも簡単に振り払われてしまうだけだと思うのだが、そこはどう考える?」


「え~と、その~、全くもってその通りかと」


「そうか。他には?」


「…特には…」


 拗ねたように目を反らしながら、人によっては反発的ともとれる言葉を出した。まあ、個人的にも迷惑だった上に、放置して無謀な行動で死なれても複雑だ。それに何よりもこんな状況でギリギリ子供と言えなくもない人間を放置する訳にもいかない。同行するにしてもそうでないにしても反省はさせないといけないだろう。


 …旧時代的かもしれないが、子供が本当に一人で勝手に成長するなんてことはないからな。子供は周囲の友達とか大人と勝手に成長するものだ。個人の意見だがな。


「そうか。では、質問だ。お前は何なんだ?周囲の人に迷惑を掛けてまで、写真は撮らなくてはならないのか?あそこにいなかった誰かに怪物について報せようとしたのかもしれないが、ここは大都市の中心だ。政府や放送局が即座に報せるだろう。お前は本当に何がしたかったんだ?」


 正論の盾と疑問符の矛はとても強い。私もこれには何度も苦戦させられた。


「あ…。その俺は…」


「即答できないのならいい。もう二度とあんな短慮はするな。それさえできれば、構わない。あの場において最も迷惑をかけられただろう私が言うのだから、切り替えてくれ。謝罪も不要だ」


 そして、一方的に話を終わらせる。これは正しく嫌な大人の中でもかなり上の部類に入るのではないか?


 だが、嫌な大人というのは子供のためではなく、自分のために子供に一切時間を掛けない大人の事だ。そのために、早く話を切って相手の言葉を封じたり、逆にこんこんと自分のストレス発散のために馬の耳どころか誰の耳にとっても無駄で念仏のように有難いどころか聞くと汚染されそうな話をしたりするのだ。


 移動しながら、仲を縮めていければ嬉しいが……。


「……はい」


 この状況は……、私の勘違いでなければ誰かに見られたら、私が通報されるのではないか?


「さて、逃げるぞ!」


 誰かに見られたのではない、怪物からである。とは、言っても逃げる当てなど無い一先ず私の家を目指そうか。

2020/05/26 スマホ麦茶の描写を泣いていない状態に変更。その他にも、複数個の描写の仕方を変更。

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